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EVや風力発電を支える「窒化鉄磁石」を開発【Niron Magnetics|米国発】

EVや風力発電の普及にともない、モーターや発電機に使う永久磁石の需要が世界で拡大しています。この課題に挑むのが、米国のナイロン・マグネティクス(以下Niron Magnetics)です。同社は鉄と窒素を原料とする「窒化鉄磁石」を開発し、脱レアアースの永久磁石「Clean Earth Magnet」として製品にしました。この磁石はすでに、高級スピーカーや業務用スピーカーに採用されています。同社は2026年8月、米国防総省の戦略資本室から、量産工場の建設に向けて最大約1億5,000万ドル(約225億円)を融資する条件付きの合意を得たと発表しました。

永久磁石の課題

Niron Magneticsの紹介と、EVの普及で磁石が不足しやすいこと、生産の9割超が中国に集中していることを示す図

EVの普及で磁石が不足しやすい

EVや風力発電の普及によって、モーターや発電機に使う永久磁石の需要が世界で拡大しています。モーターは小型でありながら高い出力を求められるため、ネオジム磁石に代表されるレアアース(希土類)を使った強力な永久磁石が広く選ばれてきました。需要の伸びに供給が追いつきにくくなれば、EVや風力発電の設備の製造費用が上がりやすくなります。

生産の9割超が中国に集中

レアアースを使った永久磁石は、生産が特定の国に強く偏っています。国際エネルギー機関(IEA)によると、2024年時点で中国は磁石に使うレアアースの採掘で約60%、精製では9割超を占め、焼結した永久磁石の生産では約94%に達します。2025年4月に中国が一部のレアアースと磁石の輸出管理を強化した際には、米国や欧州の自動車メーカーが調達に苦慮しており、同じ事態が繰り返されれば各国の生産計画そのものが揺らぎます。

採掘と精製で環境負荷が重い

レアアースは、採掘から精製までの工程で環境への負荷が大きい資源です。鉱石に含まれるレアアースは濃度が低いため、取り出すには大量の薬品とエネルギーを使い、処理を要する排水や廃棄物が出ます。脱炭素のために増やしたい設備が、材料をそろえる段階で環境への負荷を抱える状態が続きます。

FrontJournalの解説
  • 永久磁石電気を流し続けなくても磁力を保つ磁石。モーターや発電機の中で、電気と回転する力を互いに変換する役割を担う。
  • レアアースネオジムやジスプロシウムなど、17種類の元素をまとめた呼び名。強い磁力を持つ磁石の材料になるが、鉱石に含まれる濃度が低く、取り出す工程に手間がかかる。

Niron Magneticsが「窒化鉄磁石」を開発

窒化鉄磁石の仕組みを示す図。鉄と窒素で調達が安定し、温度変化に強く車載に適することを示す

課題解決に挑むNiron Magnetics

Niron Magneticsは、鉄と窒素を原料とする「窒化鉄磁石」を開発する企業です。2014年に設立され、米国ミネソタ州ミネアポリスに本社を置いています。出発点はミネソタ大学の研究にあり、同大学教授のジャンピン・ワン氏の研究グループが窒化鉄の磁石を実現したことから生まれ、米国エネルギー省の研究支援機関ARPA-Eの助成も受けてきました。

鉄と窒素で調達が安定する

「窒化鉄磁石」の原料は、鉄と窒素の2つだけです。鉄は地球上でもっとも豊富な金属の1つであり、窒素は空気の約78%を占めます。同社はこの2つを結びつけた窒化鉄の結晶を合成する技術を確立しました。原料を世界各地で手当てできるため、供給網が特定の国の政策に左右されにくくなります。

温度変化に強く車載に適する

「窒化鉄磁石」は、温度が変わっても磁力が安定します。同社は、市場にある他の選択肢と比べて温度安定性が優れており、これは車載の用途で重要だと説明しています。モーターは運転中に高温になるため、温度が上がると磁力が弱まる材料では、出力の設計に余裕を持たせる必要があります。温度による変化が小さければ、設計の自由度が高まり、モーターの性能を引き出しやすくなります。

FrontJournalの解説
  • 窒化鉄鉄と窒素が結びついた化合物。特定の結晶構造をとると、鉄そのものより強く磁力を保つ性質を示す。
  • ARPA-E米国エネルギー省に置かれた研究支援の機関。実用化の前段階にある技術へ資金を出し、大学の研究から企業が生まれる過程を後押しする。

窒化鉄磁石の未来

窒化鉄磁石の未来を示す図。スピーカーへの採用が可能になり、EVや風力発電への搭載を目指し、ホンダなどから資金を調達したことを示す

スピーカーへの採用が可能に

「窒化鉄磁石」は、まず音響機器で製品に使われ始めています。2026年、同社はスピーカーメーカーのYG AcousticsおよびScan-Speakと、窒化鉄磁石を使ったスピーカーを発表しました。業務用スピーカーのFaitalPROとも、同じ磁石を使った製品の共同開発を進めています。スピーカーは磁石の用途として身近であり、量産の経験を積む場にもなります。

EVや風力発電への搭載を目指す

同社が次に目指すのは、EVや風力発電のモーターへの採用です。ミネソタ州サーテルに建設中の工場は2027年の稼働を予定し、年間で最大1,500トンの生産能力を計画しています。同社はその次の段階として、年間1万トン規模の工場の着工も構想しています。脱レアアースの磁石が量産されれば、EVや風力発電の設備を自国で製造しやすくなります。

ホンダなどから資金を調達

同社は2026年9月、ホンダから出資を受けたと発表しました。出資はホンダの「Honda Xcelerator Ventures」を通じたもので、金額は公表されていません。これに先立つ2026年8月には、米国防総省の戦略資本室(OSC)から、サーテル工場の建設と設備に向けて最大約1億5,000万ドル(約225億円)を20年の期間で融資する条件付きの合意を得ています。資金と量産設備が整えば、自動車メーカーが脱レアアースの磁石を実際の車へ採用しやすくなります。

FrontJournalの解説
  • Honda Xcelerator Venturesホンダが世界の新興企業へ出資し、共同で開発を進めるための枠組み。自社の事業に生かせる技術を早い段階から探す狙いがある。
  • 戦略資本室米国防総省に置かれた部局。安全保障に関わる材料や部品を国内で生産する体制づくりへ、融資などの形で資金を供給する。

まとめ

Niron Magneticsは、ミネソタ大学の研究を出発点に、鉄と窒素からなる「窒化鉄磁石」を製品にしました。レアアースの精製と磁石の生産が中国に偏るなかで、原料を世界各地で手当てできる永久磁石として、スピーカーへの採用が始まっています。2027年の稼働を予定する量産工場に向けて、米国防総省の条件付き融資とホンダの出資も決まりました。FrontJournal編集部は、ありふれた元素だけで強い磁力を得るという材料の発想に注目しています。日本の自動車や電機の産業にとっても、磁石の調達先が増えることが選択肢の広がりにつながると期待しています。

※ 本記事は各社・各機関の公式発表・主要報道をもとに、FrontJournal編集部が再構成したものです。数値は各社・各機関の公表値です。1ドル=約150円で換算しています。
主な出典:Niron Magnetics 公式(会社サイト/プレスリリース)、国際エネルギー機関(IEA)、ミネソタ大学。

この記事の作者

FrontJournal編集部

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