洗剤・薬・食品を支える酵素を超高速で設計する Imperagen

【マンチェスター大|Imperagen】酵素を超高速で設計

「酵素」は身近な製品を支えている図。酵素は化学反応を速めるミクロの職人で、洗剤(汚れを分解)・食品(パン・チーズ・ビール)・薬(高い純度で安く)・化学品(環境にやさしく)に使われる

毎日使う洗剤や薬、食品は、「酵素(こうそ)」という小さな成分に支えられています。酵素は、化学反応を速める“ミクロの職人”です。

この酵素を、コンピュータの計算とAI、ロボットを使って「超高速で設計する」のが、英国の大学発スタートアップ「Imperagen(インペラジェン)」です。2026年5月、約9億円(£500万)を集めて注目されました。

酵素づくりが速く・安くなれば、もっと汚れの落ちる洗剤や、体にやさしい薬が、早く・安く私たちの手元に届くかもしれません。マンチェスター大学発のこの会社が、何を変えようとしているのか見ていきます。

Imperagenとは?「酵素を設計する」会社

マンチェスター大学発のスタートアップ

Imperagenは、英マンチェスター大学のバイオ研究所の研究者が2021年に設立したスピンアウトです。手がけるのは酵素エンジニアリングで、目的に合わせて酵素を設計・改良します。2026年5月、ベンチャー投資会社PXNベンチャーズなどから£500万のシード資金を調達し、累計の調達額は£850万になりました。

計算・AI・ロボットを掛け合わせる

あわせて、欧米で技術・バイオ企業を率いてきたガイ・レビ=ユリスタ氏をCEOに迎えています。集めた資金は、研究開発の拡大やAI人材の採用、医薬・化粧品や日用品・工業分野などへの事業展開に使う計画です。Imperagenは、計算科学とAI、ロボットを掛け合わせる点に特徴があります。

FrontJournalの解説
  • 酵素エンジニアリング天然の酵素を、人間の目的に合うよう改良・設計する技術。
  • シード資金会社の立ち上げ初期に受ける出資のこと。
  • スピンアウト大学の研究成果をもとに独立して作られた会社。

酵素づくりの現状と課題

「酵素づくり」は試行錯誤から高速ループへ変わる図。これまで=少しずつ試す試行錯誤で時間と費用がかかる。Imperagenの方法=計算とロボで高速に、短い時間で良い酵素へ

酵素は“ミクロの職人”

酵素とは、自然界や体の中で「化学反応を速める」はたらきをする物質(おもにタンパク質)です。たとえば洗剤には、汚れのタンパク質を分解するプロテアーゼ、でんぷんを分解するアミラーゼ、油を分解するリパーゼといった酵素が入っています。これらのおかげで、低い温度の水でも汚れが落ち、洗濯のエネルギーを減らせます。チーズ・パン・ビールづくりや、薬を高い純度で安く作る工程にも酵素が活躍します。

ぴったり合う酵素を作るのは大変

ところが、用途にぴったり合う酵素を作るのは簡単ではありません。これまでは少しずつ条件を変えて試す試行錯誤が中心で、ねらった性能にたどりつくまで長い時間と費用がかかっていました。それでも酵素は、環境にやさしく省エネで反応を進められるため、世界的に需要が高まっている分野です。

FrontJournalの解説
  • 酵素化学反応を速める“触媒”の役割をもつ物質。多くはタンパク質でできている。
  • 触媒(しょくばい)自分は変化せず、まわりの反応だけを速める物質。

Imperagenの「量子×AI×ロボ」

「Imperagen」は計算→AI→ロボ実験をくり返して酵素を設計する図。量子物理の計算で候補を何百万通り予測→AIが有望なものをしぼり込む→ロボが自動実験室で作って性能を測る→この流れをくり返してどんどん良い酵素にしていく

3つの技術を、ぐるぐる回す

Imperagenの強みは、3つの技術を高速で循環させることです。まず、量子物理の計算で、酵素の形を少しずつ変えた何百万通りもの候補をコンピュータ上で予測します。次に、その中から有望なものをAIが選び出し、選ばれた候補を自動化されたロボット実験室で実際に作って性能を測る。その結果をまた計算とAIに戻して、さらに良い候補を探す。この終わりのない改良ループを回します。

“自動工場”で、従来の500倍へ

多くの実験を人手でなくロボットが担うので、改良のスピードが上がります。膨大な設計図の試作をコンピュータとロボットに任せる、いわば酵素づくりの自動工場です。同社によれば、この方法で酵素のはたらきが従来の500倍以上に高まった例もあるといいます(同社発表)。

FrontJournalの解説
  • 量子物理の計算(量子シミュレーション)原子・分子のふるまいを精密に計算すること。
  • 自動実験室ロボットが実験を自動でくり返す施設。人手より速く正確。

酵素設計の高速化で変化するもの

酵素づくりが速く・安くなると、その先の製品も変わります。

身近な製品が、もっと良くなる

  • 洗剤より低い温度でもよく落ちる
  • 食品パンの食感を良くし、日持ちを伸ばす
  • 余分な副産物が少なく、純度の高い薬を効率よく作れる

つくり方が、環境にやさしくなる

酵素は、石油由来の反応や金属の触媒を置きかえる“環境にやさしい触媒”としても注目されています。設計が速くなれば、こうした製品が世に出るのも早くなります。派手さはありませんが、私たちの暮らしの土台を静かに支える技術です。

FrontJournalの解説
  • バイオものづくり微生物や酵素の力で、燃料・素材・薬などを作る方法。
  • グリーンケミストリー環境負荷の小さい化学。酵素はその主役の一つ。

まとめ:これからの酵素づくり

これまで“見つける・選ぶ”ものだった酵素が、Imperagenの登場で“設計する”ものへ近づいています。先進的な道具(量子・AI・ロボット)を、地味だが社会を支える「酵素」に向けた点が、大学発らしい着実さを感じさせます。日本も酵素・発酵は伝統的に強い分野です。海外の“設計するバイオ”がどこまで伸びるか、引き続き追いかけます。

※ 本記事は各社の公式発表・主要報道をもとに、FrontJournal編集部が再構成したものです。数値は各社の公表値です。
主な出典:TechCrunch/EU-Startups/The Quantum Insider(2026年5月)ほか。

この記事の作者

FrontJournal 編集部

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