株式会社AdipoSeedsは脂肪の幹細胞から血小板様細胞を製造する慶應義塾大学発スタートアップ

株式会社AdipoSeeds(アディポシーズ)

AdipoSeeds「血小板様細胞」を研究|研究領域=脂肪の幹細胞を血小板へ変える/強み=遺伝子を入れず培養だけで分化/将来性=皮膚の治療から輸血や修復へ

企業紹介|株式会社AdipoSeedsとは?

輸血や傷の治療に使う血液成分を、体外で計画的に確保する技術として、注目を集める「血小板様細胞」。株式会社AdipoSeedsは、その社会実装を目指す、慶應義塾大学発のディープテックスタートアップです。難治性皮膚潰瘍(糖尿病などで傷が閉じにくくなる状態)の治療や輸血に用いる再生医療等製品を、大学病院などの医療機関と連携して開発しています。

キーワード「血小板様細胞」

「血小板様細胞」は、脂肪組織の幹細胞を分化(別の役割を持つ細胞へ変わること)させて製造する、血小板と同じ働きを持つ細胞です。特徴は、細胞へ遺伝子を導入せず、培養する条件を変えるだけで血小板へ近づけられる点にあります。出血を止める輸血や、治りにくい傷の治療で、献血とは別の供給源になることが期待されています。

市場課題|血小板製剤は献血に依存

現状の血小板製剤の課題|現状は、献血に依存し供給が先細り/献血できる人口が減り続けている/保存が6日間で備蓄しにくい

献血人口が減り供給が先細り

献血できる年齢の人口が減り続け、輸血用血液の確保が難しくなっています。厚生労働省の推計では、16歳から69歳の献血可能人口が2025年の約7,781万人から2045年に約6,277万人へ減る見通しです。20代の献血者数も平成21年度の約113万人から令和6年度は約66万人へ減り、担い手の先細りが懸念されます。

血小板は保存が6日間と短い

血小板製剤は採血後6日間しか使えず、備蓄困難です。赤血球製剤が2〜6℃で保存されるのに対し、20〜24℃で振とう(ゆるやかに揺らし続ける操作)しながら保存するため、細菌が増えやすくなります。必要な量を絶えず献血で補う運用のため、災害や流行で提供者が減ると供給は厳しくなります。

他にも、血液型やHLA(白血球の型)が合う提供者を探す手間があります。輸血で生じる抗体、地域ごとに偏る在庫を融通する手間、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 血小板製剤けがや手術の出血を止める血小板を集めた輸血用の血液製剤である。献血された血液から成分採血で取り出し、20〜24℃で振とうしながら保存する。有効期間は採血後6日間と短く、長期の備蓄に向かない。

AdipoSeedsの強み|脂肪の幹細胞から分化

AdipoSeedsが「血小板様細胞」を開発|今後は、細胞株から計画的な製造が可能に/同じ細胞を増やし続けて確保/必要な時期に合わせて製造

同じ細胞を増やし続けて確保

献血で得られる血小板は、提供者が集まるかどうかに供給量が左右され、品質も提供者ごとにばらつきます。

同社の中核は、ヒトの皮下脂肪組織から取り出した間葉系幹細胞(骨や軟骨などの細胞へ変化できる細胞)を株化する技術です。株化とは、同じ性質を保ったまま増やし続けられる細胞の集団を得る操作です。血小板を製造する方法には、増殖と分化を制御するために細胞へ遺伝子を導入する手法もあります。同社の細胞株「ASCL」(脂肪由来の細胞株の名称)は、培養する条件を変えるだけで巨核球(血小板を放出する大型の細胞)へ分化します。遺伝子を導入する工程が要らないぶん、確認する項目が減り、品質を揃えやすい点が利点です。

必要な時期に合わせて製造

献血由来の製剤は採血の時期と量に左右され、必要な時期に合わせて用意することが難しくなります。

細胞株が出発点のため、同社は培養の工程を計画に沿って動かせます。得られた血小板様細胞「ASCL-PLC」は、止血に加え組織の修復を促す成分も放出します。慶應義塾大学病院の臨床研究では、難治性皮膚潰瘍の患者への投与で安全性に特段の懸念は認められず、投与から12週後までに潰瘍が完全に閉鎖した例が学術誌「Regenerative Therapy」で示されました。ラットでも、腱の障害の炎症を抑える働きが「Journal of Bone and Mineral Metabolism」で報告されました。

FrontJournalの解説
  • 巨核球骨髄に存在する大型の細胞で、細胞質を断片化して血小板を放出する。体内で血小板を産生する細胞であり、脂肪由来の幹細胞をこの細胞へ分化させることが、体外で血小板を得る出発点となる。

血小板様細胞の未来|再生医療への応用

脂肪由来の血小板様細胞が変える未来|皮膚の治療から輸血、組織の修復へ/難治性皮膚潰瘍の治験審査が完了/輸血用血小板の臨床研究へ/腱や関節など組織の修復へ

難治性皮膚潰瘍の治験審査が完了

同社は、難治性皮膚潰瘍を対象とする「ADS-01」で、国内の企業治験を始める準備を終えました。重症化した場合には切断に至る例もあります。2025年6月には国へ治験計画届を提出し、30日間の調査を終え、2026年9月には慶應義塾大学病院、東京都済生会中央病院、川崎市立川崎病院の3施設で治験審査委員会の審査が完了しました。治験そのものはこれから始まる段階で、今後はこの3施設で安全性と有効性を確かめます。

輸血用血小板の臨床研究へ

輸血用の血小板を対象とする「ADS-02」では、臨床研究を早期に始める計画です。対象は血小板減少症で、がんの治療や骨髄の病気により血小板が不足し、出血が止まりにくくなる状態です。臨床研究は東京科学大学で準備が進められています。他家(たか=患者以外の細胞を使う方式)の製剤のため、求められる時期に届けられる仕組みが期待されています。

組織の修復まで用途拡大を目指す

同社が目指すのは、止血にとどまらず、組織の修復まで血小板様細胞の用途を広げることです。血小板は、傷ついた場所に集まり、細胞の増殖を促す成長因子を放出します。ラットを用いた試験では、変形性膝関節症に対する効果が学術誌「Cell Transplantation」で発表されています。動物医療の分野でも、イヌの血小板減少性疾患への応用が次の目標です。

会社概要|AdipoSeedsの事業内容

慶應義塾大学の研究から創業

株式会社AdipoSeedsは、2016年7月に設立されました。創業の中心となったのは、慶應義塾大学医学部の松原由美子氏です。設立の目的は、同大学医学部の池田康夫名誉教授らが進めてきた、皮下脂肪組織の間葉系幹細胞から血小板を得る研究を、医療の現場へ届けることにあります。代表取締役社長には不破淳二氏が就任し、松原氏は取締役CSOを務めています。

採択・連携

同社は、公的機関の支援と医療機関との連携を広げてきました。2024年度には、AMED(日本医療研究開発機構)の「創薬ベンチャーエコシステム強化事業」に、難治性皮膚潰瘍を対象とした他家再生医療等製品の開発が採択され、2025年9月の中間評価に合格し、翌年度も補助金の交付が決まりました。臨床研究や治験では慶應義塾大学病院、東京科学大学などの医療機関と連携し、動物医療では麻布大学と共同研究を進めています。

治験の準備に向けた資金調達

同社は、2022年12月に第三者割当増資16億円を調達しました。引受先はDCIパートナーズ、ニッセイ・キャピタル、SMBCベンチャーキャピタル、Gemsekiの各社が関わる投資事業組合などで、資金は企業治験の準備とPRP療法(患者自身の血液から血小板を多く含む成分を取り出して用いる治療)の受託事業に充てられました。2026年1月には、シスメックスと、DCIパートナーズが運営管理する大和日台バイオベンチャー2号投資事業有限責任組合を引受先とする増資を実施し、シスメックスとは品質管理と製造の面での協業を検討しています。

会社情報

会社名株式会社AdipoSeeds(AdipoSeeds Inc.)
所在地東京都新宿区信濃町35 慶應義塾大学医学部総合医科学研究棟
設立2016年7月7日
代表代表取締役社長CEO&CFO:不破 淳二。取締役CSO・創業者:松原 由美子
調達16億円(2022年12月)。シスメックス、大和日台バイオベンチャー2号投資事業有限責任組合(2026年1月)
事業ASCLおよびASCL-PLCによる再生医療等製品(難治性皮膚潰瘍治療製剤、輸血用血小板製剤等)の開発。PRP療法に関連する受託事業
技術領域脂肪組織由来間葉系幹細胞株(ASCL)。血小板様細胞(ASCL-PLC)。巨核球への分化誘導。再生医療等製品
連携慶應義塾大学病院。東京科学大学。東京都済生会中央病院。川崎市立川崎病院。麻布大学。シスメックス
採択AMED 令和6年度「創薬ベンチャーエコシステム強化事業」(2025年9月に中間評価のステージゲートを通過)
URLhttps://www.adiposeeds.co.jp/

編集後記|FrontJournal編集部より

輸血は、提供する人がいて初めて成り立つ医療です。AdipoSeedsが取り組んでいるのは、その前提を広げる仕事だといえます。脂肪組織という、これまで医療の主役ではなかった材料から血小板を得る発想は、供給の担い手を増やす方向に働きます。

注目したいのは、遺伝子を導入しないという選択が、単なる技術の好みではなく、製造の現実に直結している点です。工程が少ないほど品質は揃いやすく、確認すべき項目も絞られます。止血だけでなく組織の修復まで見据えている点にも、この細胞の持つ幅を感じます。

慶應義塾大学基礎研究から生まれた技術が、治験という現実の関門をどこまで進むのか。今後の展開を注視したいところです。

フロントジャーナル編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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