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重工業の脱炭素を支える「グリーン水素プラント」を開発【Electric Hydrogen|米国発】

鉄鋼や化学肥料などの重工業は、電化(機械や炉を電気で動かす仕組みへの置き換え)だけでは脱炭素化が進みにくい課題を抱えています。この課題に対し、米国のエレクトリックハイドロジェン(以下Electric Hydrogen)は、グリーン水素を製造する設備を標準の「グリーン水素プラント」として供給しています。必要な装置をすべて工場で組み立ててから現地へ運ぶ方式で、同社によると建設までの費用を最大60%抑えられます。2023年10月には、量産体制を整えるため約3億8,000万ドル(約570億円)の資金調達を完了したと発表しました。

グリーン水素の課題

Electric Hydrogenの紹介と、水素の大半が化石燃料由来であること、水電解プラントの建設費が重いことを示す図

水素の大半が化石燃料由来

世界で使われている水素の大半は、いまも化石燃料から製造されています。国際エネルギー機関(IEA)によると、2024年の世界の水素生産量は約1億トンで、このうち製造時の排出が少ない低排出の水素は1%未満にとどまります。製造の段階で温室効果ガスを排出したままでは、鉄鋼や化学肥料といった重工業の脱炭素化は進みにくくなります。

水電解プラントの建設費が重い

再生可能エネルギーの電気で水を電気分解する「水電解」は製造時に温室効果ガスを出さない手段ですが、プラントの建設費が普及の重しになっています。IEAは、企業の公表計画にもとづく2030年の低排出水素の生産見通しを、計画の中止や延期を受けて1年前の4,900万トンから年3,700万トンへ引き下げました。建設費が下がらなければ計画はさらに縮み、化石燃料由来の水素からの切り替えは遅れます。

FrontJournalの解説
  • グリーン水素太陽光や風力などの再生可能エネルギーの電気で水を電気分解して製造する水素。天然ガスから製造する水素と異なり、製造の過程で二酸化炭素を直接には排出しない。
  • 水電解水に電気を流して水素と酸素に分ける方法。電極、電極の間を仕切る膜、電解液などで構成される装置を使う。

Electric Hydrogenが「グリーン水素プラント」を開発

Electric Hydrogenのグリーン水素プラントの仕組みを示す図。工場で一体に組み立てて建設費を抑え、高出力のスタックで水素の製造量を増やす

課題解決に挑むElectric Hydrogen

Electric Hydrogenは、グリーン水素を大規模に製造するプラントを開発する米国の企業です。2019年12月に創業し、カリフォルニア州サンフランシスコ・ベイエリアに本社を、マサチューセッツ州に主力の工場を置いています。共同創業者のラフィ・ガラベディアン氏とデイビッド・イーグルシャム氏は太陽光パネル大手First Solarで技術開発を率いた技術者で、創業の初期にはBreakthrough Energy Ventures(ビル・ゲイツ氏が設立した気候変動分野の投資ファンド)の支援を受けました。

一体型プラントで建設費を抑制

同社の「HYPRPlant」は、必要な装置をすべて工場で組み立ててから現地へ運ぶ一体型のプラントです。水電解のスタック(電極と膜を何枚も重ねた部品)、電力変換装置水処理設備を1つにまとめています。同社によると、標準の出力は75メガワット(1メガワットは1,000キロワット)から120メガワットで、納入から試運転までは6か月未満です。この設計により、ほかの水電解の方式と比べて建設までの費用を最大60%抑えられるため、重工業の企業が導入しやすくなります。

高出力スタックで水素を増産

プラントの中心にあるのは、同社が設計する「プロトン交換膜」(PEM=水素イオンだけを通す膜)方式の水電解スタックです。PEM方式には、太陽光や風力のように出力が変わる電源に合わせて運転を調整しやすい特長があります。同社は市場で最も出力の高いスタックだとしており、同じ量の材料からより多くの水素を取り出せるため、プラント1基あたりの製造量が増えます。装置1台の効率を高める研究も各国で進んでおり、オーストラリアHysata効率を約95%まで高めた「水電解装置」を開発しています。

FrontJournalの解説
  • プロトン交換膜(PEM)水素イオン(プロトン)だけを通す高分子の膜。大きな電流を流せるため装置を小型にしやすく、出力が変わる再生可能エネルギーにも合わせやすい。
  • スタック電極と膜を何枚も重ね合わせた、水電解の中心になる部品。ここに電気を流して水を水素と酸素に分ける。

グリーン水素プラントの未来

グリーン水素プラントの未来を示す図。合成燃料の量産が可能になり、肥料や化学の脱炭素を目指し、約3億8,000万ドルを調達したことを示す

合成燃料の量産が可能に

2025年5月、米国のInfiniumは、テキサス州ペコスで建設中の合成燃料工場「Project Roadrunner」に同社の100メガワットのプラントを採用すると発表しました。この工場では、グリーン水素と回収した二酸化炭素から、航空機向けの合成燃料(eSAF=持続可能な航空燃料)やeディーゼル、eナフサを製造します。商業生産の開始は2027年の予定で、航空大手International Airlines Groupとは10年間の供給契約を結んでいます。大型のプラントが動き出せば、いまの航空機や船の燃料を置き換える道が広がります。

肥料や化学の脱炭素を目指す

同社はマサチューセッツ州デベンスに、1年に1.2ギガワット分の設備を生産できる工場を構えています。2025年12月には、Synergen Green Energyがテキサス州で計画するグリーンアンモニア(グリーン水素からつくるアンモニア)の事業に、120メガワットのプラント2基の採用が決まりました。グリーンアンモニアは化学肥料の原料になり、食料の生産にともなう温室効果ガスの排出を抑えられます。同社は、肥料や化学、製鉄といった電化しにくい分野へ水素を届けることを目指しています。

約3億8,000万ドルを調達

同社は2023年10月、約3億8,000万ドル(約570億円)の資金調達を完了したと発表しました。この調達はFortescue、Fifth Wall、Energy Impact Partnersが主導し、bp VenturesやTemasek、MicrosoftのClimate Innovation Fundなどが新たに加わっています。三菱重工業やAmazonのClimate Pledge Fund、Rio Tintoといった既存の出資者も参加を続け、創業からの調達額は6億ドル(約900億円)を超えました。資金は工場の立ち上げとプラントの量産に充てられ、重工業の現場へグリーン水素の設備が届く時期が早まります。

FrontJournalの解説
  • 合成燃料(eフューエル)水素と二酸化炭素を原料に合成する液体燃料。いまの航空機や船のエンジン、給油設備をそのまま使えるため、置き換えの負担が小さい。
  • ギガワット電力の単位で、1ギガワットは100万キロワット。大型の火力発電所1基の出力がおおむね1ギガワット前後である。水電解の設備では、1年間に生産する能力の合計を表すのにも使う。

まとめ

Electric Hydrogenは、水電解の設備を工場で一体に組み立てる方式で、グリーン水素のプラントの建設費を抑える道を開きました。同社によると、標準の出力は75メガワットから120メガワットで、建設までの費用は最大60%下がります。テキサス州では、100メガワットのプラントが合成燃料工場に採用されました。FrontJournal編集部は、装置1台の効率だけでなく、プラント全体を規格品として量産する動きが出てきたことに注目しています。日本でも製鉄や化学で水素の利用が検討されるなか、量産されたプラントが水素の調達コストを下げる選択肢になることに期待しています。

※ 本記事は各社・各機関の公式発表・主要報道をもとに、FrontJournal編集部が再構成したものです。数値は各社・各機関の公表値です。1ドル=約150円で換算しています。
主な出典:Electric Hydrogen 公式(プレスリリース・製品ページ)、BusinessWire、国際エネルギー機関(IEA)「Global Hydrogen Review 2025」、CNBC。

この記事の作者

FrontJournal編集部

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