ピクシーダストテクノロジーズ株式会社は波動制御で音環境を設計する筑波大学発のディープテック企業

ピクシーダストテクノロジーズ株式会社

ピクシーダストテクノロジーズ「波動制御」を研究|研究領域=音や光の波を計算で設計する/強み=会話を可視化し狙った音を吸収/将来性=聞こえと認知の支援へ応用

企業紹介|ピクシーダストテクノロジーズ株式会社とは?

音の伝わり方を計算で設計する技術として、注目を集める「波動制御」。ピクシーダストテクノロジーズ株式会社は、その「波動制御」の社会実装を目指す、筑波大学発のディープテックスタートアップです。会話を可視化する「VUEVO」や吸音材「iwasemi」を、企業や医療機関、福祉法人へ提供しています。

キーワード「波動制御」

波動制御」は、音や光といった波の位相(波の山と谷のタイミング)を計算で設計し、その振る舞いを狙いどおりに操る技術です。特徴は、波を発する側だけでなく、波を受ける側や、構造で波の進み方を決める材料にも、同じ考え方を使える点にあります。会議室や執務室、聞こえへの配慮が要る職場で、音の伝わり方を目的に合わせて調整できます。

市場課題|聞こえと音環境の整備が進みにくい

現状の聞こえと音環境の課題|現状は、補聴器の普及が限られ支援が不足/難聴を自覚しても補聴器所有15.2%/低い音を吸うほど吸音材は厚くなる

補聴器の普及が限られ支援不足

職場や公共の窓口では、聞こえへの配慮が行き渡りにくい状況です。日本補聴器工業会の調査「JapanTrak 2022」によると、難聴を自覚している人のうち補聴器の所有率は15.2%にとどまるといわれています。聞き取りにくいまま会議や窓口の対応が続けば、就労や社会参加の機会が狭まりかねません。

吸音材は厚くすると設置しにくい

会議室や執務室の反響を抑える吸音材は、性能を高めるほど厚みが増し、設置の自由度が下がります。多孔質吸音材(繊維や気泡の隙間に音を通す材料)は、波長の長い低い音ほど厚みを要するためです。意匠の制約が厳しい空間では十分な厚みを確保しにくく、音環境の改善は限定的です。

他にも、複数人が同時に話す場面での聞き分けの難しさ、外国語を話す従業員を交えた会議での情報共有、意匠を保って設置できる吸音材の選択肢の乏しさ、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 多孔質吸音材繊維や気泡の隙間へ音を通し、摩擦と粘性で音のエネルギーを熱に変えて減らす材料である。グラスウールが代表例で、波長の長い低い音を吸うほど厚みを要する。

強み|波動制御で音を設計する

ピクシーダストテクノロジーズが「波動制御」を開発|今後は、音の設計で音環境の改善が可能に/8個のマイクで発話者の方向を特定/板の穴と空洞で薄くても吸音する

会話を文字と方向で可視化

1本のマイクで音を拾う方式では、複数人が同時に話したときに発話者の区別が難しくなります。

VUEVO」は、8個のマイクを内蔵したマイクロフォンアレイ(複数のマイクを配列した集音装置)で、360度から音を集めます。同じ音が各マイクへ届く時刻はごくわずかにずれるため、その時間差から音源のある方向を計算できます。この方向の情報を音声認識と組み合わせ、誰がどの向きから何を話したかを画面上に文字で並べる仕組みです。日本語を含む24種類の言語のリアルタイム翻訳と、AIによる要約型の議事録の生成にも対応しています。

薄い共鳴構造で狙った音を吸収

繊維系の吸音材は、意匠を整えるために表面を仕上げ材で覆うと、音の入口がふさがれて性能が落ちやすくなります。

iwasemi」は、音響メタマテリアル(音の波長より十分小さい構造の設計で音の伝わり方を操る材料)の考え方を応用した吸音材です。材料そのものの吸音性ではなく、板に開けたとその奥の空洞共鳴する構造を使います。穴の周辺では空気が激しく振動し、粘性による摩擦で音のエネルギーが熱へ変わります。穴の径と空洞の容積を計算で決めるため、吸収したい周波数を狙って設計できる点が特徴です。アクリルやポリカーボネートのような透明な硬質材も吸音材にできるため、見た目を保ったまま反響を抑えられます。

FrontJournalの解説
  • 音響メタマテリアル素材そのものの性質ではなく、音の波長より十分小さい構造の設計によって音の伝わり方を制御する材料である。穴と空洞の共鳴を利用するため、薄い板でも特定の周波数を強く吸収できる。

波動制御の未来|医療と福祉への応用

音の波動制御が変える未来|今後は、波動制御が職場や医療の現場へ/会話の可視化が職場や窓口へ/超音波の振動が頭皮のケアへ/テレビの音を変え認知症のケアへ

職場や自治体の窓口へ導入

「VUEVO」は、すでに企業や医療機関、福祉法人に使われています。2026年6月の時点で、導入は300法人を超えました。茨城県も、聴覚に障害のある職員が参加する会議へ導入しました。厚生労働省の自立支援機器の実証事業では、竹中工務店が4〜5名を対象に検証し、自席で得られる情報量が90.9%、発言回数が本人の感覚で80%、上司や同僚の視点で15.8%増えたとされます。

超音波の刺激を家庭のケアへ

超音波を体へ届ける技術も、家庭向けの製品へ広がっています。「SonoRepro」は、アンファーと開発したスカルプケア機器(超音波の振動で頭皮を刺激する美容機器)です。頭皮ローションと12週間併用した臨床試験の結果が、医学誌『診療と新薬』に載りました。この試験では、使わない群に比べ、毛髪の太さや頭皮の状態に有意な改善(偶然では説明しにくい差)がみられたと報告されています。

聞こえと認知の支援を目指す

同社が目指すのは、「音や光の設計を医療や介護の現場へ広げること」です。シオノギヘルスケアと共同開発した、ガンマ波(記憶や注意に関わるとされる脳波)サウンドのスピーカー「kikippa」は、テレビの音を40Hzで変調(音の大きさを一定の周期で揺らすこと)して出力する機器です。介護施設の検証では、6か月で認知症の周辺症状(徘徊や不安などの行動面の症状)に有意な改善、12か月で中核症状(記憶や段取りの障害)に改善の傾向が報告されています。聞こえと認知を支える基盤の構築を目指します。

会社概要|事業内容と設立背景

筑波大学の研究から事業化

ピクシーダストテクノロジーズ株式会社は、2017年5月に設立されました。創業の中心となったのは、筑波大学落合陽一氏です。同社は、落合氏の研究室が積み重ねた波動制御の研究成果を産業へ応用しています。代表取締役会長は落合氏、代表取締役社長は村上泰一郎氏です。2023年8月に米国のNASDAQへ上場し、2024年11月には上場維持にかかるコストなどを勘案して非上場化しました。

採択と産学連携の枠組み

2017年10月には、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のSTS事業(研究開発型スタートアップを支援する制度)へ採択されています。同年12月には、筑波大学に特別共同研究事業「デジタルネイチャー推進戦略研究基盤」が設置されました。2018年5月には契約を見直し、大学で生まれた知的財産権を発生と同時に包括して譲り受け、対価として新株予約権(定めた条件で株式を取得できる権利)を発行しました。

シリーズDで約33億円を調達

直近の資金調達は、2026年5月に実施した総額約33億円シリーズDです。事業が軌道に乗ったあとの拡大期にあたります。第三者割当増資(特定の相手に新株を割り当てて行う資金調達)に加え、ベンチャーデット(株式を発行せずに借入で調達する手法)と、商工組合中央金庫がアレンジしたシンジケートローン(複数の金融機関が協調して行う融資)を組み合わせました。リードはインキュベイトファンドが務め、伊藤忠テクノロジーベンチャーズも出資しました。資金は、既存事業の販路拡大、波動制御技術の研究開発、新規製品の開発、海外展開のほか、一部は有利子負債の返済です。

会社情報

会社名ピクシーダストテクノロジーズ株式会社(Pixie Dust Technologies, Inc.)
所在地東京都中央区八重洲2-2-1 東京ミッドタウン八重洲 八重洲セントラルタワー8階。研究拠点「テクノトープ」:茨城県つくばみらい市板橋3022-1
設立2017年5月10日(米国法人は2015年1月設立)
代表代表取締役会長・共同創業者:落合 陽一(筑波大学 デジタルネイチャー開発研究センター長)
代表取締役社長・共同創業者:村上 泰一郎
取締役 研究管掌役員・共同創業者:星 貴之
上場2023年8月1日 NASDAQ Capital Market へ米国預託証券(ADR)を上場。2024年11月に非上場化し、現在はいずれの取引所にも上場していない
調達2026年5月 シリーズD 総額約33億円(第三者割当増資・ベンチャーデット・シンジケートローン)。リード投資家はインキュベイトファンド。伊藤忠テクノロジーベンチャーズが参加。シンジケートローンのアレンジャーは商工組合中央金庫
事業波動制御技術を活用した製品の開発・販売。会話を可視化する「VUEVO」「VUEVO Display」、音響メタマテリアル吸音材「iwasemi」、ガンマ波サウンドスピーカー「kikippa」(シオノギヘルスケアと共同開発)、超音波スカルプケア機器「SonoRepro」など
技術領域波動制御、超音波フェーズドアレイ、マイクロフォンアレイによる音源方向の推定、音響メタマテリアルによる吸音設計、ガンマ波サウンド
連携筑波大学 特別共同研究事業「デジタルネイチャー推進戦略研究基盤」(2017年12月設置)。アンファー(「SonoRepro」の共同開発)。シオノギヘルスケア(「kikippa」の共同開発)。東北大学大学院医学系研究科(波動制御技術を用いた皮膚疾患の非薬物療法に関する共同研究・2023年10月開始)
採択NEDO STS事業(2017年10月)
URLhttps://pixiedusttech.com/

編集後記|FrontJournal編集部より

音を計算で設計し直すという発想が出発点です。筑波大学の波動制御の研究が、会議室の吸音材や自治体の窓口へ届いています。社会実装としての厚みです。

注目したいのは、音響機器の開発にとどまらず、波という共通の物理を軸に領域をまたいで製品を生む点です。会話の可視化、吸音、頭皮への超音波、認知への働きかけが1つの基盤から生まれています。聞こえ方の違いが会話の壁にならない職場を願っています。

フロントジャーナル編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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