ハインツテック株式会社はナノサイズの中空管が並ぶ膜で細胞へ物質を導入する早稲田大学発の企業

ハインツテック株式会社

ハインツテック「細胞への物質導入」を研究|研究領域=ナノチューブ膜で細胞へ物質を入れる/強み=高分子も短時間で細胞へ届ける/将来性=再生医療から食品や環境へ広げる

企業紹介|ハインツテック株式会社とは?

再生医療や細胞治療の研究を支える技術として、注目を集める「細胞への物質導入」。ハインツテック株式会社は、その社会実装を目指す、早稲田大学発のライフサイエンス系ディープテック企業です。「ナノチューブ膜スタンプ」を用いた物質導入のサービスと装置を、細胞を扱う研究機関や事業会社の研究開発部門へ提供しています。

キーワード「細胞への物質導入」

「細胞への物質導入」は、遺伝子タンパク質などの物質を、細胞の内側へ送り込む操作です。特徴は、細胞を生かしたまま、狙った物質だけを内側へ届けられる点にあります。遺伝子を書き換える研究や、細胞そのものを薬として使う再生医療の現場で、細胞の性質を変える最初の一歩になります。

市場課題|細胞に物質を入れるのが難しい

現状の物質導入の課題|操作に時間がかかり細胞が傷む恐れ/高分子は細胞に入りにくい

操作に時間がかかり細胞が傷む

細胞への物質導入は、長時間の操作細胞の傷みがつきまとう工程です。電気の刺激で細胞膜に一時的な穴を開けるエレクトロポレーション(電気穿孔法)や、脂質の膜で包んで運ぶ方法が使用されてきました。どちらも準備に時間を要するうえ、細胞ごとに条件を探し直す必要があり、条件が外れれば細胞が死にます。

高分子は細胞に入りにくい

入れたい物質が大きいほど、細胞の中で働かせるのが難しくなります。脂質の膜で包んで運ぶ手法では、細胞がエンドサイトーシスで包み込むため、中身が袋から出られず分解される場合があるからです。タンパク質のような高分子(分子量の大きい物質)や、ミトコンドリアなどの細胞小器官(細胞内で決まった役割を担う構造)は、扱える手法が限られます。

他にも、物質ごとに手法を選ぶ手間専用装置の費用、結果がばらつく再現性、扱える細胞の数が限られる点、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • エンドサイトーシス細胞が外側の物質を膜で包み込み、袋のかたちで内部へ取り込む働きを指す。取り込まれた物質は袋の中に留まりやすく、細胞の中で働く前に分解される場合がある。

ハインツテックの強み|「細胞への物質導入」を研究

ハインツテックが「細胞への物質導入」を研究|短時間で導入し生存率も高い/膜の管を通して高分子も届ける

短時間で高い生存率を確保

従来のエレクトロポレーションは、細胞の全面に電圧をかけて膜のあちこちに穴を開けるため、穴の数や大きさを細胞ごとに制御しにくい難点があります。

同社が用いるのは、ナノサイズの中空の管が無数に貫通した薄膜を細胞へ押し当てる「ナノチューブ膜スタンプ」です。土台は細かな穴を開けた樹脂の膜で、穴の内壁に金を無電解めっきで析出させます。そのあと表面の金を薬品で取り除き、樹脂を気体で削れば、金の管の先端が現れる仕組みです。押し当てると管が細胞膜を貫き、開いた穴は健康な細胞ならすぐにふさがるため、短い操作で細胞を生かしたまま物質を届けられます。2019年の研究では、蛍光色素導入効率(物質が入った細胞の割合)85%、生存率90%が報告されています。

高分子も膜を通して導入

脂質の膜で包んで運ぶ手法では、細胞が袋のかたちで抱え込むため、大きな分子は働く前に分解される場合があります。

「ナノチューブ膜スタンプ」は、管を通り道にして、物質を細胞質(細胞膜の内側を満たす部分)へ直接届けます。袋に包まれる経路を通らないため、扱いにくかったタンパク質のような高分子や、ミトコンドリアなどの細胞小器官も運び込めるのが強みです。細胞を壊さずに内部の物質を取り出す用途にも広がっています。2019年の研究では、短い遺伝子断片であるオリゴDNAを対象とした試験で、導入効率83%が確認されました。ミトコンドリアを別の細胞へ移す2026年の研究では、生存率約95%、移送効率約90%という結果です。

FrontJournalの解説
  • 無電解めっき薬品の化学反応だけで、対象の表面に金属の層を析出させる処理を指す。電気を流す必要がないため、樹脂のように電気を通さない素材の細部にも金属の膜を作れる。

細胞への物質導入の未来|再生医療から食品・環境へ広がる

簡便な物質導入が変える未来|物質導入サービスを研究現場へ提供/荏原と自動装置を共同で開発/食品や環境の分野へ応用を広げる

物質導入サービスを提供

同社は、この技術を使った物質導入のサービスをすでに提供しています。対象は、細胞を扱う事業会社の研究開発部門と研究機関です。利用する側は装置を購入する前に、自社が扱う細胞で技術の効果を確かめられます。再生医療・細胞治療に加え、それ以外の分野での活用や共同研究も受け付けています。

荏原製作所と自動装置を共同開発

細胞加工の工程を自動で行う装置の開発が、株式会社荏原製作所との共同で2024年8月に始まりました。両社が掲げる目的は、自動細胞加工装置の産業化です。ハインツテックが微細加工技術と「ナノチューブ膜スタンプシステム」を、荏原が流体解析(液体の流れを計算で予測する技術)や制御、自動化の技術を持ち寄る組み合わせです。膜を細胞へ押し当てる工程を自動化し、研究機関や企業が使える産業システムとして整えることを目指しています。

食品や環境への展開を目指す

同社は、再生医療や細胞治療にとどまらず、食品や環境の分野へ応用を広げることを目指しています。細胞を扱う領域であれば、分野を問わず同じ技術を使えるとしています。掲げているのは、「細胞を素材に変える社会へ」という方針です。世界中の研究者や技術者が当たり前に使える道具にすることを、目標に据えています。

会社概要|ハインツテックの事業内容・設立背景

早稲田大学の研究から創業

ハインツテック株式会社は、2021年7月に福岡県北九州市で設立されました。創業の中心となったのは、早稲田大学大学院情報生産システム研究科の三宅丈雄氏です。同研究科の三宅研究室で生まれた技術シーズ(事業の種になる研究成果)を、産業へ応用することを目的としています。代表取締役社長には同研究室の出身である青木睦子氏が就任し、三宅氏が取締役として技術を担っています。

支援プログラムと共同開発

同社は、国内外の支援プログラムと事業会社との連携を広げています。JETRO(日本貿易振興機構)の海外展開支援では、「Plug and Play Japan」の2021年度プログラムと、米国の「Berkeley SkyDeck」の2022年度ディープテック分野に参加しました。創業と同時に北九州学術研究都市へ入居し、2024年からは株式会社荏原製作所と自動細胞加工装置の共同開発を進めています。

シードラウンドの調達を完了

同社は、2025年11月にシードラウンドの資金調達を完了しました。シードラウンドは、事業の構想を製品として形にしていく、ごく初期の段階にあたります。調達した資金は、細胞加工技術とアプリケーションの開発、顧客への製品・サービスの展開、採用の強化に充てられます。

会社情報

会社名ハインツテック株式会社(Hynts Tech Corporation)
所在地福岡県北九州市若松区ひびきの1番8号(北九州学術研究都市)
設立2021年7月1日
代表代表取締役社長:青木 睦子。取締役:三宅 丈雄(早稲田大学大学院情報生産システム研究科)
調達シードラウンドを完了(2025年11月)。出資:株式会社basepartners。一般財団法人ふくおかフィナンシャルグループ企業育成財団。GxPartners LLP。9Capital合同会社。スパークル株式会社。融資:株式会社日本政策金融公庫
事業細胞への物質導入・細胞内物質の抽出を行うツール・システムの開発、製造、販売。「ナノチューブ膜スタンプ」を用いた物質導入サービス。研究開発支援
技術領域ナノチューブ膜スタンプ(金の無電解めっきとエッチングによる微細加工)。細胞への高分子導入。細胞内物質の抽出
連携株式会社荏原製作所 自動細胞加工装置の共同開発(2024年8月〜)
採択JETRO アクセラレーションプログラム Plug and Play Japan 2021年度。Berkeley SkyDeck 2022年度 ディープテック分野
URLhttps://hyntstech.com/

編集後記|FrontJournal編集部より

細胞に物質を入れる、という一行で書ける操作が、研究の速度を左右してきました。ハインツテックが選んだのは、細胞を包む膜のふるまいを変えるのではなく、ナノの管を通り道として用意するという道筋です。膜を押し当てるだけという操作の簡潔さに、研究現場で日常的に使われることを見据えた設計を感じます。

注目したいのは、単なる導入効率の改善ではなく、これまで扱いにくかった高分子や細胞小器官を選択肢に加えた点です。タンパク質やミトコンドリアを細胞へ届けられるなら、研究者が立てられる仮説そのものが増えます。装置の自動化を大手の機械メーカーと組んで進めている点も、道具として広く使われる将来を見据えた選択といえます。

細胞を扱うすべての現場で、この膜が当たり前の道具になる日を期待しています。

FrontJournal編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

この企業の方へ

内容に誤り・更新が必要な点があれば、可能な限り速やかに修正します。お気づきの点はお問い合わせまでご連絡ください。

掲載情報の修正・写真の追加・更新はこちら

この企業について、
もっと深く知りたい方へ

パートナーシップ・お問い合わせはこちらから。