株式会社FullDepthは水深300m級の産業用水中ドローンを開発する筑波大学発スタートアップ

株式会社FullDepth(フルデプス)

FullDepth|研究領域=船上から操る無人の潜水機/強み=細くて抵抗が小さい光ファイバー/将来性=洋上風力の点検と自律型の潜水機へ

企業紹介|株式会社FullDepthとは?

ダムや洋上風力の水中部を、船上から映像で確かめられる技術として、注目を集める「産業用水中ドローン」。株式会社FullDepthは、その「産業用水中ドローン」の社会実装を目指す、筑波大学発のロボット系ディープテック企業です。水深300m級の「DiveUnit KAI」などを、ダムや港湾、洋上風力の点検現場へ提供しています。

キーワード「産業用水中ドローン」

産業用水中ドローンは、船上から伸びるケーブルで電力と信号をやり取りしながら水中を移動する、遠隔操作型の無人潜水機です。特徴は、人が潜りにくい深さや暗い場所でも、映像や計測データをその場で船上へ送れる点にあります。ダムの堤体や橋脚、港湾の岸壁、洋上風力の基礎など、水に沈んだ構造物の点検で使えます。

市場課題|水中インフラ点検の負担

現状の水中点検の課題|潜水士の負担が大きく範囲も限られ、大型の探査機は船と人員を要する

水中点検は潜水士の負担が大きい

ダムや橋脚、港湾の岸壁といった水中の構造物の点検は、潜水士の作業に頼ってきました。水中は視界が悪く、深さに応じて潜水できる時間も決まるため、一度に確認できる範囲は限られます。安全の確保にかかる費用と時間が積み上がり、点検の頻度を上げる余裕はわずかです。

大型探査機は船と人員を要する

潜水士に代わる大型の無人探査機(ROV)は、運用に専用の船とクレーンを要します。機体が重く船上の設備も大がかりになるため、一回の調査にかかる費用と人員の負担は小さくありません。そのため日常的な点検にはなじみにくく、異常が疑われたときだけ調べる運用が続いています。

加えて、濁った水での視界の確保や、潮流の中で機体を保つ操作の習熟も現場の壁です。記録した映像を読み解く手間や、経年で比べる基準の作りにくさもあります。他にも、限られた技能者への作業の集中、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • ROV船上の機器とケーブルでつながれ、人が遠隔で操縦する無人潜水機を指す。電力を送り続けられるため稼働時間の制約が小さく、映像を見ながら作業を進める用途に向く。

FullDepthの強み|小型ROVの実装

FullDepthが「産業用水中ドローン」を開発|人が潜らず船上の画面で確認でき、細いケーブルで小型の船から運用できる

小型機で人が潜らず撮影

従来の点検は、潜水士が潜って目視で確かめる方法が基本で、水中では照明と視界の条件が限られ、記録も作業者の観察に左右されます。

同社が開発するのは、人が潜らず水中の様子を船上の画面で確かめられる小型のROVです。同社の製品のうち大きい方の「DiveUnit KAI」は重量40kgで、最小2名で扱える大きさに収めました。小さい方の「DiveUnit HAYATE」は15kgで、1人でも持ち運べます。いずれもFullHDのカメラと最大1500ルーメンの照明を備え、板厚の計測や試料の採取を含む10種類以上の計測機器を搭載できる設計です。2018年には自社開発の実証機「TripodFinder」で深海1000m域に到達しました。

細径ケーブルで小型船から運用

水中の機体は、船上とつなぐテザーケーブルが太いほど潮流から受ける抵抗が大きくなり、狙った位置を保ちにくくなります。

同社の中核にあるのは、高強度のポリマーで被覆した光ファイバーを用いた、業界最細クラスのテザーケーブルです。細いほど水の抵抗は小さくなる一方、断線を避ける強度も必要なため、同社は約140kgの引張強度を確保しました。長さは標準で300m、オプションでは1500mまで延ばせ、信号を光で送るため長い距離でも減衰しにくい設計です。機体側は8基のスラスター(推進器)で、向き・深さ・前後の傾き(ピッチ)を自動で保ちます。人手で投入できる大きさのため、小型の船からでも運用できます。

FrontJournalの解説
  • テザーケーブル水中の機体と船上の機器をつなぐ細長い線を指す。電力の供給と映像の伝送を担う一方、太いほど水の抵抗を受けるため、細さと強度の両立が機体の運用範囲を左右する。

産業用水中ドローンの未来|洋上風力へ

産業用水中ドローンが変える未来|ダムや港湾ですでに使われ、洋上風力の点検へ拡大し、自律で航行する潜水機を目指す

ダムや港湾の点検で稼働

産業用水中ドローンは、ダムや港湾の点検ですでに使われています。同社の機体は、国土交通省の点検支援技術カタログと、NETIS(新技術情報提供システム)の掲載対象です。水面の上からは見えない基礎や壁面の状態も、映像として記録に残せます。潜水の準備を伴わないため、必要と判断した日にその場で確認する運用も可能です。

洋上風力の維持管理へ拡大

洋上風力発電の維持管理は、今後数年で需要が増えると見込まれる用途です。基礎の構造物や海底ケーブル、基礎の周りが波で削られる洗掘の状況を確かめる作業が、定期的に発生します。2025年7月には内閣府の「自律型無人探査機(AUV)利用実証事業」に採択され、日鉄エンジニアリングや沖電気工業などと、洋上風力発電設備の維持管理モデルづくりに取り組んでいます。自律で航行する船と組み合わせ、点検の一部を無人で行う実証も進行中です。

自律型のAUVを目指す

同社は、遠隔操作型のROVから自律型のAUVへ進むことを目指しています。AUVはケーブルでつながずに自ら航行するため、人の操作に頼らず広い範囲を回れる点が利点です。そのためには、水中で自分の位置を推定し、障害物を避けながら計測を続ける技術が要ります。同社は取得した水中の計測データを解析する基盤とあわせて開発を進め、水中の作業を人手から機械へ移すことを目指します。

会社概要|FullDepthの事業内容・設立背景

筑波大学の研究から創業

株式会社FullDepthは、筑波大学でのロボット研究を出発点とする会社です。2014年6月に株式会社空間知能化研究所として設立し、2018年3月に現在の社名へ変更しました。創業に加わったのは、筑波大学でロボット工学を学んだ伊藤昌平氏と、同大学の中内靖教授です。現在は、代表取締役社長CEOを吉賀智司氏、取締役CSOを伊藤氏、取締役会長を中内氏が務めています。

採択・連携

同社は、公的機関の事業と民間企業との協業の両方で連携を広げています。2025年7月には、内閣府の「自律型無人探査機(AUV)利用実証事業」に採択されました。2026年5月には、三井E&Sや日本海洋エンジニアリング、沖電気工業とともに、洋上風力発電設備を無人で点検する構想を公表しています。

資金調達/ビジネスモデル

直近の調達は、2025年12月に公表したシリーズDの総額9.5億円です。シリーズDは一般に、製品の販売が始まったあと、事業の規模をさらに広げる段階の調達を指します。引受先は三井住友海上キャピタルやあおぞら企業投資、Beyond Next Ventures、DRONE FUNDなど複数の投資家です。資金は水中計測データの解析と、AUVに向けた基盤技術の研究開発にあてる方針です。

会社情報

会社名株式会社FullDepth(FullDepth Co., Ltd.)
所在地東京都中央区東日本橋2-8-4 東日本橋1stビル
設立2014年6月4日(設立時の社名=株式会社空間知能化研究所。2018年3月に現社名へ変更)
代表吉賀 智司(代表取締役社長CEO)。伊藤 昌平(取締役CSO)。中内 靖(取締役会長、筑波大学教授)
資本金1000万円
調達シリーズD 総額9.5億円(2025年12月)。引受先に三井住友海上キャピタル、あおぞら企業投資、Beyond Next Ventures、DRONE FUNDなど
事業産業用水中ドローンの企画・開発・製造・販売。産業用水中ドローンを使用した点検・調査業務。DiveUnit KAI(水深300m、40kg、幅444mm・奥行827mm・高さ490mm)。DiveUnit 300 Lite(拡張性とメンテナンス性を高めた機種)。DiveUnit HAYATE(水深50m、15kg)
技術領域産業用水中ドローン(ROV)。細径の光ファイバーテザーケーブル。自動姿勢保持。自律型無人潜水機(AUV)
連携三井E&S、日本海洋エンジニアリング、沖電気工業(洋上風力の無人点検構想、2026年5月)
採択内閣府 自律型無人探査機(AUV)利用実証事業(2025年7月)。国土交通省 点検支援技術カタログ・NETIS 掲載
URLhttps://fulldepth.co.jp/

編集後記|FrontJournal編集部より

海に囲まれた日本では、水に沈んだ構造物の点検が絶えず発生します。その現場を長く支えてきたのは潜水士の技能であり、担い手の数がそのまま点検の範囲を左右する構図です。FullDepthの機体は、その作業を支えるとともに、確かめられる回数そのものを増やす道具として受け取れます。

技術の核心が1本のケーブルにあるという点も印象に残ります。細くすれば流れに強くなり、強くすれば太くなる。この相反する条件を約140kgの引張強度という一点で折り合わせたところに、単なる小型化ではない現場からの設計が見えます。

遠隔で操る道具から、自ら潜って調べる存在へ。筑波大学から始まった挑戦が、日本の水中インフラをどこまで見通せるようにするのか、注目したいところです。

フロントジャーナル編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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