欧州の宇宙アクセスを担う小型ロケットをつくる Isar Aerospace(ドイツ発)

【ドイツ発|Isar Aerospace社】欧州の宇宙アクセスを担う小型ロケットをつくる

2025年、アメリカが年に190回を超えるロケットを打ち上げた一方で、欧州の打ち上げは10回に届きませんでした。人工衛星を宇宙へ運ぶ手段を、欧州は長く他の国や地域に頼ってきました。

この状況を変えようとしているのが、ドイツのIsar Aerospace(イザール・エアロスペース)です。大学の学生ロケットチームから生まれた3人が2018年に創業し、小型ロケット「Spectrum(スペクトラム)」を開発しています。

2025年3月には初の試験飛行を実施し、欧州に独自の「宇宙への足」をつくろうとしています。

Isar Aerospaceは学生3人から始まった

Isar Aerospaceの全体像の図。ドイツ・ミュンヘン近郊で学生3人が2018年に創業し、小型ロケットSpectrumで人工衛星を宇宙へ運ぶ

創業┃ミュンヘン工科大の学生チームが母体

Isar Aerospaceは、ドイツ南部のミュンヘン近郊オットーブルンに本社を置く会社です。創業者はダニエル・メツラー氏(CEO)、ヨゼフ・フライシュマン氏、マルクス・ブランドル氏の3人。3人はミュンヘン工科大学で、学生がロケットづくりに挑む研究チームに参加していました。そこで得た知識と経験をもとに、2018年に会社を立ち上げました。社名の「Isar」は、ミュンヘンを流れるイザール川に由来します。

資金┃累計で約1,390億円を調達

宇宙ロケットの開発には、多額の資金と時間がかかります。同社は2025年6月に約2億7,000万ユーロ(約430億円)の資金調達を実施し、これまでに集めた資金は累計で約8億7,000万ユーロ(約1,390億円)にのぼります。欧州の宇宙ベンチャーとしては大きな規模で、投資家からの期待の高さがうかがえます。集めた資金は、ロケットの量産体制づくりや次の打ち上げの準備に使われています。

FrontJournalの解説
  • 小型ロケット主に小さな人工衛星を宇宙へ運ぶための、比較的小型のロケット。大型ロケットより手軽で、打ち上げ回数を増やしやすい。
  • 宇宙ベンチャーロケットや人工衛星など、宇宙関連の事業に取り組む新しい企業。近年は民間の参入が世界的に増えている。

ロケット「Spectrum」は初飛行で何を得たのか

Spectrumロケットの図。全長28メートル・エンジン10基・最大1トンの荷物を低軌道へ運ぶ2段式ロケットで、2025年3月にノルウェーから初めて打ち上げた

機体┃全長28m・エンジン10基の2段式ロケット

同社が開発するロケット「Spectrum」は、全長が約28メートル、直径が約2メートルの2段式ロケットです。1段目に9基、2段目に1基の合計10基のエンジンを備え、最大で約1トン(1,000kg)の荷物を低軌道(LEO)まで運べる設計です。おもな用途は、小型の人工衛星を宇宙へ届けることです。部品の多くを自社の工場でつくることで、コストを抑え、生産の数を増やしやすくする狙いがあります。

初飛行┃制御を失っても貴重なデータを得た

「Spectrum」は2025年3月30日、ノルウェーのアンドーヤ宇宙基地から初めて打ち上げられました。ロケットは無事に離陸したものの、飛行を始めて数十秒後に姿勢の制御を失い、海に落下しました。後の調査で、機体の弁が予期せず開いたことが原因とわかっています。ただ、初めての飛行で軌道に到達するのは世界的にもまれで、同社は「打ち上げ・飛行・機体の分離といった多くのデータを得られた」と説明しています。この経験は、次の機体の改良に生かされます。

FrontJournalの解説
  • 低軌道(LEO)地上から高さ数百キロメートルほどの、地球に近い宇宙の軌道。多くの小型衛星がこの高さを回っている。
  • 2段式ロケット燃料タンクとエンジンを2つの段に分けたロケット。使い終えた1段目を切り離し、身軽になって宇宙を目指す。

なぜ欧州は独自のロケットを必要とするのか

欧州が独自のロケットを持つ意味の図。欧州は打ち上げ手段が少なく他地域に頼ってきたため、欧州が主体的に衛星を打ち上げ、宇宙への手段を確保することが安全保障と産業に直結する

現状┃米国190回超に対し、欧州は10回未満

2025年、アメリカは年間で190回を超えるロケットを打ち上げました。これに対して欧州の打ち上げは10回に届きませんでした。人工衛星は、通信や地図、天気予報、災害の監視など、暮らしや産業を支えています。その衛星を宇宙へ運ぶ手段を持たなければ、他の国や地域に頼らざるを得ません。欧州には、打ち上げの回数を確保しづらいこと、必要なときに自分たちの判断で打ち上げにくいこと、といった課題が存在します。

意味┃宇宙への自律的なアクセスを取り戻す

欧州が主体的に衛星を打ち上げられることは、単なる利便性の問題ではありません。通信や安全保障に関わる衛星を、必要なときに自分たちの判断で打ち上げられるかどうかは、その国や地域の自律性に直結します。Isar Aerospaceは、欧州で数少ない、量産を前提とした民間ロケット企業のひとつです。同社の挑戦は、欧州が「宇宙への自律的なアクセス」を取り戻せるかどうかを占う試みとして注目されています。

FrontJournalの解説
  • 宇宙へのアクセス人工衛星などを宇宙へ運ぶ手段を持つこと。独自のロケットがあるかどうかで、宇宙を使う自由度が変わる。
  • 人工衛星地球のまわりを回る人工の機械。通信・地図・天気予報・災害監視など、身近な暮らしを支えている。

まとめ:宇宙への「足」を主体的に持つという視点

Isar Aerospaceの挑戦は、欧州だけの話ではありません。日本もまた、独自のロケットで衛星を宇宙へ運ぶ力を高めようとしています。宇宙への手段を他に頼りきりにせず、必要なときに自分たちで打ち上げられること。それは通信や防災、産業の土台を守るうえで欠かせない視点です。学生3人から始まったドイツの一社が挑む「宇宙への足づくり」は、日本の宇宙開発を考えるうえでも参考になりそうです。

※ 本記事は各社の公式発表・主要報道をもとに、FrontJournal編集部が再構成したものです。数値は各社・各媒体の公表値で、約は概数を表します(1ユーロ=約160円で換算)。
主な出典:Isar Aerospace公式/ESA/European Spaceflight/SpaceNews/Wikipedia。

この記事の作者

FrontJournal 編集部

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