【GAPファンド・関西】KSACの採択課題と研究テーマ
「GAPファンド」は、大学の研究成果が事業として成り立つかを、起業の前に検証するための資金です。関西地域では、大学・産業界・金融界・自治体など100以上の機関が参画する「KSAC」がこの資金を運営しており、第1〜3回の公募で延べ135件の研究開発課題を採択しました。本記事では、このうち8件について研究テーマとその狙いを紹介します。
「GAPファンド」は、大学の研究成果が事業として成り立つかを、起業の前に検証するための資金です。関西地域では、大学・産業界・金融界・自治体など100以上の機関が参画する「KSAC」がこの資金を運営しており、第1〜3回の公募で延べ135件の研究開発課題を採択しました。本記事では、このうち8件について研究テーマとその狙いを紹介します。
「GAPファンド」(ギャップファンド)の「GAP」は、研究成果と事業化の間にある隙間を指します。学術研究を支える「科研費」や、設立後の企業に投資する「VC」(ベンチャーキャピタル)とは異なり、GAPファンドは起業前の研究者が行う試作や市場調査といった事業化の検証に充てられます。制度によっては、資金に加えて、起業に詳しい人材や投資機関から伴走支援を受けることも可能です。
GAPファンドの仕組みや資金の使い道は、GAPファンドとは?研究を起業につなぐ資金の仕組みで詳しく紹介しています。
「KSAC」は「関西スタートアップアカデミア・コアリション」の略称で、関西から大学発スタートアップを連続して生み出すことを目指すプラットフォームです。「KSAC-GAPファンド」は「科学技術振興機構」(JST)の「大学発新産業創出基金事業」の一環として運営され、参画する大学の研究成果を起業による事業化へつなげます。採択された課題には、研究代表者が所属する大学の起業支援人材が付き、伴走支援を行います。
第4回の公募要領によると、支援は応用研究に当たる「ステップ1」と、概念実証とスタートアップの組成を目指す「ステップ2」に分かれています。「ステップ1」には4つのプログラムがあり、顧客ニーズがあるかを確かめる「IV」の上限は500万円です。技術が解決策として有効かを検証する「PSF」、起業当初から海外展開を目指す「OD」、将来の社会課題から逆算して技術を選ぶ「BCB」は、いずれも上限1,000万円で、支援期間は最長1年となっています。「ステップ2」の「PMF」は、VCが投資を判断できる水準まで課題の解決を目指すプログラムで、上限は6,000万円(初年度3,000万円)、支援期間は最長2年です。
「KSAC」が公表した採択者一覧によると、採択件数は令和6年度の第1回が38件、同年度の第2回が45件、令和7年度の第3回が52件でした。プログラム別に見ると、「IV」が43件、「PSF」が29件、「OD」が19件、「BCB」が14件、「PMF」が30件です。一覧では、各課題が「ライフサイエンス」「ヘルスケア」「ものづくり」「その他」の4つの領域に分類されています。
ここでは、採択課題の中から医療・創薬、エネルギー・半導体、環境・宇宙の分野で8件を選びました。各課題について、課題名と採択枠を表で示し、研究の狙いを本文で説明します。
| 課題名 | 100年の放射線治療の概念を一新する放射線誘導性がんワクチンの開発 〜Burst Therapyの実現〜↗ |
|---|---|
| 領域 | ライフサイエンス |
| 研究代表者 | 佐々木良平 教授 |
| 所属・大学 | 神戸大学 医学部附属病院 |
| 採択枠 | 第2回・KSAC-GAP IV |
「神戸大学」の佐々木良平教授は、放射線治療をがんワクチンとして働かせる「放射線誘導性がんワクチン」を研究しています。「放射線治療」とは、がん細胞に放射線を当てて死滅させる治療法のこと。佐々木氏は、放射線でがんワクチンの働きを引き出す「Burst Therapy」の実現を目指しており、第2回の「IV」に採択されました。
| 課題名 | 胸腺再生を機序とする次世代がん免疫治療薬の開発↗ |
|---|---|
| 領域 | ライフサイエンス |
| 研究代表者 | 濵﨑洋子 教授 |
| 所属・大学 | 京都大学 iPS細胞研究所 |
| 採択枠 | 第3回・KSAC-GAP PMF |
「京都大学」の濵﨑洋子教授は、胸腺の再生を作用の仕組みとする「がん免疫治療薬」を研究しています。「胸腺」とは、がん細胞などを攻撃するT細胞(免疫細胞の一種)を育てる臓器のことで、年齢とともに縮むことが知られています。濵﨑氏は、胸腺を再生させてがんに対する免疫の力を高める次世代の治療薬の開発を掲げ、第3回の「PMF」に採択されました。
| 課題名 | 高齢化社会で行動制限を防ぐ腸音計測による AI 排便予測システムの開発と事業化↗ |
|---|---|
| 領域 | ヘルスケア |
| 研究代表者 | 池田和司 教授 |
| 所属・大学 | 奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 |
| 採択枠 | 第1回・KSAC-GAP IV |
「奈良先端科学技術大学院大学」の池田和司教授は、腸が動く音から排便のタイミングを予測する「AI排便予測システム」を研究しています。腸の音の計測とAIを組み合わせて排便を予測し、高齢者の行動が制限されるのを防ぐことが狙いです。池田氏は、このシステムの開発と事業化を掲げ、第1回の「IV」に採択されました。
| 課題名 | 海水からのグリーン水素製造↗ |
|---|---|
| 領域 | ものづくり |
| 研究代表者 | 片山祐 准教授 |
| 所属・大学 | 大阪大学 産業科学研究所 |
| 採択枠 | 第2回・KSAC-GAP PMF |
「大阪大学」の片山祐准教授は、海水を原料に「グリーン水素」を製造する技術を研究しています。「グリーン水素」とは、再生可能エネルギーの電力で水を電気分解して製造する脱炭素の水素のこと。片山氏は、地球上に豊富にある海水から水素を製造する方法を掲げ、第2回の「PMF」に採択されました。
| 課題名 | 大気圧ミストCVD法によるp型NiMgO系パワー半導体量産技術開発・実用化↗ |
|---|---|
| 領域 | ものづくり |
| 研究代表者 | 池之上卓己 准教授 |
| 所属・大学 | 京都大学 エネルギー科学研究科 |
| 採択枠 | 第3回・KSAC-GAP IV |
「京都大学」の池之上卓己准教授は、「大気圧ミストCVD法」で「パワー半導体」を量産する技術を研究しています。パワー半導体は、電気自動車や送電設備などで電力の変換・制御を担う半導体です。「ミストCVD法」とは、原料を溶かした液体を霧にして基板の上で反応させ、薄い膜を形成する手法のこと。池之上氏は、ニッケルとマグネシウムの酸化物から成るp型(正孔が電気を運ぶ型)の「NiMgO系」パワー半導体を大気圧の下で量産する技術の開発と実用化を掲げ、第3回の「IV」に採択されました。
| 課題名 | 衛星コンステレーションビジネスに向けた木造人工衛星の開発↗ |
|---|---|
| 領域 | その他 |
| 研究代表者 | 仲村匡司 教授 |
| 所属・大学 | 京都大学 農学研究科 |
| 採択枠 | 第2回・KSAC-GAP IV |
「京都大学」の仲村匡司教授は、機体に木材を使う「木造人工衛星」を研究しています。対象とする市場は、多数の小型衛星を連携させて運用する「衛星コンステレーション」です。仲村氏は、このビジネスに使える木造衛星の開発を掲げ、第2回の「IV」に採択されました。
| 課題名 | 難分解性フッ素化合物を温和に光分解する技術開発と事業化↗ |
|---|---|
| 領域 | その他 |
| 研究代表者 | 小林洋一 教授 |
| 所属・大学 | 立命館大学 生命科学部応用化学科 |
| 採択枠 | 第2回・KSAC-GAP IV |
「立命館大学」の小林洋一教授は、自然の中で分解されにくい「難分解性フッ素化合物」を、温和な条件で光によって分解する技術を研究しています。小林氏は、この光分解の技術開発と事業化を掲げ、第2回の「IV」に採択されました。
| 課題名 | 膜と促進酸化処理を用いたオンサイト型水再利用システムの実用化↗ |
|---|---|
| 領域 | その他 |
| 研究代表者 | 竹内悠 助教 |
| 所属・大学 | 京都大学 工学研究科 |
| 採択枠 | 第3回・KSAC-GAP IV |
「京都大学」の竹内悠助教は、使った水をその場で浄化して再び使う「オンサイト型水再利用システム」を研究しています。浄化には、汚れをこし取る膜と、強い酸化力で汚れの成分を分解する「促進酸化処理」を組み合わせます。竹内氏は、このシステムの実用化を掲げ、第3回の「IV」に採択されました。
「KSAC-GAPファンド」は、がん治療から水素製造、木造人工衛星まで、関西の大学で生まれた幅広い研究を事業化の検証へ送り出しています。これらの研究が実用化すれば、がん治療に放射線や免疫の力を生かした新たな選択肢が加わり、海水から水素を製造する道も開けます。採択課題から、関西発の大学発スタートアップが生まれることが期待されます。関西の大学で事業化を目指す研究者は、所属大学の起業支援窓口で「KSAC-GAPファンド」の公募時期と応募条件を確認してください。
作成:FrontJournal編集部
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