株式会社Nanofiber Quantum Technologiesは量子コンピューターをつなぐナノファイバー共振器を開発する早稲田大学発の企業

株式会社Nanofiber Quantum Technologies(ナノファイバー・クオンタム・テクノロジーズ)

Nanofiber Quantum Technologies|研究領域=量子コンピューターを光でつなぐ/強み=光ファイバーを引き伸ばした共振器/将来性=装置を並べて計算規模を広げる

企業紹介|株式会社Nanofiber Quantum Technologiesとは?

量子コンピューターの規模を広げる技術として、注目を集める「量子インターコネクト」。株式会社Nanofiber Quantum Technologiesは、その社会実装を目指す、早稲田大学発の量子系ディープテック企業です。「ナノファイバー共振器」(光を閉じ込めて往復させる細い光ファイバー)を開発し、量子計算に取り組む研究機関や企業への提供を見据えています。

キーワード「量子インターコネクト」

量子インターコネクトは、複数の量子コンピューターを光でつなぎ、1台の装置のように動かすための接続技術です。1台に量子ビット(計算に使う最小の単位)を詰め込む方法では、増設の余地が限られます。装置を並べて接続する方式なら、台数を足して計算の規模を広げる道が開けます。

市場課題|量子計算の規模を広げる壁

現状の量子計算の課題|1台への集積で増設が頭打ちになり、規模が不足し、誤り訂正に要る量子ビットが不足する

1台への集積では規模が不足

1台に量子ビットを詰め込む方法では、量子コンピューターの規模を広げにくくなります。同じ空間に量子ビットを並べるほど配線や冷却、制御に使うレーザーの経路が込み合い、装置の設計は難しくなります。実用的な計算に届く前に頭打ちを迎えかねません。

誤り訂正に要る量子ビットが不足

量子ビットは外部の影響で乱れやすく、誤りを訂正する仕組みが要ります。誤り耐性量子コンピューターでは、計算に使う論理量子ビット(多数の量子ビットを束ねて作る、誤りに強い1つ分)1つを支えるため、多数の量子ビットを訂正へ割り当てる設計が想定されます。必要な数を1台でそろえる見通しは、なお立ちにくい状況です。

他にも、装置ごとの量子ビットの寿命や、極低温と真空を保つ負担があります。装置と装置を結ぶ経路の光の損失や、方式ごとに異なる制御の仕組み、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 誤り耐性量子コンピューター多数の量子ビットを束ねて誤りを訂正しながら計算を進める量子コンピューターを指す。束ねる数が多いほど装置は大きくなるため、実現には全体の大規模化が前提となる。

Nanofiber Quantum Technologiesの強み|「量子インターコネクト」を開発

Nanofiber Quantum Technologiesが「量子インターコネクト」を開発|光を逃さず装置をつなぎ、離れた装置の量子ビットを結ぶ

光を逃さず装置をつなぐ

装置と装置を光でつなぐ方式では、原子から取り出した光子(光の粒)が途中で失われやすく、接続の成功率が上がりにくいままでした。

同社が用いるのは、光ファイバーそのものを細く引き伸ばして作る「ナノファイバー共振器」です。太さを光の波長より細くすると、長さ数ミリメートルの区間で光がファイバーの外側へしみ出しながら進みます。そこに中性原子(電気を帯びていない原子)を捕らえると、しみ出した光と原子が強く結びつきます。光ファイバー通信に使う波長帯で、1往復あたりの損失は0.31%です。生まれた光子はファイバーの中をそのまま進むため、レンズや鏡へ受け渡す工程が不要になります。

離れた装置の量子ビットを結ぶ

誤り訂正に要る多数の量子ビットを複数の装置で分担するには、光子を介して量子もつれ(離れた2つの粒子の状態が結びつく関係)を作る必要があります。

同社の強みは、その働きを高い成功率で起こせる点です。引き伸ばした区間の両端に2枚の鏡を置き、そのあいだを光が何度も往復します。光は往復のたびに、光ファイバー通信で使う波長帯を扱えるイッテルビウム原子と出会い、出会う回数が増えるほど強く結びつきます。結びつきの強さを表す協同性は、90という見積もりです。この数値が大きいほど光を取り逃がしにくく、離れた装置の量子ビットを、まとめて1つの計算に使えるようになります。

FrontJournalの解説
  • 量子もつれ離れた2つの粒子の状態が結びつき、片方を測るともう片方の状態も定まる関係を指す。量子コンピューターどうしをつなぐ通信では、この関係を装置の間に作ることが計算を連携させる前提となる。

量子インターコネクトの未来|量子コンピューターの大規模化

量子インターコネクトが変える未来|共振器の実証が量子ネットワークへ広がり、低損失の共振器を実証済みで、光ピンセットとの統合を検証する

低損失の共振器を実証

装置をつなぐ土台となる低損失の共振器は、すでに完成しています。光が1往復するあいだに失われる割合は、実測で0.31%です。この割合が小さいほど光は共振器の中を長く行き来でき、原子と結びつく機会が増えます。イッテルビウム原子と組み合わせる条件は、実験室で整いつつあります。

光ピンセットとの統合実証

光ピンセット(レーザーの力で原子を1個ずつ捕らえて動かす技術)との統合は、共同実証まで進みました。同社は三菱電機と、中性原子型量子コンピューター向けに、光量子インターフェース(量子ビットと光を受け渡す接続部)の基盤技術を開発してきました。三菱電機が光ピンセットで量子ビットの配列を制御し、同社が量子コンピューターとナノファイバー共振器の統合技術を受け持ちます。この共同実証は2025年4月に始まり、当初の期間は2026年3月末までで、状況に応じて延長するとされています。

量子ネットワークの構築を目指す

同社は、多数の量子コンピューターを結んだ量子ネットワークの構築を目指しています。中性原子方式の装置を手がける米国のQuEra Computingとは、チップどうしを接続して大規模な計算を実現する技術で協力しています。開発と製造の体制を、米国メリーランド州カレッジパークと東京で拡張する方針です。誤り耐性量子コンピューターの実現と量子通信との統合を、同じ基盤で扱う構想です。

会社概要|Nanofiber Quantum Technologiesの事業と設立背景

早稲田大学の研究から起業

株式会社Nanofiber Quantum Technologiesは、早稲田大学の研究成果をもとに、2022年4月27日に設立されました。基礎技術は、早稲田大学理工学術院教授の青木隆朗氏が進めてきたナノファイバー共振器の研究に由来します。「早稲田大学PoC Fundプログラム」に採択された「ナノ光ファイバー共振器量子電気力学系による分散型量子コンピュータ」の課題から、事業が立ち上がりました。代表は共同創業者のMasashi Hirose氏です。

採択・連携

同社は、大学系ファンドの出資と事業会社との共同実証で連携を広げてきました。初回の出資は、早稲田大学ベンチャーズ(同大学系の投資会社)によるものです。事業会社との連携では、三菱電機と中性原子型量子コンピューター向けの光量子インターフェースの共同実証に取り組みました。米国では中性原子方式のQuEra Computingと協力し、メリーランド州カレッジパークにも開発拠点を置いています。

シリーズAで資金を調達

シリーズAの1次クロージングは、2025年9月24日に公表されました。シリーズAは、試作した技術の実証を進め、事業拡大へ向かう段階の調達です。累計の調達額は約1,400万ドルで、Phoenix Venture Partnersが主導し、複数の投資家が参加しました。資金は分散型量子コンピューティングの実証、中性原子方式向け量子インターコネクトの製品化、開発と製造の体制の拡張に充てます。

会社情報

会社名株式会社Nanofiber Quantum Technologies(Nanofiber Quantum Technologies, Inc.)
所在地東京都新宿区西早稲田1丁目22番3号。米国カリフォルニア州パロアルト。米国メリーランド州カレッジパーク
設立2022年4月27日
代表Masashi Hirose(President & CEO・共同創業者)。Akihisa Goban(CTO・共同創業者)。技術基点=青木隆朗(早稲田大学理工学術院教授)
従業員27人
調達累計 約1,400万ドル(2025年9月時点)。シリーズA 1次クロージング(2025年9月24日・Phoenix Venture Partnersがリード)
事業ナノ光ファイバーに基づく量子技術(量子コンピュータ、量子暗号、量子通信、その他量子科学に関連する技術)、製品、サービスの研究、開発、設計、製造、販売等
技術領域ナノファイバー共振器QED。中性原子方式の量子コンピューター向け量子インターコネクト。通信波長帯1389nmの共振器(往復損失0.31%・フィネス約2,000)。重水素と酸素の炎で水酸基を抑えるファイバー加工
連携三菱電機(2025年4月24日〜2026年3月31日・共同実証)。QuEra Computing
採択早稲田大学PoC Fundプログラム「ナノ光ファイバー共振器量子電気力学系による分散型量子コンピュータ」
URLhttps://nano-qt.com/

編集後記|FrontJournal編集部より

量子コンピューターの話題は、量子ビットの数に集まりがちです。しかし数を増やす道は1台の中だけではありません。装置を並べてつなぐ発想は、古典のコンピューターがたどった道筋と重なります。

同社の取り組みで目を引くのは、光ファイバーそのものを共振器に変えるという着眼です。原子と結びついた光子を、別の部品へ渡さずそのまま通信網へ送り出せる点は、計算と通信を1つの基盤で扱う構想につながります。損失を数字で示せる段階に来た点も心強く感じます。

早稲田大学の研究室から生まれた技術が、東京と米国を結ぶ体制へ育っています。装置をつなぐ役割から量子計算の景色がどう変わるのか、見守りたいところです。

FrontJournal編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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