株式会社フェニックスバイオは人の肝細胞を持つマウスで新薬の肝毒性の予測を支える広島大学発の企業

株式会社フェニックスバイオ

フェニックスバイオ「ヒト肝細胞キメラマウス」を研究|研究領域=肝臓の大部分を・人の細胞に置換/強み=人だけの代謝や・肝毒性を予測/将来性=農薬や核酸医薬の・評価にも活用

企業紹介|株式会社フェニックスバイオとは?

人の肝臓で薬がどう変化するかを、動物の体内で調べる技術として、注目を集める「ヒト肝細胞キメラマウス」。株式会社フェニックスバイオは、その生産と提供を手がける、広島大学発のバイオ系ディープテック企業です。ヒト肝細胞キメラマウス「PXBマウス」を使った試験の受託と、そこから取り出した肝細胞「PXB-cells」の販売を、国内外の製薬会社など向けに手がけています。

キーワード「ヒト肝細胞キメラマウス」

ヒト肝細胞キメラマウス」(キメラは異なる生物の細胞が混ざった個体)は、肝臓の細胞の大部分を人の肝細胞に置き換えた実験用のマウスです。特徴は、人の肝臓に近い働きを、生きた動物の体内で再現できる点にあります。新薬の開発で、人に投与する前の段階から、薬が体内でどう変化するかを確かめられます。

市場課題|動物実験では人の肝臓の反応を予測しにくい

現状の新薬の肝障害予測の課題|現状は、動物と人の肝臓の違いで代謝や肝障害の予測が困難|肝障害が発売後に・見つかる恐れ/動物では人の・代謝を再現しにくい

肝障害が発売後に見つかる恐れ

新薬による肝障害(肝臓の細胞が傷ついた状態)は、発売後に見つかることがあります。糖尿病の治療薬「トログリタゾン」は日米英で承認されたものの、重い肝障害の報告で市場から撤退しました。肝障害の中には動物実験で再現しにくいものがあり、承認前の試験だけでは見落とす恐れがあります。

動物では人の代謝を再現しにくい

肝臓の働きには種差があるため、人の体内での薬の変化を動物で予測しきれない例は少なくありません。ラット・イヌ・サルを使う方法は確立されていますが、人だけに生じる代謝物(薬が分解されてできる物質)は動物の体内では現れにくい面があります。この代謝物を見逃すと、臨床試験(人で行う試験)の前の安全性の確認が不十分になりかねません。

他にも、ヒト肝細胞の入手の難しさ、培養した肝細胞の働きが続く期間の短さ、人の肝炎ウイルスを調べる実験動物の少なさ、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 種差生物の種類によって、体のつくりや働きが異なることを指す。薬を分解する肝臓の働きにも種差があるため、動物で得た結果がそのまま人に当てはまるとは限らない。

フェニックスバイオの強み|「ヒト肝細胞キメラマウス」を開発

フェニックスバイオが「ヒト肝細胞キメラマウス」を開発|今後は、ヒト肝細胞で薬の影響予測が可能に|人の肝細胞で・肝毒性を予測/人の代謝をマウスと・細胞で再現

人の肝細胞で肝毒性を予測

通常のマウスやラットの肝臓は動物自身の細胞でできているため、人の肝細胞だけに起きる障害を捉えにくいという課題がありました。

同社の「PXBマウス」は、肝臓の70%以上が人の肝細胞に置き換わったマウスです。移植先には免疫の働きが極めて弱く肝臓に障害があるマウスを使うため、人の肝細胞は拒絶されにくく、傷んだマウスの肝細胞に代わって増え、正常な肝臓の組織を形づくります。トログリタゾンの試験では、通常の免疫不全マウスで検出されない反応性代謝物が、PXBマウスの血液から見つかったと報告されています。人に投与する前に肝毒性(肝臓を傷つける薬の作用)を人の肝細胞で調べられるため、発売後の肝障害を減らせる可能性がある点が利点です。

人の代謝をマウスと細胞で再現

試験管で使う凍結ヒト肝細胞は、同じ人の新鮮な細胞を繰り返し用意しにくいという課題がありました。

PXBマウスの肝臓から取り出した新鮮な肝細胞PXB-cells」も、同社の製品です。同じ人の肝細胞を移植したマウスから取り出すため、同じ人の細胞を繰り返し用意できます。凍結の工程を経ない新鮮な細胞で薬を分解する働きを3週間以上保てる点も特長です。PXBマウスの体内では、抗アレルギー薬「デスロラタジン」で通常のマウスにない代謝物が見つかっています。生体と試験管の両方で人の肝臓に近い条件がそろうため、人だけに生じる代謝物を開発の早い段階で確認でき、患者に届く薬の安全性向上につながると期待されます。

FrontJournalの解説
  • 反応性代謝物薬が肝臓で分解されてできる代謝物のうち、細胞の中の遺伝子やタンパク質と結びつきやすいものを指す。結びついた細胞が傷つき、肝障害の原因になると考えられている。

ヒト肝細胞キメラマウスの未来|農薬や核酸医薬の評価へ

ヒト肝細胞キメラマウスが変える未来|農薬や核酸医薬へ用途が拡大|農薬の安全性・評価にも活用/核酸医薬の・検証へ用途拡大/肝臓の新しい・評価法を目指す

農薬の安全性評価にも活用

PXBマウスは、医薬品のほか農薬の安全性評価でも使われています。住友化学の除草剤「ラピディシル」の開発と申請では、PXBマウスで肝臓の発がん性を調べたデータが使われました。米国環境保護庁(EPA)の評価委員会は、このデータなどから、人に対して発がん性があるとは考えられないと判断しています。同剤は2026年7月に米国で農薬登録を得ました。

核酸医薬の検証へ用途拡大

核酸医薬(遺伝子配列を標的に働く医薬品)の開発でもPXBマウスの利用が進んでいます。人の遺伝子配列に合わせて設計する核酸医薬は、配列の異なる動物では効き目を確かめにくいためです。コレステロール値が高くなる病気の治療を目指す核酸医薬が、PXBマウスの肝臓で人の遺伝子の働きを抑えたと報告されています。遺伝子治療薬でも、人の肝細胞へ遺伝子を届ける方法の検証に使う例が増えています。

肝臓の新しい評価法を目指す

同社は、人の肝臓の病気や薬の排出を調べる評価法の開発も目指しています。2026年2月にはSMCラボラトリーズ(前臨床試験の受託企業)と原発性ヒト肝細胞がん(肝臓の細胞から生じるがん)のモデルの共同開発を発表しました。肝がんへ進む過程を再現するSMCラボラトリーズの技術とPXBマウスを組み合わせます。2026年3月からは、名古屋市立大学の研究者、荒川大氏が開発した胆汁排泄(肝臓から胆汁へ薬が出る働き)の評価法「icHep」の実用化に向け、コンソーシアム(企業や大学の共同体)の事務局も同社が担っています。

会社概要|フェニックスバイオの事業内容と設立背景

広島大学の肝臓再生研究から誕生

株式会社フェニックスバイオは、2002年3月に設立された、広島県東広島市に本社を置く広島大学発ベンチャーです。広島大学の吉里勝利教授が率いた「広島県組織再生プロジェクト」の成果から生まれました。同プロジェクトでは1997年から肝臓の再生研究が進められ、同社はその成果をもとに、人の肝細胞を実験動物の体内で増やす技術を事業化しました。2016年3月に東証マザーズへ上場し、市場区分の再編を経て現在は東京証券取引所グロース市場に上場しています。

製薬会社や研究機関と協業

同社は、製薬会社や研究機関と組み、人の肝臓を調べる技術の活用を広げています。2004年7月には、医薬品開発の前臨床試験を受託する第一化学薬品と、薬物動態試験(薬が体に吸収され、分解・排出される過程を調べる試験)の受託で業務提携しました。2025年2月には、フェニックスバイオがTOPPANホールディングスと提携しました。TOPPANホールディングスが独自の培養技術で体外に作る人工三次元肝臓組織について、試供(評価のために試験的に提供すること)に向けた提携です。

売上の約7割を海外が占める

同社の事業の柱は、PXBマウスを使った受託試験と、PXBマウスやPXB-cellsの販売です。2026年3月期の売上高は約15.7億円で、そのうち約7割を米国や欧州などの海外が占めます。北米を中心とする海外の営業は、米国ニューヨーク州の子会社PhoenixBio USA Corporationが担っています。

会社情報

会社名株式会社フェニックスバイオ
所在地広島県東広島市鏡山三丁目4番1号
設立2002年3月4日
代表代表取締役社長:加國 雅和
資本金25億7,300万円(2026年3月末時点)
上場東京証券取引所グロース市場(証券コード6190)。2016年3月18日に東証マザーズへ上場
事業PXBマウスを用いた受託試験。PXBマウス・PXB-cellsの販売
技術領域ヒト肝細胞キメラマウスの作製と生産。ヒト肝細胞の分離と培養
連携第一化学薬品(2004年7月・業務提携)。TOPPANホールディングス(2025年2月・業務提携)。SMCラボラトリーズ(2026年2月・共同開発)。icHepコンソーシアム(2026年3月・事務局)
URLhttps://phoenixbio.co.jp/

編集後記|FrontJournal編集部より

薬が人の肝臓でどう変化するかは、人に投与するまで確かめにくい問いでした。フェニックスバイオは、人の肝細胞を持つマウスを生産することで、その問いに臨床試験の前から向き合える手段を製薬会社などへ届けてきました。受託試験に加えて肝細胞そのものも提供し、生きた体と試験管の両面から開発を支えています。

注目したいのは、その用途が医薬品の枠を越えて広がっている点です。除草剤の安全性評価や核酸医薬の検証のように、人の肝臓で何が起きるかを知りたい場面は、今後も増えていくはずです。肝がんモデルのような新しい共同開発も、その広がりを後押しするでしょう。

広島で生まれた小さなマウスが、薬と化学物質の安全を支える基盤として、さらに広く使われることを期待しています。

FrontJournal編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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