メカノクロスの技術を、わかりやすく
化学反応を進めるための液体(溶媒)を使わず、機械の力だけで反応を起こす。北海道大学発のメカノクロスが社会実装するのは、化学のものづくりの前提を書き換える技術だ。代表取締役 CEO の齋藤智久氏に、その仕組みを聞いた。
メカノクロスは、どんな技術を扱う会社ですか?
「メカノケミカル有機合成」という技術を社会実装する会社です。一言でいえば、機械の力で化学反応を起こす技術です。
薬や電池、プラスチックの材料を作るとき、ふつうは「溶媒」と呼ばれる液体を大量に使って化学反応を進めます。私たちはこの溶媒を一切使いません。代わりにボールミル(粉と粉を機械でぶつけて混ぜる装置)を使い、その物理的なエネルギーだけで反応を進めます。
なぜ「溶媒を使わない」必要があるのですか?
溶媒は化学産業の便利さを支える一方で、CO₂排出と廃液問題の最大の源にもなっているからです。化学産業は世界のCO₂排出の約7%を占めますが、その大部分は「溶媒を作る・温める・処理する」という工程から来ています。
もうひとつ、従来法では「溶媒に溶けない物質」が原理的に作れないという制約もあります。これが新薬や次世代電池の開発で大きな壁になってきました。私たちの方法は、その壁ごと取り払うアプローチです。
なぜ画期的なのか
メカノクロスの方法は、単なる効率改善ではない。化学プロセスの設計思想そのものを書き換える性質を持つ。具体的にはどの程度の変化が起きているのか──齋藤氏に聞いた。
何が、そんなに画期的なのですか?
代表的なのは、医薬品づくりで広く使われる「Suzuki-Miyaura クロスカップリング反応」での成果です。従来の溶媒法では24時間かけても60%しか進まなかった反応が、私たちの方法では5分で100%完了しました。
これは単なる時短ではありません。反応にかかる時間、溶媒の使用量、廃液の処理コスト、作業環境──そのすべてが構造的に変わります。
| 項目 | 今までのやり方(溶媒を使う) | メカノクロスのやり方 |
|---|---|---|
| 反応にかかる時間 | 24時間 | 5分 |
| 反応の完了度 | 60% | 100% |
| 溶媒の使用量 | 大量に必要 | 大幅に削減 |
| 溶けない物質を作れるか | 作れない、または難しい | 作れる |
| 作業環境 | 窒素などの特別な雰囲気が必要な場合が多い | 空気中で作業できる例あり |
Suzuki-Miyaura反応のほかに、画期的な成果はありますか?
はい、いくつかあります。Grignard試薬(強力な化学反応に使う薬剤)を空気中で扱える技術、Birch還元(化合物を変化させる反応)を有害なアンモニアを使わずに実現する手法、芳香族の求電子フッ素化(新薬の素材を作る反応)を溶媒なしで実現する技術──これは現在特許を申請中です。
いずれも、従来の化学では「できない」とされていたことを「できる」に変える成果です。
