株式会社イムノロックはビフィズス菌を使う経口がんワクチンを開発する神戸大学発の企業

株式会社イムノロック

イムノロック「経口がんワクチン」を研究|研究領域=ビフィズス菌の・表面にがんの目印/強み=注射ではなく・飲む形で開発/将来性=感染症の予防へ・応用を目指す

企業紹介|株式会社イムノロックとは?

飲み薬の形で、がん細胞を攻撃する免疫を体の中に呼び起こす技術として、注目を集める「経口がんワクチン」。株式会社イムノロックは、その社会実装を目指す、神戸大学発のバイオ系ディープテック企業です。ビフィズス菌を使った経口がんワクチン「B440」を開発し、進行したがんの患者に届ける治療薬として、医療機関と連携して治験を進めています。

キーワード「経口がんワクチン」

「経口がんワクチン」は、口から飲むことで、がん細胞を攻撃する免疫の働きを高めることを狙う薬です。特徴は、腸にある免疫の仕組みを入り口にして、がん細胞の目印を免疫細胞に覚えさせる点にあります。通院して注射を受ける負担を減らし、飲み薬として続ける治療につながると期待されています。

市場課題|がんの免疫治療は効く患者が限られる

現状のがん免疫治療の課題|現状は、免疫治療が効く人は少なく注射型も伸び悩む|免疫治療が効く・人は2〜3割/注射型ワクチンは・成績が伸び悩む

免疫治療が効く人は2〜3割

多くのがんに使われる免疫チェックポイント阻害薬(がん細胞が免疫にかけるブレーキを外す薬)で効果が出る患者は、2〜3割と少ないとされます。一部の患者に出る重い副作用や、高額な医療費も課題です。効く人を増やせなければ、標準治療後の患者に残る治療の選択肢は乏しいままです。

注射型ワクチンは成績が伸び悩む

WT1(多くのがんで増えるタンパク質)を狙う注射型のペプチドワクチン(短いタンパク質の断片を使うワクチン)は、臨床試験で十分な成績を示せていません。短いペプチドは、患者のHLA型(免疫が目印を示す分子の型)ごとに合う種類が異なり、対象となる患者が限られます。型ごとに薬が要るため、実用化までの開発も長期化しがちです。

他にも、がん細胞が免疫の攻撃をかわす仕組みの多さ、腸内細菌の違いによる治療効果の差、効果を事前に見極める指標の乏しさ、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 免疫チェックポイント阻害薬がん細胞が免疫細胞の働きを止めるために使う仕組みを妨げ、免疫ががん細胞を攻撃し続けられるようにする薬を指す。多くのがんで使われるが、効果が出る患者が限られることが課題である。

イムノロックの強み|「経口がんワクチン」を開発

イムノロックが「経口がんワクチン」を開発|今後は、飲む薬でがんへの免疫強化が可能に|飲んでがんを・攻撃する免疫を誘導/HLA型を・問わず使える可能性(パイエル板・キラーT細胞・がん細胞・WT1・ビフィズス菌のラベルつき)

飲んでがんを攻撃する免疫を誘導

注射で投与するがんワクチンでは、免疫細胞が多く集まる腸管免疫(腸にある免疫の仕組み)を活用しにくいという弱点があります。

「B440」は、WT1の一部を表面に示すビフィズス菌を不活化(増殖しないよう処理すること)し、凍結乾燥粉末として腸へ届ける経口がんワクチンです。菌はM細胞(腸の中身を免疫組織へ運ぶ役)に取り込まれ、パイエル板(腸の壁の免疫細胞の集まり)へ運ばれます。そこで樹状細胞(目印を免疫細胞に示す細胞)がWT1を示し、がん細胞を壊すキラーT細胞を誘導します。免疫チェックポイント阻害薬との併用で抗腫瘍効果が高まることも、動物実験で示された結果です。がんへの免疫強化で、免疫治療が効く患者の広がりが期待されます。

HLA型を問わず使える可能性

これまでの経口ワクチンの多くは病原体を弱毒化したもので、狙ったタンパク質を腸の免疫へ届ける方法は確立しにくい状況が続いてきました。

「B440」が菌の表面に載せるのは、WT1のうち約7割にあたる長いタンパク質です。これをGL-BP(菌の細胞壁に埋まる足場のタンパク質)とつなぐ遺伝子を菌に組み込み、培養する段階で表面にタンパク質が並ぶようにしています。長いタンパク質のまま示すため、体の中で多様な断片に分解され、HLA型の違いに左右されにくいとされる仕組みです。HLA型を問わず使える可能性があり、対象となる患者の範囲が広がると期待されます。

FrontJournalの解説
  • パイエル板小腸の壁に点在する、免疫細胞が集まった組織を指す。腸の中から取り込んだ異物の目印を免疫細胞に示し、体を守る反応を始める場所であり、飲むワクチンが免疫を働かせる入り口になる。

経口がんワクチンの未来|第I相で重い副作用はなく、中皮腫の治験から他の病気へ広げる

経口がんワクチンが変える未来|治験の結果をもとに対象の病気を広げる|第I相治験で・重い副作用なし/中皮腫で3剤併用の・治験を開始/感染症や希少疾患・へ応用を目指す

第I相治験で重い副作用なし

「B440」は、人に初めて投与する第I相治験を、800mgまたは1600mgを1日1回・週5日、4週間続ける方法で終えています。標準治療後に進んだ転移性尿路上皮がん(膀胱などのがんが広がった状態)の患者12例に投与し、用量制限毒性(量を増やせなくなるほどの副作用)は認められず、薬に関係した変化は、一部の患者に一時的な炎症の指標の上昇がみられただけです。12例中6例ではWT1に反応するT細胞が検出され、検出されなかった例と比べて無増悪生存期間(がんが進まずに過ごせる期間)が長い傾向も探索的に認められました。「B440」の投与期間中に腫瘍が縮んだ例はなく、反応が見られた6例も投与前から弱い反応を持っていたことから、有効性の確定には次の治験での確認が必要です。

中皮腫で3剤併用の治験を開始

次に進むのは、手術ができない悪性胸膜中皮腫(肺を包む膜の悪性腫瘍)を対象とする医師主導治験です。2種類の免疫チェックポイント阻害薬ニボルマブイピリムマブに「B440」を加えた3剤併用で、安全性と有効性を調べます。多施設共同の第I/IIa相試験で、2025年10月に始まりました。悪性胸膜中皮腫はアスベストとの関連が指摘される希少な腫瘍で、新薬が望まれています。

感染症や希少疾患へ応用を目指す

同社は、ビフィズス菌を使う経口ワクチンを、がん以外の病気にも広げることを目指しています。新型コロナウイルスの予防を狙う経口ワクチン「BCOV332」も、神戸大学の事業として開発が進められてきた同じ仕組みの開発品です。載せる抗原(免疫が狙う目印)を入れ替えれば、別の病気のワクチンを設計でき、感染症や希少疾患へ広げる計画です。経口ワクチンが定着すれば、注射に頼らない予防と治療の選択肢が増えます。

会社概要|神戸大学発、公的支援と出資で「B440」の治験を進める

神戸大学の研究から創業

株式会社イムノロックは、2021年4月に神戸市中央区で設立された神戸大学発スタートアップです。創業の中心となったのは、神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科の白川利朗教授です。同教授の研究室は、ビフィズス菌の表面にワクチンの抗原を提示させる技術を開発し、C型肝炎や腸チフス、悪性腫瘍に対する免疫の誘導効果を確かめてきました。白川教授は代表取締役CEOとして、この成果の実用化を率いています。

AMED採択で中皮腫治験を推進

同社は、公的な研究支援と企業連携で体制を整えています。AMED(日本医療研究開発機構)の「創薬支援推進事業・希少疾病用医薬品指定前実用化支援事業」に採択され、悪性胸膜中皮腫の治験を進めています。新型コロナウイルス向けの経口ワクチンは、白川氏が研究開発代表者を務める神戸大学の事業として開発が進められました。この事業に森下仁丹が加わり、菌を腸まで届けるシームレスカプセル(継ぎ目のないカプセル)の開発を担いました。医薬品の製造技術を持つ神戸天然物化学は、2025年12月に株主へ加わり、治験薬の製造で協力が見込まれています。

シードラウンドで資金を調達

同社は、大学系のベンチャーキャピタルを中心に資金を調達しています。2025年7月には、神戸大学キャピタルと大阪大学ベンチャーキャピタルを引受先とする第3次シードラウンドB1億8370万円を調達しました。シードラウンドは、研究の成果を事業化していく、ごく初期の資金調達段階にあたります。2025年12月には、第4次シードラウンドBの追加分として5010万円を調達し、「B440」の臨床開発に充てる計画です。

会社情報

会社名株式会社イムノロック(Immunorock Co., Ltd.)
所在地兵庫県神戸市中央区楠町7丁目5番1号
設立2021年4月22日
代表代表取締役CEO:白川 利朗(神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科 教授)
資本金2億410万円(2025年7月時点)
調達2024年4月:4550万円(第2次シードラウンドB・大阪大学ベンチャーキャピタル)。2025年7月:1億8370万円(第3次シードラウンドB・神戸大学キャピタル、大阪大学ベンチャーキャピタル)。2025年12月:5010万円(第4次シードラウンドB追加分・神戸天然物化学、神戸信用金庫)
事業ビフィズス菌を使う経口ワクチンの研究開発。経口がんワクチン「B440」の臨床開発。新型コロナウイルス予防の経口ワクチン「BCOV332」の開発
技術領域ビフィズス菌の表面に抗原タンパク質を提示させる経口ワクチンの技術。がん抗原WT1を標的とするがん免疫療法
連携神戸大学。神戸天然物化学(2025年12月に出資)。治験実施施設:神戸大学、広島大学、浜松医科大学(第I相)
採択AMED 創薬支援推進事業・希少疾病用医薬品指定前実用化支援事業
URLhttps://immunorock.com/

編集後記|FrontJournal編集部より

ワクチンと聞くと、多くの人は注射を思い浮かべます。イムノロックが向き合うのは、飲むことで免疫を呼び起こすという別の入り口です。腸にもともと多くの免疫細胞が集まっていることに着目し、身近なビフィズス菌をがん抗原の運び手に使う発想に、この技術の面白さがあります。

注目したいのは、仕組みをプラットフォームとして作っている点です。菌の表面に載せる抗原を替えれば、がんだけでなく感染症にも同じ考え方を当てはめられます。安全性を確かめ、免疫の反応の手がかりを得た一歩は、飲むワクチンの可能性を検証する次の段階へつながっています。

注射に頼らず、飲む形でがんの治療を続けられる日を期待しています。

FrontJournal編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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