エレファンテック株式会社
金属インクジェット印刷「ピュアアディティブ®法」で電子回路基板を量産する、東京大学発のディープテックスタートアップ。代表は清水信哉。累計約150億円を調達し、製品「SustainaCircuits™」として量産化を実現。低環境負荷PCBで世界市場への展開を進めている。
エレファンテックの技術とは
図解:金属を「印刷する」ピュアアディティブ®法の仕組み(フロントジャーナル作成)
エレファンテック株式会社は、東京大学発のディープテックスタートアップ。中核技術は「ピュアアディティブ®法」と呼ばれる、金属インクジェット印刷の手法。電子回路基板(PCB)を作るとき、従来は銅箔をエッチング液で削り取って回路を形成する「減算法」が主流だった。エレファンテックはこの常識を覆し、銅ナノマテリアルをインク化して必要な部分だけに印刷する「加算法」で電子回路を量産する技術を確立した。
何が画期的なのか
図解:従来エッチング法と、エレファンテックを比べる(フロントジャーナル作成)
電子回路基板の製造は、長年「銅箔を化学薬品で削り取る減算法(サブトラクティブ法)」が業界標準だった。エレファンテックは「必要な部分だけに金属を印刷する加算法」を、量産レベルで確立。製品名「SustainaCircuits™」として実用化されている。
「削る」から「印刷する」へ、製造の発想転換
従来法では、銅箔全面に貼り付けた後、不要な部分をエッチング液で溶かして回路を形成していた。これは「最初に全部つけて、いらない部分を捨てる」という発想。エレファンテックの方法は、必要な部分だけに銅ナノマテリアルのインクを印刷する。発想そのものが180度違うアプローチで、PCB製造の常識を書き換える性質を持つ。
銅使用量・廃液・CO₂排出を構造から削減
必要な部分だけに印刷するため、銅の使用量・廃液の発生量・製造時のCO₂排出を構造的に削減できる。電子産業の環境負荷低減という、世界規模の課題に対する根本的なアプローチとなる。
世界初の量産化と、累計約150億円の事業基盤
金属インクジェット印刷による電子回路基板の量産化は、業界の中でも先駆的な事例とされる。技術の社会実装を進めるため、創業以来、累計約150億円(増資・借入・補助金の合計)を調達(2026年5月25日時点)。2024年3月にはシリーズEラウンドで約30億円を追加調達し、量産体制の拡大を進めている。
社会にどんな変化をもたらすか
- 世界プリント基板(PCB)市場:2026年 約840億ドル規模(約12〜13兆円)
- 主要伸長要因:スマートフォン・EV・データセンター向け需要拡大
- 電子産業のCO₂削減・サプライチェーン見直しが構造課題
出典:経済産業省 関連資料/市場調査各社(2026年5月時点)
図解:技術が広がると、社会はこう変わる(フロントジャーナル作成)
エレファンテックの技術が広がれば、スマートフォン・家電などの電子製品が低環境負荷で製造できるようになり、半導体・PCB産業全体の製造プロセスが刷新される。電子産業のサステナビリティを根本から動かす技術となる。
スマートフォン・家電:低環境負荷の電子製品へ
スマートフォンや家電に使われるフレキシブル基板(FPC:折り曲げ可能な薄い電子基板)の製造を、低環境負荷の手法に置き換えられる。生活に直結する電子製品が、廃液やCO₂を出さない方法で作られる未来が現実的になる。
半導体・PCB産業:製造プロセスの刷新
PCB・半導体パッケージング業界の製造プロセスを、根本から見直す動きが起きる。「銅箔を貼って削って捨てる」という前提が変われば、材料コストとサプライチェーンの構造が大きく変わる可能性がある。
サステナビリティ:電子産業の環境負荷を構造から低減
電子産業は世界のものづくりの中核であり、その製造プロセスから出る廃液・CO₂は無視できない規模となっている。ピュアアディティブ®法が業界標準として広がれば、電子産業のサステナビリティ転換に大きく寄与する。
どんな事業をやっているのか
図解:エレファンテックの主な事業(フロントジャーナル作成)
エレファンテックは独自のピュアアディティブ®法を軸に、主に複数の領域で事業を展開している。自社プロダクトとして「SustainaCircuits™ FPC量産」を静岡・三島工場でグローバル向けに展開し、「製造装置の販売」で電子部品メーカーに低環境負荷の手法を横展開。あわせて「半導体パッケージング向け先端材料」を半導体・素材メーカーと共同開発し、「技術ライセンス供与」で海外メーカーを含む製造業に技術を提供する。これらを組み合わせ、ピュアアディティブ®法の社会実装を多面的に進めている。
どんな会社なのか
設立の背景
エレファンテックは2014年1月、前身の「AgIC(エージック)」を経て共同創業された東京大学発のスタートアップ。代表取締役社長の清水信哉氏が、東京大学の電子情報分野で培った技術知見を基盤に、「銀ナノインク」をはじめとする金属インクジェット印刷の事業化を志して立ち上げた。
代表のストーリー
清水信哉氏は1988年生まれ。東京大学 工学部 電子情報工学科を2010年に卒業、同大学院 情報理工学系研究科 電子情報学専攻 修士課程を2012年に修了。卒業後はマッキンゼー・アンド・カンパニーで製造業を中心としたコンサルティングに従事した。マッキンゼー時代に「大企業ではゼロから新技術を事業化することが難しく、革新的な技術はスタートアップでこそ活かせる」と確信し、2014年1月にエレファンテックを共同創業、代表取締役社長に就任した。
会社の特徴・働き方
最大の特徴は、ピュアアディティブ®法によるFPCの量産化を実現していること。静岡県三島市に自社の量産工場を保有し、研究・開発・量産・販売を一気通貫で行う体制を構築している。累計約150億円(2026年5月25日時点)という、ディープテックスタートアップとしては大型の資金調達に成功し、グローバル市場への展開を進めている。