Craif株式会社は尿中マイクロRNAでがんリスクを調べる名古屋大学発のバイオAI企業

Craif株式会社(Craif Inc.)

Craif「尿中マイクロRNA検査」を研究|研究領域=尿のマイクロRNAでがんリスクを推定/強み=膵臓のがんの兆候が尿から分かる/将来性=がん以外の疾患へ解析対象を拡大

企業紹介|Craif株式会社とは?

自宅で採った尿からがんのリスクを調べる技術として、注目を集める「尿中マイクロRNA検査」。Craif株式会社は、その「尿中マイクロRNA検査」の社会実装を目指す、名古屋大学発のディープテックスタートアップです。尿がんリスク検査「マイシグナル」を、全国の医療機関やドラッグストア・薬局へ提供しています。

キーワード「尿中マイクロRNA検査」

尿中マイクロRNA検査」は、尿に含まれるマイクロRNA(細胞どうしの情報伝達を担う短い核酸)の量のパターンから、がんのリスクを推定する検査です。特徴は、1回の採尿で10種類のがんのリスクを臓器別に評価できる点にあります。全国の医療機関やドラッグストア・薬局で申し込め、検体は自宅から発送できます。

市場課題|早期のがんは発見が難しい

現状のがん早期発見の課題|現状は早期の膵臓がんを血液で捉えにくい/膵臓がんは症状が乏しく発見が遅れる/血液の腫瘍マーカーは早期の感度が低い

早期の膵臓がんは発見が遅れる

膵臓がんは、早期には特徴的な自覚症状に乏しく、発見が遅れやすい傾向があります。国内の対策型検診(市区町村が住民向けに実施する検診)の対象に膵臓は含まれず、腹部超音波やCTでも小さな腫瘍の描出は容易ではありません。発見が遅れるほど治療の選択肢は狭まり、5年生存率も下がるといわれています。

腫瘍マーカーは早期の感度が低い

血液で測る腫瘍マーカーは、がんが進行してから濃度が上がる性質があります。膵臓がんで広く使われる「CA19-9」(代表的な腫瘍マーカー)は、ステージI・IIAでの検出感度(がんの人を正しく拾える割合)は37.5%です。このままでは、症状が出てから見つかる例が減りにくい状況が続きます。

他にも、採血や内視鏡の身体的な負担、通院の時間的制約、部位ごとに検査項目が分かれる手続きの煩雑さ、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 腫瘍マーカー血液や尿に含まれる、がんの有無や進行の程度を反映する物質。がん細胞が作る成分や、体が反応して作る成分を測る。早期では濃度が上がりにくく、単独での早期発見には限界がある。

Craifの強み|尿からリスクを推定

Craifが「尿中マイクロRNA検査」を開発|早期の膵臓がんも高い感度で検出/ナノワイヤで尿から多数の分子を回収

早期の膵臓がんを高感度で検出

早期のがんでは、血液中に出るマーカーの濃度そのものが十分に上がりません。血液は全身を巡る量が多く、わずかに放出された物質は薄まってしまうためです。

マイシグナル」は、尿中のマイクロRNAのパターンを機械学習で解析し、がん種別のリスクを推定します。マイクロRNAは細胞間の情報伝達を担う分子で、がん細胞が放出するものは健康な細胞と種類と量の分布が異なります。膵臓がんの患者153名と非がん309名を解析した多施設共同研究では、検出感度は全体で約94%、早期に限れば97%と、医学誌『eClinicalMedicine』に2024年に報告されました。これは感度と特異度の釣り合いが最もよい条件での値で、特異度を95%に固定すると早期は88%です。

ナノワイヤで多数の分子を回収

マイクロRNAは細胞外小胞(細胞が体液へ出す小さな袋)に包まれて尿へ流れ出ますが、尿中の濃度は低く、従来の遠心分離では解析に足る種類を安定して集めにくい状態でした。

同社が使うのは、剣山状に立てた酸化亜鉛ナノワイヤ(太さがナノメートル単位の細い棒)で袋を捕まえるデバイスです。ナノワイヤを高い密度で林立させると、尿が流れる間に小胞が表面へ触れる機会が増え、正に帯電した表面が負の小胞を引き寄せます。回収から解析までを担う技術基盤の名称が「NANO IP」です。これが、1ミリリットル程度の尿から多種類のマイクロRNAを回収できる理由です。脳腫瘍と肺がんの別の研究では、感度98.2%・特異度96.5%(がんでない人を正しく除ける割合)でがんを識別できたとされます。

FrontJournalの解説
  • 細胞外小胞細胞が体液中へ分泌する、直径100ナノメートル前後の小さな袋。内部にマイクロRNAやタンパク質を含み、細胞間の情報伝達を担う。がん細胞に由来するものを集めると、その性質を体外から調べられる。

尿検査の未来|医療と創薬への応用

尿のがんリスク検査が変える未来|全国の薬局や医療機関で申し込める/膵臓がん検査の治験を実施/尿から多様な疾患の兆候を読み取る

全国の薬局で検査を受けられる

「マイシグナル」は、すでに全国の医療機関とドラッグストア・薬局で申し込める検査になっています。2026年7月の時点で、導入した医療機関は2,500を超えました。ドラッグストア・薬局は4,700店以上に広がり、累計の利用件数は11万件を超えています。検査を申し込める場所が生活圏に増えたことで、健康診断とは別に、がんのリスクを確認しやすくなりました。

膵臓がん検査の治験を実施

同社は、膵臓がんを対象とした医療機器プログラム(SaMD=それ自体が医療機器として扱われるソフトウェア)の薬事承認を目指し、多施設共同臨床試験を進めています。この試験は、製造販売の承認を得るための検証にあたります。患者の自己負担が軽くなるのは、承認を受けた医療機器が公的医療保険の対象に加わってからです。保険の対象になれば、早期発見を目的とした尿の検査が広く行き渡ると見込まれます。

尿の解析基盤の構築を目指す

同社が目指すのは、「尿から多様な疾患の兆候を読み取る解析基盤を築くこと」です。2025年10月には、ジョンソン・エンド・ジョンソンが運営するインキュベーション施設(起業を支援する共同研究拠点)「JLABS San Diego」に採択され、サンディエゴに新たな事業拠点を加えました。米国では15州・30の医療機関と連携し、現地での研究開発を進めています。がん以外の疾患へも解析対象を広げ、体への負担が小さい尿から早期発見を支える基盤の構築を目指します。

会社概要|Craifの事業内容と設立背景

名古屋大学の研究から創業

Craif株式会社は、2018年5月に設立されました。創業の中心となったのは、当時名古屋大学で研究に携わっていた安井隆雄氏と、代表取締役CEOを務める小野瀨隆一氏です。安井氏が発見した、ナノワイヤで尿から生体分子を取り出す技術を、産業へ応用することを目的としています。安井氏は現在、東京科学大学の教授と名古屋大学未来社会創造機構の特任教授を務めながら、同社の技術顧問を担っています。

受賞と米国での事業展開

同社の技術は、外部からの評価と採択を重ねてきました。2026年6月には、大学発の研究成果を実用化した技術として「第51回井上春成賞」(大学や国の研究機関の成果を実用化した技術を表彰する制度)を受賞しています。米国では、2022年10月に法人を設立し、2025年2月にアーバインの研究拠点を開設しました。ここに2025年10月の「JLABS San Diego」への採択が加わり、現地の体制が整いつつあります。

累計約142億円を調達

創業以来の累計調達額は、2026年8月の時点で約142億円です。この累計額には、同月に実施したシリーズD(事業が軌道に乗った後の拡大期にあたる資金調達段階)が含まれます。内訳は、第三者割当増資とセカンダリー取引(既存株主が持つ株式を他の投資家へ譲渡する取引)で約48億円、融資で5億円です。調達した資金は、国内事業の拡大、膵臓がんの医療機器プログラムの薬事承認の取得、米国での研究開発などに充てられます。

会社情報

会社名Craif株式会社(Craif Inc.)
所在地東京都新宿区新小川町8-30 THE PORTAL iidabashi B1F
設立2018年5月
代表代表取締役CEO:小野瀨 隆一
技術顧問・共同創業者:安井 隆雄(東京科学大学 生命理工学院 教授/名古屋大学未来社会創造機構 特任教授)
資本金1億円(2025年4月1日現在)
調達2026年8月 シリーズD 総額約53億円(第三者割当増資・セカンダリー取引 約48億円/融資 5億円)。創業以来の累計調達額 約142億円
事業尿がんリスク検査「マイシグナル」の提供。がん領域を中心とした疾患の早期発見・個別化医療に向けた次世代検査の研究開発
技術領域尿中マイクロRNA解析、細胞外小胞の捕捉(酸化亜鉛ナノワイヤ)、解析技術基盤「NANO IP」
連携米国法人 Craif Inc.(2022年10月設立)/アーバイン研究ラボ(2025年2月開設)/JLABS San Diego(2025年10月入居)
採択第51回井上春成賞(2026年6月)
URLhttps://craif.com/

編集後記|FrontJournal編集部より

がんの早期発見は、精度を上げるほど検査を受ける側の負担が重くなりがちでした。Craifが尿という検体を選んだことは、負担を軽くしながら精度を高めていく現実的な道筋に見えます。名古屋大学で生まれたナノワイヤの技術が、薬局の店頭にまで届いている点に、研究の社会実装としての厚みを感じます。

注目したいのは、単なる検査キットの販売ではなく、尿から疾患の兆候を読み取る解析基盤を築こうとしている点です。膵臓がんの薬事承認と保険収載が実現すれば、早期発見の機会は大きく広がります。米国での臨床開発も並行して進んでおり、日本発の検査が世界の医療現場へ届く可能性もあります。

尿を出すだけで体の変化に気づける日常が、そう遠くない未来に訪れることを期待しています。

フロントジャーナル編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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