蒸気タービンを使わず核融合発電を開発する Helion Energy(米国発)

脱炭素電源の安定供給へ「核融合発電」を開発【Helion Energy|米国発】

生成AIやデータセンターの急増で世界の電力需要が拡大し、天候に左右されない脱炭素電源の確保が急務になりました。この課題に挑むのが、米国のヘリオン・エナジー(以下Helion Energy)です。核融合(軽い原子どうしを結びつけてエネルギーを取り出す、太陽が光るのと同じ反応)を使い、蒸気タービンを介さずに電気を取り出す装置を開発しています。2024年末には、第7世代の実証炉「Polaris」の運転を開始しました。2026年には約5億ドル(約750億円)の調達を発表し、累計調達額は15億ドルを超えています。

電力供給の課題

Helion Energyの紹介と、電力需要の拡大で脱炭素電源が不足し、熱から電気へ変える損失が大きい課題を示す図

需要が増え脱炭素電源が不足

世界の電力需要は、生成AIデータセンターの拡大で急速に増えています。計算設備が使う電力は、今後も大きく伸びると見込まれています。一方で太陽光や風力といった変動電源(天候や時間帯で発電量が変わる電源)だけでは、夜間や無風時に供給が細り、化石燃料への依存が続きます。

熱から電気へ変える損失が大きい

石炭火力や原子力は、燃料から得た熱の半分以上を電気にできずに捨てています。熱で水を沸かして蒸気タービン(蒸気の力で羽根車を回す発電機)を回す方式では、熱から仕事を取り出す効率に原理的な上限があるためです。電気にできる割合は原子力でおよそ3割、最新の石炭火力でも4割台にとどまり、大量の冷却水と巨大なタービン建屋も必要になります。

  • 脱炭素電源
    発電するときに二酸化炭素を出さない電源。太陽光や風力のほか、原子力や地熱も含まれる。
  • 変動電源
    発電量が自然条件で決まり、人が出力を調整しにくい電源。安定して供給するには蓄電池の併用が要る。

Helion Energyが「核融合発電」を開発

Helion Energyが開発する核融合発電の、電磁誘導で電気を直接回収する仕組みと独自の燃料を示す図

課題解決に挑むHelion Energy

Helion Energyは、磁場でプラズマ(原子がばらばらになるほど高温になった気体)を圧縮し、電気を直接回収する装置を開発する米国の企業です。2013年に、デビッド・カートリー氏やジョン・スロー氏ら4名が設立しました。プラズマ物理を研究していた民間研究会社MSNW(米エネルギー省やNASAの支援を受けていた)から独立し、現在はワシントン州エバレットに本社を構えます。

電磁誘導で電気を直接回収

同社は熱を経由せず、プラズマの動きから電気を取り出す直接発電方式を採ります。磁場反転配位(FRC=プラズマが自らの磁場で形を保つ状態)を使い、両端から加速したプラズマを中央で衝突させて圧縮する仕組みです。温度が上がったプラズマが膨張して外側のコイルを押し返すと、コイルを貫く磁束が変わり、ファラデーの電磁誘導の法則(磁束の変化がコイルに電流を生む現象)にしたがって電流が生まれます。圧縮と発電を1秒間に数回くり返すパルス式で運転するため、蒸気タービンも冷却塔も要らず、装置を小型にしやすくなっています。

独自の燃料で放射化を低減

同社の燃料は、装置の材料を放射化(材料そのものが放射性を帯びること)させる中性子が出にくい組み合わせです。商用機では、水にわずかに含まれる重水素(重い水素)と、ヘリウム3を用いる計画です。重水素と三重水素(さらに重い水素)を使う一般的な方式と違い、主反応そのものからは中性子が出ません。ただし装置の中では重水素どうしの反応も同時に進むため、公式サイトも中性子がゼロにはならないと明記しています。

  • 核融合
    軽い原子どうしを結びつけて、大きなエネルギーを取り出す反応。太陽が光っているのと同じ仕組み。
  • プラズマ
    原子がばらばらになるほど高温になった気体。電気を帯びているため、磁場で形を保ったり動かしたりできる。
  • 直接発電方式
    熱でタービンを回すのではなく、磁場の変化などから電気を直接取り出す方式の総称。Helion Energyは最適な条件で95%を超える回収の効率を見込むが、核融合での実測はまだない。
  • ヘリウム3
    ヘリウムの同位体。地球上には極めて少ないため、Helion Energyは重水素どうしの反応から装置の中で作り出す計画を示している。この反応は中性子を出す分岐も併せ持つ。

核融合発電の未来

核融合発電が24時間の脱炭素給電と分散型の電源をもたらし、累計15億ドルを超える資金が集まっていることを示す図

24時間の脱炭素給電が可能に

核融合発電が実用化すれば、データセンターへ24時間を通じて脱炭素の電気を送れます。太陽光や風力は出力が変わるため、これまでは蓄電池の併用が欠かせませんでした。同社の装置は圧縮を高い頻度でくり返すため天候に左右されず、送電網への負荷を抑えながら安定した稼働を保てます。クラウドサービスや生成AIの基盤が安定し、日常のデジタルサービスを使い続けやすくなります。

分散型の脱炭素電源を目指す

同社は小型のプラントを産業の拠点へ分けて置き、地域ごとの脱炭素を目指します。蒸気タービンを省いた構成で大規模な水源や送電の設備が要らないため、工場地帯や送電網の弱い地域にも設置しやすくなります。ワシントン州マラガでは商用1号機「Orion」の建設が進み、放射性物質の取り扱いに関する州の許可も取得しました。発電所を需要地の近くに置ければ、送電のときに失われる電気も減らせます。

累計15億ドルを超える調達

同社の累計調達額は、設立以来15億ドル(約2,250億円)を超えたといわれています。内訳は2021年に5億ドル、2025年に4億2,500万ドル、2026年に5億ドルです。2023年には米マイクロソフトと、2028年からの電力購入契約(PPA=長期にわたり決まった価格で電気を買う契約)を結び、50メガワット(1メガワットは100万ワット)以上の供給を目標に掲げています。2026年2月には実証炉Polarisで1億5,000万℃を超えるプラズマの生成を発表しました。

  • 電力購入契約(PPA)
    電気を使う企業が、発電する事業者から長い期間にわたって決まった価格で電気を買う契約。
  • Polaris
    Helion Energyが2024年末に運転を始めた第7世代の実証炉。商用機に向けた最後の試作機と位置づけられている。

まとめ

核融合発電の利点は、蒸気タービンを介さないため熱の損失と設備の面積を抑えられることです。Helion Energyは実証炉で1億5,000万℃を超えるプラズマを作る段階まで進み、商用1号機の建設に入りました。ただし核融合の成立は温度のほかに密度と閉じ込めの時間でも決まり、そこから実際に電気を取り出す実証はこれからの課題とされています。日本でも電力需要の拡大と脱炭素の両立は大きな課題で、電気を大量に使う企業にとっては調達先の選択肢が増えます。FrontJournal編集部は、核融合発電が安定した脱炭素電源の一つに加わることに期待しています。

※ 本記事は各社の公式発表・主要報道をもとに、FrontJournal編集部が再構成したものです。数値は各社・各媒体の公表値です。ドルの円換算は1ドル=約150円で概算しています。
主な出典:Helion Energy の公式サイト各ページ、Microsoft との電力購入契約に関する各社発表、GeekWire。

この記事の作者

FrontJournal編集部

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