株式会社グレースイメージングは汗乳酸センサを開発する慶應義塾大学医学部発のスタートアップ

株式会社グレースイメージング

グレースイメージング「汗乳酸センサ」を研究|研究領域=汗の乳酸から運動の強さを測る/強み=1枚のチップで採血がいらない/将来性=病院とスポーツで使い道が広がる

企業紹介|株式会社グレースイメージングとは?

心臓リハビリテーションで一人ひとりに合った運動の強さを決める手段として、注目を集める「汗乳酸センサ」。株式会社グレースイメージングは、その社会実装を目指す、慶應義塾大学医学部発の医療機器系ディープテック企業です。汗の乳酸を計測するチップとデバイス、専用のアプリを、医療機関やスポーツの計測サービスへ提供しています。

キーワード「汗乳酸センサ」

汗乳酸センサ」は、皮膚に貼ったチップで汗に含まれる乳酸の濃度を測り続ける計測器です。特徴は、運動で筋肉から出る乳酸の増え方を、採血をせずにその場で追える点にあります。心臓リハビリテーションやマラソンの練習で、乳酸が急に増え始める時点の運動の強さを把握できます。

市場課題|適量を測る検査が普及しにくい

現状の心臓リハビリの課題|心不全が増え適量が定めにくい/装置が高額で実施施設が限られる

心不全が増え適量の設定が難しい

心不全の患者が増えるなかで、一人ひとりに安全な運動の強さを決めることが難しくなっています。心疾患の救命が進んだ結果として患者は増え続け、2030年には国内で約130万人に達すると推計され、心臓リハビリテーションの実施件数も2023年の1年間で約530万件へ達しました。目安が定まらないまま対象者だけが増えると、運動療法の質を保ちにくくなります。

装置が高額で実施施設が限られる

運動の適量を決める心肺運動負荷試験(CPX検査)には高額な装置が要るため、実施できる施設は限られます。この装置は呼気の二酸化炭素の量を測るもので、操作の習熟にも時間がかかるため、2011年の報告では循環器の専門施設のうち呼気ガス分析を併用する施設は14%でした。検査を受けられないまま運動療法が始まると、過負荷を避けて低めの負荷が処方され、質の高い運動療法になりにくいと想定されています。

他にも、マスクを着けたまま限界近くまで運動する患者の負担や、煩雑な操作の習熟に要する人材育成の時間があります。大型の装置を置く場所の確保、導入の費用、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 心肺運動負荷試験自転車型の機器などで運動の負荷を段階的に上げ、呼気に含まれる酸素と二酸化炭素の量から運動への耐性を評価する検査を指す。心臓リハビリテーションで運動の強さを処方するときの基準となる。

グレースイメージングの強み|汗から運動の閾値を読む

グレースイメージングが「汗乳酸センサ」を開発|酵素と電極で汗の乳酸を測る/大型の装置がなく貼るだけで測れる

汗の乳酸から運動の閾値を測る

血液に含まれる乳酸を測る方法では、運動の途中で何度も採血が必要になるため、濃度の変化を連続して追いにくくなります。

同社の「汗乳酸センサ」は、汗の乳酸を電流の大きさに置き換えて測ります。皮膚に貼るチップの中では、酵素(特定の物質だけを選んで反応させるたんぱく質)が乳酸から電子を取り出し、媒介物質(電子を電極まで運ぶ物質)がそれを電極(電気の出入り口)へ届けます。汗の乳酸は発汗量に左右され、血液中の濃度とは必ずしも一致しません。そこで同社が読み取るのは、濃度そのものではなく、運動の負荷を上げる途中で急に立ち上がる折れ曲がりの点です。この境目を汗乳酸性代謝閾値(sLT)と呼び、運動の限界の目安にします。

貼るだけで測定でき操作も簡素

呼気ガス分析を使う方法では、大型の装置とマスクが要り、測定を担当する人にも習熟が求められます。

同社のシステムは、肌に貼る小さなチップだけで誰でも測定できます。汗をかく部位にチップを貼ると計測が始まり、測定データは無線通信でアプリへ送られます。あわせて使うのは、記録と転送のデバイススマートフォンアプリクラウド(インターネット上の保管場所)などです。心不全の患者50人が参加した医師主導治験では、発汗量が少ない場合などは判定が難しく、比較できたのは32例でした。この32例で、sLTと呼気ガス分析で求めた閾値の相関係数(1に近いほど2つの値がそろって動くことを表す指標)は0.651でした。

FrontJournalの解説
  • 汗乳酸性代謝閾値閾値とは状態が切り替わる境目の値を指し、汗乳酸性代謝閾値は、運動の負荷を上げるなかで汗の乳酸の濃度が急に立ち上がる境目を指す。絶対値ではなく変化の折れ目を読む考え方である。

汗乳酸センサの未来|医療とスポーツへの応用

貼る汗乳酸センサが変える未来|ランナー向けの計測サービスで実用/医療機器の承認を取得し発売へ/アプリと組み合わせ日々の運動を支える

ランナー向け計測サービスで実用

市民ランナー向けのサービスとして、同社の計測技術はすでに使われています。ミズノ株式会社などが提供する汗乳酸計測サービス「LacttoRUN30」は2022年11月に始まり、東京と大阪の店舗で受けられます。デバイスとサービスの供給は、2023年4月にミズノ株式会社などと結んだ取引基本契約に基づくものです。2026年3月には、この計測サービスの利用券が大阪市のふるさと納税の返礼品となりました。

承認を取得し保険適用を目指す

同社は2025年12月3日に、汗乳酸モニタリングシステム「SweatWatch」の製造販売承認を取得しました。同じ分類の医療機器では国内初(自社調べ・2025年11月時点)としています。承認番号は30700BZX00315000で、管理医療機器です。2025年4月には高度管理医療機器等販売業貸与業の許可も取得し、今後は保険適用と発売を目指しています。

運動支援の仕組み化を目指す

同社が目指しているのは、計測した値を運動の処方まで結び付ける仕組みです。その一つが心不全の患者に向けた運動支援・教育啓発のプログラム医療機器(SaMD)で、2025年7月に慶應義塾大学などとの共同研究グループが探索的医師主導治験で有効性と安全性を確認しました。在宅での運動を支えるアプリ「すこナビ」は、2025年1月から慶應義塾大学病院へ提供されています。2021年からはJSTの「共創の場形成支援プログラム」にも参画し、生体情報の統合データベースの構築を目指しています。

会社概要|グレースイメージングの事業内容

整形外科医が慶應大発で創業

株式会社グレースイメージングの設立は、2018年7月2日、東京都新宿区です。代表取締役の中島大輔氏は、慶應義塾大学医学部整形外科学教室で10年以上にわたり医師として勤務したのち、同大学医学部発のベンチャーとして同社を立ち上げました。2019年6月にはソニーグループ株式会社の支援のもとで汗乳酸センサの開発を開始しました。同年9月には、JSR株式会社と同社を引受先とする第三者割当増資を実施しています。

採択・連携

同社は、創業の初期から公的な支援制度に採択され、表彰も受けてきました。2019年3月に「IBM BlueHub」第5期で最優秀賞、同年12月に「第4回健康医療ベンチャー大賞」の社会人部門で優勝しています。2019年10月には東京都の「先端医療機器アクセラレーションプロジェクト」に採択され、2021年3月には同事業の補助対象者に選ばれました。2020年には「MedTech Innovator Asia Pacific」への選出や、総務省の「異能vationプログラム」での分野賞受賞が続きました。

累計約7.4億円を調達

同社の累計調達額は、2023年7月時点で約7.4億円です。2023年7月にはシリーズBとして5.1億円を調達しました。シリーズBは、製品を市場へ出す体制を整える段階の資金調達です。引受先は慶應イノベーション・イニシアティブ、QBキャピタル、三菱UFJキャピタル、D3 LLC、メディパルホールディングスのファンドなどで、資金は量産と販売体制の構築、SaMDの開発に充てるとしています。

会社情報

会社名株式会社グレースイメージング(Grace imaging, Inc.)
所在地東京都新宿区信濃町35番地 慶應義塾大学信濃町キャンパス2号館9F CRIK信濃町N7
設立2018年7月2日
代表代表取締役:中島 大輔
資本金1億円(資本準備金を除く)
従業員12名
調達累計約7.4億円(2023年7月時点)。シリーズB 5.1億円(2023年7月)。引受先は慶應イノベーション・イニシアティブ、QBキャピタル、三菱UFJキャピタル、D3 LLC、メディパルホールディングスのファンドなど
事業汗乳酸センサを用いた疲労の分析・評価サービスの開発と提供。汗乳酸モニタリングシステム「SweatWatch」(承認番号 30700BZX00315000/2025年12月3日承認)
技術領域バイオセンサ、汗乳酸計測、乳酸性代謝閾値、ウェアラブルデバイス、第二種医療機器製造販売業(13B2X10566)、医療機器製造業(13BZ201775)
連携慶應義塾大学医学部/ミズノ株式会社・ミズノスポーツサービス株式会社(2023年4月 取引基本契約)/産業医科大学/岐阜大学
採択東京都 先端医療機器アクセラレーションプロジェクト(2019年10月採択/2021年3月 補助対象者)。IBM BlueHub 第5期 最優秀賞(2019年3月)。第4回健康医療ベンチャー大賞 社会人部門優勝(2019年12月)。異能vationプログラム 分野賞(2020年11月)
URLhttps://www.gr-img.com/

編集後記|FrontJournal編集部より

運動の強さを測る話は、これまで大きな装置の中に閉じていました。グレースイメージングが持ち込んだのは、誰もがかいている汗という身近な材料です。検査室の外でも運動の適量を語れる可能性があります。

注目したいのは、絶対値をあきらめて折れ曲がりの点を読むという判断です。汗の乳酸は血液の値とそのまま重なりません。それでも閾値という形なら医療に使えると見極め、治験まで運び切った点に、創業した医師らしさがあります。

心臓リハビリテーションの現場から市民ランナーの足元まで、汗のデータがどこまで広がるのかを注視したいところです。

フロントジャーナル編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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