宇宙にデータセンターをつくる Starcloud(米国発)

【米国発|Starcloud社】宇宙にデータセンターをつくる

AIの利用が急に増えるなか、地上のデータセンター(サーバをたくさん置く施設)は大量の電力と冷却水を必要としています。

この課題を「データセンターを宇宙に置く」ことで解こうとしているのが、米国カリフォルニア州のStarcloud(スタークラウド)です。2025年11月には、米エヌビディア(NVIDIA)の高性能GPU「H100」を積んだ小型衛星「Starcloud-1」を宇宙で動かすことに成功しました。

同社の発表によると、2026年3月には約1億7千万ドル(約255億円)を集め、評価額は約11億ドル(約1,650億円)に達しました。

宇宙データセンターをつくるStarcloudとは

Starcloudの全体像の図。元McKinsey・元SpaceX・元Airbusの3人が2024年に米国カリフォルニアで創業し、宇宙にデータセンターを置く事業を進めている

創業メンバー┃元McKinsey・元SpaceX・元Airbusの3人

CEOのフィリップ・ジョンストン氏は、英ノッティンガム大学とコロンビア大学で応用数学を学び、その後ウォートン校でMBA、ハーバード大学で国家安全保障・技術の修士号を取得したのち、経営コンサル大手McKinseyで働きました。技術責任者のエズラ・ファイルデン氏は英インペリアル・カレッジ・ロンドンで材料工学の博士号を持ち、航空宇宙大手Airbusの防衛・宇宙部門を経ています。数学・材料工学・情報科学の専門性に、宇宙開発(SpaceX・Airbus)やIT(マイクロソフト)の実務経験を重ねた3人が、2024年に米国カリフォルニア州で「Starcloud」を創業しました。

調達実績┃YC史上最速で評価額約11億ドル(約1,650億円)

Starcloudは、米国の有名なスタートアップ育成プログラム「Y Combinator(ワイ・コンビネーター)」に参加しました。プログラムを終えてから約17か月後の2026年3月、投資会社ベンチマークとEQTベンチャーズが主導する約1億7千万ドル(約255億円)のシリーズA調達を発表しました。このとき評価額は約11億ドル(約1,650億円)となり、Y Combinator を経た会社が「評価額10億ドル(約1,500億円)超え」に到達したもっとも早い例になりました。累計の調達額は約2億ドル(約300億円)です。

FrontJournalの解説
  • Y Combinator(ワイ・コンビネーター)米シリコンバレーの著名なスタートアップ育成プログラム。宿泊仲介のAirbnbや決済のStripeなど、世界的な企業を数多く輩出してきた。
  • シリーズAスタートアップが事業を本格的に広げる初期に受ける、大型の資金調達の段階。数十億〜数百億円規模を集めることが多い。

なぜデータセンターを宇宙に置くのか

なぜ宇宙かの図。地上のデータセンターは電力と冷却で増設が難しくなっているが、宇宙なら24時間の太陽光と真空冷却が使える

データセンターの課題┃電力と冷却水不足で増設が難しい

AIの学習や運用には、大量の電力と、サーバを冷やすための水が必要です。米国では新しいデータセンターの建設が急に増え、地域の電力網が追いつかない地区も出てきました。他にも、送電網の整備が需要に追いつかない、冷却用の水が乾いた土地では確保しにくい、広い用地が見つかりにくい、住民の理解を得るのに時間がかかる、といった課題が存在します。

解決手段┃宇宙の太陽光と真空で電力・冷却を賄う

宇宙、とくに地球のまわりの軌道は、この壁を回避しやすい場所です。太陽光はさえぎるものがなく、ほぼ24時間ずっと発電に使えます。まわりが真空なので、サーバの熱を大きな放熱板で宇宙空間へ逃がすことができ、地上のような大量の冷却水は要りません。土地の取り合いも、住民の理解を得る負担も、宇宙にはありません。「電力・冷却・用地」という地上の3つの制約を、宇宙が別の形で解けるかもしれない。これがStarcloudの発想の出発点です。

FrontJournalの解説
  • 真空冷却宇宙空間の真空に熱を逃がす冷却の考え方。大量の冷却水を使わずに済む可能性がある。

「Starcloud-1」が宇宙でデータセンターを動かした

Starcloudの実証と次期計画の図。2025年11月にNvidia H100を積んだ衛星Starcloud-1を打ち上げて宇宙でAIを動かし、次はBlackwell搭載のStarcloud-2とSpaceXの光通信で規模を広げる

初号機の実証┃H100搭載衛星の打ち上げに成功

Starcloudは2025年11月、小型衛星「Starcloud-1」の打ち上げに成功しました。重さは約60kgで、ちょうど小さな冷蔵庫くらいの大きさです。中に、AI向けとして広く使われるエヌビディアの高性能GPU「H100」を1枚搭載しています。従来、宇宙で使われてきた計算機と比べて、GPUの計算能力は約100倍と発表されました。宇宙にこれだけの計算能力を持っていったのは、「Starcloud-1」が初めての例です。

宇宙でのAI動作┃言語モデルの稼働と学習に成功

「Starcloud-1」は、宇宙でただ電源が入るだけの実験機ではありません。2025年12月には、米グーグルの研究部門ディープマインドが公開している言語モデル「Gemma(ジェンマ)」を宇宙で動かすことに成功しました。さらに、AI研究者アンドレイ・カルパシー氏が公開している学習用の小型モデル「nanoGPT」を、宇宙で新しく学習させることにも成功しています。「宇宙でAIが本当に動くのか」という問いに、稼働と学習の両面で「動く」と答えを出した実験になりました。

次期計画┃BlackwellとSpaceX光通信で拡張

Starcloudは、より大きな2機目の衛星「Starcloud-2」を2026年後半に打ち上げる計画です。載せるのは、エヌビディアの次世代GPU「Blackwell(ブラックウェル)」を複数枚、そして米アマゾンのクラウド事業AWSが提供するサーバ用の部品。データセンターに近い構成を宇宙で試すことになります。あわせて2026年5月には、宇宙開発大手SpaceXと契約し、Starlink(スターリンク)の小型レーザー通信装置を次に打ち上げる25機の衛星に組み込むと発表しました。宇宙で計算した結果を、光通信で速く地上や他の衛星に届ける狙いです。

FrontJournalの解説
  • GPU画像処理やAI計算に使う高性能なプロセッサ。AIの学習や推論の速さを大きく左右する。
  • H100(エイチ・ヒャク)エヌビディアが開発したAI向けの高性能GPU。世界中のデータセンターやAI研究で広く使われる。
  • Blackwell(ブラックウェル)エヌビディアが2024年に発表した次世代のGPU。H100より高い計算能力を目指す。

まとめ:日本のデータセンターにも宇宙が選択肢になる

Starcloudの動きは、遠い未来の話ではありません。日本でもAIの利用が広がり、データセンターの電力や用地は、これから大きな課題になっていきます。宇宙という別の場所に、データセンターの一部を持って行けるとしたら、地上に建てるべき施設と、宇宙に上げてもよい計算を、それぞれ選び分ける新しい発想が生まれます。米国の一社が始めた挑戦は、日本のAIインフラの選び方にも、次第に影響していく可能性があります。

※ 本記事は各社の公式発表・主要報道をもとに、FrontJournal編集部が再構成したものです。数値は各社・各媒体の公表値で、約は概数を表します。
主な出典:Starcloud公式/NVIDIA公式ブログ/TechCrunch/CNBC/Data Center Dynamics/SpaceNews/BusinessWire/Y Combinator。

この記事の作者

FrontJournal 編集部

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