ハルタゴールド株式会社|「金ナノ粒子触媒」を研究|細かい粉末を敷いた浅皿のイラスト

ハルタゴールド株式会社(Haruta Gold)

ハルタゴールド「金ナノ粒子触媒」を研究|研究領域=粉末入りサンプル瓶/金の粒子を担体に担持する・強み=温度計/低温でも金が触媒活性を示す・将来性=工場/排ガス処理と化学品製造へ拡大

企業紹介|ハルタゴールド株式会社とは?

ハルタゴールド株式会社は、東京都立大学発の材料系ディープテック企業です。同社は、金を10nm以下のナノ粒子にすることで低温でも働くようにした「金ナノ粒子触媒」を製造しています。主な事業は、研究者向けの触媒の製造・販売と、担体(金を固定する土台)や金の担持量を指定できる特注品の受託製造等です。2013年に設立され、2025年に札幌市へ拠点を移しました。

キーワード「金ナノ粒子触媒」

金ナノ粒子触媒は、酸化物やカーボンに10nm以下の金の粒子を担持(表面に固定)した固体触媒です。特徴は、低温でも酸化反応を進められる点。化学反応は粒子の表面で起こるため、金の粒子を数nmまで小さくして表面に露出する原子の割合を増やすと、担体との界面も含めた効果で触媒活性(触媒としての働き)が現れるとされています。利用が検討されているのは、排ガス処理や水処理の現場です。悪臭成分やVOC(揮発性有機化合物)の分解、飲料水の浄化、NOx(窒素酸化物)の還元などが対象です。

市場課題|酸化反応は高温と白金族に依存

現状の酸化反応の課題|✕付きの工業炉=高温の維持で燃料と排出が増える・✕付きの金属インゴット=低温触媒の白金族は調達しにくい

高温の維持で燃料と排出が増える

化学品の製造で使う酸化反応の多くは、高温を保つために多くのエネルギーを消費します。代表例は、石油化学の基礎原料を数百℃で合成する工程です。加熱に使う燃料は製造コストと温室効果ガスの排出に直結するため、脱炭素の要請が強まるほど負担が増します

低温触媒の白金族は調達しにくい

低温で働く触媒には白金やパラジウムが用いられることが多く、価格と供給の両面で調達しにくい局面があります。白金族金属の産出は南アフリカやロシアなど一部の国に偏り、価格は市況の影響を受けやすい状況です。材料の調達見通しが立たなくなれば、省エネを狙った反応プロセスの導入が遅れる要因になります。

他にも、高温に耐える反応装置をそろえる設備投資が負担になります。副反応による収率(目的の製品になった割合)の低下、昇温と降温にかかる時間、触媒の熱劣化の起こりやすさ、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 酸化反応物質が酸素と結びつく、あるいは物質から電子が奪われる反応。化学品の製造や排ガスの浄化など、工業の広い範囲で使われる。
  • 白金族金属白金・パラジウム・ロジウムなど6種類の金属の総称。触媒としての性能が高い一方、産地が偏っており価格の変動が大きい。

ハルタゴールドの強み|金が室温付近で酸化を進める

ハルタゴールドが「金ナノ粒子触媒」を開発|細かい粉末を敷いた浅皿=金の粒を小さくすると低温で働く・試薬瓶=金を載せる材料で反応が変わる

金の粒を小さくすると低温で働く

金ナノ粒子触媒の働きを左右するのは、金の粒径です。金は安定な金属で、塊のままでは酸素とほとんど反応しないため、触媒には向かないとされてきました。創業者の春田正毅氏は1987年、金を5nm以下の粒子にして酸化物に担持すると、室温付近でも一酸化炭素の酸化が進むと報告しました。金は小さくするほど低温で働くとされ、同社は金の担持量と焼成温度を管理し、性能のばらつきを抑えた触媒を製造しています。反応温度を下げられれば、加熱に使う燃料と温室効果ガスの排出を同時に抑えられます。

金を載せる材料で反応が変わる

金ナノ粒子触媒の働きは、金を担持する担体の種類によって変わります。粒の大きさが同じでも、酸化物・カーボン・高分子のどれに載せるかで吸着の状態が変わり、進みやすい反応も異なります。研究用の汎用品「RRシリーズ」は、11種類の担体をそろえ、最小2gから供給される製品です。担体の種類・焼成温度・金の担持量を指定したい場合の受け皿が、特注品の「RSシリーズ」による受託製造です。担持量や粒径の分布、TEM(透過型電子顕微鏡)写真などの測定データが付くため、届いた時点から検討に入れます。

FrontJournalの解説
  • 焼成温度触媒を高い温度で熱処理するときの温度。焼成温度によって金の粒子の大きさや担体との接し方が決まり、性能を左右する。
  • 粒径の分布触媒に含まれる粒子の大きさのばらつきを示した情報。適した粒径は担体や反応の種類によって異なるため、分布の把握が求められる。

金ナノ粒子触媒の未来|排ガス処理と化学品製造へ

金ナノ粒子触媒が変える未来|煙突=排ガスのNOxを低温で除去する・換気ファン=悪臭とVOCを常温付近で分解・丸底フラスコ=化学品の製造を省エネ化する

排ガスのNOxを低温で除去

同社は2025年10月、中国電力と東京都立大学が共同開発した低温脱硝触媒「RRxVシリーズ」の販売を開始しました。活性成分は酸化バナジウムで、排ガスのNOxを150〜200℃で分解します。供給量は25gと100gで、少量から購入できる規格です。従来の脱硝触媒は200〜400℃で働き、除じん(ばいじんの除去)後の排ガスの再加熱が必要でしたが、低温の触媒はこれを省けるとされています。

悪臭とVOCの分解に応用

金ナノ粒子触媒の応用先として、悪臭成分やVOCの分解が想定されています。工場や施設の排気には微量でも臭気の原因になる成分が含まれ、従来は吸着や薬液洗浄、加熱による分解が使われてきました。低温で働く触媒なら常温付近の排気をそのまま処理でき、加熱設備と電力の抑制につながるとされています。水に溶けた有機物を酸化する働きを生かし、飲料水の浄化やダイオキシンの分解も用途として挙げられています。

省エネ型の化学品製造を目指す

同社が目指すのは、低温で進む触媒反応を化学品の製造工程へ広げることです。選択酸化やエポキシ化(二重結合に酸素を加える反応)では、選択性(狙った化合物ができる割合)が収率を左右します。担体の設計で選択性を調整できる金ナノ粒子触媒は、副反応を抑えて収率を高める手段として研究が続いてきました。水性ガスシフト反応(一酸化炭素と水から水素を得る反応)や燃料電池など、水素エネルギーの分野も応用先です。

FrontJournalの解説
  • 低温脱硝排ガスに含まれる窒素酸化物を、従来より低温で窒素と水へ分解して取り除く処理。加熱の負担が小さくなる。
  • 選択酸化複数の反応が起こりうる分子のうち、狙った部分だけを酸化させる反応。副生成物が減り、目的の化合物の収率が上がる。

会社概要|ハルタゴールドの事業内容・設立背景

東京都立大学の研究から創業

同社は、東京都立大学の金触媒研究から生まれた企業です。設立は2013年7月25日。創業の中心となったのは、金触媒研究を長年けん引してきた名誉教授の春田正毅氏でした。春田氏が発表した金の触媒特性に関する論文が、事業の原点です。

春田氏は「日本化学会賞」や「トムソン・ロイター引用栄誉賞」など国内外で受賞を重ねました。2022年1月の逝去後は、取締役の研究者らが事業を継いでいます。代表取締役兼CEOは江本慎治氏です。

研究者が経営し札幌へ移転

取締役は、北海道大学の村山徹教授、大阪公立大学の石田玉青教授、横浜国立大学の竹歳絢子氏、元東京都立大学准教授の武井孝氏の4名です。2014年11月には、文部科学省が「産学官連携の成果事例」として同社の金ナノ粒子触媒を紹介しました。同省が年間およそ150件の応募から選ぶもので、当時の首都大学東京としては初の選定でした。

2025年7月、本社を札幌市北区の「北大ビジネス・スプリング」へ移転しました。同施設は起業支援拠点で、HILO株式会社など複数のスタートアップが入居しています。取締役が所属する北海道大学にも近い立地です。

触媒の製造と受託研究が柱

事業の柱は、触媒など機能材料の製造・販売と、受託研究・受託製造等です。「RRシリーズ」の価格は、2026年8月時点で2gが132,000円、10gが468,000円(税抜)です。商業用の汎用品「CRシリーズ」は、アルミナ(酸化アルミニウム)を担体に、金の担持量を重量比0.8±0.1%に管理しています。このほか、コンサルティングや研究設備の代理販売も手がけます。

会社情報

会社名ハルタゴールド株式会社(Haruta Gold Inc.)
所在地北海道札幌市北区北21条西12丁目2 北大ビジネス・スプリング。2025年7月に東京から移転。
設立2013年7月25日
代表代表取締役兼CEO:江本 慎治
創業者春田 正毅(東京都立大学 名誉教授。2022年1月逝去)
資本金730万円
連携北海道大学 触媒科学研究所(村山 徹 教授)。大阪公立大学 人工光合成研究センター(石田 玉青 教授)。横浜国立大学(竹歳 絢子)。中国電力(低温脱硝触媒)。
技術領域金ナノ粒子触媒、低温酸化、選択酸化、低温脱硝、機能材料、受託研究・受託製造
採択文部科学省 産学官連携の成果事例に選定(2014年11月)
URLhttps://www.haruta-gold.com/

編集後記|FrontJournal編集部より

金は、装飾品の材料として古くから扱われてきた身近な金属です。その金は、小さな粒にして担体へ載せるだけで触媒として働く材料に変わります。1987年に示されたこの発見は、材料の見方に大きな影響を与えました。

ハルタゴールドが供給するのは、触媒の粉末にとどまらず、研究者が次の検討へ進むための判断材料でもあります。2gからの少量供給、担体の選択、測定データの添付。いずれも地味な要素ですが、研究者が実験に着手するまでの手間を減らします。

創業者の逝去後も、触媒化学の研究者が取締役として並ぶ体制は続いています。札幌へ移った拠点の隣は、触媒科学研究所を擁する北海道大学です。低温で進む化学が産業のどこまで届くのか、今後の展開に注目したいところです。

フロントジャーナル編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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