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同じ電力で水素の製造量を増やす「水電解装置」を開発【Hysata|オーストラリア発】

製鉄や化学などで化石燃料から水素への切り替えが検討される一方、再生可能エネルギーの電気で製造するグリーン水素は、製造コストの高さが普及の課題になっています。この課題に対し、オーストラリアのハイサタ(以下Hysata)は、水を電気分解して水素を製造する「水電解装置」の構造を見直し、同社によると、使った電力のうち水素のエネルギーとして残る割合(効率)を約95%まで高めました。2026年6月には、この装置で初めての確定注文を受けたと発表しています

水電解による水素製造の課題

Hysataの紹介と、グリーン水素の製造コストが高いこと、水電解装置が使う電力の一部が損失になることを示す図

グリーン水素は製造コストが高い

再生可能エネルギーの電気で水を電気分解して製造するグリーン水素は、化石燃料から製造する水素との製造コストの差が、普及の課題になっています。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)は、グリーン水素の製造コストが、再生可能エネルギーの電気の価格、「水電解装置」の設備費、装置の稼働時間で決まるとしています。このまま差が縮まらなければ、製鉄や化学の工場で使う燃料や原料を、化石燃料から水素へ切り替える動きは進みにくくなります。

水電解装置の電力の一部が損失に

「水電解装置」が使う電力のうち、水素のエネルギーとして残る割合には限りがあり、残りは主に熱として失われます。オーストラリア再生可能エネルギー庁(ARENA)は、現在の商用の「水電解装置」の効率を約75%としています。効率が低いままでは、同じ量の水素を製造するのに多くの電力が必要になり、製造コストの引き下げが難しい状態が続きます。

FrontJournalの解説
  • グリーン水素太陽光や風力などの再生可能エネルギーの電気で水を電気分解して製造する水素。天然ガスから製造する水素と比べ、製造の過程で二酸化炭素を直接には排出しない。
  • 水電解装置水に電気を流して、水素と酸素に分ける装置。電極、電極の間を仕切る膜、電解液などで構成される。

Hysataが「水電解装置」を開発

Hysataの水電解装置の仕組みを示す図。毛細管現象で水を送り電極で泡を出さない構造で効率を高め、同じ電力で製造できる水素の量を増やす

課題解決に挑むHysata

Hysataは、「水電解装置」を開発・製造するオーストラリアの企業です。2021年に設立され、ニューサウスウェールズ州ウーロンゴン市のポートケンブラに本社と工場を置いています。同社の技術はウーロンゴン大学の研究室で生まれ、同大学のゲリー・スウィーガース氏(現在は同社の最高技術責任者)らは、その電解セルの研究成果を2022年に学術誌「Nature Communications」で発表しています。

泡の出ない構造で効率が向上

一般的な「水電解装置」では、電極の表面で発生した水素と酸素の泡が電気の流れを妨げ、損失の原因になります。Hysataの装置は、2つの電極の間に置いた多孔質(細かい穴が無数にある)の膜が毛細管現象で液を吸い上げて電極へ届けるため、電極が液に浸からず、発生した水素と酸素が泡にならずに気体のまま抜ける仕組みです。泡による抵抗が減ることなどにより、同社によると装置全体の効率は、理論上必要な最小の電力(水素1キログラムあたり約39.4キロワット時)に対する割合で約95%となり、水素1キログラムあたりの消費電力は約41.5キロワット時と、一般的な装置の約52.5キロワット時より約2割少なくなります。2022年の論文では、85℃などの実験室の条件で、電解セル単体の効率として約98%が報告されています。

同じ電力で水素の製造量が増加

効率が上がれば、同じ量の水素をより少ない電力で製造でき、同じ電力で製造できる水素の量は増えます。グリーン水素の製造コストは電気の価格に大きく左右されるため、使う電力が減れば、製造コストのうち電気代を抑えられます。同社によると、1メガワット(1,000キロワット)の装置を1日運転して製造できる水素は約580キログラムです。

FrontJournalの解説
  • 毛細管現象細いすき間や多孔質の材料の中を、液体が重力に逆らって吸い上げられる現象。ティッシュペーパーの端を水につけると、水が上へしみ上がるのと同じ仕組みである。
  • キロワット時電力量の単位。1キロワットの電力を1時間使ったときの量で、家庭の電気料金の計算にも使われる。

水電解装置の未来

水電解装置の未来を示す図。重工業での利用が可能になり、製鉄や化学の脱炭素化を目指し、約1億1,100万ドルを調達したことを示す

重工業での利用が可能に

Hysataは2026年6月、メガワット級の「水電解装置」について、初めての確定注文を受けたと発表しました。納入先は名前を公表していない世界的な重工業の大手企業で、脱炭素化が難しい産業の工場で使われ、2027年前半に納入される予定です。2025年2月には、サウジアラビアの電力会社ACWA Powerと、同国で商業規模の実証を行うことで合意しています。Hysataの受注とは別に、日本でもNEDOとJFEスチールらが太陽光由来のグリーン水素を使い、約1トンの還元鉄の試作に成功するなど、重工業で水素を使う取り組みが進んでいます。

製鉄や化学の脱炭素化を目指す

同社は、装置の量産を進め、1年間に生産する装置の能力の合計がギガワット規模になる生産体制を築くことを目指しています。効率の高い装置が普及すれば、同じ量の再生可能エネルギーの電気からより多くの水素を得られ、製鉄や化学などの重工業で化石燃料から水素へ切り替える選択肢が広がります。日本でも、NEDOとジャパンエンジンコーポレーションらが大型商船向けの水素燃料エンジンの陸上試験に成功するなど、水素を使う側の技術開発も進んでいます。

約1億1,100万ドルを調達

Hysataは2024年5月、bp VenturesとTemplewaterが主導する約1億1,100万ドル(約167億円)の資金調達を完了したと発表しました。この調達には、韓国のPOSCOホールディングスや、風力発電機大手Vestasの投資部門なども参加しています。同社は資金を、ポートケンブラの工場の生産能力の拡大技術開発に充てるとしています。生産能力が高まれば、効率の高い「水電解装置」で製造したグリーン水素が、重工業を中心に広がる可能性があります。

FrontJournalの解説
  • 確定注文価格・数量・納期などの購入の条件が確定し、契約として結ばれた注文。検討段階の覚書や基本合意と異なり、納入と支払いを前提に進む。
  • ギガワット電力の単位で、1ギガワットは100万キロワット。大型の火力発電所1基の出力がおおむね1ギガワット前後である。水電解装置では、1年間に生産する装置の能力の合計を表すのにも使う。

まとめ

Hysataは、ウーロンゴン大学の研究をもとに、泡の出ない構造で効率を約95%に高めた「水電解装置」を製品にしました。水素1キログラムあたりの消費電力が減るため、グリーン水素の製造コストのうち電気代の負担を抑えられます。2026年には初めての確定注文を受け、2027年前半に重工業の工場へ納入する予定です。FrontJournal編集部は、水素を使う側だけでなく、水素を製造する装置の効率が高まり始めたことに注目しています。日本でも製鉄や船で水素を使う取り組みが進むなか、効率の高い装置で製造したグリーン水素が国内の現場で使われることに期待しています。

※ 本記事は各社・各機関の公式発表・主要報道をもとに、FrontJournal編集部が再構成したものです。数値は各社・各機関の公表値です。1ドル=約150円で換算しています。
主な出典:Hysata 公式(プレスリリース)、ウーロンゴン大学、オーストラリア再生可能エネルギー庁(ARENA)、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)、Nature Communications 掲載論文。

この記事の作者

FrontJournal編集部

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