坪田ラボ「バイオレットライト」を研究|慶應義塾大学発ベンチャーのサムネイル

株式会社坪田ラボ

坪田ラボ「バイオレットライト」を研究|研究領域=太陽光に含まれる紫色の光/強み=近視の進行を光で抑える研究/将来性=目から全身の健康を支える

企業紹介|株式会社坪田ラボとは?

子どもの近視の進行を抑える手がかりとして、注目を集める「バイオレットライト」。株式会社坪田ラボは、その社会実装を目指す、慶應義塾大学発のライフサイエンス系ディープテック企業です。医療機器や治療薬を、製薬企業や眼鏡メーカーとともに開発しています。

キーワード「バイオレットライト」

バイオレットライト」は、太陽光に含まれる波長360〜400nm(nmは10億分の1メートル)の紫色の光です。屋外で過ごす子どもほど近視になりにくいことは知られていた一方、太陽光のどの成分が働くのかは不明でした。慶應義塾大学の坪田一男氏らは、この光が眼軸長(眼球の奥行き)の伸びを抑える可能性を報告しました。

市場課題|近視人口が世界で増え続ける

現状の近視の課題|現状は、屋内の生活で紫色の光が減る/近視の子どもが世界で増加/屋内では紫色の光が届きにくい

近視の子どもが世界で増加

近視の人口は世界的に増え、2050年には世界人口の約半数に達すると推計されています。日本でも、近視の目安の一つとされる裸眼視力1.0未満の割合は、令和6年度の学校保健統計で小学校が3割を超え、中学校で6割、高等学校で7割程度です。近視の多くは眼軸長が伸びた状態で、いったん伸びると元に戻りません。

屋内では紫色の光が届きにくい

現代の生活では、目に届く紫色の光は限られます。この光は紫外線と重なる短い波長にあり、室内の蛍光灯やLEDにはほとんど含まれません。建物や自動車の窓ガラス、紫外線を遮る眼鏡やコンタクトレンズも、紫外線とあわせてこの波長を通しにくい素材です。屋外で過ごす時間が減るほど、届く量はさらに減るといわれています。

他にも、眼軸長が伸びた目で高まる網膜剥離の危険、進行を抑える治療手段の少なさ、子どもの眼軸長を測る検査体制の不足、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 眼軸長角膜の表面から網膜までの、眼球の奥行きの長さを指す。近視は、この長さが伸びて像が網膜より手前で結ばれる状態である。伸びた眼軸長は短くならないため、進行を早い段階で抑えることが重要とされる。

坪田ラボの強み|紫色の光で眼軸長を抑える

坪田ラボが「バイオレットライト」の機器を開発|今後は、屋内でも紫色の光の照射が可能に/網膜が光を受け眼軸長の伸びを抑制/メガネ型の機器で屋内へ照射

光受容体が眼軸長の伸びを抑制

屋外での時間と近視の関係は経験的に知られてきましたが、関与する成分を特定できなかったため、対策は「外で遊ばせる」という助言にとどまっていました。

働きを担うのは、波長360〜400nmの紫色の光です。医学誌『EBioMedicine』では、近視を起こしたヒヨコにこの光を当てると眼軸長の伸びが抑えられたと報告されました。マウスを用いた研究では、網膜にある光受容体OPN5(ニューロプシン)の遺伝子を働かなくすると、この光を当てても眼軸長の伸びは抑えられず、脈絡膜(網膜の外側の血管に富んだ層)が薄くなるのも防げませんでした。脈絡膜が厚いほど眼軸長の伸びは遅いとされ、OPN5が光を受け取って厚みを保つ経路が働くと考えられています。

メガネ型の機器で屋内へ照射

太陽光を浴びる方法では、浴びる量が天候や季節、その日の予定で変わり、一定に保つのが難しいという課題があります。

TLG-001」は、フレームに組み込んだ光源から目へバイオレットライトを照射する、メガネ型の医療機器として開発されています。装用しているあいだは、屋外に出なくても一定量の光が目に届く設計です。太陽光をそのまま浴びる方法と違い、照射する時間と強さを決めて使えます。国内の臨床試験では、全症例を対象とした解析で主要評価項目の達成には至りませんでした。屋外で過ごす時間が短い集団に限った解析では眼軸長の伸びが抑えられたとされ、効果が現れる条件の特定につながりました。

FrontJournalの解説
  • OPN5ニューロプシンとも呼ばれる、網膜などにある光受容体のたんぱく質を指す。紫色から紫外に近い短い波長の光を受け取り、体内時計や、血管に富む組織の維持にかかわることが知られてきた。

バイオレットライトの未来|医療への応用

目に届くバイオレットライトが変える未来|この研究が、目の医療を広げていく/紫の光を通す眼鏡レンズは市販/ドライアイの薬は臨床試験の段階/目から全身へ研究が広がる

透過レンズがすでに市販

バイオレットライトを通す眼鏡レンズは、すでに市販されています。一般的なレンズは紫外線とあわせてこの波長を遮る一方、透過するよう設計されたレンズは、屋外で過ごすあいだ、この光を目へ通します。この波長を通すレンズを扱うのが、眼鏡チェーンのジンズホールディングスです。坪田ラボは、同社とこの分野で共同の研究開発を進めてきました。

ドライアイ治療薬が臨床段階

坪田ラボの開発は、光を用いる機器だけにとどまりません。「TLM-001」は、マイボーム腺機能不全(まぶたのふちにある脂の分泌腺が働きにくくなる状態)を伴うドライアイを対象とした治療薬です。マイボーム腺機能不全はドライアイの多くにかかわるとされる一方、治療薬が確立していない領域といわれています。第2a相臨床試験(少人数で効き目を確かめる段階)では、最終被験者の観察完了が2026年7月に公表されました。

光環境の設計を目指す

同社が目指すのは、光の当て方を設計して目と全身の健康を支えることです。OPN5は体内時計にもかかわる光受容体であり、紫色の光が脳の働きに与える影響についても研究が進められています。近視だけでなく、老眼加齢に伴う不調まで対象を広げ、予防の段階から取り組む構想です。生活のなかの光環境そのものを設計する段階まで、研究の対象を広げることを目指しています。

会社概要|坪田ラボの事業内容・設立背景

慶應義塾大学の眼科から創業

株式会社坪田ラボは、2012年5月に「株式会社ドライアイKT」として設立され、2015年2月に現在の商号へ変更しました。創業の中心となったのは、慶應義塾大学医学部眼科学教室で教授を務めた坪田一男氏です。同氏は代表取締役社長CEOとして、近視・ドライアイ・老眼の予防と治療に関する研究開発を率いています。本社は慶應義塾大学信濃町キャンパス内にあり、大学の研究環境と地続きの場所で開発が進められています。

製薬企業との連携が広がる

同社は、基礎研究と治験を担い、製造と販売はパートナー企業が担う体制をとっています。研究の提携先は慶應義塾大学順天堂大学です。事業の提携先には、ジンズホールディングス、ロート製薬、住友ファーマ、マルホ、参天製薬などが名を連ねます。眼科領域にとどまらず、2026年にはスキンケアブランド「aeonia」の一般販売も始まりました。

上場で研究開発の資金を確保

同社は2022年6月に東京証券取引所グロース市場へ上場しました。資本金は2025年3月時点で約8億2,520万円です。同社は研究開発を主とするため、売上はライセンス契約にもとづく一時金やマイルストーン収入(開発が節目に達したときに受け取る収入)が中心です。

会社情報

会社名株式会社坪田ラボ(Tsubota Laboratory Incorporated)
所在地東京都新宿区信濃町35 慶應義塾大学信濃町キャンパス 2号館9階 CRIK信濃町 E7
設立2012年5月28日(設立時の商号は株式会社ドライアイKT。2015年2月に現商号へ変更)
代表代表取締役社長 CEO:坪田 一男
資本金825,197,000円(2025年3月時点)
上場東京証券取引所グロース市場(証券コード4890/2022年6月上場)
従業員17名(2025年3月31日時点)
事業近視、ドライアイ、老眼その他の眼疾患および全身疾患の予防、治療などに関する研究開発
技術領域バイオレットライト、近視進行抑制、眼軸長、OPN5、マイボーム腺機能不全
連携研究:慶應義塾大学、順天堂大学。事業:ジンズホールディングス、ロート製薬、住友ファーマ、マルホ、参天製薬など
URLhttps://tsubota-lab.com/

編集後記|FrontJournal編集部より

近視への対処は長いあいだ、見えにくさを補うことを軸に組み立てられてきました。眼鏡もコンタクトレンズも、伸びてしまった眼軸長を前提に像の位置を合わせる道具です。坪田ラボが取り組む「バイオレットライト」は、その前提そのものを問い直す試みだといえます。

興味深いのは、出発点が新しい素材や装置ではなく、太陽光に元からある成分だった点です。屋外で遊ぶ子どもは近視になりにくいという古くからの観察を、光受容体OPN5という分子まで掘り下げたことで、光の当て方を設計できる対象へと変わりました。研究の成果を製薬企業や眼鏡メーカーへ渡し、自らは基礎研究と治験に軸足を置く体制も、大学発企業の一つの形を示しています。

生活のなかの光環境という、見過ごされてきた条件がどこまで健康を支えうるのか。今後の展開を注視したいところです。

フロントジャーナル編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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