燃えない・5分充電・低コスト。世界が競う次世代「バッテリー」

燃えない・5分充電・低コスト。世界が競う次世代「バッテリー」

大学発バッテリー3社の対比。QuantumScape(米スタンフォード大/全固体で燃えにくい)、Nyobolt(英ケンブリッジ大/約5分で急速充電)、24M(米MIT/作り方を変え低コスト化)

「スマホの充電が1日もたない」「EV(電気自動車)は充電に時間がかかる」――こうした不満の根っこには、いま広く使われているリチウムイオン電池の限界があります。30年以上使われてきた優れた電池ですが、発火のリスク充電の遅さ製造コストという3つの弱点が残っています。

その弱点を、まったく別の角度から崩そうとしているのが、世界の名門大学から生まれた3社です。共通点は、どれも大学の地道な基礎研究が出発点だということ。今回は「全固体」「超急速充電」「製造革新」という3つの主役を、生みの親の大学とともに紹介します。

なぜ「次の電池」が必要なのか?

いまの電池に残る、3つの弱点(燃える・遅い・高い)

いまの主役であるリチウムイオン電池は、軽くてくり返し使える優れた電池です。ただ、用途が広がるほど3つの弱点が目立つようになりました。中に燃えやすい液体が入っているため発火のリスクがあり、急いで充電すると劣化しやすく、製造にも多くの手間がかかります。

3社は、それぞれ違う弱点を攻めている

この「同じ弱点」に、3社はそれぞれ別の場所から挑んでいます。どの大学発のチームが、どの弱点に、どんな方法で挑むのか。下の表に整理しました。

大学(国)・企業挑む弱点アプローチ
スタンフォード大(米)
QuantumScape
燃えるリスク中身を固体にする「全固体電池」
ケンブリッジ大(英)
Nyobolt
充電が遅いニオブ負極で「急速充電」
MIT(米)
24M Technologies
作るのが高い製法を簡素にして「低コスト化」

① QuantumScape(スタンフォード大学発)― 燃えにくい「全固体電池」

大学・創業米スタンフォード大の研究を基に2010年創業
分野全固体電池(電池内部の液体を固体に置き換えた次世代電池)
特徴液漏れ・発火に強く高容量。VWと提携し、ドゥカティの電動バイクで実走デモに成功

電池の中の液体を、燃えにくい固体に変える

2010年、米スタンフォード大学のフリッツ・プリンツ教授らが創業した会社です。狙うのは全固体電池。いまの電池は、電気の素(イオン)を運ぶために燃えやすい液体(電解液)が入っています。QuantumScapeはこの液体をセラミック(陶器のような硬い無機材料)の固体に置き換えることで、発火リスクを抑えながら、より多くのエネルギーを詰め込もうとしています。

さらに同社は、負極(電気をためる側の電極)にあらかじめ材料を置かない「負極レス」という設計を業界で初めて採用しました。使う材料が減るためコストが下がり、製造工程も簡単になるといいます。エネルギー密度(同じ大きさにためられる電気の量)は844Wh/Lに達するとされ、一般的なリチウムイオン電池を上回る水準です。同じ大きさでより長く走れる、とイメージすると分かりやすいでしょう。

ドゥカティの電動バイクに積んで実際に走らせた

同社が最初の量産品とする「QSE-5」は、10%から80%まで約12分で充電でき、氷点下30度でも動く設計とされます。2025年9月には、独フォルクスワーゲン(VW)グループのバイクメーカー、ドゥカティの電動バイクに搭載され、ドイツの展示会IAAで実際に走るデモを公開しました。研究室の試作品が、初めて公道を走る乗り物として動いた瞬間です。

2026年、量産の試作ラインが動き出した

2026年2月には、量産をにらんだ試作ライン「Eagle(イーグル)」を稼働させました。提携先はVWグループの電池会社PowerCoで、これまでに2.6億ドルを超える投資が公表されています。基礎研究から実用化まで、長い時間と資金をかけて一歩ずつ進む――ディープテックらしい歩みです。

FrontJournalの解説
  • 全固体電池電気の素(イオン)が通る道を、液体ではなく固体にした電池。燃えにくく長持ちしやすいとされ、各国が「EVの本命」と位置づける。日本ではトヨタなどが先行。
  • 電解液いまの電池に入っている液体。イオンを運ぶ役割を担うが、発火リスクの一因にもなる。
  • 負極レス(アノードフリー)負極にあらかじめ材料を置かない設計。材料が減りコストや製造の手間を抑えられるとされる。
  • エネルギー密度同じ大きさ・重さにどれだけ電気をためられるかの指標。高いほど小型・長距離に有利。

② Nyobolt(ケンブリッジ大学発)― 約5分で充電する電池

大学・創業英ケンブリッジ大の研究を基に2019年創業
分野急速充電(充電の速さと電池寿命の両立をめざす技術)
特徴ニオブ系の負極で10→80%を約4分37秒。データセンターや倉庫ロボット向けに展開

「ニオブ」という金属で、速い充電を可能にする

2019年、英ケンブリッジ大学のクレア・グレイ教授の研究をもとに創業されました。武器はニオブという金属を使った特殊な電極(負極)です。ふつうの電池は急いで充電すると、電気の素が電極にうまく収まらず、劣化や発熱を招きます。ニオブ系の電極はイオンの出入りが速く、こうした負担を受けにくいため、速く充電してもいたみにくいとされます。

試作の電気自動車で、約5分の充電を実証した

2024年には、ニオブ電池を積んだ試作の電動スポーツカー(英国のデザイン会社CALLUMと共同開発)を公開しました。350kWの急速充電器を使い、10%から80%までを4分37秒で充電したと発表。ガソリン車の給油に近い感覚です。さらに4,000回を超える急速充電にも耐えるとされ、「速いのに長持ち」の両立をめざしています。

狙う市場は、データセンターや倉庫ロボット

2026年5月にはシリーズC(成長期の資金調達)で6,000万ドルを集め、評価額10億ドルの「ユニコーン」入りを発表しました。出資を主導したのはAIロボット企業のSymbotic。じつはNyoboltが見据えるのはEVだけではありません。AIを動かすデータセンターや、休みなく動く倉庫ロボットなど、「速く何度も充電したい」現場こそ主戦場だと考えています。

FrontJournalの解説
  • ニオブレアメタルの一種。これを使った電極はイオンの出入りが速く、急速充電に向くとされる。
  • 負極電池の電気を蓄える側の電極。ここの材料を変えるのがNyoboltの工夫。
  • シリーズCスタートアップの資金調達段階の呼び方。事業が成長フェーズに入った段階を指す。
  • ユニコーン評価額10億ドル以上の未上場スタートアップのこと。

③ 24M Technologies(MIT発)― 電池の“作り方”を変える

大学・創業米MIT(マサチューセッツ工科大)発で2010年創業
分野製法革新(電池の作り方を変えて製造コストを下げる)
特徴電極を練る「セミソリッド」製法で工程を削減。京セラが家庭用蓄電池で実用化

電極を“塗って乾かす”のをやめ、“練って”作る

2010年、米MIT(マサチューセッツ工科大学)のイー・ミン・チャン教授が創業しました。前の2社が電池の「中身」を変えるのに対し、24Mが変えるのは作り方です。通常のリチウムイオン電池は、電極の材料を金属箔に薄く塗り、乾かし、溶剤を回収し……と多くの工程を重ねます。これが時間とコストの大きな部分を占めています。

24Mの「セミソリッド」方式は、電極の材料を電解液とまぜて粘土状に練り、金属箔に乗せるだけ。乾燥などの工程をまるごと省けるため、電気を生まないムダな材料を8割以上減らし、製造時間を約5分の1にできるとしています。

日本の京セラが、家庭用蓄電池で実用化ずみ

この製法はすでに実用段階に入っています。日本の京セラは24Mの技術を使い、家庭用蓄電池「エネレッツァ」を製品化。滋賀県の工場で増産を進めています。ほかにもフォルクスワーゲン、富士フイルム、伊藤忠商事などがライセンスを受けており、日本企業との接点が多いのも特徴です。

ねらいは、電池の生産コストを下げること

電池は性能だけでなく「安く大量に作れるか」が普及の分かれ目になります。24Mは新しい素材ではなく“工程の引き算”でコストを下げる、いわば生産ラインそのものの発明に挑んでいます。同じ「作り方で勝つ」発想は半導体の製造にも通じます。

FrontJournalの解説
  • セミソリッド方式電極の材料を電解液とまぜ、粘土状に練って使う24M独自の製法。塗る・乾かす工程を省ける。
  • 電極電池の中で電気をやり取りする部品。通常は金属箔に材料を薄く塗って作る。
  • エネレッツァ京セラが24Mの技術で製品化した家庭用蓄電池。セミソリッド方式の実用例。

次世代電池の将来性

EVだけでなく、社会の土台を支える

3社に共通するのは、どれも大学の基礎研究が土台になっていること。そして次世代電池の出番は、EVだけではありません。AIブームで急増するデータセンターには、速く何度も充電できる電池(Nyobolt型)。太陽光や風力の電気をためる再生可能エネルギーや電力網には、安く大量に作れる電池(24M型)。そしてEVや「空飛ぶクルマ」には、安全で容量の大きい全固体電池(QuantumScape型)。狙う弱点が違う3社は、競い合うより、社会のさまざまな「土台」を別々に支えていく存在になりそうです。

トヨタなど日本勢の動きも、今後の見どころ

日本でもトヨタなどが全固体電池で先行し、京セラや伊藤忠が海外の製法を取り入れるなど、すでに各社が深く関わっています。この競争に日本勢がどう絡むかも次の見どころです。派手な発明よりも、地道な材料・プロセスの研究が巨大産業を動かし始めている――その流れは、半導体の世界とよく似ています。

まとめ

全固体・急速充電・製法革新――大学発の3社は、それぞれ別の弱点に挑んでいます。どれか一つが勝つというより、用途ごとに best が分かれていくでしょう。地道な基礎研究が巨大産業を動かし始めた今、次世代電池という分野のこれからが、とても楽しみです。次にEVや家庭用蓄電池のニュースを目にしたら、ぜひ「どの弱点を、どの会社が攻めているのか」という視点で読んでみてください。世界の見え方が少し変わるはずです。(FrontJournal編集部)

この記事の作者

FrontJournal 編集部

「日本のディープテック企業を、もっと身近に。」をテーマに、大学発ベンチャー・研究型スタートアップの最新ニュースと事業がまとめてわかる、メディアサイトです。

※ 本記事は各社の公式発表・大学広報・主要報道をもとに、FrontJournal編集部が再構成したものです。数値は各社の公表値であり、将来の性能・量産を保証するものではありません。
主な出典:QuantumScape 公式(quantumscape.com)/Nyobolt 公式(nyobolt.com)/MIT News「Simplifying the production of lithium-ion batteries」(news.mit.edu)。

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