DEEP DIVE INTERVIEW CEO INTERVIEW

作れなかった薬を作る。
化学産業のCO₂と廃液を、
機械の力で減らす。

MECHANOCROSS Co., Ltd. / CEO TOMOHISA SAITO

株式会社メカノクロス 代表取締役 CEO / 齋藤 智久 氏
北海道大学発のディープテックスタートアップが描く、化学産業の未来。

POINT / この会社の4つのポイント
技術ジャンル①
メカノケミカル
有機合成
機械の力で
化学反応を起こす
技術ジャンル②
不溶性
高機能材料の開発
溶けない素材を加工し、
新しい価値を生む
本社
北海道 札幌
北海道大学
WPI-ICReDD 内
解決する課題
製薬の壁
+ 化学産業のCO₂排出(約7%)
+ 廃液問題
CONTENTS / 目次
  1. メカノクロスの技術を、わかりやすく
  2. なぜ画期的なのか
  3. 何を解決している会社か(具体的に)
  4. 何を目標にしているか
  5. プロフィール
  6. 関連リンク

メカノクロスの技術を、わかりやすく

化学反応を進めるための液体(溶媒)を使わず、機械の力だけで反応を起こす。北海道大学発のメカノクロスが社会実装するのは、化学のものづくりの前提を書き換える技術だ。代表取締役 CEO の齋藤智久氏に、その仕組みを聞いた。

[図解:機械の力で化学反応を起こす仕組み] ボールミル(粉砕装置)の中で粉と粉がぶつかり合い、溶媒なしで反応が進む様子をわかりやすいイラストで示す

メカノクロスは、どんな技術を扱う会社ですか?

「メカノケミカル有機合成」という技術を社会実装する会社です。一言でいえば、機械の力で化学反応を起こす技術です。

薬や電池、プラスチックの材料を作るとき、ふつうは「溶媒」と呼ばれる液体を大量に使って化学反応を進めます。私たちはこの溶媒を一切使いません。代わりにボールミル(粉と粉を機械でぶつけて混ぜる装置)を使い、その物理的なエネルギーだけで反応を進めます。

なぜ「溶媒を使わない」必要があるのですか?

溶媒は化学産業の便利さを支える一方で、CO₂排出と廃液問題の最大の源にもなっているからです。化学産業は世界のCO₂排出の約7%を占めますが、その大部分は「溶媒を作る・温める・処理する」という工程から来ています。

もうひとつ、従来法では「溶媒に溶けない物質」が原理的に作れないという制約もあります。これが新薬や次世代電池の開発で大きな壁になってきました。私たちの方法は、その壁ごと取り払うアプローチです。

なぜ画期的なのか

メカノクロスの方法は、単なる効率改善ではない。化学プロセスの設計思想そのものを書き換える性質を持つ。具体的にはどの程度の変化が起きているのか──齋藤氏に聞いた。

[図解:今までのやり方と、メカノクロスのやり方を比べる絵] 左:フラスコに大量の液体・加熱・廃液。右:機械で粉を混ぜるだけ・廃液ほぼゼロ。「24時間→5分」も大きく表示

何が、そんなに画期的なのですか?

代表的なのは、医薬品づくりで広く使われる「Suzuki-Miyaura クロスカップリング反応」での成果です。従来の溶媒法では24時間かけても60%しか進まなかった反応が、私たちの方法では5分で100%完了しました。

これは単なる時短ではありません。反応にかかる時間、溶媒の使用量、廃液の処理コスト、作業環境──そのすべてが構造的に変わります。

項目今までのやり方(溶媒を使う)メカノクロスのやり方
反応にかかる時間24時間5分
反応の完了度60%100%
溶媒の使用量大量に必要大幅に削減
溶けない物質を作れるか作れない、または難しい作れる
作業環境窒素などの特別な雰囲気が必要な場合が多い空気中で作業できる例あり

Suzuki-Miyaura反応のほかに、画期的な成果はありますか?

はい、いくつかあります。Grignard試薬(強力な化学反応に使う薬剤)を空気中で扱える技術、Birch還元(化合物を変化させる反応)を有害なアンモニアを使わずに実現する手法、芳香族の求電子フッ素化(新薬の素材を作る反応)を溶媒なしで実現する技術──これは現在特許を申請中です。

いずれも、従来の化学では「できない」とされていたことを「できる」に変える成果です。

何を解決している会社か(具体的に)

技術そのものに加えて気になるのは、それが社会の何を変えるのかという点だ。メカノクロスは、化学産業が抱える4つの構造的な課題を1つの技術で動かそうとしている。齋藤氏に、その内訳を聞いた。

[図解:4つの解決課題マップ] 中央に「メカノケミカル技術」、周囲に「製薬の壁」「CO₂排出」「廃液問題」「電池の量産化」の4課題を配置し、解決の流れを可視化する

メカノクロスは、具体的に何を解決しようとしているのですか?

大きく4つあります。「製薬で作れない薬がある」「化学産業のCO₂排出が世界の約7%を占める」「廃液処理に膨大なコストがかかる」「次世代電池の量産化が進まない」。この4つを、メカノケミカル合成という1つの技術で根本的に変えにいきます。

①「製薬で作れない薬がある」とは?

抗がん剤や心や脳の病気を治す薬の候補のなかには、「設計はできても、溶媒に溶けないから作れない」化合物が数多くあります。私たちの方法ならこの「溶けない壁」を回避できるので、これまで届かなかった薬が、患者の手に届く可能性が広がります。

②「化学産業のCO₂排出7%」というのは?

化学産業は、世界のCO₂排出量の約7%を占める巨大な業界です。そのCO₂のほとんどが、「溶媒を作る・温める・処理する」という工程から出ています。メカノケミカル合成が業界の標準になれば、化学業界のカーボンニュートラル達成が、現実的なシナリオに乗ります。

③ 廃液問題は、どう変わるのですか?

従来の溶媒法は、反応1回あたり大量の廃液を出します。企業はその処理に膨大なコストを払ってきました。私たちは溶媒を使わないので、廃液処理コストと環境負荷の両方を構造から削減できます。

④ 電池の量産化に、どうつながるのですか?

全固体電池(液体電解質を使わない安全な電池)やナトリウムイオン電池(リチウムを使わない次世代電池)の材料は、合成のコストとスケールが課題でした。機械の力で材料を作れれば、量産化の経済性が大きく変わります。EVの航続距離や、再生可能エネルギーの蓄電にも直結します。

何を目標にしているか

解決したい課題が大きいほど、目標もまた長期的になる。メカノクロスが描く未来図と、そこに向かうための仲間像を、齋藤氏に聞いた。

[図解:5年・10年の目標ロードマップ] 「3年後:実装研究会30社へ」「5年後:複数業界での商用化」「10年後:世界の標準プロセスへ」のタイムラインを横軸で描く

短期と長期で、それぞれ何を目標にしていますか?

短期では、現在15社が参加している「メカノケミカル実装研究会」を、5年で30社規模に拡大することを目指しています。年6回の協業相談と年2回の講演会を通じて、業界全体での技術理解を底上げしていきます。

長期、10年後の到達点は、私たちの技術が世界の化学メーカーの標準プロセスのひとつとして組み込まれている状態です。すでに北海道大学の研究室レベルでは、世界中の製薬・化学大手から技術提携の打診が始まっており、ドイツの「Scaleup Hamburg」採択など欧州への足掛かりも築かれています。

どんな仲間と、それを実現したいですか?

正直なところ、化学の専門知識は必要ありません。むしろほしいのは、製薬や素材メーカーの課題を「足で聞き、技術を事業の言葉に翻訳できる」人です。

製造業や素材産業の事業開発・営業企画の経験、SaaS/IT業界での無形商材の販売経験、大企業の研究開発部門と話せるビジネス感覚──これらの経験は、化学業界の知識がなくてもそのまま武器になります。「社会を変える技術」に、人生の何年かを賭けたい人と、一緒に未来を作りたいと思っています。

PROFILE / プロフィール
氏名 齋藤 智久(さいとう ともひさ)
役職 株式会社メカノクロス 代表取締役 CEO
出身研究室 北海道大学 伊藤肇 研究室
(化学反応創成研究拠点 WPI-ICReDD)
創業 2023年11月(株式会社メカノクロス)
事業領域 メカノケミカル有機合成の社会実装
共同研究/業界研究会/素材開発/ライセンス供与
関連大学 北海道大学
関連メンバー 取締役:伊藤 肇(北海道大学 卓越教授)/久保田 浩司(北海道大学 准教授)
採択実績 J-STARTUP HOKKAIDO/SAPPORO NEXT LEADING/FaSTAR第10期/Circular Valley Convention(独)/Scaleup Hamburg(独)
公式サイト https://mechanocross.com/

この企業の話を、
直接聞いてみませんか?

事業開発・ビジネス開発の求人があります。
「まずは話を聞きたい」もOK。

求人を見る カジュアル面談を申し込む