NEWS TRIGGER / 2025.09.05 CEO INTERVIEW DEEP DIVE

100倍の溶媒を、
ゼロに近づける。

PRE-SERIES A 10億円調達 / MECHANOCROSS Co., Ltd.

株式会社メカノクロス 代表取締役CEO 齋藤 智久 氏に聞く、
北大発「メカノケミカル合成」が描く"溶媒を使わない化学"の未来。

▼ このニュースを見て、インタビューに行ってきました

2025年9月5日、北海道大学発スタートアップ 株式会社メカノクロスPre-Series A ラウンドで累計約10億円の資金調達 を発表した。掲げるのは「メカノケミカル有機合成」──機械の力だけで化学反応を起こし、溶媒を100倍以上削減する技術だ。なぜこのタイミングで10億円なのか、資金は何に使われるのか、そして"溶媒を使わない化学"とは何なのか。札幌のオフィスを訪ね、代表取締役CEO 齋藤智久氏に話を聞いた。

POINT / この記事の4つのポイント
溶媒 100倍
→ ほぼゼロへ
機械の力だけで
化学反応を起こす
累計 約10億円
調達
Pre-Series A完了
商用装置の量産フェーズへ
北大・伊藤研発
2018年〜
世界が注目する
WPI-ICReDD 拠点
2023年創業
札幌・宮の森
化学産業のCO₂
世界の約7%を狙う
CONTENTS / 目次
  1. 章1:メカノクロスの技術を、わかりやすく
  2. 章2:何が、画期的なのか
  3. 章3:この技術で、社会は何が変わるか
  4. 章4:経緯と未来──過去・現在・未来
  5. 章5:どんな人が働き、どんな仲間を求めるか
  6. プロフィール
  7. 関連リンク

CHAPTER 01メカノクロスの技術を、わかりやすく

化学反応を進めるための液体(溶媒)を一切使わず、機械の力だけで反応を起こす──これがメカノクロスの中核技術「メカノケミカル有機合成」である。一体、何が起きているのか。齋藤氏に、まずは技術の輪郭を聞いた。

[図解:機械の力で化学反応を起こす仕組み] ボールミル(粉砕装置)の中で粉と粉がぶつかり合い、溶媒なしで反応が進む様子を示す

あらためてうかがいます。「メカノケミカル有機合成」とは、どのような技術なのでしょうか。

一言で表現するなら「機械の力で化学反応を起こす技術」です。医薬・電池・半導体・プラスチック──化学のものづくりは通常、原料を液体(溶媒)に溶かして反応させます。私たちはこの溶媒を使いません。代わりに ボールミル という装置で粉と粉を物理的に衝突させ、その衝撃エネルギーだけで反応を進めます。原理自体は古くから知られていましたが、産業応用に耐えうる形へと進化させたのは、北海道大学・伊藤肇研究室が世界をリードしてきた領域です。

溶媒を使わずに反応が進む──直感的には不思議です。なぜそれが可能なのでしょうか。

従来の化学では「原料を溶かす」ことが反応の前提でした。だからこそ、原料の100倍を超える溶媒が必要になることもあります。しかし、化学反応に本質的に必要なのは 「分子と分子の出会い」 だけです。溶かさなくても、粉のまま強力に衝突させれば反応は起こる。これを工学的に再現可能にしたのが、メカノケミカル合成です。

CHAPTER 02何が、画期的なのか

「100倍の溶媒がゼロに近づく」──これは単なる効率改善ではない。化学反応そのものの設計思想を書き換える性質を持つ。代表的な成果と、その意味するところを聞いた。

[図解:従来法 vs メカノクロスのやり方] 左:大量の溶媒・加熱・廃液。右:粉を機械で混ぜるだけ・廃液ほぼゼロ。「24時間→5分」「60%→100%」を大きく表示

"代表的な画期的成果"を一つ挙げていただくとすれば、何でしょうか。

医薬品づくりで世界中に普及している 「Suzuki-Miyaura クロスカップリング反応」 での成果です。従来の溶媒法では24時間かけて60%しか進まなかった反応が、私たちの方法では 5分で100%完了 しました。これは単なる時短ではなく、反応そのものが別物に変わっているという意味です。

項目従来法(溶媒を使う)メカノケミカル合成
反応時間24時間5分
反応の完了度60%100%
溶媒使用量原料の100倍以上ほぼゼロ
不溶性化合物原理的に作れない作れる
作業環境窒素雰囲気など特殊環境空気中で可能な例あり

お話を伺うほど、化学産業の前提を書き換える挑戦に聞こえます。

ご認識のとおりです。化学プロセスの設計思想を100年単位で書き換える挑戦だと位置づけています。実際、世界中の製薬・化学メーカーから問い合わせが続いており、Grignard試薬を空気中で扱う技術、Birch還元をアンモニアなしで行う手法、芳香族の求電子フッ素化を溶媒なしで実現する技術(特許申請中)など、「従来の化学では不可能」とされてきた反応を「可能」に変える成果が、数百件規模で蓄積されています。

CHAPTER 03この技術で、社会は何が変わるか

技術がすごいだけでは社会は動かない。メカノケミカル合成は、具体的に誰のどのような課題を解くのか。医薬・電池・地球環境の3領域で、変化のシナリオを聞いた。

[図解:3つの社会インパクト] 中央に「メカノケミカル技術」、周囲に①医薬:作れなかった薬/②電池:全固体・ナトリウム電池の量産/③地球:CO₂7%・廃液削減

①医薬の世界では、何が変わりますか。

抗がん剤や中枢神経系(脳・心の病気)の新薬候補のなかには、「設計はできても、溶媒に溶けないがゆえに合成できない」 化合物が数多く存在します。私たちの方法であれば、この制約を回避できる。これまで届けることができなかった薬が、患者の手に届く可能性が広がります。

②電池・エネルギー領域への波及はいかがでしょうか。

次世代電池の本命と目される 全固体電池、リチウム依存から脱却する ナトリウムイオン電池 は、いずれも材料合成のコストと量産性が大きな壁でした。メカノケミカル合成で材料を作れれば、量産化の経済性が一段変わります。EVの航続距離、再エネの蓄電、ロボット、ドローン──応用範囲は広く、産業全体に効いてくる技術だと考えています。

③地球環境への影響について、改めて整理いただけますか。

化学産業は世界のCO₂排出量の約7%を占め、そのほとんどが 「溶媒を作る・温める・処理する」工程 から発生しています。メカノケミカル合成が業界標準となれば、この7%を構造的に削減できる。製造業のカーボンニュートラル達成シナリオに、現実味が生まれます。同時に、企業側にとっても廃液処理コストの削減という経済合理性が成立する点が重要です。

▼ SOCIAL IMPACT
作れなかった薬が、届く。
電池が、量産できる。
化学産業のCO₂7%が、消える。

医薬・エネルギー・地球環境──3つの巨大な課題を、たった1つの技術ベクトルで動かしにいく。それがメカノクロスの賭けである。

CHAPTER 04経緯と未来──過去・現在・未来

なぜ今このタイミングなのか、なぜ10億円なのか、そして10年後にどこを目指すのか。創業からの軌跡と、これから描く未来像を、時系列で聞いた。

PAST
2018年
北大・伊藤肇研究室で、メカノケミカル合成の本格研究が始動。世界に先駆けて産業応用可能な手法を蓄積していく。
PAST
2018-2023年
北大 WPI-ICReDD(化学反応創成研究拠点)として、世界の製薬・化学大手から技術提携の打診が殺到。数百件の反応・化合物の合成実績 を構築。
PAST
2023年11月
技術の社会実装を目的に 株式会社メカノクロス創業。代表取締役CEOに齋藤智久氏(伊藤研究室出身・事業会社経験者)が就任。
NOW
2025年9月(現在地)
Pre-Series A ラウンドで累計約10億円の資金調達を完了。XTech Ventures、Spiral Innovation Partners、Angel Bridge、三菱UFJキャピタル、北海道ベンチャーキャピタルが新規参画。J-STARTUP HOKKAIDO、独 Scaleup Hamburg 採択など海外展開も進む。
FUTURE
5年後・10年後
5年後:商用反応装置の量産体制を完成させ、複数業界での商用化を本格化。10年後:メカノケミカル合成が、世界中の化学メーカーの「標準プロセス」の一つとして組み込まれている状態。化学産業のカーボンニュートラル達成、新薬の患者到達、全固体電池の量産化──そのすべてに、私たちの技術が下支えとして使われている未来を目指す。

今回の約10億円は、具体的にどの領域に投じられるのでしょうか。

大きく2つです。①商用反応装置の開発と量産体制の構築。これまでは研究室スケールの装置でしたが、ここから先は工業スケールの装置を開発し、化学メーカーの現場に設置できる水準まで仕上げます。②受託合成企業との協業。私たちの技術を現場の合成工程に組み込むためのパートナーネットワークを一気に拡大します。

数あるタイミングのなかで、なぜ「いま」だったのでしょうか。

大学発の研究フェーズで「できる」が証明できたこと。そして、製薬・素材・電池の各業界が同時に 脱炭素プレッシャーと新材料ニーズに直面している こと。技術と市場のタイミングが重なったのが、まさにいまこの瞬間です。5年遅れれば、世界の競合に主導権を握られかねない。それほど現在のタイミングが重要だと考えています。

CHAPTER 05どんな人が働き、どんな仲間を求めるか

技術と未来図を聞いたうえで、最後にぜひ伺っておきたい質問がある。この会社で、どのような人と、どのような仕事ができるのか。

現在、どのようなメンバーで構成されているのでしょうか。

大きく3層です。①北大 伊藤研究室出身の博士・研究者(技術の中核)、②製薬・素材・化学メーカーで事業開発や技術営業を担ってきたビジネスサイド、③ファイナンスやオペレーションを担う経営チーム。なかでも 「研究と事業のあいだを翻訳できる人材」 が、現時点で最も貴重な戦力となっています。

これから、どのような仲間を迎え入れたいですか。

率直に申し上げると、化学の専門知識は必須ではありません。むしろ求めているのは、製薬・素材メーカーの現場に足を運び、課題を聞き出し、それを技術の言葉と事業の言葉のあいだで翻訳できる人です。製造業・素材産業での事業開発経験、SaaS・IT領域での無形商材の営業経験、大企業の研究開発部門と対等に対話できるビジネス感覚──これらは化学業界の知識がなくとも、そのまま強みになります。

「100年単位で化学のあり方を書き換える」という大きな賭けに、人生の数年を投じてくれる方と、ともに未来をつくっていきたいと考えています。

PROFILE / プロフィール
氏名齋藤 智久(さいとう ともひさ)
役職株式会社メカノクロス 代表取締役CEO
出身研究室北海道大学 伊藤肇 研究室
(化学反応創成研究拠点 WPI-ICReDD)
創業2023年11月
事業領域メカノケミカル有機合成の社会実装
共同研究/業界研究会/素材開発/ライセンス供与
関連大学北海道大学
関連メンバー取締役:伊藤 肇(北海道大学 卓越教授)/久保田 浩司(北海道大学 准教授)
採択/調達実績Pre-Series A 累計約10億円(2025/9)/J-STARTUP HOKKAIDO/SAPPORO NEXT LEADING/FaSTAR第10期/Circular Valley Convention(独)/Scaleup Hamburg(独)
公式サイトhttps://mechanocross.com/

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