VOCs DeepTech Lab|呼気に含まれる揮発性有機化合物を解析し肝臓の異変を非侵襲で捉える京都大学発ディープテック

VOCs DeepTech Lab株式会社(ヴォックスディープテックラボ)

VOCs DeepTech Lab「呼気VOCs」を研究|研究領域=呼気の分子から肝臓の状態を知る/強み=非侵襲で何度でも測れる/将来性=健診から企業の健康管理へ

企業紹介|VOCs DeepTech Labとは?

息を吐くだけで体の変化を捉える手がかりとして、注目を集める「呼気VOCs」。VOCs DeepTech Lab株式会社は、その社会実装を目指す、京都大学発の医療系ディープテック企業です。同じ人の呼気を繰り返し測って蓄積する基盤「Longitudinal Breath Data Platform」を、医療機関や企業とのPoC(試験的な導入)で構築しています。

キーワード「呼気VOCs」(呼気中の揮発性有機化合物)

「呼気VOCs」は、吐いた息に約1,000種類含まれるといわれる、微量の揮発性有機化合物の総称です。特徴は、体内で進む化学反応の痕跡が、分子の組み合わせとして息に現れる点にあります。健康診断や日々の体調管理の現場で、非侵襲(体を傷つけない方法)で体の状態を調べる手がかりになります。

市場課題|脂肪性肝疾患が世界で増えている

現状の肝臓の検査の課題|現状は、自覚症状が乏しく検査の負担も大きい/自覚症状が乏しく発見が遅れる/肝生検は体への負担が大きい

肝臓の異変は自覚症状が出にくい

肝臓は、異変が進んでも自覚症状が現れにくく、発見が遅れやすい臓器です。代謝の異常にともなう脂肪性肝疾患(MASLD:肝臓に脂肪がたまる病気)は、世界で増加しているといわれています。気づかないまま線維化(組織が硬くなる変化)が進むと、肝硬変や肝がんへ進行する恐れがあります。

肝生検は体への負担が大きい

肝臓の状態を組織から直接調べる肝生検は、針を刺して組織を採るため、体への負担が大きい検査です。出血などの危険をともなうことから、同じ人が何度も受けることは容易ではありません。血液検査や画像診断で代替する試みも進んでいますが、細胞の中で進む酸化の程度までは捉えにくいのが現状です。

他にも、一般的な健診の項目には収まりにくい早期の兆候、検査のたびに医療機関へ足を運ぶ時間と費用の負担、個人ごとの体質差に合わせにくい検査値の基準、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 肝生検腹部に針を刺して肝臓の組織を採り、顕微鏡で調べる検査を指す。炎症や線維化の程度を直接確認でき、血液検査などの間接的な指標だけでは得られない情報が得られる。

VOCs DeepTech Labの強み|「呼気VOCs」を研究

VOCs DeepTech Labが「呼気VOCs」を研究|今後は、呼気の解析で早期の把握が可能に/呼気の分子で肝臓の異変を捉える/息を吐くだけで繰り返し測れる

呼気の分子で肝臓の異変を捉える

従来の呼気分析では、息に含まれるどの分子が体内のどの反応から生じたのかを結びつけにくく、測った値を体の状態の判断に使うことは容易ではありませんでした。

同社が基盤に置くのは、フェロトーシス(鉄が関わる脂質の酸化によって起きる細胞死)に着目した解析です。細胞の膜を構成する脂質の一種である不飽和脂肪酸が鉄の作用で酸化されると、1-オクテン-3-オールなどの揮発性の分子が生じ、呼気に現れます。これらをGC-MS(ガスクロマトグラフ質量分析計)で同時に測る手法です。ヒトを対象とした検証では、脂肪性肝疾患や肝硬変の患者の呼気からこれらの分子が実際に検出されています。検証が進めば、体内の脂質の酸化の程度非侵襲で把握できます。

息を吐くだけで繰り返し測れる

一時点の検査値だけでは、体の状態が日々どう動いているかまでは追いにくく、変化の兆しは見落とされやすくなります。

同社は、呼気データを時間軸に沿って蓄積する基盤の構築を進めています。呼気は息を吐くだけで採取できるため、同じ人から何度でも測り直せます。蓄積したデータから読み取るのは、個人ごとの基準値からの変化と、集団どうしの傾向の違いです。将来はAI(人工知能)による解析を組み合わせ、分子の組み合わせと体の状態を結びつけることを目指しています。一人ひとりの変化を早い段階で把握できるようになり、日々の体調の管理を続けやすくなります。

FrontJournalの解説
  • フェロトーシス鉄の作用で細胞膜の脂質が酸化され、細胞が死に至る現象を指す。肝疾患や心疾患との関わりが報告されており、進行の過程で生じた揮発性の分子が体外へ出る点が注目されている。

呼気VOCsの未来|予防医療とヘルスケアへの応用

継続的な呼気データが変える未来|健診から企業や研究の現場へ広がる/予防医療の健診に応用できる/企業の健康管理や食品研究へ/呼気データを社会実装へ

予防医療の健診に応用できる

呼気VOCsの解析は、予防医療の健診への応用が見込まれています。息を吐くだけで採取できるため、採血や画像診断と比べて受け手の負担は小さく、受診の心理的な壁も低いのが利点です。肝疾患のように自覚症状が出にくい領域では、早い段階の兆候を拾う手がかりになると期待されています。健診の場で変化を捉えられれば、精密検査へ進む判断も早くなります。

企業の健康管理や食品研究へ

応用の先は医療機関にとどまらず、企業の健康管理労働安全の領域へも広がります。用途として検討しているのは、働く人の体調の変化を企業との連携を通じて継続的に捉える使い方です。食品や飲料、サプリメントの分野では、商品を摂取した前後で呼気の成分がどう動くかを調べる研究への活用が見込まれます。医療以外の現場でも、体の反応を数値で確かめる手段が増えます。

呼気データの社会実装を目指す

同社が目指すのは、呼気を一時点の測定値ではなく、継続的に蓄積するデータ資産へ育てることです。そのために、大学や研究機関で生まれた科学的な知見を、共同研究やPoCを通じて技術と事業へつなげています。次の段階は、蓄積した呼気データとAI解析を組み合わせ、疾患の兆候を早期に捉える基盤の確立です。息を吐くという日常の動作が、健康を見守る手段として定着する未来を目指しています。

会社概要|VOCs DeepTech Lab株式会社の事業内容・設立背景

呼気の研究成果から起業

VOCs DeepTech Labは、2024年12月19日に設立されました。代表取締役は大西英明氏です。設立の背景には、京都大学を中心に積み上げられてきた呼気VOCsとフェロトーシスの成果を、社会で使える技術と事業へつなげる狙いがあります。2026年には、本店を慶應義塾大学信濃町キャンパス内へ移転しました。

大学との連携と実施権の確保

同社は、慶應義塾大学、京都大学、東海大学などとの研究連携を事業の基盤に置いています。京都大学の松岡悠太特定助教と杉浦悠毅特定准教授、慶應義塾大学の勝俣良紀専任講師らが、フェロトーシスと呼気の関係を追う研究に取り組んできました。同社はその成果にもとづく出願中の特許「疾患の検出方法」と「疾患判定のプログラム等スクリーニング」について、独占的通常実施権(他社には許諾されず、同社だけがその発明を使える権利)を、世界を対象に取得しています。

共同研究とPoCで事業化

同社の事業の軸は、企業や大学、医療機関との共同研究やPoCです。呼気ガスの揮発性有機化合物を測るセンシングシステムの開発についても、共同研究契約を結んでいます。オープンイノベーションのイベント「Innovation Leaders Summit」では、2025年に参加756社の中から「TOP100 STARTUPS」に選ばれ、2026年には主催者推薦も受けています。

会社情報

会社名VOCs DeepTech Lab株式会社(ヴォックスディープテックラボ)
所在地東京都新宿区信濃町35 慶應義塾大学 信濃町キャンパス2号館9階
設立2024年12月19日
代表大西 英明(代表取締役)
資本金1,000万円
事業呼気VOCsに関する研究開発。呼気データの収集・分析・解析。継続的な呼気データの基盤「Longitudinal Breath Data Platform」の研究開発・事業化。大学・医療機関・企業等との共同研究および事業連携。呼気分析に関連する機器・サービスの研究開発および提供
技術領域呼気VOCs、フェロトーシス、揮発性酸化脂質、GC-MSによる呼気分析、非侵襲スクリーニング、予防医療
連携慶應義塾大学、京都大学、東海大学等との研究連携。出願中の特許「疾患の検出方法」「疾患判定のプログラム等スクリーニング」について独占的通常実施権を世界を対象に取得。「呼気ガスの揮発性有機化合物センシングシステム開発」の共同研究契約
採択Innovation Leaders Summit 2025「TOP100 STARTUPS」選出(2025年11月・参加756社)。Innovation Leaders Summit 2026 主催者推薦(2026年9月)
URLhttps://vocs-deeptech.com/

編集後記|FrontJournal編集部より

息を吐くという、誰もが毎日繰り返す動作が、体の中を映す窓になります。血液や組織を採らなくても、細胞の中で進む酸化の痕跡は、分子となって外へ出ています。当たり前のようでいて測りにくかったこの現象を、分析技術の進歩によって数値で捉える研究が進行中です。

同社が描くのは、単なる検査機器ではなく、時間軸を持つデータの基盤です。一度測って終わりにせず、同じ人の呼気を何度も測り、その動きから変化を読み取ります。負担の小さい検査だからこそ成り立つ発想であり、継続できること自体が価値になります。

大学の研究室で見つかった分子が、健診の現場へ届く日が来るかもしれません。同社のこれからの歩みに期待が集まります。

FrontJournal編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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