株式会社シンプロジェンは枯草菌でDNA断片をつなぐ長鎖DNA合成を研究する神戸大学発の企業

株式会社シンプロジェン

シンプロジェン「長鎖DNA合成」を研究|研究領域=設計どおりに1本へ組み立てる/強み=50個以上の断片を一度に集積/将来性=遺伝子治療の材料を供給

企業紹介|株式会社シンプロジェンとは?

遺伝子治療や物質生産を支える技術として、注目を集める「長鎖DNA合成」。株式会社シンプロジェンは、その社会実装を目指す、神戸大学発のバイオ系ディープテック企業です。長いDNAの受託合成や、遺伝子治療向けのプラスミドDNAの設計・製造を、製薬企業や研究機関へ提供しています。

キーワード「長鎖DNA合成」

「長鎖DNA合成」は、複数の遺伝子をまとめた長いDNAを、設計どおりに1本へ組み立てる技術です。特徴は、断片を1つずつつなぐのではなく、枯草菌(納豆菌の仲間の細菌)の性質を使って一度に集積できる点にあります。遺伝子治療用のウイルスベクターや、微生物による物質生産の設計で使えます。

市場課題|長いDNAは合成が難しい

現状の長鎖DNA合成の課題|長い遺伝子は合成しにくい/試験管内の環状化が壁

長い遺伝子は合成しにくい

遺伝子治療や微生物による物質生産では、複数の遺伝子をまとめた長いDNAが必要になります。DNAを化学合成で作れる長さには限りがあり、長い配列は短い断片をつないで組み立てる方法が基本です。つなぐ断片が増えるほど失敗しやすく、設計できても作れない配列が残ります。

試験管内の環状化が壁

従来の方法では、細胞へ入れる前に、断片をつないで環状のプラスミド(細胞の中で複製される輪状のDNA)を試験管の中で作らなければなりません。断片が多いほど、正しい順序で環状になる確率は低下します。GC含量(DNAを構成する塩基のうちGとCの割合)の偏りや、同じ並びが繰り返されるDNAでは、この難しさがさらに大きくなります。

他にも、注文から納品までにかかる期間の長さ、医療用途で求められるDNAの純度、案件ごとに設計をやり直す手間、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • プラスミド細菌の中にある、染色体とは別の輪状のDNAを指す。細胞の中で複製されるため、目的の遺伝子を組み込んで細胞へ運び、必要なタンパク質を作らせる道具として使われる。

シンプロジェンの強み|「長鎖DNA合成」を研究

シンプロジェンが「長鎖DNA合成」を研究|枯草菌の中でDNAをつなぐ/難しい配列にも対応できる

枯草菌の中でDNAをつなぐ

試験管の中で環状にする反応では、断片どうしが誤った相手と結びつきやすく、目的どおりの環状体の割合が下がります。

同社の「OGAB法」を使うと、50個以上の断片を一度に集積し、数kb(1kbは1,000塩基)から100kbを超える長さのDNAを一度の操作で合成できます。支えているのは、断片を順序どおりに連結してから、枯草菌がDNAを取り込む性質を使って細胞の中で環状にする手順です。各断片の末端には3〜4塩基の突出を作り、その並びで隣り合う相手と向きが決まります。断片をできるだけ等しい比率で混ぜ、構成要素が繰り返し現れる長い鎖にしてから枯草菌へ取り込ませます。

難しい配列にも対応できる

GC含量の偏りや繰り返し配列を含むDNAは、従来の方法では合成の失敗が起きやすい対象でした。

この手法ならGC含量が偏った配列や繰り返しの多い配列も扱え、実績は500種類を超えます。専用ソフトウェアによる設計と自動化装置が、枯草菌による環状化と組み合わさっています。宿主の枯草菌は外膜を持たない細菌のため、医療用途で問題になるエンドトキシン(外膜を持つ細菌に含まれ、発熱の原因になる物質)が生じません。遺伝子治療用のAAVベクター(遺伝子を細胞へ運ぶ入れ物)では、従来3種類のプラスミドを1種類にまとめた「オールインワンプラスミド」も開発しました。

FrontJournalの解説
  • OGAB法断片を突出末端で順序どおりに連結し、繰り返し状の長い鎖にしてから枯草菌へ取り込ませ、細胞の中で環状にする手法を指す。試験管内で環状化しないため、断片が多くても目的のDNAが得られやすい。

長鎖DNA合成の未来|遺伝子治療とmRNA医薬への応用

長鎖DNA合成が変える未来|受託合成の期間を短縮/遺伝子治療とmRNA医薬/合成生物学の基盤づくりを目指す

受託合成の期間を短縮

同社は、長鎖DNAの受託合成サービスをすでに提供しています。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)と神戸大学が開発した、温度設定を多段階にするDNA合成技術の実施許諾も受けました。この技術と自社のOGAB法を組み合わせると、合成にかかる期間は従来の2か月以上から10日程度へ短縮できるとされています。設計した配列を短い待ち時間で試せることは、研究の速度に直結します。

遺伝子治療とmRNA医薬

いま同社が広げているのは、遺伝子治療mRNA医薬(体内でタンパク質を作らせる医薬品)の分野です。2023年3月には富士フイルムから出資を受けて提携も結び、DNAの受託合成と遺伝子治療向けの事業を進めています。2025年3月には、mRNA医薬の受託製造を手がけるARCALISと業務提携しました。同社は、設計から製造までを一続きで担う体制づくりを進めています。

合成生物学の基盤づくりを目指す

同社が目指すのは、「設計したとおりの生物機能を、DNAから組み立てられるようにすること」です。狙う対象は、遺伝子治療の材料にとどまらず、微生物による物質生産の設計にも広がります。長いDNAが短期間で手に入るほど、利用者は設計と試作を繰り返せる計算です。試作の回数が増えるほど、望む性質を持つ細胞に到達しやすくなるといわれています。

会社概要|シンプロジェンの設立背景と事業

神戸大学発として創業

株式会社シンプロジェンは、2017年2月に設立されました。本社を置くのは、神戸医療産業都市がある神戸市中央区のポートアイランドです。技術の基盤となったのは、取締役の柘植謙爾氏が三菱化学生命科学研究所で発明し、神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科で発展させた遺伝子集積の研究です。代表取締役社長兼CEOは山本一彦氏が務め、柘植氏は取締役エグゼクティブ・リサーチ・フェローに就いています。同社は、研究の成果を受託サービスとして産業で使える形にすることを目的としています。

大学と事業会社の連携

大学と事業会社の双方との連携も広げています。2019年5月には、NEDOと神戸大学が開発したDNA合成技術の実施許諾を受け、長鎖DNAの受託合成サービスの開始につなげました。事業会社では、2023年3月に富士フイルム、2025年3月にARCALISと業務提携しています。

シリーズBで約6.4億円を調達

同社は、シリーズBとして2021年11月に総額約6.4億円を調達しました。シリーズBは、製品やサービスを事業として広げていく段階の資金調達にあたります。引受先となったのは、双日八神製作所、i-nest1号有限責任事業組合です。

2022年12月には、みずほ銀行をリード投資家とするシリーズC-1で約5億4,000万円を集めました。2023年3月には、富士フイルムをリード投資家とするシリーズC-29億2160万円を調達しました。調達した資金は、研究開発の拠点となる神戸のR&Dセンターの設備や、人材の増員に充てられています。

会社情報

会社名株式会社シンプロジェン(Synplogen Co., Ltd.)
所在地兵庫県神戸市中央区港島南町6-3-7 クリエイティブラボ神戸4F
設立2017年2月21日
代表山本 一彦(代表取締役社長 兼 CEO)。柘植 謙爾(取締役エグゼクティブ・リサーチ・フェロー)
資本金38億4,728万円(資本準備金を含む)
調達2021年11月にシリーズBで約6.4億円(双日、八神製作所、i-nest1号有限責任事業組合)。2022年12月にシリーズC-1で約5億4,000万円(みずほ銀行がリード投資家)。2023年3月に富士フイルムをリード投資家とするシリーズC-2で9億2160万円
事業長鎖・高難度のDNA受託合成。DNAライブラリーの構築。プラスミドDNAの大量調製。遺伝子治療バイオファウンドリ(ウイルスベクターやmRNAの設計・開発・分析)等
技術領域OGAB法(枯草菌を用いたDNA断片の集積・50個以上の断片から100kb超の長鎖DNAを合成)。Combinatorial-OGAB法によるDNAライブラリー構築。AAVベクター向けのオールインワンプラスミド
連携神戸大学・NEDO(2019年5月にDNA合成技術の実施許諾)。富士フイルム(2023年3月に出資および業務提携)。ARCALIS(2025年3月に業務提携)
URLhttps://www.synplogen.com/

編集後記|FrontJournal編集部より

DNAを合成する話は、生き物を設計するという大きな言葉で語られがちです。シンプロジェンが向き合っているのは、その手前にある組み立ての工程です。試験管の中でつなぐ代わりに、枯草菌という細菌につなぐ仕事を任せるという発想の切り替えが、この技術の核にあります。

注目したいのは、材料を作る側に軸足を置いている点です。遺伝子治療やmRNA医薬の開発が広がるほど、長く正確なDNAを求める声も増えます。設計と試作を速く回せる土台は、そのまま研究の速度になります。

設計した配列が短期間で形になる環境が、日本の研究現場に根づくことを期待しています。

FrontJournal編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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