クレスール「大気圧プラズマジェット」を開発|大気圧プラズマジェットで材料の表面を処理する様子を描いたイラスト

クレスール株式会社

クレスール「大気圧プラズマジェット」を開発|研究領域=材料表面の性質を・プラズマで変える/強み=低温のジェットで・熱に弱い樹脂も処理/将来性=受託処理から・高速通信の基板へ

企業紹介|クレスール株式会社とは?

低い温度のまま材料の表面に新しい性質を与える技術として、注目を集める「大気圧プラズマジェット」。クレスール株式会社は、その産業利用に取り組む、群馬大学発の素材系ディープテック企業です。大気圧低温プラズマの発生装置や表面処理装置処理の受託等を手がけ、プラスチックや金属などの材料の表面に新しい性質を与えています。

キーワード「大気圧プラズマジェット」

「大気圧プラズマジェット」は、大気圧のまま気体に電圧をかけてプラズマ(電気を帯びた粒子を含む気体)を作り、細い噴流にして材料へ吹き付ける表面処理の技術です。特徴は、真空の容器を用意しなくても、材料の表面だけに作用して性質を変えられる点にあります。フィルムや樹脂部品の工場で、接着や印刷の前に表面を整える処理に使えます。

市場課題|樹脂の表面処理は材料の性質と装置の制約に阻まれる

現状の樹脂の表面処理の課題|現状は、樹脂が接着しにくく装置にも制約がある|樹脂の表面は・接着や印刷が困難/既存装置は・大きな部材に不向き

樹脂の表面は接着や印刷が困難

プラスチックの多くは表面が水や接着剤をはじきやすく、そのままでは接着や印刷、めっきが難しい材料です。FPC(曲げられる薄い回路基板)は樹脂に金属の回路を載せるため、両者を密着させる加工が要ります。なかでも高速通信向けのフッ素樹脂は、金属の回路を密着させる加工が特に難しいといわれています。

既存装置は大きな部材に不向き

従来のプラズマ装置は、処理できる材料の大きさや置き方に制約があります。減圧した容器で処理する方式は設備が大型で費用がかさみ、大気圧で使う装置も材料を放電部に近づける必要があります。ディスプレイや太陽電池の大きなパネルの一部だけを処理したい現場では、使える方法が限られかねません。

他にも、熱に弱い樹脂を傷めずに処理する難しさ、医療器具の滅菌の手間、薬液を使う処理の環境への負担、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • フッ素樹脂炭素とフッ素が強く結びついた樹脂の総称で、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)が代表例である。熱や薬品に強い一方、表面にほかの物質がなじみにくいため、接着や印刷の前に表面を処理する必要がある。

クレスールの強み|「大気圧プラズマジェット」を開発

クレスールが「大気圧プラズマジェット」を開発|現在は、低温ジェットで表面処理を提供|フッ素樹脂の表面に・官能基を導入/離れた位置から・狙って処理

フッ素樹脂の表面に官能基を導入

2014年の論文の実験条件では、アルゴンだけのプラズマは、水素を混ぜたプラズマよりフッ素を外す反応が進みにくい結果でした。

2014年の論文で、同社の研究者を含むグループは、アルゴンに水素を混ぜた大気圧低温プラズマで、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)の膜を処理する方法を検討しました。水素を混ぜたプラズマでは、表面から脱フッ素(フッ素原子が外れる反応)が進み、処理後の表面に酸素を含む官能基(物質の化学的な性質を決める原子の集まり)が現れることを、表面の分析で確かめています。酸素を含む官能基が表面にあると接着剤がなじみやすくなるため、フッ素樹脂とほかの材料を組み合わせる選択肢が広がります。

離れた位置から狙って処理

従来の大気圧プラズマ装置は、材料を放電の中に通すか、吹き出し口から約1cm以内まで近づける必要があり、処理の自由度が限られていました。

同社が製造した「CAPPLAT」は、プラズマをジェットのように細長く伸ばして吹き出す、低温ジェットの発生装置です。2009年に群馬大学が示した試験では、吹き出し口から4cm以上離しても表面を処理でき、ジェットの温度は体温より低く保たれました。このジェットでポリオレフィン(包装フィルムなどに使う樹脂)の表面に厚さ340nm(ナノメートル)のガラスの薄膜を作ると、酸素が通り抜ける量は約8分の1に減りました。大気圧のまま処理できるので、減圧した容器が要らなくなります。

FrontJournalの解説
  • 官能基分子の中で、その物質の化学的な性質を決める原子の集まりである。水酸基やカルボキシ基のように酸素を含む官能基が材料の表面にあると、水や接着剤がなじみやすくなり、ほかの材料と結びつきやすくなる。

大気圧プラズマジェットの未来|受託処理から高速通信の基板材料へ

大気圧プラズマジェットが変える未来|受託処理から高速通信の基板材料へ|多様な材料の・表面処理を受託/滅菌や銅の焼結で・効果を確認/高速通信の基板へ・応用を目指す

多様な材料の表面処理を受託

同社は、材料の表面処理の受託を行っています。あわせて、大気圧低温プラズマの発生装置と表面処理装置を設計・製造・販売しています。対象はプラスチックやカーボン、セラミック、金属などで、表面の性質を変える処理や薄い膜を作る処理が中心です。同社はコンサルティングや技術指導も手がけています。

滅菌や銅の焼結で効果を確認

医療や電子部品の分野でも、同社の研究者が加わった研究で大気圧プラズマの効果が確かめられています。熱や乾燥に強い枯草菌(土などにすむ細菌)の芽胞(細菌が休眠して身を守る状態)に「CAPPLAT」のジェットを当て、不活化(増殖できない状態にすること)できたことが確かめられています。印刷した銅の微粒子を大気圧プラズマで比較的低い温度で焼結(粉を固めて一体にすること)できたことも、研究で示された成果です。医療器具の滅菌や電子部品の配線形成を、低い温度で行う手段につながる可能性があります。

高速通信の基板への応用を目指す

同社は、フッ素樹脂のフィルムに金属の回路を形成する工程への応用を目指しています。FPCは、プラスチックの基板の上に金属の回路を形成して作ります。フッ素樹脂は、5G(第5世代移動通信システム)以降の高速通信で、基板の材料として重要になるといわれる素材です。同社は、自社の表面処理で加工の難しさを乗り越えれば、機能性フィルムメーカーの製造ラインに採用される可能性があるとしています。

会社概要|クレスール株式会社の事業内容・設立背景

群馬大学の研究から設立

クレスール株式会社は、2008年11月に設立された、群馬県桐生市に本社を置く群馬大学発の企業です。群馬大学でプラズマ化学と表面化学を研究してきた黒田真一氏のもとで開発された、大気圧低温プラズマジェットの発生装置が技術の土台になりました。黒田氏は群馬大学の特任教授で、同社のCTO(最高技術責任者)です。代表取締役は森多美雄氏です。

群馬大学と共同研究を重ねる

同社は設立後、群馬大学の研究者と共同研究を重ねました。2010年から2014年にかけては、同社に所属する研究者が共著者に加わった論文が、材料工学の国際的な学術誌に掲載されています。研究の対象は、放電の性質の分析、芽胞の不活化、銅の微粒子の焼結、フッ素樹脂の表面処理など多岐にわたります。2012年の研究で使われた「CAPPLAT」は、同社が製造したトーチ型の装置です。

光化学の技術も保有

同社は大気圧プラズマジェットに加えて、光化学反応(光を当てて進める化学反応)を利用するプロセス技術も持っています。プラズマと光の化学を制御して、材料表面の改質(表面の性質を作り変えること)と薄膜の形成を行うことが、事業の軸です。プラズマと光化学を組み合わせ、従来の方法では処理しにくい材料や、新しい機能を持たせたい材料にも対応することを目指しています。

会社情報

会社名クレスール株式会社(Cresur Corporation)
所在地〒376-0052 群馬県桐生市天神町2丁目9番26号
設立2008年11月11日
代表代表取締役:森多 美雄。CTO:黒田 真一(群馬大学 特任教授)
事業大気圧低温プラズマ発生装置・表面処理装置の開発・設計・製造・販売。表面・界面処理の受託。コンサルティング・技術指導
技術領域大気圧低温プラズマ(プラズマジェット発生装置「CAPPLAT」)。光化学反応を利用するプロセス技術
連携群馬大学(共同研究)
URLhttp://cresur.com/

編集後記|FrontJournal編集部より

大学の研究室で生まれたプラズマの装置を、事業の柱に据えてきた点に、この企業の粘り強さを感じます。論文の共著者に同社の研究者が並ぶのも、研究と事業が同じ場所で進んできた表れです。装置を売るだけでなく、処理の受託や技術指導まで引き受ける姿勢は、材料の表面という目に見えにくい領域だからこそ生きる形だと思います。

樹脂と金属をつなぐ技術では、いおう化学研究所のように分子の結合で異なる材料を接合する企業もあります。クレスールの価値は、単なる装置メーカーではなく、難しい材料に合わせて処理の方法そのものを組み立てられる点にあります。材料が変われば処理の条件も変わるため、この柔軟さは顧客にとって心強い支えになるはずです。

フッ素樹脂の回路基板が身近な通信機器に入る日を、桐生の技術が近づけることに期待しています。

FrontJournal編集部

出典:経済産業省 大学発ベンチャーデータベース2026

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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