半導体の不良を非破壊で見つけるダイヤモンド量子センサーを開発する QuantumDiamonds(ドイツ発)のサムネイル

半導体の不良を非破壊で見つける「ダイヤモンド量子センサー」を開発【QuantumDiamonds|ドイツ発】

AIやスマートフォンに使う先端の半導体では、複数のチップを積み重ねる構造が広がり、内部で起きた不良の位置を突き止める検査が課題になっています。この課題に挑むのが、ドイツのクォンタムダイヤモンズ(以下QuantumDiamonds)です。同社は「ダイヤモンド量子センサー」でチップの内部を流れる電流を画像にし、不良の位置を非破壊(チップを削らない方法)で特定する検査装置を開発しました。この装置は、米国と台湾の半導体の解析会社に導入されています。同社は2026年7月、出資と欧州半導体法に基づく公的支援を合わせて約9,100万ユーロ(約168億円)を確保したと発表しました。

半導体の不良解析の課題

QuantumDiamondsの紹介と、チップの積層で半導体の構造が複雑になり、内部に埋もれた不良の特定に時間がかかることを示す図

チップの積層で構造が複雑化

半導体の性能は長く回路の微細化で高められてきましたが、近年は複数のチップを積み重ねる3Dパッケージなど、後工程(チップを組み立てて製品に仕上げる工程)で性能を高める方法が広がっています。東京エレクトロンの解説によると、大規模な回路を複数の小さなチップに分けて製造し、後工程のパッケージングで組み合わせて1つの大きなチップとして働かせるチップレットの活用も拡大傾向です。チップを重ねるほど配線は内部に埋もれていくため、このままでは不良が起きた場所を外から突き止めにくくなります。

埋もれた不良の特定に時間

積み重ねたチップの内部に埋もれた不良は、1つの検査だけでは位置と原因を突き止めにくく、多くの場合、複数の検査の組み合わせが必要です。米国の分析機器大手Thermo Fisher Scientificによると、発熱の変化から不良を探すロックイン・サーモグラフィ(LIT)は位置の手がかりを得られても不良の形や仕組みまでは分かりにくく、X線CTも金属の多い構造では画像が乱れやすいため、解析の担当者は位置を絞り込んだ後にチップの断面を削り出す破壊解析で詳しく調べます。このままチップの構造が複雑になれば、不良の原因を突き止めるまでの時間が延び歩留まりを高める改善も遅れるおそれがあります。

FrontJournalの解説
  • チップレット大規模な回路を機能ごとの小さなチップに分けて製造し、1つのパッケージの中で組み合わせる手法。1枚の大きなチップを一度に製造する方法と比べ、部分ごとに適した製造技術を選べる。
  • 歩留まり製造した製品のうち、不良がなく出荷できる良品の割合。100個製造して90個が良品なら、歩留まりは90%である。

QuantumDiamondsが「ダイヤモンド量子センサー」を開発

ダイヤモンド量子センサーの仕組みを示す図。チップ内部の電流がつくる磁場を画像にして不良箇所を特定し、数週間かかっていた不良箇所の探索を数分に短縮する

課題解決に挑むQuantumDiamonds

QuantumDiamondsは、「ダイヤモンド量子センサー」を使って半導体チップの不良を探す検査装置を開発する企業です。2022年にドイツのミュンヘンで設立され、ミュンヘン工科大学(TUM)の起業支援組織であるTUM Venture Labsの支援を受けています。同社の出発点は同大学の研究にあり、「ダイヤモンド量子センサー」を研究するドミニク・ブッハー氏(同大学教授)も創業者の1人です。

電流の画像化で不良箇所を特定

「ダイヤモンド量子センサー」は、ダイヤモンドの結晶にあるNVセンターと呼ばれる欠陥を使い、周りの磁場をとらえます。NVセンターは緑色のレーザー光を当てると赤く光り、あわせて当てるマイクロ波が特定の周波数になるとこの光が暗くなり、暗くなる周波数が周りの磁場の強さに応じてずれるため、光の変化を測れば磁場の分布を画像にできます。電流が流れると周りに磁場が生じるため、検査ではチップに電流を流し、その磁場の分布を画像にすることで、内部を流れる電流の通り道を浮かび上がらせる仕組みです。同社によると、電流が途切れる断線(オープン)や、本来つながらない配線どうしが電気的につながる短絡(ショート)を、深さまで含めて非破壊で特定できます。

不良箇所の探索を数分に短縮

同社によると、装置「QDm.1」を使えば、従来は数週間かかっていた不良箇所の探索を、数分で終えられます。1回に見られる範囲は最大3ミリメートル角で、画像をつなぎ合わせれば最大5センチメートル角まで広げられるとしています。対象は、複数のチップを横に並べる2.5Dパッケージや積み重ねる3Dパッケージのほか、GaN(窒化ガリウム)やSiC(炭化ケイ素)を使ったチップなどです。同社の研究者らは2025年12月にarXiv(査読前の論文を公開するサイト)で公開した論文で、iPhoneに搭載された積層型のチップを対象に、既存の解析を補う情報が得られたと報告しています。

FrontJournalの解説
  • NVセンターダイヤモンドの結晶の中で、炭素原子と置き換わった窒素原子(N)と、その隣で炭素原子が抜けた空孔(V)が組になった欠陥。緑色の光を当てると赤く光り、その明るさがマイクロ波の周波数と周りの磁場の強さに応じて変わるため、室温で磁場を測るセンサーになる。
  • 2.5Dパッケージ複数のチップを、中継用の基板の上に横に並べて1つにまとめる実装方式。チップを縦に積み重ねる3Dパッケージと比べ、チップどうしを平面上で近くに置いて配線する。

ダイヤモンド量子センサーの未来

ダイヤモンド量子センサーの未来を示す図。解析会社での利用が可能になり、製造途中での検査を目指し、約1,500万ユーロを調達したことを示す

解析会社での利用が可能に

同社の「QDm.1」は2026年4月、米国カリフォルニア州サニーベールの解析会社Eurofins EAG Laboratoriesと、台湾・新竹の解析会社iST(Integrated Service Technology)に相次いで導入されました。半導体メーカーや設計会社は、自社で装置を持たなくても、こうした解析会社に不良解析を委託すれば、この検査を利用できます。

製造途中での検査を目指す

同社は、2026年7月に確保した資金で解析用の装置を半導体メーカーへ供給するとともに、チップを切り分ける前のウェハーの段階で大量に検査する技術を開発するとしています。製造の途中で不良を見つけられれば、その原因を早く突き止めて製造工程を直せるため、歩留まりの改善につながります。

約1,500万ユーロを調達

QuantumDiamondsは2026年7月9日、ベンチャーキャピタルのWorld Fundが主導する約1,500万ユーロ(約28億円)の出資を受けたと発表しました。あわせて、欧州半導体法に基づいてドイツ連邦政府とバイエルン州が拠出する約7,600万ユーロ(約141億円)の公的支援も受け、合計で約9,100万ユーロを確保しています。同社はミュンヘンで、検査装置などを生産する総投資額約1億5,200万ユーロ(約281億円)の拠点の建設を進めており、2026年中に最初の区画を開く計画です。生産体制が整えば、同社の装置を導入して先端のチップの不良解析を行う解析会社や半導体メーカーが、さらに増える可能性があります。

FrontJournalの解説
  • ウェハー半導体の材料となるシリコンなどの薄い円板。1枚の上に多数のチップを作り込み、後の工程で1つずつ切り分ける。
  • 欧州半導体法EUが2023年9月に施行した、域内の半導体の研究開発と生産を強化するための法律。加盟国が半導体の工場などへ補助金を出す際の枠組みになる。

まとめ

QuantumDiamondsは、ミュンヘン工科大学の研究を出発点に、「ダイヤモンド量子センサー」で半導体チップの内部を流れる電流を画像にする検査装置を製品にしました。チップを積み重ねる構造が広がるなかで、不良の位置を深さまで非破壊で特定する手段として、米国と台湾の解析会社への導入も始まっています。FrontJournal編集部は、量子の性質を使ったセンサーが、研究室の外で半導体の不良解析を支える装置として使われ始めたことに注目しています。日本でも、東京科学大学発Quantum ZeroがダイヤモンドのNVセンターを使う量子センサーを開発し、東北大学と物質・材料研究機構(NIMS)の研究グループがダイヤモンドの量子センサーを応力の検出に使えることを示しました。編集部は、国内の半導体の現場でもこうした量子センサーが活用される事例が生まれることに期待しています。

※ 本記事は各社・各機関の公式発表・主要報道をもとに、FrontJournal編集部が再構成したものです。数値は各社・各機関の公表値です。1ユーロ=約185円で換算しています。
主な出典:QuantumDiamonds 公式(会社サイト/プレスリリース)、TUM Venture Labs、東京エレクトロン、Thermo Fisher Scientific、arXiv掲載論文、東北大学のプレスリリース。

この記事の作者

FrontJournal編集部

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