株式会社マテリアルゲートは1つの分子に情報を記録するメモリ材料を研究する広島大学発の企業

株式会社マテリアルゲート

マテリアルゲート「単分子誘電体」を研究|研究領域=1つの分子に・情報を記録/強み=電源を切っても・消えない記録/将来性=コンデンサから・メモリへ応用

企業紹介|株式会社マテリアルゲートとは?

1つの分子に情報を記録できるメモリ材料として、注目を集める「単分子誘電体」。株式会社マテリアルゲートは、その社会実装を目指す、広島大学発の素材系ディープテック企業です。単分子誘電体の製造・販売と、それをメモリやコンデンサなどに使うための技術供与を進めています。

キーワード「単分子誘電体」

「単分子誘電体」は、1つの分子だけで分極(電気の偏り)の向きを保ち、情報を記録できる材料です。特徴は、分子1個が1ビット(情報の最小単位)になり、記録する部分をごく小さくできる点にあります。USBメモリIoT機器(インターネットにつながる機器)などの記録部品への応用が期待されています。

市場課題|データの増加でメモリの電力と容量が壁に

現状のメモリの課題|現状は、データの増加でメモリの電力と容量が壁に|データセンターの・電力需要が急増/記録密度の・限界が近いとされる

データセンターの電力需要が急増

AIの普及で、データセンターの電力需要が急増しています。IEA(国際エネルギー機関)の報告では、世界のデータセンターの電力消費は2024年の約415テラワット時から、2030年には約945テラワット時へ倍増する見込みです。メモリを含む計算の電力を抑えなければ、電力の確保がデータ処理を広げる制約になりかねません。

記録密度の限界が近いとされる

メモリの容量は微細化で増えてきましたが、記録密度の向上には限界が近いとされています。市販の不揮発性メモリ(電源を切っても記録が消えないメモリ)では、1平方インチあたり約1テラビットが限界とされてきました。このままでは、増え続けるデータを限られた大きさの部品に収めるのは困難です。

他にも、書き直しを続けるメモリの電力、メモリと演算装置の間を行き来するデータ量、微細化に伴う製造の難しさ、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 記録密度一定の面積にどれだけ多くの情報を記録できるかを表す量を指す。メモリでは、1平方インチなど決まった面積あたりに記録できるビットの数で表す。

マテリアルゲートの強み|「単分子誘電体」を研究

マテリアルゲートが「単分子誘電体」を研究|今後は、分子1個の単位で高密度化が可能に|消えない記録で・電力を抑える/1分子で・1ビットを記録

消えない記録で電力を抑える

コンピュータの主記憶に使われるDRAM(電源を切るとデータが消えるメモリ)は、記憶を保つために一定の間隔で書き直しを続けるため、使っていない間も電力を消費します。

同社の「単分子誘電体」は、籠形の分子の内側にテルビウム(希土類元素の一種)のイオンを1つ閉じ込めた材料です。籠はポリオキソメタレート(金属と酸素が結びついた無機の分子)でできており、内側にイオンが止まれる位置が2か所あります。電場でイオンが移動し、イオンの止まる位置で分子の分極の向きが決まり、向きの違いで0と1を表す仕組みです。向きは室温以上で保たれ、電源を切っても記録が残ります。不揮発性メモリだけでコンピュータを組めれば、理論上はコンピュータ全体の消費電力を約9割減らせるとされています。

1分子で1ビットを記録

従来の強誘電体(分極の向きを保てる材料)は、分極を保つ性質が結晶の構造から生まれるため、1つの記録単位に数十ナノメートル程度の大きさを必要としてきました。

「単分子誘電体」では、分子1個が分極の向きを保ち、そのまま1ビットになります。分子の大きさは約1ナノメートルで、結晶を使う強誘電体より記録単位を小さくし、高密度化できる点が特徴です。記録密度は、市販の不揮発性メモリの1000倍以上に高められるとされています。閉じ込めるイオンの大きさを変えれば、分極の性質が現れる温度の調整も可能です。同じ大きさの部品に収められるデータが増え、データを保存する機器の小型化につながると期待されています。

FrontJournalの解説
  • ポリオキソメタレート金属の原子と酸素の原子が多数結びついてできる無機の分子を指す。単分子誘電体に使うものは籠の形をしており、内側に閉じ込めた金属イオンの位置によって、分子の分極の向きが決まる。

単分子誘電体の未来|コンデンサからメモリへの応用

室温で働く単分子誘電体が変える未来|コンデンサからメモリへ応用を展開|室温で分極の・反転を観測/コンデンサから・製品化/汎用メモリの・置き換えを目指す

室温で分極の反転を観測

単分子誘電体の分極の反転は、2018年に室温以上の温度で観測されています。研究では、分子の内側のイオンが止まる位置によって、分極の向きが入れ替わる様子が確かめられました。成果は化学の国際学術誌「Angewandte Chemie International Edition」に掲載されています。冷やさずに室温で働く性質は、電子機器に組み込んで使ううえで実用化に適した条件とされています。

コンデンサから製品化

同社は、単分子誘電体を使った製品を、まずコンデンサ(電気を一時的にためる部品)で実用化し、続いてメモリへ広げる計画です。メモリ向けに開発した技術をコンデンサにも展開でき、メモリより2年ほど早い事業化を見込んでいます。メモリは、2027年までに試作品を完成させる計画です。2028年までには、特定の顧客向けFeRAM(強誘電体を使った、電源を切っても消えないメモリ)に代わる製品の実用化が目標です。

汎用メモリの置き換えを目指す

同社は、コンピュータで広く使われる汎用のメモリを、単分子誘電体に置き換えることを目指しています。2030年までは、単分子誘電体に絞って半導体業界への参入を進める方針です。その先は、2032年にDRAMに代わる製品、2040年にはフラッシュメモリ(SDカードなどに使われる大容量のメモリ)に代わる製品の市場投入を計画しています。保存する部品の電力と大きさを同時に抑えることで、増え続けるデータ処理を支える材料になると期待されています。

会社概要|マテリアルゲートの事業内容と設立背景

広島大学の研究から事業化

株式会社マテリアルゲートは、2023年6月に広島県東広島市で設立された広島大学発スタートアップです。広島大学の西原禎文教授が2011年から進めてきた単分子誘電体の研究をもとに、西原氏と、その研究室の出身者である中野佑紀氏が共同で創業しました。代表取締役の中野氏は、化学メーカーで電子デバイスや半導体分野の研究開発に携わり、MBA(経営学修士)を取得した人物です。西原氏はCSO(最高科学責任者)として研究開発を率い、2025年1月には地方銀行出身の伊勢賢太郎氏がCOO(最高執行責任者)に就きました。

NEDOの助成事業に採択

同社の研究開発は、国や自治体の支援制度に採択されています。2024年12月には、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「ディープテック・スタートアップ支援事業」に広島大学発の企業として初めて採択され、2年間で約2.8億円の助成を受けることが決まりました。2026年5月には広島県の「競争力強化研究開発等支援補助金」に採択されたほか、「J-Startup WEST」(中国経済産業局などが中国・四国地域の有望な新興企業を選ぶ制度)にも選ばれています。

補助金を含め累計約9.1億円

2026年2月時点で、資金調達と補助金の採択を合わせた累計調達額は約9.1億円です。2024年7月にはシードラウンド(事業化の初期段階の資金調達)で、インキュベイトファンドや東京応化工業などから総額1.6億円を調達しました。2026年2月には、既存株主から追加の出資を受けました。この資金で人員を増やし、量産の検討やメモリの試作品の開発を進める計画です。

会社情報

会社名株式会社マテリアルゲート(Material Gate Inc.)
所在地広島県東広島市鏡山3丁目10-31 広島大学インキュベーションオフィス
設立2023年6月
代表代表取締役:中野 佑紀。CSO:西原 禎文(広島大学 教授)。COO:伊勢 賢太郎
調達2024年7月:総額1.6億円(インキュベイトファンド、UntroD Capital Japan、東京応化工業、広島ベンチャーキャピタル、日本政策金融公庫〈資本性劣後ローン〉)。2026年2月:シードエクスパンション(既存株主)。累計約9.1億円(補助金を含む・2026年2月時点)
事業単分子誘電体の製造・販売。単分子誘電体デバイスに係る技術供与。材料の機能探索(新機能創出)支援
技術領域単分子誘電体(テルビウムイオンを内包したプレイスラー型ポリオキソメタレート)。研究成果は Angewandte Chemie International Edition(2018年)に掲載
連携広島大学発スタートアップ。広島大学の研究拠点「Science Knot」に入居予定(2026年3月発表)
採択NEDO ディープテック・スタートアップ支援事業(2024年12月)。広島県 競争力強化研究開発等支援補助金(2026年5月)。J-Startup WEST
URLhttps://www.materialgate.com/

編集後記|FrontJournal編集部より

データを保存する部品は、目立たないながら、コンピュータの電力と大きさを左右する存在です。AIの普及でデータが増え続けるなか、その部品をどう小さく、省電力にするかは避けて通れない問いになっています。マテリアルゲートは、記録の単位を分子1個まで小さくするという、材料の側からの答えを示そうとしています。

注目したいのは、分子の内側にあるイオンの位置で情報を表すという発想が、室温での観測から、量産に向けた検討の計画へと歩みを進めている点です。大学での基礎研究が、コンデンサやメモリという具体的な部品の形に近づきつつあります。材料そのものを変える取り組みは時間を要しますが、実現すれば影響の及ぶ範囲は広いはずです。

分子1個が1ビットを担うメモリが、身近な機器に使われる日を期待しています。

FrontJournal編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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