株式会社メカノクロス
メカノケミカル有機合成技術で「溶媒を使わない化学反応」を実現する、北海道大学発のディープテックスタートアップ。代表は齋藤智久、技術顧問は伊藤肇 卓越教授。化学・素材・電池の主要企業が参加する実装研究会を運営し、累計約10億円を調達。化学産業の構造転換に挑む。
メカノクロスの技術とは
図解:機械の力で化学反応を起こす仕組み(フロントジャーナル作成)
株式会社メカノクロスは、北海道大学発のディープテックスタートアップ。中核技術は「メカノケミカル有機合成」と呼ばれる、新しい化学反応の手法。薬や電池、プラスチックの材料を作るときには通常「溶媒(反応を進めるための液体)」が大量に必要となるが、メカノクロスはこの溶媒を使わない。代わりにボールミル(粉と粉を機械でぶつけて混ぜる装置)を用い、機械の力だけで反応を進める。溶媒を使わない化学反応──これだけで、化学のものづくりは大きく変わる。
何が画期的なのか
図解:従来の方法と、メカノクロスを比べる(フロントジャーナル作成)
化学産業は世界のCO₂排出の約7%を占め、その排出の多くは溶媒を扱う工程から出ている。
メカノクロスの方法では、Suzuki-Miyaura反応で24時間→5分、収率60%→100%という劇的な成果が公表されており、溶媒・廃液・反応時間のすべてが構造的に変わる。
反応時間が劇的に短縮、収率も大幅向上
医薬品づくりの代表反応「Suzuki-Miyauraクロスカップリング」では、従来法で24時間かけても60%しか進まなかった反応が、メカノクロスの方法では5分で100%完了したと公表されている。これは単なる効率改善ではなく、化学プロセスの設計思想そのものを書き換える性質を持つ成果である。
廃液とCO₂排出を、構造から削減
従来の有機合成は大量の溶媒と廃液処理を前提としてきた。メカノクロスは溶媒を使わないため、廃液処理コストと環境負荷を構造的に削減できる。化学産業が世界のCO₂排出の約7%を占める現状を、根本から変えていく可能性がある。
「作れなかった物質」が、作れる新領域へ
溶媒に溶けないため合成できなかった化合物も、機械的なエネルギーで反応を起こすメカノクロスの方法なら扱える。新薬候補(抗がん剤・神経系治療薬など)や、次世代電池(全固体電池・ナトリウムイオン電池)の材料開発に、新しい領域が開かれる。
社会にどんな変化をもたらすか
- 世界化学業界市場:約6.32兆ドル規模(2025年)
- 化学産業のCO₂排出:国内で約6,200万t/年、産業部門で鉄鋼に次ぐ第2位
- 脱炭素・溶媒削減は世界の化学産業の最優先課題
出典:経済産業省 製造産業局資料/IEA/各種業界調査(2026年5月時点)
図解:技術が広がると、社会はこう変わる(フロントジャーナル作成)
メカノクロスの技術が広がれば、製薬では難溶性医薬品の合成が可能となり、電池では次世代蓄電池の量産化が進み、地球環境では化学産業のCO₂排出を構造から削減できる。
製薬:これまで作れなかった薬が、作れるようになる
抗がん剤や神経系治療薬の候補には、溶媒に溶けないために合成できなかった化合物が多い。メカノクロスの方法であればこの壁を回避でき、患者の手に届く薬の幅が広がる。
抗がん剤や、心や脳の病気を治す薬の候補には、「設計はできても、溶媒に溶けないから実際には作れない」ものが数多くある。メカノクロスのやり方なら、この壁を回避できる。これまで届かなかった薬が、患者の手に届く可能性が広がる。
電池:次世代の電池の量産化を後押しする
全固体電池やナトリウムイオン電池は、材料合成のコストとスケールが課題となっていた。機械の力で材料を作れれば量産化の経済性が大きく変わり、EVや再生可能エネルギーの蓄電にも直結する。
全固体電池(液体を使わない、より安全な電池)や、ナトリウムイオン電池(リチウムを使わない次世代電池)の材料づくりには、コストとスケールの課題がある。機械の力で材料を作れれば、量産化の経済性が大きく変わる。EVの航続距離や、再生可能エネルギーの蓄電にも直結する変化となる。
地球:化学業界のCO₂排出を構造から減らす
化学産業のCO₂排出(世界の約7%)の大部分は、溶媒の製造・加熱・処理から生じている。メカノケミカル合成が業界標準となれば、化学業界のカーボンニュートラル達成が現実的なシナリオに乗る。
化学産業は世界のCO₂排出の約7%を占め、その大部分は溶媒を使う工程から出ている。メカノクロスのやり方が業界の標準になれば、化学業界のカーボンニュートラル(CO₂排出ゼロ)達成が現実的なシナリオに乗る。
どんな事業をやっているのか
図解:メカノクロスの主な事業(フロントジャーナル作成)
メカノクロスは、メカノケミカル有機合成技術を軸に、主に複数の領域で事業を展開している。企業との「共同研究・受託開発」を起点に、化学・素材・電池の大手企業が参加する「メカノケミカル実装研究会」を運営し業界普及を進めるほか、独自プロダクトとなる「新素材の開発・提供」、そして中核収益モデルとなる「技術ライセンス供与」を組み合わせ、技術の社会実装を多面的に進めている。
どんな会社なのか
設立の背景
メカノクロスは2023年11月設立、北海道大学・伊藤研究室の研究成果を社会実装することを目的に誕生した北大発のディープテックスタートアップ。2018年から伊藤肇 卓越教授と久保田浩司 准教授が研究を始めた「溶媒を使わない有機合成」技術を、5年かけて世界をリードする水準にまで押し上げ、その商用展開を担う組織として設立された。
代表のストーリー
代表取締役CEOは齋藤智久氏。北海道大学が世界に誇るメカノケミカル有機合成の技術を、研究室の中で終わらせず、化学産業の構造転換まで持ち込むという明確なミッションを掲げて経営を牽引している。技術顧問として、技術の源流となった伊藤肇 教授・久保田浩司 准教授が取締役として参画する、研究と事業の両輪体制を取る。
会社の特徴・働き方
最大の特徴は、北海道大学 化学反応創成研究拠点 WPI-ICReDD 内に拠点を構え、研究と事業を最短距離で行き来できる体制を持つこと。化学・素材・電池の主要企業が参加する「メカノケミカル実装研究会」を運営し、業界全体への技術普及を担う。J-STARTUP HOKKAIDO、SAPPORO NEXT LEADING、FaSTAR第10期などに採択され、Nature・Science といった世界トップ科学誌にも研究成果を発表している。
会社情報
| 会社名 |
株式会社メカノクロス(MECHANOCROSS Co., Ltd.) |
| 所在地 |
北海道札幌市北区 (北海道大学 化学反応創成研究拠点 WPI-ICReDD 内) |
| 設立 |
2023年11月 |
| 代表 |
齋藤 智久(代表取締役 CEO)
北海道大学が世界に誇るメカノケミカル有機合成の技術を、化学産業の構造転換まで持ち込むことを使命に、2023年11月のメカノクロス設立とともに代表取締役 CEO に就任。研究と事業を結ぶ翻訳者として、企業との共同研究・実装研究会の運営・ライセンス事業を牽引する。
取締役・技術顧問:伊藤 肇
北海道大学 卓越教授。メカノケミカル有機合成研究の中心人物で、Nature・Science 等の世界トップ科学誌に研究成果を発表。
取締役:久保田 浩司
北海道大学 准教授。伊藤研究室にてメカノケミカル合成の研究をともに推進。
|
| 調達額 |
累計 約10億円(融資・補助金を含む)/2026年5月25日時点。2024年7月シードラウンド2億円、2025年9月 Pre Series A ラウンド。主要投資家:インキュベイトファンド、QBキャピタル、北洋銀行、XTech Ventures 等 |
| 技術領域 |
メカノケミカル有機合成 |
| 関連大学 |
北海道大学 |
| URL |
https://mechanocross.com/ |
編集後記
「溶媒を使わず、機械の力で化学反応を起こす」――これまでの常識を覆す発想を、研究から商用化まで一気通貫で運ぼうとしているメカノクロスの挑戦に、フロントジャーナル編集部としては大いに期待を寄せている。化学産業は世界のCO₂排出の大きな部分を占めるからこそ、合成プロセスを構造から変える試みは社会全体に効くインパクトを持つ。北海道大学発のこの技術が、日本から世界の化学産業の風景を塗り替えていく未来を、引き続き追いかけていきたい。
— フロントジャーナル編集部
この企業について、
もっと深く知りたい方へ
パートナーシップ・お問い合わせはこちらから。