株式会社Transition State Technologyは計算化学で化学反応の進み方を予測する山口大学発の企業

株式会社Transition State Technology(トランジションステートテクノロジー)

Transition State Technology「計算化学」を研究|研究領域=化学反応の進み方を・計算で予測/強み=遷移状態の計算で・実験を絞り込む/将来性=省資源な製造・プロセスを目指す

企業紹介|株式会社Transition State Technologyとは?

実験の前に、化学反応の進み方をコンピュータで予測する技術として、注目を集める「計算化学」。株式会社Transition State Technologyは、その社会実装を目指す、山口大学発の化学系ディープテック企業です。反応解析合成経路(目的の化合物に至る反応の手順)の探索を中心とする研究受託で、化学や材料、製薬などの企業や研究機関の開発を支えています。

キーワード「計算化学」

「計算化学」は、分子の形や反応の起こりやすさを、コンピュータによる計算で予測する化学の分野です。特徴は、遷移状態(反応の経路上でエネルギーが最も高くなる点の分子の形)を計算で求め、反応の進みやすさを実験の前に見積もれる点にあります。同社は、この遷移状態の計算を中核に反応解析の研究受託を手がけています。

市場課題|合成経路選びは実験も計算も時間がかかる

現状の合成経路選びの課題|現状は、実験も計算も時間がかかり開発が長期化する恐れ|合成経路選びで・実験回数が増大/全経路の計算は・長時間を要する

合成経路選びで実験回数が増大

機能性化学品(特定の働きを持たせた化学製品)の合成経路選びでは、候補を一つずつ実験で確かめるため、実験回数の増加につながりやすくなります。標的の分子が複雑なほど経路の候補は多くなり、その選択は化学者の経験や直感に頼ってきたとされます。どれを採るかの判断が難しいままでは、開発が長期化しかねません。

全経路の計算は長時間を要する

量子化学計算(電子の振る舞いから分子のエネルギーや形を求める計算)で反応を調べる方法もありますが、候補をすべて計算するには長い時間を要します。反応の進みやすさを知るには、候補の反応ごとに遷移状態の形を探す必要があり、候補の数が増えるほど計算量が膨らむのが難点です。計算で候補を絞り込めなければ、実験の繰り返しに戻ります。

他にも、原料をまとめて反応させるバッチ法のエネルギー消費、機械学習に使う実験データの不完全さ、合成経路を提案するソフトウェアが示す候補の多さ、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 量子化学計算量子力学の法則にもとづき、分子のエネルギーや形を理論的に求める計算を指す。遷移状態のように、実験では直接観測できない分子の形も計算で求められる。

Transition State Technologyの強み|「計算化学」を研究

Transition State Technologyが「計算化学」を研究|今後は、計算で実験候補の絞り込みが可能に|遷移状態の計算で・合成経路を評価/計算済みデータで・探索を高速化

遷移状態の計算で合成経路を評価

遷移状態は実験では直接観測できないため、反応の進みやすさを前もって見積もることが難しく、候補の経路ごとに実験して確かめる方法が中心でした。

同社が提唱する「CASS」(コンピュータを用いて化学合成を支援する技術体系)の中心は、量子化学計算による反応経路と遷移状態の探索です。反応物と遷移状態のエネルギーの差は活性化エネルギー(反応が進むために越えるエネルギーの山の高さ)と呼ばれ、反応の温度や速度の目安になります。活性化エネルギーなどの値は、生成物の安定性や選択性(狙った生成物のできやすさ)を見積もる手がかりの一つです。有望な経路を選んでから実験に進むことで、試す実験の数を絞り込めるため、化学品の開発にかかる期間の短縮につながります。

計算済みデータで探索を高速化

遷移状態の計算は、計算の最初に仮に置く分子の形によって結果が左右されやすく、一から探すと計算の試行が増えがちです。

同社の技術の基盤は、堀憲次氏の研究室で開発された、計算済みの遷移状態を蓄えるデータベース「TSDB」(遷移状態データベース)です。対象の反応に似た反応の結果を出発点にし、置換基(分子の骨格に付く原子または原子団)を段階的に加えながら目的の遷移状態を求めるのが「置換基法」です。この手法は、山口大学が出願人、堀氏と山口徹氏が発明者の特許第5164111号として登録されています。置換基法で精度を保ったまま計算を速められれば、研究受託の依頼元は有望な経路を早い段階で選ぶことができるようになります。

FrontJournalの解説
  • TSDBデータベースは、情報を後から探しやすい形に整理して集めたものを指す。TSDBは、その対象を遷移状態に絞ったものにあたる。

計算化学の未来|反応予測の活用が製造条件の検討から省資源な製造へ広がる

反応予測の計算化学が変える未来|製造条件の検討から省資源な製造へ広がる|製造条件の・最適化に活用/計算データで・機械学習を支援/省資源な製造・プロセスを目指す

製造条件の最適化に活用

化学品の製造条件を検討する現場で、同社の計算化学はすでに使われています。研究受託とシステム開発の実績は、2009年から350件以上です。例として、アダマンタン誘導体(かご形の骨格を持つ化合物)の不純物を抑える反応条件の検討や、クロロ化反応(分子に塩素原子を付ける反応)の条件の最適化などがあります。依頼元は化学、材料、製薬、電子部品などの業界です。

計算データで機械学習を支援

同社が開発を進めるのは、量子化学計算のデータを機械学習に使い、材料や反応を予測する技術です。マテリアルズ・インフォマティクス(データと人工知能で材料を探す手法)は、計算で作るデータへの要望が増えているとされる分野です。同社は「QMRDB」(遷移状態に現れる特徴的な部分構造を集めたデータベース)を構築し、蓄積を続けています。2025年には産業技術総合研究所などと共同で、102個の素反応(それ以上分けられない1段階の反応)を機械学習で分類し、対象に似た遷移状態の形を見つけやすくする研究を発表しています。

省資源な製造プロセスを目指す

同社が目指すのは、従来のバッチ法より高効率・省資源な製造プロセスの実現です。その手段は、連続フロー合成(原料を管に流し続けて反応させる方法)や反応の最適化技術と、計算科学(化学に限らないシミュレーション技術全般)の組み合わせ。量子化学計算の結果から濃度の時間変化を求める反応速度論シミュレーターも開発しています。AIによる予測制御も加え、スマートファクトリー化(データで運転を最適化する工場にすること)の基盤構築に取り組む計画です。

会社概要|山口大学発、計算化学の研究受託で化学産業を支える

山口大学の研究から創業

同社は、山口大学で生まれた計算化学の研究をもとに、2009年6月に山口県宇部市で設立されました。発起人は、当時山口大学大学院の教授だった堀氏や、代表取締役の山口氏らです。堀氏は現在、最高技術執行役員として受託案件の監修を担っています。2019年12月には東京本社を、2022年8月には茨城県つくば市の産業技術総合研究所の中に研究所を開設し、拠点を広げてきました。

国の研究開発事業で技術を育成

同社の技術は、設立前から国の研究開発事業の支援を受けて育ってきました。2007年、堀氏らの取り組みはJST(科学技術振興機構)の「独創的シーズ展開事業 大学発ベンチャー創出推進」に採択され、その支援を経て会社の設立に至りました。2020年には、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「新産業創出新技術先導研究プログラム」に、産業技術総合研究所、山口大学、大阪府立大学、東京大学と共同で採択されています。2022年には、NEDOの「機能性化学品の連続精密生産プロセス技術の開発」で、合成プロセス設計技術の開発を担う委託予定先に選ばれました。

研究受託と専属契約で事業展開

事業の柱は、計算化学の研究受託です。単発の受託から、専任の研究員と計算資源を月単位で提供するFTE契約(専属の人員を一定期間割り当てる契約)までを用意しています。HPC(高性能計算)の計算機「NGXシリーズ」も自社で開発・保有しています。

会社情報

会社名株式会社Transition State Technology(TSテクノロジー)
所在地山口本社:山口県宇部市常盤台二丁目16番1号。東京本社:東京都千代田区麹町二丁目10-2。機能材料開発センター:中央研究所(宇部市)、つくば研究所(産業技術総合研究所 つくばセンター内)
設立2009年6月23日
代表代表取締役:山口 徹。最高技術執行役員:堀 憲次(山口大学名誉教授)
資本金555万円
従業員役員2名、常勤社員11名(うち博士号取得者6名)、非常勤社員2名(2024年4月1日時点)
事業計算化学の研究受託(反応解析、DFT計算(電子の密度から分子の性質を求める量子化学計算の手法)、分子動力学(原子の動きを時間を追って計算する手法)、ケモインフォマティクス(化学の情報をデータ解析で扱う分野))。ソフトウェア開発。HPC計算機「NGXシリーズ」の開発
技術領域量子化学計算による遷移状態の解析と合成経路の探索(CASS)。遷移状態データベース「TSDB」。特許第5164111号(化学反応遷移状態探索システムとその方法とそのプログラム・出願人は山口大学)
連携山口大学。産業技術総合研究所
採択JST 独創的シーズ展開事業 大学発ベンチャー創出推進(2007年・設立前)。NEDO 新産業創出新技術先導研究プログラム(2020年・共同)。NEDO 機能性化学品の連続精密生産プロセス技術の開発(2022年・委託予定先)。第4回山口県産業技術奨励賞 山口県産業技術センター理事長賞(2013年)
URLhttps://www.tstcl.jp/

編集後記|FrontJournal編集部より

同社が向き合うのは、実験の前にある「どの反応を試すか」を決める段階です。反応の山の高さを計算で見積もるという発想は、教科書にある考え方を産業の道具にしたものといえます。注目したいのは、計算した遷移状態をデータとして蓄えてきた点です。一件ごとの計算結果が次の計算の出発点になり、さらに機械学習のデータにもなります。

実験室の試行錯誤を計算が支え、化学品がより少ない資源で生み出される日を期待しています。

FrontJournal編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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