スペクトラ・クエスト・ラボ|千葉大学発の「波長可変レーザー」で分光計測の光源を開発するディープテック企業

スペクトラ・クエスト・ラボ株式会社

スペクトラ・クエスト・ラボ「波長可変レーザー」を開発|研究領域=波長を連続して変えられるレーザー/強み=雑音の光を分離し微弱な信号も測定/将来性=医療診断や生体の画像化へ

企業紹介|スペクトラ・クエスト・ラボとは?

物質に当てた光の吸収や散乱から、分子の種類や状態を調べる分光計測の光源として、注目を集める「波長可変レーザー」。スペクトラ・クエスト・ラボは、その社会実装を目指す、千葉大学発のエレクトロニクス系ディープテック企業です。波長可変半導体レーザー「λ-Master」や光増幅器を、大学や研究機関の研究室へ提供しています。

キーワード「波長可変レーザー」

波長可変レーザーは、出す光の波長を連続して変えられるレーザーです。一般的なレーザーは決まった波長の光しか出しませんが、波長を少しずつ変えながら試料に当てると、どの波長の光がどれだけ吸収されるかを調べられます。この吸収の違いから気体や分子を見分けられるため、物質の分析や生体の観察に使われています。

市場課題|分光計測の光源は雑音と波長の途切れが壁

現状の分光計測の光源の課題|現状は、雑音と波長の途切れで微弱な信号を測りにくい/光源の雑音が微弱な信号を隠す/波長の連続変化が途中で途切れる

光源の雑音が微弱な信号を隠す

分光計測では、光源の雑音が試料からの弱い信号を隠すことがあります。半導体レーザーは、狙った波長の光と一緒に自然放出光(ASE:レーザーチップの中で増幅された、波長のそろわない光)も出しています。単一分子の発光のような弱い光は、雑音に埋もれて測定できなくなりかねません。

波長の連続変化が途中で途切れる

波長を変える途中で、発振の波長が不連続に跳ぶモードホップも課題です。レンズやチップの屈折率は波長によって変わるため、共振器(光を往復させて強める部分)の実質的な長さがずれ、跳ばずに変えられる範囲は通常10nm(1nmは100万分の1mm)程度に限られます。吸収線(強い吸収が起こる波長)を連続して追う計測では、一度に測れる波長の幅が限定的です。

他にも、先端計測用レーザーの多くが海外製品である、短パルス光源が大型で恒温の設置環境を要する、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • モードホップレーザーの波長を連続して変えているときに、発振する波長が別の値へ不連続に跳ぶ現象。共振器の中を往復する光の波の数が途中で切り替わることで起こり、跳んだ区間の波長は測定に使いにくい。

スペクトラ・クエスト・ラボの強み|「波長可変レーザー」を開発

スペクトラ・クエスト・ラボが「波長可変レーザー」を開発|現在は、外部共振器で雑音の少ない光を提供/雑音となる光を出力から分離/波長を広い範囲で連続して変える

雑音となる光を出力から分離

波長を広く連続して変えられるリットマン型の外部共振器は、出力の光に自然放出光が重なるという弱点を抱えていました。

同社は、この配置を組み替えた「転置リットマン型」の外部共振器で、自然放出光を出力から切り離しています。この構造では、レーザーチップとレンズ、回折格子(細い溝で波長ごとに光を別の向きへ曲げる板)を一体にして軸の周りに回し、回折格子で波長を選んだ後の光を固定の半透鏡(光の一部を通す鏡)から取り出します。波長を変える範囲の両端でも、レーザー光と雑音の強さの比は、測定器で測れる上限の80dB(1億倍)に到達。試料から返る微弱な光が雑音に埋もれにくくなり、弱い信号も測定できるようになります。

波長を広い範囲で連続して変える

従来の外部共振器では、部品の屈折率の変化によって共振器の長さがずれるため、モードホップが起こりやすくなります。

同社は、屈折率の変化による共振器の長さのずれを補う仕組みを部品の配置に織り込み、跳ばずに変えられる範囲を数十nmまで広げました。オプションを選ぶと、発振できる全波長域(100nm以上)でモードホップを抑えられます。波長の設定単位は0.1pmと細かく、掃引(波長を順に変えていく操作)に合わせて外部の信号を記録する機能も標準装備です。吸収線を途切れずに追えるため、1回の掃引で広い波長域の吸収を測定できるようになります。

FrontJournalの解説
  • 外部共振器半導体レーザーのチップの外に回折格子や鏡を置き、チップとの間で光を往復させる構造。回折格子の角度を変えると共振する波長が変わるため、チップ単体より波長を広く、細かく変えられる。

未来|波長可変レーザーが分光計測の用途を広げる

雑音の少ない波長可変レーザーが変える未来|分光計測の用途を医療や生体へ広げる/テラヘルツ波と可視光に活用/無染色画像化の光源を開発/医療診断への光計測応用を目指す

テラヘルツ波と可視光に活用

同社の波長可変レーザーは、すでにテラヘルツ波の発生や可視光への波長変換に使われています。テラヘルツ波(光と電波の中間の周波数をもつ電磁波)は、波長の異なる2つのレーザー光を混ぜて得る方式が代表的で、同社のレーザーはその光源になります。同社は増幅した光を波長変換し、460〜545nmの可視光でも波長を変えられる光源を実現しました。波長可変の光源が少なかった可視域でも分光計測が可能です。

無染色画像化の光源を開発

生体分子を染色せずに画像化するコヒーレントラマン計測向けに、同社はピコ秒(1兆分の1秒)の波長可変レーザーを開発しています。この計測には波長の異なるピコ秒パルスを同時に当てる必要があり、主に使われてきた光パラメトリック発振器(光を別の波長へ変換する装置)は大型です。同社は半導体レーザーの光を変調して切り出し、増幅・圧縮して尖頭出力(瞬間的な最大出力)1kWの約5ピコ秒パルスを得ています。共通の基準信号で複数台のタイミングをそろえられ、分子の指紋領域(分子ごとに固有の信号が現れる範囲)のほぼ全域を扱えます。

医療診断への光計測応用を目指す

同社が目指すのは、半導体レーザーによる分光計測を、医療診断や産業の現場へ広げることです。現在の短パルス光源は複雑で、研究室外での応用は困難とされています。半導体レーザーは、通信や光記録で装置の小型化を支えてきました。光源が小型になれば、手術の現場で求められる、患部を染色せずに調べる検査への応用も期待されます。

会社概要|スペクトラ・クエスト・ラボ株式会社

千葉大学の研究から創業

スペクトラ・クエスト・ラボは、2013年4月に千葉大学亥鼻イノベーションプラザで設立された千葉大学発の企業です。代表取締役の室清文氏は、三井化学で半導体レーザーの開発に携わった後、2003年から2013年まで千葉大学大学院理学研究科の教授を務めました。在職中に単一分子を測るため波長可変レーザーを自作したことが、転置リットマン型の考案につながっています。JST(科学技術振興機構)の先端計測機器開発事業の支援を受けて開発を進め、定年退職と同時に事業化のため同社を設立しました。

受賞と部品企業との協力

同社の製品は、光技術の分野で複数の賞を受けています。2020年には、波長可変半導体レーザー「λ-Master」が「レーザー学会産業賞」(奨励賞)を受賞しました。2024年には、900nm帯のファイバーアンプ・レーザー「λ-Nova」が、第36回「中小企業優秀新技術・新製品賞」で優秀賞に選ばれています。製品の要となるゲインチップ(レーザーの光を増幅する半導体素子)はオプトエナジー株式会社、精密な回転機構は株式会社雄島試作研究所の協力を得て開発しました。

光源と増幅器を製品群で提供

波長可変レーザーを中心に、同社は分光計測に使う光源と周辺機器を幅広くそろえています。主な製品は、光増幅器「λ-Amp」や1ナノ秒のパルスを出す「λ-Impulse」、ファイバーアンプ、可視光へ波長を変換する装置などです。制御ソフトは実行ファイルに加えてLabVIEWのソースコードも配布され、研究者が自分の実験に合わせて改変できます。国内の光技術の展示会にも継続して出展しています。

会社情報

会社名スペクトラ・クエスト・ラボ株式会社(Spectra Quest Lab. Inc.)
所在地千葉県千葉市中央区亥鼻1-8-15 千葉大亥鼻イノベーションプラザ408号
設立2013年4月1日
代表室 清文(代表取締役)。元千葉大学大学院理学研究科教授
資本金900万円
事業波長可変半導体レーザー「λ-Master」・波長安定化レーザー・可視波長可変レーザー・半導体光増幅器「λ-Amp」「λ-Impulse」・ファイバーアンプ・ピコ秒/ナノ秒波長可変レーザー・テラヘルツ光源・周辺機器の開発・製造・販売
技術領域転置リットマン型外部共振器、モードホップフリー波長同調、半導体光増幅器、ピコ秒パルス発生
連携千葉大学(創業者の研究の場)。オプトエナジー株式会社(ゲインチップの開発)。株式会社雄島試作研究所(回転機構)
採択レーザー学会産業賞(奨励賞・2020年)。第36回中小企業優秀新技術・新製品賞 優秀賞(2024年)。JST先端計測機器開発事業(創業前の開発)
URLhttps://spectraquestlab.com/

編集後記|FrontJournal編集部より

分光計測は、物質の成分を調べる分析から生命科学の研究まで、多くの分野を支える基盤の技術です。その精度を決める光源の純度と波長の滑らかさを、スペクトラ・クエスト・ラボは共振器の配置という光学の基本に立ち返って高めてきました。部品の配置を組み替えて弱点を解くという発想は、シンプルでありながら効果の大きい解き方です。

印象的なのは、研究者が自分の測定のために自作した装置が、そのまま製品の原点になっている点です。単なる光源の販売ではなく、研究室の困りごとを知る開発者が、同じ研究者に向けて道具を届けています。千葉大学発スタートアップ10選で紹介したように、同大学からは研究成果を社会へ届ける企業が多く生まれています。

波長を自在に操る半導体レーザーが、分子を見る手段をどこまで身近にしていくのか、引き続き注目していきたいと思います。

FrontJournal編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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