株式会社メカノクロス|溶媒を使わない有機合成メカノケミカルを社会実装する北大発スタートアップ

株式会社メカノクロス(MECHANOCROSS)

メカノクロスの研究領域・強み・将来性

企業紹介|株式会社メカノクロスとは?

株式会社メカノクロスは、札幌発のディープテックスタートアップです。北海道大学 伊藤研究室から生まれた「メカノケミカル有機合成」技術を、医薬品・材料・電池などの産業に届けることを目指しています。有機溶媒を使わずに化学反応を進めるこの技術は、製造にともなう廃液・CO₂・コストを抑えられる点で注目されており、メカノクロスはその実用化と量産プロセスの開発を担っています。

キーワード「メカノケミカル有機合成」

「メカノケミカル有機合成」は、原料を大量の液体(有機溶媒)に溶かす従来法と違い、ボールミル(金属の容器に金属球を入れて回す装置)で固体のまま反応を進める手法です。北海道大学の伊藤肇 卓越教授久保田浩司 准教授を中心に2018年から研究が進められ、溶けにくく扱えなかった化合物にも使えるまでに発展しました。その成果は Nature Communications をはじめとする学術誌で報告されています。

市場課題|化学合成と有機溶媒の環境負荷

市場課題|化学合成と有機溶媒の環境負荷

医薬・材料産業を支える「液体に溶かして混ぜる」化学

医薬品や半導体材料、電池材料の多くは、原料を有機溶媒(アセトン・トルエンなどの液体薬品)に溶かして反応させる「液相合成」で作られています。長年の蓄積で安定した方法ですが、生産量に比例して大量の溶媒・廃液・エネルギーが必要になり、製造コストや環境負荷の主な要因になっています。

課題「溶けない化合物」と「溶媒削減」の両立

液相合成にはもう一つ壁があります。それは、そもそも溶媒に溶けない原料は反応に使えないこと。新しい医薬・材料の候補物質のなかには、性能が高くても溶解性の低さで実用化を諦めるケースが少なくありません。一方で、規制強化やサステナビリティ要求から、化学業界全体に「溶媒を減らしながら、新しい化合物にも対応する」難しい両立が求められています。

FrontJournalの解説
  • 有機溶媒アセトン・トルエンなど、化学反応の場として原料を溶かす液体薬品。揮発性が高く、廃液処理にコストとエネルギーがかかる。
  • 液相合成原料を液体に溶かして反応させる、現在主流の化学合成方法。

メカノクロスの強み|メカノケミカル有機合成技術

メカノクロスの強み|メカノケミカル有機合成技術

原理|機械の力を反応のエネルギーに

従来の化学合成は、原料を有機溶媒(液体の薬品)に溶かし、加熱して反応させるのが基本です。メカノケミカルは溶媒の代わりに、機械的な力(ぶつける・こする・すりつぶす力)そのものを反応エネルギーにする方法。溶媒に溶けない化合物でも反応させられ、廃液や加熱エネルギーを大幅に減らせると報告されています。

実装|ボールミルで進める固相反応

反応に使うのはボールミル(金属容器の中で金属球が高速回転する装置)です。原料・触媒を入れて回転数や時間を制御し、固体のまま反応を進めます。北海道大学 伊藤研究室は、産業で使うための制御手法を積み重ねてきました。固体だけで反応させる方法に加え、微量の液体を加えて選択性を上げるLAG(液体補助粉砕)や、高温ボールミルなどです。メカノクロスはこの知見をもとに、化学メーカー向けの商用反応装置と量産プロセスを開発しています。

適用範囲|これまで作れなかった分子に届く

メカノケミカルと液相合成は、互いの弱点を補い合う関係にあります。伊藤研究室は、これまで難しかった反応を Nature Communications などで報告してきました。たとえば、溶けない原料を使う反応(不溶性クロスカップリング)です。ほかにも、扱いにくいグリニャール試薬を安全に使う手法や、専用の触媒で反応を速める技術があります。いずれも医薬中間体・電子材料・電池材料など、高付加価値領域に直結します。

FrontJournalの解説
  • ボールミル金属容器に金属球を入れて高速回転させ、衝突・摩擦で固体を粉砕する装置。鉱物処理で長年使われてきた装置を、有機化学反応の場として転用する点が新しい。
  • 固相反応原料を液体に溶かさず、固体のまま進める化学反応。溶媒不要・廃液激減・溶けない化合物にも対応できる。
  • クロスカップリング反応2つの有機分子をパラジウム触媒などでつなぎ合わせる反応の総称。医薬品・有機EL・農薬の合成で広く使われ、2010年にノーベル化学賞の対象にもなった。
  • グリニャール試薬炭素どうしをつなぐ反応に使う、反応性の高い試薬。医薬・材料合成で広く使われるが、空気・水分に弱く、大量の有機溶媒を必要としてきた。
  • LAG(液体補助粉砕)Liquid-Assisted Grinding の略。ごく微量の溶媒を加えて、メカノケミカル反応の選択性・収率を上げる手法。

溶媒フリーの未来|医薬・電子材料への応用

未来|溶媒フリーで広がる素材・医薬への応用

医薬・電子材料・電池への展開

メカノクロスは、医薬品・ディスプレイ材料・半導体・電池材料といった高付加価値領域での社会実装を進めています。ねらうのは、溶解性が低くてこれまで作れなかった分子です。新薬の候補、有機EL(次世代ディスプレイの発光材料)、半導体・電子材料、次世代電池の電極材料などが対象です。伊藤研究室と連携し、これまでに約20種類の有機合成反応へ適用できることを確認しています。

化学産業のグリーン化への貢献

化学産業はCO₂排出と廃液処理で社会的な注目が高まっており、欧州を中心に規制強化も進んでいます。メカノケミカル有機合成のような「溶媒を減らす」技術は、製造現場の脱炭素・廃液削減に直接寄与する選択肢として、グローバルでも研究と事業化が加速しています。北大発のメカノクロスは、その日本拠点としての役割を担っています。

FrontJournalの解説
  • 受託合成製薬・化学メーカーから依頼を受けて、特定の化合物を作って納める事業形態。新技術の入口になりやすい。
  • グリーンケミストリー化学プロセス全体で、廃棄物・有害物質・エネルギー消費を減らす設計思想。メカノケミカル合成はその有力な選択肢の一つ。

会社概要|株式会社メカノクロスの事業内容・設立背景

設立の背景|約7年の基礎研究を産業実装へ

株式会社メカノクロスは、2023年11月に札幌で設立されました。中心は、北海道大学の伊藤肇 卓越教授久保田浩司 准教授です。2018年からICReDD(化学反応創成研究拠点)などで進めてきたメカノケミカル有機合成の研究を、産業で使える形にすることが目的です。その基礎研究を社会実装するため、代表取締役には齋藤智久 氏が就き、伊藤教授と久保田准教授が取締役・技術顧問を務めます。

代表取締役社長の齋藤智久 氏は、事業会社で培った経営経験を持つ起業家です。研究成果を産業へ橋渡しする役割を担い、商用反応装置の開発・量産プロセスの構築・受託合成企業との協業を主導しています。

採択・連携

メカノクロスは、札幌市「札幌未来牽引企業創出事業(SAPPORO NEXT LEADING)」に採択されています。北大認定スタートアップとして、地域からの支援も受けています。事業連携では、2024年9月に化学メーカーの株式会社ダイセルと共同研究を開始し、メカノケミカルならではの高付加価値製品開発を進めています。さらにナード研究所とも協業検討を発表しました。

ビジネスモデル

メカノクロスは2025年8月、XTech Ventures をリードとする Pre-Series A の資金調達を完了しました。参画したのは XTech Ventures や三菱UFJキャピタルなど計8社です(詳細は下の表)。累計の調達額は、融資・補助金を含めて約10億円にのぼります。この資金は、商用の反応装置の開発と、受託合成企業との協業に充てられます。

会社情報

会社名株式会社メカノクロス(MECHANOCROSS Co., Ltd.)
所在地北海道札幌市
設立2023年11月
代表代表取締役CEO:齋藤 智久
取締役・技術顧問:伊藤 肇(北海道大学 卓越教授)
取締役・技術顧問:久保田 浩司(北海道大学 准教授/WPI-ICReDD)
調達累計 約10億円(融資・補助金を含む)/2025年8月 Pre-Series A 完了(8社参画)
投資家XTech Ventures(リード)/Spiral Innovation Partners/Angel Bridge/三菱UFJキャピタル/北海道ベンチャーキャピタル/インキュベイトファンド/QBキャピタル/北洋銀行
連携株式会社ダイセル(2024年9月 共同研究開始)/ナード研究所(協業検討)
技術領域メカノケミカル有機合成、ボールミル反応、溶媒フリー合成、不溶性化合物利用、グリーンケミストリー
採択札幌未来牽引企業創出事業(SAPPORO NEXT LEADING)/北大認定スタートアップ
URLhttps://mechanocross.com/

編集後記|FrontJournal編集部より

化学産業は、私たちの生活を支える薬や素材を生み出してきた基盤産業です。一方で、その裏側では大量の有機溶媒と廃液、CO₂排出という負担も生まれてきました。「液体に溶かして混ぜる」という長年の前提を、メカノクロスは「機械的な力で固体のまま反応させる」というアプローチで書き換えようとしています。

注目したいのは、これが単なるコスト削減ではなく、「これまで溶けないからと諦められていた分子」を新しく作れるようになる点です。新薬候補や次世代電池材料など、性能が高くても扱いにくかった化合物に光が当たる可能性があります。北海道大学 伊藤研究室の長年の基礎研究と、産業実装を担うメカノクロスの組合せが、日本発のグリーンケミストリーの一つのモデルになり得ます。

「有機溶媒に溶かして反応させる化学」から「溶かさずに反応させる化学」へ。メカノクロスが描く未来は、製造現場の環境負荷と、化合物設計の自由度の両方を同時に動かす可能性を持っています。

フロントジャーナル編集部

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