空気からCO2を回収して石にする Climeworks(スイス・ETHチューリッヒ発)

【スイス発|Climeworks社】空気からCO2を回収して地下で石にする

大きな扇風機のような機械が、ただの空気を吸い込み、その中から二酸化炭素(CO2)だけを取り出す。集めたCO2は地下深くに送られ、数年かけて石(鉱物)に変わって二度と大気に戻らない。そんな「空気のお掃除」を本気で事業にしているのが、スイスの名門ETHチューリッヒ(チューリッヒ工科大学)発のスタートアップ「Climeworks(クライムワークス)」です。2024年にはアイスランドで世界最大級の回収プラント「Mammoth(マンモス)」を稼働させ、2022年には6.5億ドルを調達しています。CO2を「減らす」だけでなく「取り除く」という新しい挑戦を紹介します。

大気のCO2は増え続け、減らすだけでは追いつかない

世界のCO2問題の図。排出を減らすだけでは足りず、すでに大気に出たCO2を取り除く必要がある。森林だけでは追いつかず機械で回収する技術が注目される

「減らす」だけでなく「すでに出たCO2を取り除く」段階に

地球の平均気温の上昇をおさえるため、世界中でCO2の排出を減らす取り組みが進んでいます。再生可能エネルギーへの切りかえや省エネはその代表です。ただ、専門機関の報告では、排出を減らす努力に加えて、すでに大気中に出てしまったCO2を取り除くこと(カーボンリムーバル)も必要だと指摘されることが増えています。長く電気を使い、ものを運び、暮らしてきたぶんのCO2は、すぐにはゼロにならないからです。

森林だけでは追いつかず、機械で集める発想が出てきた

CO2を吸収する代表は森林です。ただ、植林は土地と時間が必要で、火災や伐採で逆に戻ってしまうこともあります。そこで「機械で大気から直接CO2を集めて、長く閉じこめられないか」という発想が出てきました。これをDAC(ダック/直接空気回収)と呼びます。空気中のCO2の濃度はおよそ0.04%とごくわずかで、そこから集めるのは簡単ではありません。だからこそ、技術で挑む会社が世界で注目されています。

FrontJournalの解説
  • カーボンリムーバルすでに大気中に出たCO2を、人の手で取り除いて長く閉じこめる取り組み。排出を「減らす」のとは別の対策。
  • DAC(直接空気回収)Direct Air Captureの略。工場の煙ではなく、ふつうの空気からCO2を直接集める技術。

Climeworksは空気からCO2を回収する装置を作っている会社

Climeworksの仕組みの図。装置で空気を吸ってCO2だけを取り出し、地下の玄武岩に注入して石に変え、永久に閉じこめる

主力は「空気を吸ってCO2だけを取り出す装置(DAC)」

Climeworksの中心になるのは、コンテナのような箱に大きなファンが付いたDAC装置です。ファンで空気を吸い込み、中の特殊な吸着材(フィルター)にCO2だけをくっつけます。フィルターがいっぱいになったら、お湯くらいの低い熱(地熱を利用)で温めてCO2を放し、純度の高いCO2を取り出します。大がかりな煙突や燃焼は使わず、空気とフィルターと熱でくり返し回収するのが特徴です。

集めたCO2は地下で「石」に変えて永久に閉じこめる

取り出したCO2は、そのままでは再び大気に戻ってしまいます。そこでアイスランドの企業Carbfix(カーブフィックス)と組み、CO2を水に溶かして地下の玄武岩(火山の岩)に注入します。CO2は数年かけて岩と反応し、炭酸塩鉱物(石)に変わって動かなくなります。アイスランドは地熱と玄武岩がそろうため、回収から固定までを再生可能エネルギーでまかなえる点が、この場所が選ばれた理由です。

氷河の後退を見た大学院生2人が、2009年に創業

Climeworksを立ち上げたのは、ETHチューリッヒで機械工学を学んだクリストフ・ゲバルト氏ヤン・ウルツバッハー氏です。学生時代にアルプスの氷河が後退する様子を目にし、「大気からCO2を取り除けないか」と研究を始めました。その大学院での研究をもとに、2009年に大学発のスピンアウト(独立した会社)として創業します。2017年にはスイス・ヒンヴィルで世界初の商用DACプラントを動かしました。

FrontJournalの解説
  • 吸着材(フィルター)特定の物質をくっつけて集める材料。Climeworksは空気中のCO2だけをつかまえるフィルターを使う。
  • 鉱物化(石にする)CO2を岩と反応させ、固い鉱物に変えて閉じこめる方法。一度石になると大気に戻りにくい。
  • スピンアウト大学の研究成果をもとに独立して作られた会社。

アイスランドで世界最大のCO2回収プラントが動き出した

Climeworksの広がりの図。2024年に世界最大プラントMammothが稼働、6.5億ドルを調達、Microsoftと長期契約を結び2030年に年100万トンを目指す

「Orca」から「Mammoth」へ、規模が約10倍に

Climeworksは2021年、アイスランドで商用プラント「Orca(オルカ)」を稼働させました。年間の回収能力はおよそ4,000トン。さらに2024年5月には、約10倍にあたる「Mammoth(マンモス)」を立ち上げます。フル稼働時の能力は年間最大3万6,000トンで、当時として最大級のDACプラントでした。コンテナ型の回収ユニットを並べるモジュール式で、増やしながら規模を広げられる設計になっています。

6.5億ドルを調達し、Microsoftとも長期契約

2022年、Climeworksは6.5億ドルを調達しました。これはDAC(直接空気回収)分野では当時最大級の資金調達で、運用会社パートナーズ・グループやシンガポールのGICなどが参加しました。顧客側でも、Microsoftが同社のCO2除去を長期で購入する契約を結んでいます。「自社が出すCO2を、外部から除去枠を買って打ち消す」という大企業の動きが、Climeworksの追い風になっています。

目標は2030年に「年100万トン」の回収

Climeworksが掲げるのは、2030年までに年間100万トン規模のCO2を回収するという目標です。いまの数千〜数万トンからは大きな飛躍で、コストを下げられるかが課題ともいわれます。それでも、「出したCO2を、技術で取り戻す」という選択肢を世界で初めて実用の形にした会社として、各国の気候対策のなかで存在感を高めています。

FrontJournalの解説
  • Mammoth(マンモス)アイスランドにあるClimeworksの大型DACプラント。2024年5月稼働、フル稼働時の能力は年最大3万6,000トン。
  • GICシンガポールの政府系投資会社。世界の有力スタートアップにも出資する。

まとめ:これからの「CO2を取り戻す」産業

これまで気候対策は「いかにCO2を出さないか」が中心でした。Climeworksの登場は、そこに「出してしまったCO2を、技術で取り戻す」という新しい柱を加えています。大学院生2人がアルプスの氷河から着想したアイデアが、いまや世界最大級のプラントと大企業との契約にまで育っているのが特徴です。日本も地熱や鉱物資源、精密な装置づくりに強みがあります。Climeworksの広がりを見ていると、日本の技術がこの「CO2を取り戻す」市場で活躍する未来も、決して遠い話ではないと感じます。

※ 本記事は各社の公式発表・主要報道をもとに、FrontJournal編集部が再構成したものです。数値は各社・各媒体の公表値です。
主な出典:Climeworks公式(Mammoth/Orca/2022年資金調達)/ETH Zurich/Carbfix/Microsoft 発表。

この記事の作者

FrontJournal 編集部

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