岩石風化促進技術研究組合(J-ERW)|岩石の風化によるCO₂除去量の測定と認証を確立する札幌の技術研究組合

岩石風化促進技術研究組合(J-ERW)

J-ERWが「岩石風化促進」を研究|研究領域=砕いた岩石がCO₂を鉱物に固定、強み=除去量を測るMRVを確立、将来性=認証でCO₂除去がクレジットになる

企業紹介|岩石風化促進技術研究組合とは?

大気中のCO₂を回収する手段として「岩石風化促進(ERW)」が注目されています。岩石風化促進技術研究組合(J-ERW)は、北海道大学大学院工学研究院・資源循環材料学研究室発の、環境系ディープテックの技術研究組合です。J-ERWは、この技術の社会実装に不可欠な測定基盤を整備しています。組合員には北海道大学のほか、採石・破砕を担う企業3社と研究者が参画。研究開発と炭素会計情報基盤の拡充を担います。

キーワード「ERW」(岩石風化促進)

「ERW」は、岩石が雨水に溶けたCO₂と反応して分解する自然の風化作用を、人為的に促進する二酸化炭素除去の手法です。粉砕した岩石を農地や斜面に散布することで、大気中のCO₂を炭酸水素イオンや炭酸塩鉱物として長期間固定化できる点が特徴。岩石の粒度が細かいほど表面積が広がり反応速度が向上するため、自然界で数万年を要する反応を数年から数十年単位へ短縮できます。原料には玄武岩やかんらん岩が用いられ、北海道内の採石場や休廃止鉱山といった既存資源を活用できます。

市場課題|CO₂除去の成果可視化が困難

現状のCO₂除去の課題|土や雨に左右され除去量を測りにくく、日本に合う手法は整備の途上

除去量の定量化が難しい

大気中のCO₂を取り除く二酸化炭素除去(CDR)は、排出削減と比べ成果を可視化しにくい分野です。風化で固定されたCO₂は土壌や河川へ分散し、工場排出のような直接計測が困難です。効果を客観的に示せなければ資金調達も人材確保も難航し、研究の実装化が停滞しかねません。

国内環境に適合する基準が未整備

除去量をカーボンクレジットとして扱う認証基準は、日本の環境に適合する形では十分に整備されていません。共通ルールの策定は欧米の認証機関が先行する一方、風化速度を左右する岩石種や降水量、気温、土壌条件は地域ごとに異なります。基準が定まらないうちは買い手も慎重で、国内取引が広がりにくい状況です。

他にも、現場ごとに条件が変わるために生じるデータ収集コストの増大、固定化したCO₂が長期にわたり留まるかを確かめる追跡調査の負担、散布地の地権者との合意形成、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 二酸化炭素除去(CDR)大気中にすでにあるCO₂を回収し、長期間貯留する技術の総称。排出を減らす対策とは別に、除去そのものを進める考え方を指す。
  • カーボンクレジット温室効果ガスの削減量や除去量を売買できる証書にしたもの。企業が自社の排出を埋め合わせる手段として取引される。

J-ERWの強み|CO₂除去量の測定手法を確立

J-ERWが「岩石風化促進」を開発|実験とモデルで除去量を算定し、日本の条件に合う炭素会計を整備

実験とモデルで除去量を算定

J-ERWが確立を目指すMRV(測定・報告・検証)は、岩石の風化で固定されたCO₂量を客観的に証明する共通手順です。現場の測定値のみでは降水量や土壌性質による差異を説明できず、研究ごとに前提の異なる数値が並びます。そこで室内実験で岩石固有の反応速度を算出し、地球化学反応モデル(自然界の化学反応を計算で再現する手法)で長期挙動を予測し、現場データと照合。散布した岩石のCO₂固定量を、算定根拠まで遡って提示できる点が強みです。測定手法の標準化により、地域や年度をまたいだ成果比較が可能になります。

日本独自の炭素会計ルール確立

もう一つの柱は、炭素会計(CO₂の排出量と吸収量を記録する手法)を日本の地質や資源環境に合わせて確立することです。風化速度を決める条件は地域ごとに異なるため、欧米で先行する基準をそのまま適用しても国内の実態には合いにくくなります。J-ERWが整備を進めるのは、岩石が吸収したCO₂量から採掘・粉砕・運搬の全工程で生じた排出量を差し引き、正味の除去量を算定する情報基盤です。一企業単独のルール策定は客観性を欠きやすい一方、技術研究組合という枠組みでは北海道大学の学術データと複数企業の現場知見が集約されます。メンバーが役割を分担し、公平に利用できる業界共通の基準を効率的に整備できる点が、同組合の利点です。

FrontJournalの解説
  • MRVMeasurement・Reporting・Verification の頭文字。削減量や除去量を、第三者が同じ手順で確かめられるようにする国際的な枠組み。
  • 炭素会計排出量と除去量を事業の単位で集計し、第三者が検証できる形で報告するための基準。除去量をクレジットとして認証する土台になる。
  • 技術研究組合複数の企業や大学が共同で研究開発するために設立する法人。経済産業大臣の認可を受け、成果や設備を組合員で共有する。

岩石風化促進の実績・未来|CO₂除去の社会実装

測れる岩石風化促進が変える未来|休廃止鉱山で現地試験が進み、農地に散布し土を整えCO₂を固定、国内の基準でCDRが広がる

休廃止鉱山における現地試験

北海道鹿部町では、稼働を終了した休廃止鉱山の跡地や森林斜面に岩石を散布する現地試験が進行中。国のムーンショット型研究開発事業に採択された「A-ERW」プロジェクトの一環として、佐藤努教授らが適地調査から試掘、粉砕試験までを牽引してきました。鉱山跡地は農地と競合せず、周辺水系の追跡が容易という利点があります。現地の実環境データは、室内実験とモデルによる算定を裏づける根拠になります。

農地散布で土壌改良と除去両立

今後の展開として有望なのが、農地への散布です。粉砕した玄武岩やかんらん岩にはカルシウムやマグネシウムが含まれ、酸性化した土壌を中和する効果があるとされています。作物の生育を促進しながら大気中のCO₂を固定化できるため、農業従事者にとっては土壌改良と環境保全の両立が可能です。事業開始説明会では、休廃止鉱山、農地散布、気固接触ハウス(岩石にCO₂を含む気体を通す施設)といった対象が、除去の見込み量やコスト、測定の難しさなど複数の指標で相対評価されました。

CDR普及を支える基盤を目指す

J-ERWが目指すのは、CO₂除去効果を国内で検証できる共通基盤の確立です。測定・評価手法が国内で標準化されれば、各地の実証データを統合して分析できます。日本の地質特性に最適化した手順は、類似の気候・地質条件を持つアジア圏への展開も見据えた土台となります。除去成果の透明性を確保することが、CDR技術を社会へ定着させる第一歩です。

FrontJournalの解説
  • ムーンショット型研究開発事業国が困難だが社会を変える研究課題を掲げ、長期に支援する制度。目標4は持続可能な資源循環の実現を扱う。
  • かんらん岩マグネシウムや鉄を多く含む岩石。マグマが冷えて固まったもので、CO₂と反応しやすく風化促進の原料に用いられる。

会社概要|J-ERWの事業内容・設立背景

北海道大学の研究から組合設立

岩石風化促進技術研究組合(J-ERW)は、2026年3月5日に経済産業大臣の認可を受け、同年3月11日に法人成立しました。北海道大学のグリーントランスフォーメーション先導研究センター等で蓄積された岩石風化促進の研究が母体です。代表理事には、資源循環材料学を専門とする佐藤努教授が就任。事務所は札幌市北区のインキュベーション施設(大学発企業の入居拠点)「北大ビジネス・スプリング」に置いています。北海道大学発の研究組織の広がりは、北海道大学発スタートアップ10選でも紹介しています。

産学連携による5者が組合員に

組合員として、株式会社鉄山協和組、株式会社ハタナカ昭和、株式会社アーステクニカ、国立大学法人北海道大学、および研究者の中垣隆雄氏が参画。ハタナカ昭和はかんらん岩を、グループ会社の奈江採石協同組合は玄武岩の採石を担います。アーステクニカは、破砕機・粉砕機の専業メーカーです。中垣氏は早稲田大学理工学術院の教授で、ムーンショット型研究開発事業「A-ERW」のプロジェクトマネージャーを務めます。

国の研究事業を基盤とする運営

J-ERWは、ムーンショット型研究開発事業「A-ERW」の成果を基盤として活動しています。目標4「持続可能な資源循環の実現」のもと、2022年10月から適地調査や粉砕試験、実環境試験、炭素会計情報基盤の整備を進めてきました。組合の主事業は、岩石風化促進技術の研究開発と炭素会計情報基盤の拡充です。製品販売を行う企業とは異なり、業界共通の手順や情報インフラを構築する公共性の高い組織です。

会社情報

名称岩石風化促進技術研究組合(J-ERW)
所在地北海道札幌市北区北21条西12丁目2 北大ビジネス・スプリング内
設立2026年3月11日 法人成立。2026年3月5日 経済産業大臣認可。
代表代表理事:佐藤 努(北海道大学大学院工学研究院 教授)
組織形態技術研究組合(経済産業大臣認可法人)
組合員株式会社鉄山協和組。株式会社ハタナカ昭和。株式会社アーステクニカ。国立大学法人北海道大学。中垣 隆雄(研究者・早稲田大学理工学術院 教授)。
事業内容岩石風化促進技術の研究開発。炭素会計情報基盤の拡充。
技術領域岩石風化促進(ERW)。二酸化炭素除去(CDR)。MRV。炭素会計。
法人番号8430005015430
URLhttps://www.j-erw.org/

編集後記|FrontJournal編集部より

CO₂を減らす技術は次々に生まれていますが、「どれだけ減らせたのか」を確かめる仕組みは後回しにされがちです。測り方が定まらないうちは、優れた技術ほど評価を得にくくなります。J-ERWが選んだのは、その土台を整える側の役割です。

目を引くのは、採石を担う企業と破砕機のメーカー、大学、研究者が同じ組合に集まっている点です。岩石を掘り、砕き、散布し、効果を測る一連の流れが、組合員の顔ぶれと重なります。現場と学術が同じ手順書を共有できる体制は、基準づくりの速さと確かさに効くはずです。

測り、確かめ、共有する。岩石という身近な素材からCO₂除去の信頼を積み上げる歩みに、期待しています。

フロントジャーナル編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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