バイオ水素「発酵水素」を研究|細菌を拡大する虫眼鏡と、糖の付いたコンブのイラスト

バイオ水素株式会社

バイオ水素「発酵水素」を研究|研究領域=コンブの糖を・発酵させて水素/強み=コンブ廃液の発酵で・低コスト化を提案/将来性=地産地消での・技術確立が第一歩

企業紹介|バイオ水素株式会社とは?

細菌の働きで糖から水素を得る方法として、研究が続く「発酵水素」。バイオ水素株式会社は、その社会実装を目指す、横浜国立大学発のエネルギー系ディープテック企業です。コンブの糖を細菌で発酵させて水素を得る技術の確立に向け、共同研究者と協業者を求めています。本記事は、2024年5月時点の情報にもとづきます。

キーワード「発酵水素」

「発酵水素」は、細菌が糖を分解する過程で発生する水素を、エネルギー源として取り出す方法です。原料のバイオマス(生物由来の資源)は植物や海藻が吸収したCO2から育つため、発酵で水素と同時にCO2が出ても、水素はCO2フリーの再生可能エネルギーと位置づけられています。同社は、海藻のコンブに含まれる糖を原料に、この方法で水素を得る技術を研究しています。

市場課題|水素は目標コストの達成が課題、国内のコンブ生産も減少

現状の水素とコンブの課題|現状は、目標コストの達成が課題でコンブ生産も減少|政府の目標コストの・達成が課題/原料のコンブ生産が・国内で減少

目標コストの達成が普及の壁

水素の普及には、政府が掲げる目標コストの達成が課題です。2017年12月の水素基本戦略では、当時100円/Nm3(標準状態の気体1立方メートル当たりの価格)程度だったコストを、2030年に30円、将来は20円まで下げる目標が示されました。コストが下がらないままでは、化石燃料に替わる脱炭素エネルギーとしての普及が進みにくくなります。

国内のコンブ生産が年々減少

日本のコンブ生産量は食用が中心で、年々減少して10万トンに満たない水準です。一方、世界最大の養殖コンブ生産国である中国は、1千万トン超を生産しています。国内のコンブ生産が縮小したままでは、コンブを水素の原料に使う場合に、原料の確保が課題になりえます。

他にも、水素を大量に製造して運ぶサプライチェーンの構築、水素ステーションの整備、水素を使う発電設備の導入、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 水素基本戦略2017年に政府がまとめた、水素の利用拡大に向けた方針。2030年と将来の供給コストの目標を定めている。

バイオ水素の強み|「発酵水素」を研究

バイオ水素が「発酵水素」を研究|今後は、試算上は改良で30円が可能に|コンブ廃液の発酵で・低コスト化を提案/水素収率の高い細菌と・糖の多いコンブの提案

コンブ廃液で低コスト化を提案

化学工業による水素の製造は、約40℃で水素を発生する細菌の発酵に比べ、高い温度を必要とします。

同社は、細菌の発酵で水素を得る技術をコンブに応用する研究を進めています。コンブは、陸上のバイオマスより生産性が高く、水素発酵に適した糖質の「マンニトール」を多く含む、というのが谷生社長の説明です。コンブ産業の廃液(コンブ廃液)を発酵の原料に回すことを、谷生社長は提案しています。低温で水素を発生する細菌に、コンブ廃液を発酵させて水素を得る構想です。新たに原料を用意する負担が小さくなり、水素のコストを下げやすくなります。

高収率の細菌と糖の多いコンブ

細菌の水素収率(原料から得られる水素の割合)が低いと、同じ量の水素を得るのに多くの原料が必要で、コストが下がりにくくなります。

谷生社長は、現有の細菌より水素収率が2割高い新規の水素細菌を獲得し、コンブのマンニトール含有率を現在の約2倍へ品種改良する開発計画を提案しています。両方が実現しコンブ廃液を利用できれば、コストは30円/Nm3程度まで改善できるという試算です。さらに、通性嫌気性(酸素があってもなくても育つ性質)の水素細菌を遺伝子操作すれば、発酵の制御に使う薬品が大きく減り、コストは20円/Nm3以下になると見込んでいます。同じ量のコンブから得られる水素が増えれば、低コスト化が進み、燃料としての負担が軽くなります。

FrontJournalの解説
  • マンニトールコンブなどの褐藻類に含まれる糖アルコールの一種。水素を発生する細菌が発酵の原料にできる糖質として扱われる。

発酵水素の未来|地産地消から自前のエネルギーへ

地産地消の水素が変える未来|資料公開から、海のコンブで国産水素へ|研究資料を公開し・協力者を募る/地産地消での・技術確立を目指す/広い海域で・国産の水素を目指す

研究資料の公開と協力者の募集

同社はウェブサイトで研究資料を公開し、知識と技術を広く利用してもらい、共同で実現を目指したいと呼びかけています。コンブの品質改良には水産系の大学や研究機関の協力が、遺伝子の改良には最新の手法を使える研究室の協力が必要、というのが谷生社長の見方です。新規の水素細菌の探索では、簡単な探索キットを学童や高校生らに提供し、協力を得ることを目指しています。

地産地消での技術確立

同社は、まず地産地消での技術確立を目指しています。現在の技術では、廃液とは別に、1km四方(100ヘクタール)で栽培したコンブから得た水素で、燃費10km/Nm3・年間1万km走行の燃料電池自動車(水素で発電して走る車)を600台以上走らせられる試算です。別の使い方として、燃料電池で発電すれば、350軒以上の家庭に電力を供給でき、石炭火力発電と比べて年間1100トン以上のCO2排出量を削減できるという試算です。地元の海で育てたコンブから水素を得る体制が整えば、地域で使うエネルギーを地域でまかなうことにつながります。

広い海域で国産の水素を目指す

日本の自給エネルギー率を高めるため、コンブを原料にした水素生産の実現を、同社は目指しています。日本の排他的経済水域(国が資源の権利を持つ海域)は国土の約12倍あり、海洋バイオマスの栽培に適した広さ、というのが谷生社長の説明です。中国が2000年に栽培した約248万ヘクタールと同じ広さの栽培場を整えれば、将来は電力消費量の35%以上を賄えると、谷生社長は計算しています。水素の原料を自国の海で育てられれば、燃料の調達が外交問題の影響を受けにくくなる、との見方です。

会社概要|神奈川県茅ヶ崎市で水素の発酵技術を研究する会社

横浜国立大学の研究から設立

バイオ水素株式会社は、2009年9月に設立された、横浜国立大学発の企業です。社長の谷生重晴は同大学の名誉教授で、長年バイオ水素の生産を研究してきました。経済産業省の大学発ベンチャーデータベースでは、横浜国立大学の研究成果をもとにしたベンチャーとして分類されています。本社は神奈川県茅ヶ崎市にあります。

設計から分析までの事業内容

事業内容は、バイオ水素製造システムの設計・製作・保守管理と、バイオ関連製品の製造システムの設計・製作・指導業務です。このほか、微生物と酵素の製造・販売、教材・研究機器の製作・販売、バイオ関連物質の理化学分析と遺伝子分析などを手がけています。経済産業省の大学発ベンチャーデータベースには、主力の製品として「発酵水素生産プラント設計・施工」が登録されています。

オイルショックが研究の原点

谷生社長の研究の原点は、1973年の第一次オイルショックです。エネルギーを外国産の石油に依存する危機感から、水素の生産を研究し始めました。1978年にスイスのチューリッヒで開かれた第2回世界水素エネルギー会議で、細菌が低い温度で水素を発生すると知り、細菌を使う水素生産の技術開発を生涯の仕事に定めました。

会社情報

会社名バイオ水素株式会社
所在地神奈川県茅ヶ崎市堤1番地1-7-207号
設立2009年9月
代表社長 谷生重晴(横浜国立大学名誉教授。2024年5月時点)
資本金460万円
事業バイオ水素製造システムの設計・製作・保守管理、微生物と酵素の製造・販売、教材・研究機器の製作・販売、バイオ関連物質の理化学分析と遺伝子分析など
技術領域発酵水素(コンブを原料とする水素生産)、環境・エネルギー
URLhttp://www.biohydrogen.co.jp/

編集後記|FrontJournal編集部より

水素をどう安く作るかを、原料の側から考える会社です。コンブを加工する産業から出る廃液に目を向け、細菌の発酵と組み合わせている点が印象に残ります。原料の安さが水素の価格を左右する、という点で、原料への着目は理にかなっています。

細菌の水素収率とコンブの糖の量という条件を、数値で示した開発計画も読みどころです。社長が長年続けてきた研究が、その土台にあります。条件がそろった先で水素の価格がどこまで下がるのかに、注目したいところです。

研究資料の公開や探索キットを通じて、多くの人が参加できる水素の研究が広がっていくことを、楽しみに待ちたいと思います。

FrontJournal編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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