石灰石を使わず「CO2を減らすセメント」をつくる Terra CO2(米国発)

【米国発|Terra CO2社】石灰石を使わず「CO2を減らすセメント」をつくる

ビルや道路、橋の土台に欠かせないセメント。実はその製造は、世界のCO2排出の約8%を占めるといわれています。主原料の石灰石を焼くときに、大量のCO2が出るからです。

この課題に取り組むのが、アメリカ・コロラド州のTerra CO2(テラCO2)です。石灰石の代わりに、地中に豊富にある「ケイ酸塩岩」を使う技術「OPUS(オーパス)」で、CO2を減らすセメント材料をつくっています。

2025年には、シリーズBで総額約1億2,450万ドル(約187億円)を集め、北米での工場建設を進めています。

セメントの課題

セメントの課題の図。主原料の石灰石を高温で焼くとCO2が出るため、セメント製造は世界のCO2排出の約8%を占める

排出┃セメントは世界のCO2の約8%を出す

セメントは、砂利や水と混ぜてコンクリートになり、建物や道路、橋の土台をつくる基礎的な材料です。暮らしを支える一方で、その製造は世界のCO2排出の約8%を占めるとされ、削減が難しい分野の一つとされています。使う量がとても多いため、少しの改善でも全体への効果が大きい分野です。

原因┃石灰石を焼くとCO2が出る

広く使われる「ポルトランドセメント」は、主原料の石灰石を高温で焼いて「クリンカー」という中間材料をつくります。石灰石はその重さの半分近くが、焼くとCO2として大気へ抜ける成分でできています。さらに、1,400度以上に焼くための燃料からもCO2が出ます。つまり、原料そのものと、焼くための燃料の両方からCO2が生まれるのです。他にも、原料の採掘が環境に負荷をかける、代わりに使われてきた石炭火力の副産物(フライアッシュ)が減っている、といった課題が存在します。

FrontJournalの解説
  • ポルトランドセメント世界で最も広く使われる一般的なセメント。石灰石を焼いてつくるため、製造時にCO2が多く出る。
  • クリンカー石灰石などを高温で焼いてできる、セメントのもとになる中間材料。この焼く工程でCO2が発生する。

Terra CO2の技術「OPUS」

OPUSの仕組みの図。石灰石の代わりにケイ酸塩岩を原料にし、独自のガラス化処理でセメント材料にする。岩は炭素を含まないため処理してもCO2が出ない

Terra CO2は、2016年にアメリカ・コロラド州で設立された建材の会社です。セメントの製造でCO2が出る原因が「石灰石を焼くこと」にあるなら、石灰石を使わなければよい。同社はこの発想から、技術「OPUS」を開発しました。

原料┃石灰石でなくケイ酸塩岩を使う

「OPUS」は、石灰石の代わりに「ケイ酸塩岩」を原料にします。ケイ酸塩岩は地殻に豊富にあるありふれた岩石で、石灰石と違って炭素をほとんど含みません。しかも、既にある採石場でとれる石や、鉱山で出る残さ(捨てられていた石)を使えるため、原料を新たに掘り出す負担も抑えられます。特別な資源を探し回る必要がない点が特徴です。

製法┃焼いてもCO2が出ない

同社は、このケイ酸塩岩を独自の「ガラス化」という処理でセメント材料に変えます。炭素を含まない岩なので、処理してもCO2がほとんど出ません。こうしてできる「OPUS SCM」は、ポルトランドセメントの最大およそ50%を置き換えられ、置き換えた分あたりのCO2を約70%減らせるとしています。既存のセメント工場や工事現場の設備をそのまま使えるため、導入しやすいことも利点です。

FrontJournalの解説
  • ケイ酸塩岩地殻に広く存在する、ケイ素を主成分とする岩石。石灰石と違い炭素をほとんど含まないため、加工してもCO2が出にくい。
  • 混合材(SCM)セメントの一部を置き換えて混ぜる材料。セメントの使用量を減らし、CO2の削減につなげる。「OPUS SCM」もこの一種。

OPUSの未来

OPUSの未来の図。身近な建物や道路のCO2を減らせて、いつもの設備のまま建てられ、約187億円を集めて事業を北米へ広げる

効果┃いつもの建物や道路がCO2を減らせる

「OPUS」は、コンクリート全般に使える混合材です。ビルや住宅、道路や橋といった身近な構造物を、CO2の少ない材料でつくれるようになります。しかも、既存のセメント工場や工事現場の設備を、そのまま使えます。原料も、新たに資源を掘り出さず、既にある採石場の石や鉱山の残さを生かせます。特別な設備投資や工法の変更が要らないため、「いつも通りに建てながら、CO2だけを減らせる」ことが、普及を後押しします。

拡大┃資金を集め、北米へ規模を広げる

こうした利点を背景に、Terra CO2は2025年、シリーズBで総額約1億2,450万ドル(約187億円)を集めました。出資には、ビル・ゲイツ氏が関わるブレークスルー・エナジー・ベンチャーズなどが名を連ねます。各年24万トン規模の工場建設を進め、大手セメント会社のイーグル・マテリアルズとも北米で複数の工場を建てる契約を結んでいます。ポルトランドセメントを全て置き換える「OPUS ZERO」の実証も進行中です。身近な建物から街全体の脱炭素へと、事業の広がりが期待されます。

FrontJournalの解説
  • シリーズBスタートアップが事業を広げる段階で受ける投資のこと。製品の実証を終え、量産や工場建設へ進むときに多い。
  • 脱炭素活動で出るCO2などの温室効果ガスを、できるだけ減らしていく取り組み。建設や製造など幅広い分野で進められている。

まとめ:身近な建材から始まる脱炭素

セメントは、私たちの暮らしを足元で支える一方で、大きなCO2排出源でもあります。Terra CO2の取り組みは、原料を石灰石からケイ酸塩岩へ替えるという発想で、この課題に正面から挑むものです。日本もセメントの生産と消費が多い国であり、建設分野の脱炭素は共通の課題です。特別な資源に頼らず、既存の設備をそのまま使えるという同社の考え方は、身近な材料から脱炭素を進める一つの手がかりになりそうです。

※ 本記事は各社の公式発表・主要報道をもとに、FrontJournal編集部が再構成したものです。数値は各社・各媒体の公表値で、約は概数を表します(1ドル=約150円で換算)。
主な出典:Terra CO2公式/BusinessWire/ESG Today/Eagle Materials/Cemex Ventures/Grist。

この記事の作者

FrontJournal 編集部

ディープテック(科学技術にもとづく事業)を、ビジネスパーソンの視点でわかりやすく紹介するメディアです。

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析・執筆した第三者コンテンツであり、関係各社・研究機関の公式見解ではありません。

内容に誤り・更新が必要な点があれば、可能な限り速やかに修正します。お気づきの点はお問い合わせまでご連絡ください。