フェルメクテス株式会社は納豆菌を培養して粉末にした食品素材「納豆菌粉」を製造する慶應義塾大学発の企業

フェルメクテス株式会社

フェルメクテス「納豆菌粉」を研究。研究領域はたんぱく質の多い納豆菌の食品素材、強みは短時間で増える納豆菌の培養、将来性は副産物からのたんぱく質生産

企業紹介|フェルメクテス株式会社とは?

パンや麺の生地に混ぜて、たんぱく質を補える食品素材として研究が進む「納豆菌粉」。フェルメクテス株式会社は、その社会実装を目指す、慶應義塾大学発の食品系ディープテック企業です。納豆菌粉「kin-pun」を使い、外食企業とのラーメンや地元の事業者との介護食の共同開発、焼き菓子の販売といった形で商品化を重ねています。

キーワード「納豆菌粉」

「納豆菌粉」は、納豆の発酵を担う納豆菌を培養し、殺菌して粉末にした食品素材です。特徴は、100gあたり73.8gのたんぱく質を含み、小麦粉などの穀粉の一部と置き換えて使える点にあります。パンや麺、菓子、ソースといった身近な食品で、たんぱく質を補う材料として使えます。

市場課題|世界のたんぱく質需要が増え、畜産の環境負荷も課題になる

現状のたんぱく質供給の課題。たんぱく質の需要が増えて供給の確保が課題となり、需要増を畜産の増産で補うと環境負荷が増す恐れがある

たんぱく質需要が増え供給が課題

農林水産省は、世界の食料需要量が2050年に58億トンとなり、2010年の1.7倍に増えると見通しています。なかでも主要なたんぱく質源である畜産物は1.8倍と伸びが大きい見通しです。需要増に生産が追いつかなければ、たんぱく質の不足や価格上昇を招く恐れがあります。

畜産の増産は環境負荷を伴う

畜産は、飼料の栽培からふん尿の処理までの工程で温室効果ガスを排出します。FAO(国連食糧農業機関)の2013年の推計では、家畜のサプライチェーンからの排出は人為的な排出全体の約14.5%を占め、そのうち約45%は飼料の生産と加工によるものです。畜産物の増産でたんぱく質を補うと、環境負荷の増加も懸念されます。

他にも、飼育に要する広い農地と大量の水、国際相場に左右される飼料の価格変動、出荷までの長い肥育期間、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • サプライチェーン原料の調達から生産、加工、輸送、販売までの一連の流れを指す。家畜の場合は、飼料の生産から、消化管で生じるメタンやふん尿、畜産物の加工と輸送までを含み、温室効果ガスの推計ではこの全体を対象とする。

フェルメクテスの強み|「納豆菌粉」を開発

フェルメクテスが「納豆菌粉」を開発。短時間で増える納豆菌を培養してたんぱく質を得て、食品の副産物も培地に再利用することで、今後は菌の培養でたんぱく質の増産が可能になる

短時間で増える納豆菌を培養

家畜や大豆といった従来のたんぱく質源は、出荷や収穫までに数か月から年単位の期間を要し、短期間で増産しにくいという課題があります。

同社の「kin-pun」は、納豆菌をタンクで培養し、増えた菌体(微生物の体そのもの)を殺菌して粉末にした食品素材です。納豆菌は約60分で2倍の量に増えるため、短時間で多くの菌体が得られます。粉末は100gあたり73.8gのたんぱく質を含み、発酵に由来する香りとうま味も備えた素材です。粉末そのものはグルテンフリー(小麦のたんぱく質グルテンを含まないこと)です。牧場を広げなくても、培養タンクの中でたんぱく質を増産できるようになります。

食品の副産物を培地に再利用

畜産物は、飼料を栽培してから家畜を育てる二段階の生産であり、飼料の生産にも多くの資源の投入と温室効果ガスの排出を伴います。

同社は、無機窒素やリン、ブドウ糖を調合した合成培地(成分を人工的に調合した培地)と、食品副産物を処理した培地を使い分けて、納豆菌を培養します。納豆菌粉の風味は、培地や温度、納豆菌の系統によって変わります。そのため、培地原料に合い、食味や加工性を高めた納豆菌の育種(目的に合う性質の株を選び改良すること)が、同社の開発の中心です。家畜を介さない納豆菌の培養なら、飼料作物を育てる工程が要らず、食品副産物もたんぱく質の原料にできます。

FrontJournalの解説
  • 培地微生物を増やすために与える栄養源を指す。窒素やリン、糖などを水に溶かして作り、成分によって微生物の増え方や風味が変わる。安価な原料で作れるかどうかが、生産コストを大きく左右する。

納豆菌粉の未来|ラーメンや介護食から、地域の副産物を生かす生産へ広げる

食品素材の納豆菌粉が変える未来。ラーメンや焼き菓子での商品化、介護食と飼料の開発を進め、副産物でのたんぱく質生産を目指す

ラーメンや焼き菓子で商品化

納豆菌粉は、すでに外食や菓子として消費者に届いています。同社は2025年1月に日本海寒鱈まつりでフィナンシェを初めて販売し、2026年1月には一風堂を展開する力の源カンパニーと「庄内仕立てkin-punラーメン」を共同開発しました。同年6月には、両社が新たに開発し麺に15%配合した「kin-punとんこつラーメン」が鶴岡市で提供されました。同年7月からは焼き菓子「サブレ・F・サレ」も鶴岡駅で販売されています。

介護食と飼料の開発

同社は、介護食の共同開発に加え、飼料の開発にも取り組んでいます。2025年3月には鶴岡市の株式会社ベストと、介護食の新商品を共同開発しました。鶴岡市の「鶴岡ガストロノミックイノベーション計画」(バイオ技術で地域の食に新たな価値を生む計画)は内閣府の交付金事業に採択され、山形大学や慶應義塾大学などが連携して進められています。この計画で同社は、高付加価値食品や飼料の開発と、生産のスケールアップ(生産規模の拡大)を担います。

副産物でたんぱく質生産を目指す

同社は、山形県で出る米ぬかや酒粕、果汁の搾りかすといった地域の副産物にも培地の原料を広げることを目指しています。副産物をたんぱく質に作り変える、アップサイクル(副産物や廃棄物を価値の高い製品に変えること)の構想です。自社の製造工程で出る納豆菌の発酵液も、肥料として活用する試験が進んでいます。山形大学農学部との栽培試験では、この肥料で育てたトマトが化学肥料のみより糖度が高い結果となりました。

会社概要|慶應義塾大学先端生命科学研究所と鶴岡工業高等専門学校の関連企業として鶴岡で創業

慶應と鶴岡高専の研究から創業

フェルメクテス株式会社は、2021年7月15日に、慶應義塾大学先端生命科学研究所と鶴岡工業高等専門学校の関連企業として山形県鶴岡市で設立された、同大学発のスタートアップです。同日に同研究所と共同研究契約を結び、同年10月には同校とも微生物培養法の共同研究契約を締結しています。代表取締役の大橋由明氏は博士(理学)で、ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ(代謝分析を手がける企業)などで研究開発に携わってきました。

採択と受賞で研究開発を推進

同社は、公的支援への採択と受賞を重ねています。2022年にNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「NEDO Entrepreneurs Program」に採択され、令和5年度(2023年度)には農林水産省の「フードテックビジネス実証事業」にも採択されました。「ICC KYOTO 2024」(経営者や起業家が集まる会議)の「リアルテック・カタパルト」で準優勝し、「フードテックグランプリ2024」ではキリングループ賞(企業賞)と一般投票1位を得ています。

プレシリーズAで資金調達

同社は、2025年7月にプレシリーズA(事業を本格化させる前の初期の資金調達段階)で総額2.5億円を調達しました。引受先は博報堂、平田牧場、ラクト・ジャパン、慶應イノベーション・イニシアティブなどです。助成金を含む累計調達額は約7.5億円に達しています。資金は研究開発体制の強化と量産体制の確立、販路開拓、人材採用等に充てる計画です。

会社情報

会社名フェルメクテス株式会社(Fermecutes, Inc.)
所在地本社・研究所:山形県鶴岡市覚岸寺字水上246番地2(鶴岡市先端研究産業支援センター内)。食品製造・開発:山形県鶴岡市末広3番1号 マリカ東館1階
設立2021年7月15日
代表代表取締役:大橋 由明(博士(理学))
資本金1億8,648万8,000円(2025年7月時点)
調達2024年9月:ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ(資本業務提携)、フィデアキャピタルを引受先とする第三者割当増資(シードラウンド)。2025年7月:2.5億円(プレシリーズA・博報堂、平田牧場、ラクト・ジャパン、慶應イノベーション・イニシアティブを含む6社)。助成金を含む累計調達額 約7.5億円
事業納豆菌を主原料とした食品の開発。納豆菌粉「kin-pun」の研究開発・製造・販売
技術領域納豆菌の育種と培養条件の最適化。合成培地と食品副産物由来の培地による納豆菌の培養
連携慶應義塾大学先端生命科学研究所(共同研究)。鶴岡工業高等専門学校(共同研究)。ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ(資本業務提携・製造原価低減の共同研究)。力の源カンパニー、ベスト(商品の共同開発)。山形大学農学部(栽培試験)。内閣府 地方大学・地域産業創生交付金事業「鶴岡ガストロノミックイノベーション計画」(参画)
採択NEDO Entrepreneurs Program(2022年)。1stRound 第10回支援先(2024年)。農林水産省 令和5年度フードテックビジネス実証事業。ICC KYOTO 2024 リアルテック・カタパルト準優勝(受賞)。フードテックグランプリ2024 キリングループ賞(企業賞)・一般投票1位(受賞)
URLhttps://fermecutes.com/

編集後記|FrontJournal編集部より

納豆は、日本の食卓で長く親しまれてきた発酵食品です。フェルメクテスは、その発酵を担う納豆菌そのものを培養し、たんぱく質の素材として活用する研究を進めています。なじみのある菌が新しい食材になる点に、この技術の面白さがあります。

注目したいのは、身近な微生物と地域の副産物を組み合わせている点です。山形県の米ぬかや酒粕を培地に使う構想があります。納豆菌粉を使った焼き菓子も、すでに鶴岡駅の売店に並んでいます。研究と地域の食文化を結ぶ、新しい食品素材の作り方です。

納豆菌粉が、世界のたんぱく質を補う新しい供給源の一つになる日を期待しています。

FrontJournal編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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