株式会社いおう化学研究所|接着剤を使わず化学結合で異種材料を接合する「分子接合技術」を開発する岩手大学発の企業

株式会社いおう化学研究所

いおう化学研究所「分子接合技術」を開発|研究領域=接着剤を使わず異種材料を接合/強み=材料自体が壊れる強度で接合/将来性=5G/6G機器や航空宇宙分野へ応用

企業紹介|いおう化学研究所とは?

樹脂・ゴム・金属・セラミックスなど、性質の異なる材料どうしを、接着剤を使わずに結びつける「分子接合技術」。株式会社いおう化学研究所は、その社会実装を目指す、岩手大学発の素材系ディープテック企業です。化学結合を利用して異種材料を接合する薬剤を、自動車や電気・電子機器の製造現場に向けて開発しています。

キーワード「分子接合技術」

「分子接合技術」は、分子接合剤(MB剤)と呼ばれる薬剤を材料の表面に処理し、そこに別の材料を重ねることで、化学結合によって異種材料どうしを接合する技術です。特徴は、接着剤の層を挟まずに材料どうしを直接結び付ける点にあります。樹脂・ゴム・金属・セラミックス・布など、幅広い組み合わせの材料接合に応用が進められています。

市場課題|接着剤は強度と耐久性に限界

現状の異種材料接合の課題|現状は、接着剤の層が弱点になり強度・耐久性が不足/接着剤の層が弱点になる/高周波・放熱の性能を妨げる

接着剤の層が弱点になる

異種材料を接着剤で貼り合わせる方法は、その接着剤の層自体が弱点になりやすいという課題を抱えています。自動車や電気・電子機器の軽量化・電動化が進むなか、樹脂・ゴム・金属・セラミックスといった性質の異なる材料を組み合わせる場面が増え、多くの場合接着剤で貼り合わせる方法が使われていますが、剥離や劣化の起点になりやすく、うまく接着できないという相談も少なくありません。組み合わせる材料の種類が増えるほど、接合部の強度をどう確保するかが重い課題になります。

高周波・放熱の性能を妨げる

接着剤の層は、機械的な強度だけでなく、電気・電子機器の性能にも影響します。5G/6G機器で使う基板では、銅箔と樹脂の間に接着剤の層が挟まると誘電損失(電気信号が熱として失われる割合)が増えやすく、半導体の放熱部材では、接着剤の層が界面熱抵抗(材料の境目で熱が伝わりにくくなる度合い)を高める要因になります。

他にも、工程数の多さによる製造コストの増加、薄型化・軽量化への対応の難しさ、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 誘電損失電気信号が材料の中を伝わる際に、一部が熱として失われる割合を指す。高周波の信号ほど影響が大きく、通信機器の基板材料では小さく抑えることが求められる。

いおう化学研究所の強み|「分子接合技術」を開発

いおう化学研究所が「分子接合技術」を開発|今後は、化学結合で直接接合が可能に/化学結合で材料を直接接合/材料自体が壊れる強度で接合

化学結合で材料を直接接合

接着剤による接合では、材料と材料の間に接着剤の層が挟まるため、その層自体が強度や耐久性の弱点になりやすいという課題がありました。

分子接合技術は、トリアジンチオール化合物(硫黄を含む化合物の一種)を使った分子接合剤(MB剤)を材料の表面に処理し、そこへ別の材料を重ねることで、化学結合によって材料どうしを直接つなぐ技術です。CFRP(炭素繊維強化プラスチック)とポリエチレン、ポリアミドとアルミニウム、ガラスとポリプロピレンなど、これまで接合が難しかった組み合わせにも対応できるとされています。接着剤の層という弱点そのものを無くせる点が、分子接合技術の特徴です。従来は接合をあきらめた組み合わせも、量産に使えるようになります。

材料自体が壊れる強度で接合

接着剤による接合では、想定より低い力で剥離してしまい、狙った強度を確保しにくいという課題もありました。

分子接合剤で処理した材料は、接合部より先に材料そのものが壊れる強度で接合できるとされています。高周波基板向けには低誘電材料との結合で誘電損失を抑える処理、放熱部材向けには熱伝導材料とヒートシンクの界面熱抵抗を化学結合で小さくする処理と、用途に合わせて処理の内容を使い分けられる点が特徴で、同じ分子接合剤を基盤にしながら異なる課題に対応する仕組みです。接着剤では確保しにくかった強度と性能を、化学結合によって両立できるようになります。

FrontJournalの解説
  • トリアジンチオール化合物硫黄を含む化合物の一種で、金属などの表面に薄い被膜をつくり化学結合の足場になる。かつて岩手県にあった硫黄鉱山の硫黄を有効利用する目的で、岩手大学の研究から生まれた。

未来・応用|5G/6G機器や航空宇宙分野へ展開

分子接合技術が変えるものづくりの未来|自動車から通信機器へ、応用が広がる/自動車・航空宇宙の軽量化に応用/高周波基板や放熱部材へ展開/岩手から世界へ技術革新目指す

自動車・航空宇宙の軽量化に応用

分子接合技術の応用が進められている分野の一つが、自動車や航空宇宙の軽量化です。金属部品の一部を、分子接合剤で処理した樹脂や複合材料に置き換えれば、部品自体を軽くできるとされています。金属からの置き換えが進めば、部品の軽量化と接合強度の両立につながります。

高周波基板や放熱部材へ展開

通信機器の高速化・大容量化が進むなか、5G/6G機器向けの高周波基板にも分子接合技術の応用が広がっています。同社が対象とするのは、誘電損失を抑えたい高周波基板や、発熱量の大きい半導体の放熱部材です。こうした現場に向けて、技術相談から受託研究開発、分子接合剤の販売までを一貫して手がけています。通信機器と半導体の両方で、性能を左右する接合部の課題に応えられるようになります。

岩手から世界へ技術革新目指す

異なる性質を持つ材料どうしを、どう組み合わせて使うかは、自動車・電子機器・医療機器など幅広い産業に共通する課題とされています。分子接合技術のように、接着剤に頼らず化学結合で材料をつなぐ手法への注目は、国内外で研究が進められている分野です。岩手大学発のいおう化学研究所は、「岩手の大地から世界を動かす技術革新」を掲げ、ものづくりの現場から材料接合のあり方を変えていくことを目指します。地域発の研究が、幅広い産業の接合技術を支える基盤に育つ可能性があります。

会社概要|株式会社いおう化学研究所

岩手大学の研究から起業

株式会社いおう化学研究所は、2007年4月に岩手県盛岡市で設立されました。創業の中心となったのは、岩手大学の森 克仁氏です。背景にあるのは、かつて岩手県にあった松尾鉱山の硫黄を有効利用する目的で、岩手大学工学部応用化学科(現・理工学部化学・生命理工学科)でトリアジンチオール化合物の研究が進められてきた経緯です。この研究成果を産業に応用することを目的に会社が設立されました。本社は、盛岡市産学官連携研究センター内に置かれています。

岩手大学発の研究成果ベンチャー

いおう化学研究所は、岩手大学が認定する「研究成果ベンチャー」として、大学との関係を保ちながら事業を進めています。国内10件、海外5件の特許を保有し、コア技術には「表面処理方法、表面処理剤、および新規化合物」が挙げられています。2025年には、コンポジットハイウエイアワードで準グランプリを受賞しました。

技術相談から量産支援まで

同社は、製品・サービスの提供を開始した段階にあり、技術相談・受託研究開発から生産立ち上げ支援、分子接合剤の販売、ライセンス事業までを一貫して手がけています。想定する取引先は、自動車・航空宇宙、電気・電子、ヘルスケア・メディカル、社会インフラの各分野で異種材料の接合に課題を持つ製造業です。今後は、導入事例の積み重ねと、量産に向けた供給体制の拡充が課題になります。

会社情報

会社名株式会社いおう化学研究所
所在地岩手県盛岡市上田四丁目3番5号 盛岡市産学官連携研究センター
設立2007年4月
代表森 克仁(代表取締役社長。岩手大学 教授)
資本金1,000万円
事業分子接合技術をベースにした技術相談、受託研究・開発、生産立ち上げ支援、分子接合剤(MB剤)の販売、ライセンス事業
技術領域分子接合技術、トリアジンチオール化合物、異種材料接合、表面処理、複合材料
連携岩手大学(研究成果ベンチャーとしての技術移転元)
採択2025年 コンポジットハイウエイアワード 準グランプリ

編集後記|FrontJournal編集部より

異なる材料を組み合わせて使うという発想は、ものづくりの現場では当たり前になりつつあります。その一方で、材料と材料をどうつなぐかという接合の技術は、意外と地道な積み重ねの上に成り立っていることを、今回の取材で改めて感じました。接着剤という当たり前の手段を疑うところから、分子接合技術は生まれています。

いおう化学研究所が向き合うのは、接着剤の層という「弱点」そのものを無くすという、シンプルながら本質的な課題です。かつて岩手県にあった硫黄鉱山の硫黄を有効利用するという地域の研究が、化学結合による材料接合という技術に育っていった経緯にも、地方発の研究開発の底力を感じます。特許を積み重ねながら事業を進める姿勢からも、大学発ベンチャーとしての粘り強さがうかがえます。

接着剤に頼らない分子接合技術が、自動車や通信機器のものづくりを静かに変えていく日が来るかもしれません。同社のこれからの展開に注目したいと思います。

FrontJournal編集部

出典:経済産業省 大学発ベンチャーデータベース2026

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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