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鉄鋼業の脱炭素に挑む「溶融酸化物電解」を研究【Boston Metal|米国発】

建物や自動車に欠かせない鉄鋼は、製造工程で石炭を大量に使うため、生産時に多くのCO2が発生する素材です。この課題に挑むのが、米国のボストン・メタル(以下Boston Metal)です。同社は、電気の力で鉄鉱石から酸素を切り離す「溶融酸化物電解」を研究し、ブラジルでは同じ技術を使い、鉱業の廃棄物から金属を回収する工場の立ち上げを進めています。2026年5月には、インドの鉄鋼大手タタ・スチールなどから7,500万ドル(約113億円)を調達し、累計の調達額は5億ドル(約750億円)を超えたと発表しています。

鉄鋼業の課題

Boston Metalの紹介と、石炭で鉄鉱石を還元するためCO2が大量に発生すること、直接還元法には高品位の鉄鉱石が必要なことを示す図

石炭で還元しCO2が大量発生

鉄鋼の主な製法である高炉法では、鉄鉱石から酸素を取り除く「還元」に、石炭を蒸し焼きにしたコークスを使います。この反応では鉄鉱石の酸素が炭素と結びついてCO2が大量に発生するため、国際エネルギー機関の集計では、鉄鋼業がエネルギー由来のCO2排出約7%を占めています。このまま石炭に頼る製法が主流であれば、鉄鋼の需要が続く限り、CO2の排出は減りにくいままです。

直接還元は高品位鉱石が必要

石炭の代わりに水素や天然ガスで鉄鉱石を還元する直接還元法は、CO2の排出を減らせる製法として導入が進んでいます。ただし、この製法には不純物の少ない高品位の鉄鉱石が必要で、そうした鉱石は世界の鉄鉱石の供給量の一部にとどまります。このままでは高品位の鉄鉱石の確保が制約となり、直接還元法だけで世界の製鉄を置き換えるには長い時間が必要です。

FrontJournalの解説
  • 高炉法高さ数十メートルの炉(高炉)に鉄鉱石とコークスを入れ、高温で鉄を取り出す製法。世界の鉄鋼生産の主流となっている。
  • コークス石炭を蒸し焼きにした炭素の塊。高炉の中で燃料になると同時に、鉄鉱石から酸素を奪う還元剤として働く。
  • 直接還元法鉄鉱石を溶かさずに、水素や天然ガスで酸素を取り除く製法。高炉法よりCO2の排出が少ないが、不純物の少ない鉱石が必要になる。
  • 品位鉱石に含まれる目的の金属の割合。品位が低い鉱石ほど、鉄以外の不純物を多く含む。

Boston Metalが「溶融酸化物電解」を研究

溶融酸化物電解の仕組みを示す図。電気分解で製鉄のCO2を削減し、不純物の多い低品位の鉱石も製鉄に活用できることを示す

課題解決に挑むBoston Metal

Boston Metalは、電気の力で鉄鉱石などの金属酸化物から金属を取り出す「溶融酸化物電解」(MOE)を研究する企業です。2013年に創業し、2026年5月の発表時点では米国マサチューセッツ州ウォーバーンを本社としています。マサチューセッツ工科大学(MIT)のドナルド・サドウェイ氏が2000年代半ばにNASAの支援を受けて進めた、月面での酸素の製造を目指し、酸化鉄を含む岩石に電気を流して酸素を得る研究が出発点で、同氏とアントワーヌ・アラノア氏らがこの研究をもとに同社を設立しました

電気分解でCO2を削減

「溶融酸化物電解」では、鉄鉱石を溶かし込んだ電解質の中に電極を差し込み、約1,600℃で電気を流します。電気の力で鉄と酸素の結びつきが切れ、陰極側となる装置の底には溶けた高純度の鉄がたまり、陽極からは酸素ガスが発生する仕組みです。還元剤のコークスが不要で、陽極も炭素を含まない金属製の不活性陽極であるため、再生可能エネルギー由来の電力を使えば製鉄工程でのCO2排出をなくせる同社は説明しています。同社は、コークスの製造、高炉での還元、転炉での精錬に分かれている従来の工程を、1つの工程で置き換えられる点も特徴に挙げています。

低品位の鉱石も製鉄に活用

同社によると、「溶融酸化物電解」は直接還元法と異なり、不純物の多い中・低品位の鉄鉱石にも対応でき、鉄鉱石の品位を問わず高純度の溶けた鉄を取り出せます。供給の限られる高品位の鉱石に頼らず、世界で広く採掘されている鉄鉱石を脱炭素の製鉄に使える可能性があります。

FrontJournalの解説
  • 溶融酸化物電解(MOE)高温で溶かした酸化物に電気を流し、金属と酸素に分ける技術。Molten Oxide Electrolysisの略。
  • 電解質溶かしたときや水に溶かしたときに、イオンが移動して電気を通す物質。この記事では、鉄鉱石を溶かし込む高温の溶けた酸化物を指す。
  • 不活性陽極電気分解で自らは反応しにくい陽極。炭素の陽極は酸素と反応してCO2を出すが、不活性陽極ではその反応が起きにくい。
  • 転炉高炉で取り出した鉄に酸素を吹き込み、余分な炭素などを取り除いて鋼にする炉。

溶融酸化物電解の未来

溶融酸化物電解の未来を示す図。鉱業の廃棄物から金属を回収できるようになり、鉄鋼メーカーの脱炭素を目指し、約113億円を追加で調達したことを示す

廃棄物から金属回収が可能に

同社はブラジルのミナスジェライス州で、2023年にパイロットプラントでの操業を始め、2025年に商業規模の工場の建設を終えたと公表しています。この工場の役割は、スズの製造で出るスラグから、ニオブやタンタルといった電子部品などに使う金属を取り出すことです。工場は2026年1月の設備の故障で立ち上げが遅れ、同年9月の稼働開始に向けて修理を進めていると報じられています(2026年5月時点)。これまで捨てられていた鉱業の廃棄物が、重要金属の新たな供給源になる可能性があります。

鉄鋼メーカーの脱炭素を目指す

同社は2025年3月、ウォーバーンの拠点で複数の電極を備えた工業規模の装置を稼働させ、トン単位の鋼を製造したと発表しました。一方で2026年2月には、鋼の開発にかかる費用が現在の収入と資金を上回ったとして、ウォーバーンのパイロットプラントなどを閉鎖し、ブラジルでの操業の復旧と重要金属の事業を優先すると発表しています。同社は自ら鋼を生産せず、技術を鉄鋼メーカーにライセンス供与する事業モデルを掲げており、鋼の分野で実用化が進めば、鉄鋼を使う自動車や建物のサプライチェーンでもCO2排出の削減につながる可能性があります。

約113億円を追加で調達

Boston Metalは2026年5月、既存の投資家に加えてインドの鉄鋼大手タタ・スチールが参加する形で、7,500万ドル(約113億円)を調達しました。これまでに、鉄鋼大手アルセロール・ミッタルや資源大手BHPの投資部門、マイクロソフトの気候関連ファンドなども出資しており、累計の調達額は5億ドル(約750億円)を超えています。同社は今回の資金を、ニオブやタンタル、バナジウム、ニッケルといった重要金属を生産する商業規模の施設の増設に充てる方針です。施設の増設で重要金属の増産が進めば、電化や先端製造に欠かせない材料のサプライチェーンの強化につながる可能性があります。

FrontJournalの解説
  • スラグ金属を製錬するときに出る、不純物を多く含む残りかす。わずかに有用な金属を含むことがある。
  • 重要金属電池や電子部品、防衛などに欠かせない一方で、産地が限られ供給が不安定になりやすい金属。ニオブ、タンタル、ニッケルなどが含まれる。
  • ライセンス供与技術を持つ企業が、他社にその技術の利用を認めること。認められた側は利用料などを支払い、自社の設備でその技術を使える。

まとめ

Boston Metalは、MITの研究から生まれた「溶融酸化物電解」で、電気で鉄鉱石を還元する製鉄を目指しています。中・低品位の鉄鉱石も使える点は、直接還元法とは異なる特徴です。ブラジルでは同じ技術で重要金属を回収する工場の立ち上げを進め、米国では2025年に工業規模の装置で鋼を製造しました。FrontJournal編集部は、電気を使う製鉄が、鉄鋼業の脱炭素を進める選択肢の1つになることに期待しています。ブラジルの工場の稼働と、鋼の分野での今後の取り組みが公表されることにも注目しています。

※ 本記事は各社・各機関の公式発表・主要報道をもとに、FrontJournal編集部が再構成したものです。数値は各社・各機関の公表値です。ドルは1ドル=約150円で換算しています。
主な出典:Boston Metal 公式(技術紹介/ブラジル拠点/FAQ/プレスリリース)、MIT Technology Licensing Office、MIT Technology Review、Argus Media、boston.com、国際エネルギー機関(IEA)、Midrex Technologies。

この記事の作者

FrontJournal編集部

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