EVAセラピューティクス「腸呼吸」を開発|医療機器のイラスト

株式会社EVAセラピューティクス(エヴァセラピューティクス)

EVAセラピューティクス「腸呼吸」を開発|研究領域=大腸から酸素を・取り込む呼吸の方法/強み=酸素を溶かす・液体を大腸へ/将来性=新生児や重症の・患者の救命を目指す

企業紹介|株式会社EVAセラピューティクスとは?

肺を介さずに大腸から酸素を取り込む呼吸の方法として、注目を集める「腸呼吸」。株式会社EVAセラピューティクスは、その社会実装を目指す、東京科学大学発の医療機器系ディープテック企業です。重症の呼吸不全の患者に向けて、酸素を多く溶かせる液体を大腸へ投与する、腸呼吸用の医療機器「EVA101」を開発しています。

キーワード「腸呼吸」

「腸呼吸」は、肺ではなく大腸を通して、体内に酸素を取り込む呼吸の方法です。ドジョウなど一部の水生生物が、低酸素の環境で腸から酸素を取り込む性質から着想を得て、武部貴則教授らの研究チームが発明し、動物実験では呼吸不全の改善が確かめられています。同社は、この方法を「腸換気」(EVA法)と呼び、医療機器化を進めています。

市場課題|重症呼吸不全の治療は負担と合併症が課題

現状の重症呼吸不全の課題|現状は、標準治療で負担や合併症が課題|肺の機能を失う・致死率の高い病態/治療の負担と・合併症のリスク

重症呼吸不全は致死率が高い

重症の呼吸不全は、肺でのガス交換(酸素と二酸化炭素の入れ替え)の機能が失われる、致死率の高い病態です。急性呼吸窮迫症候群(ARDS)はその代表で、肺が働かなくなり、体に十分な酸素を送れなくなります。重症化すると、肺の機能を補う治療が必要になり、患者の負担は大きくなります。

標準治療は負担と合併症が課題

標準治療の人工呼吸器は、肺に空気を送り込むため肺への負担が生じ、ECMO(体外式膜型人工肺)を含めて、合併症のリスクを伴います。どちらも高度な医療資源を要することが課題です。そのため、肺を休ませながら全身へ酸素を届けられる新しい治療法の開発が、世界的に待たれてきました。

他にも、体への負担の大きさ、高齢の患者で治療の対象外になること、新型コロナウイルス感染症の流行で見えた既存治療の限界、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • ECMO体外式膜型人工肺の略称で、体外に取り出した血液に酸素を加え、体内へ戻す装置を指す。肺が働かない患者の酸素供給を代行するが、高度な医療資源を要する。

EVAセラピューティクスの強み|「腸呼吸」を開発

EVAセラピューティクスが「腸呼吸」を開発|現在は、腸から酸素を届ける方式を研究|酸素を溶かす・液体を大腸へ/肺を介さない・酸素供給の方式

酸素を溶かす液体を大腸へ

従来の人工呼吸は、傷んだ肺に空気を送り込んで酸素を取り込ませるため、肺に負担がかかります。

同社の「EVA101」は、酸素を多く溶かせるフッ素系の液体のパーフルオロカーボン(PFC)を、肛門から大腸へ投与する医療機器です。大腸の周りには毛細血管(細い血管)が豊富で、腸の粘膜も薄いため、腸呼吸に適した部位とされています。PFCは化学的に安定しており、体内に吸収されない性質を持つ液体です。この方式では、酸素を取り込む経路が肺の外に加わります。酸素が血液へ移れば、肺を休ませながら全身に酸素を届けられ、重症の患者に対する治療の選択肢が広がる可能性があります。

肺を介さない酸素供給の方式

ECMOは、血管に管を入れて血液を体外へ循環させる方式のため、血管への処置が欠かせません。

「EVA101」は、肛門から液体を入れる方式のため、血管に管を入れる処置も、血液を体外へ出す装置も要りません。酸素を溶かした液体と血液の間で、腸の粘膜を通して、液体から血液へ酸素が移ると考えられています。ヒトでの試験では、投与した液体を60分間、腸内に保持しました。この方式は、人工呼吸器とECMOに続く肺を介さない第3の呼吸手段として、体への負担を抑えながら重症の患者の全身へ酸素を届けられる可能性があります。

FrontJournalの解説
  • パーフルオロカーボン酸素を非常に多く溶かせるフッ素系の液体を指す。化学的に安定し、体内には吸収されない性質があり、酸素を運ぶ液体として医療への応用が研究されている。

腸呼吸の未来|安全性の確認から新たな呼吸手段の確立へ

腸呼吸が変える未来|安全性の確認から、新たな呼吸手段へ|液体の安全性を・成人男性27人で確認/酸素を溶かした・液体の試験へ/第3の呼吸手段・の確立を目指す

成人男性27人で安全性を確認

「EVA101」を使った試験で、健康な成人男性27人に投与しましたが、重篤な有害事象は認められませんでした。投与には、酸素をあらかじめ溶かしていないPFCの一種、パーフルオロデカリン(PFD)を使い、25mLから1,500mLまで6段階に増やしました。高用量で見られた腹部膨満感などの軽い症状は一過性で、自然に回復し、血液中からPFDは検出されませんでした。この結果は、2025年10月に医学誌「Med」に掲載されています。

酸素を溶かした液体の試験へ

2025年10月の発表時点で、酸素を豊富に溶かしたPFDを使う臨床試験の準備が進められていました。先の試験は安全性の確認が目的で、酸素をあらかじめ溶かしていないPFDを使った試験です。それでも500mL以上の高用量では、血液中の酸素の割合を示すSpO2が、約1%上昇する変化が見られました。この結果は、大気中の酸素がPFDに溶け、血液との濃度差で体内へ移っている可能性を示す手がかりとされています。

新たな呼吸手段の確立を目指す

同社は、肺を介さず血管への処置も要らない「第3の呼吸手段」の確立を目指しています。研究チームは、人工呼吸器やECMOを補完または代替しうる、体への負担が小さい呼吸サポートとして期待しており、2030年の実用化が目標です。肺が未発達な新生児を救うレスキュー治療(緊急時の治療)としての開発も掲げています。実現すれば、治療の選択肢が限られてきた重症の患者の救命の可能性が広がると期待されます。

会社概要|大阪で腸呼吸の医療機器を開発する東京科学大学発の会社

東京科学大学の研究を事業化

株式会社EVAセラピューティクスは、2021年6月に創業した、東京科学大学発の医療機器スタートアップです。同社は、体内の器官を転用して失われた臓器の機能を補う技術の社会実装を、ビジョンに掲げています。この技術は、同大学の武部貴則教授らの研究チームによるものです。2022年2月には、東京医科歯科大学(現・東京科学大学)発ベンチャーに認定されました。本社は大阪市北区にあり、代表取締役は尾﨑拡が務めています。

丸石製薬との資本業務提携

2022年3月には、丸石製薬と、腸換気技術の実用化に向けた共同開発と資本提携の契約を結びました。丸石製薬の周術期医療(手術の前後の医療)での経験を生かし、重症肺炎による呼吸不全の治療を目的とした、非侵襲的(体を傷つけない)な医療機器の早期実用化に向けた協業を進める方針を示しました。2024年6月には、「EVA101」の臨床試験で、第1例目の被験者への使用が始まっています。

大臣賞とイグ・ノーベル賞を受賞

腸換気(EVA)技術の実用化への取り組みは、2022年に内閣府主催の「日本オープンイノベーション大賞」の第4回で、科学技術政策担当大臣賞を受賞しました。同賞は、オープンイノベーション(組織の枠を超えた連携による技術開発)のロールモデルとなる取り組みを表彰する制度で、EVA法は社会変革を先導する先端的研究として評価されました。腸呼吸の研究は、2024年にイグ・ノーベル賞(ユニークな研究に贈られる賞)の生理学賞も受賞しています。

会社情報

会社名株式会社EVAセラピューティクス
所在地大阪府大阪市北区同心1-4-6 長徳寺ビル1階
設立2021年6月
代表代表取締役 尾﨑拡
事業腸呼吸用の医療機器の開発。開発品は「EVA101」
技術領域腸呼吸(腸換気)・パーフルオロカーボンを用いた酸素の供給
連携丸石製薬(2022年3月に資本業務提携)
採択第4回 日本オープンイノベーション大賞 科学技術政策担当大臣賞(2022年)
URLhttps://evatherapeutics.jp/

編集後記|FrontJournal編集部より

重症の呼吸不全では、人工呼吸器やECMOが標準的な治療です。どちらにも、合併症のリスクや高度な医療資源といった課題があるといわれています。EVAセラピューティクスは、そこに「肺を介さない」という別の経路を加えようとしています。

印象に残るのは、ドジョウの腸呼吸という生き物の性質から出発し、大腸という体の器官の使い方を見直した点です。体の器官を別の役目に使う発想は、医療の選択肢を広げる試みとして注目されます。ヒトでの試験によって、安全性の確認という最初の一歩が進みました。

酸素を溶かした液体を使う次の試験は、2025年10月の発表時点で準備が進められていました。重症の呼吸不全に苦しむ人々へ新しい選択肢が届く日を、楽しみに見守りたいと思います。

FrontJournal編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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