Heartseed株式会社はiPS細胞由来の心筋球で心筋再生医療を開発する慶應義塾大学発スタートアップ

Heartseed株式会社(ハートシード)

Heartseed「心筋球」を研究|研究領域=心筋細胞を集めた小さな塊が心筋球/強み=塊にすると心臓に定着しやすい/将来性=重症心不全の治療を目指す

企業紹介|Heartseed株式会社とは?

働きが落ちた心筋を細胞から補う治療として、注目を集める「心筋再生医療」。Heartseed株式会社は、その社会実装を目指す、慶應義塾大学発のライフサイエンス系ディープテック企業です。iPS細胞から作製した微小組織「心筋球」を、重症心不全の患者へ移植する治療プログラムを開発しています。

キーワード「心筋球」

心筋球」は、iPS細胞から作製した心筋細胞を約1,000個ずつ集めた微小組織です。特徴は、細胞を1つずつ移植する場合に比べ、心臓での生着率(移植した細胞が定着する割合)が高まる点にあります。すでに開胸している冠動脈バイパス手術(詰まった血管の先へ別の血管をつなぐ手術)の場で、専用の針を使って心筋層へ直接送り込めます。

市場課題|増え続ける重症心不全

現状の重症心不全の課題|現状は心筋が再生し難く手段が限られる|心不全の患者が増え続けている/重症例は移植以外の手段が乏しい

心不全の増加で医療の負担が重く

国内で約120万人が該当するといわれる心不全は、医療現場の負担が重い疾患です。心不全は、心臓が全身へ十分な血液を送り出せなくなる慢性かつ進行性の疾患で、世界では6,500万人以上が該当するとされます。「心不全パンデミック」と呼ばれるほど患者数は増え、心臓病が国内の死因でがんに次ぐ第2位を占める状況は続くと見込まれます。

重症例は移植以外の手段が乏しい

重症の心不全の治療は主に症状の緩和が中心で、心臓移植以外に抜本的な手段が乏しいのが現状です。一度失われた心筋は、ほとんど再生しないためです。心臓移植は提供者の数に限りがあり、待機は長期化します。

他にも、免疫抑制剤(移植した臓器への攻撃を抑える薬)を飲み続ける負担があります。補助人工心臓(心臓の働きを機械で助ける装置)に伴う感染の恐れ、通院と入院の繰り返しによる生活の質の低下、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 心不全心臓のポンプ機能が低下し、全身へ必要な血液と酸素を送り出せなくなる状態を指す。心筋梗塞などの虚血性心疾患や拡張型心筋症が原因となり、慢性かつ進行性に悪化する疾患である。

Heartseedの強み|心筋球による補填

Heartseedが「心筋球」を開発|心筋細胞だけを選び分けて使う/専用の針で心筋層へ移植

iPS細胞で心室型の心筋を作製

iPS細胞から心筋細胞へ分化(役割の決まった細胞へ変化すること)させる従来の方法では、効率と純度が上がりにくく、未分化の細胞が残る課題がありました。

同社が用いるのは、細胞へ働きかけるタンパク質の組み合わせを設計し、分化の効率を高める分化誘導技術です。細胞の性質を決めるシグナル伝達に関わるタンパク質(BMP、Activin、Wntなど)を組み合わせることで、心臓のポンプ機能を担う心室型の心筋細胞高い純度で誘導します。純化精製の工程で使うのは、iPS細胞と心筋細胞のエネルギー代謝の違いを利用した特殊な培養液です。この培養液により未分化の細胞を除去し、心筋細胞を大量に回収できます。

心筋球を移植し再筋肉化を促す

細胞を1つずつばらばらに移植する方法では、心臓での生着率が低くとどまりやすい課題がありました。

同社の「心筋球」は、心筋細胞を約1,000個ずつ集めた微小組織です。塊にすることで細胞の生着率と生存率が向上することは、非臨床試験(人へ投与する前の動物などでの試験)で確認されています。移植に用いるのは、専用の投与針「SEEDPLANTER」とガイドアダプターです。心筋球は、心臓の心筋層内へ直接送り込まれます。投与した心筋球が患者の心筋と結合することで、心臓の収縮力を改善する「再筋肉化」の作用機序が期待されています。

FrontJournalの解説
  • 再筋肉化移植した心筋細胞が患者の心筋と結合し、心臓の収縮を担う筋肉として働き直すことを指す。症状を和らげる従来の治療と異なり、失われた収縮力そのものの回復を目標に置く作用機序である。

心筋球の未来|心不全治療への応用

移植する心筋球が変える未来|開胸手術で10例へ投与が完了/カテーテルで身体の負担を軽く/国内での実用化を目指す

開胸手術で10例への投与が完了

開胸下で心筋球を移植する第1/2相の「LAPiS試験」は、比較対照を置かない用量漸増の試験で、予定していた10例すべてへの投与を完了しています。前半の5例には5,000万個、後半の5例には1億5,000万個の心筋細胞を移植しました。2026年8月の欧州心臓病学会の学術集会では、移植後52週の結果が招待講演で発表されています。10例の平均で、左室駆出率(心臓が1回の収縮で送り出す血液の割合)は23.8%から31.1%へ上昇し、拡大していた心臓の縮小も確認されました。

カテーテル投与の治験が進行中

カテーテル(血管から差し込む細い管)を使って心臓の内側から投与する「HS-005」の治験が、国内で進んでいます。2026年3月下旬には、拡張型心筋症(心臓の筋肉が薄く伸びて収縮が弱まる病気)による心不全の患者への1例目の投与が、信州大学医学部附属病院で実施されました。開胸を伴わない投与により、患者の身体への負担を抑えられると見込まれます。予定症例数は14例で、1例あたり1億5,000万個の心筋細胞を投与します。

国内での実用化を目指す

同社が目指すのは、「心筋球」を用いた治療を国内の医療現場へ届けることです。LAPiS試験の結果をもとに、2026年中の製造販売承認申請を目指しています。製造販売業の許可は都道府県が出すため、再生医療等製品の許可を東京都へ申請しました。承認の取得は2027年内を見込んでおり、商業化へ向けた体制の構築を進めています。

会社概要|Heartseedの事業内容

慶應義塾大学の研究から事業化

Heartseed株式会社は、2015年11月に東京都で設立されました。創業の中心となったのは、慶應義塾大学医学部で循環器内科を率いた福田惠一氏です。同大学の研究室が積み重ねてきた分化誘導技術純化精製技術、投与デバイスを産業へ応用することを目的としています。代表取締役社長は福田氏で、現在は同大学の名誉教授を務めています。

受賞と企業連携で開発を推進

同社は、製造と機器の両面で企業と連携しながら、国内外で評価を受けてきました。心筋細胞と心筋球の製造はニコン・セル・イノベーションが受託し、投与カテーテルシステムは日本ライフラインと共同で開発しました。受賞歴には、「Japan Venture Awards 2021」の科学技術政策担当大臣賞や、「大学発ベンチャー表彰2021」の文部科学大臣賞があります。国外での受賞は「Asia-Pacific Cell & Gene Therapy Excellence Awards」です。2025年には「第7回日本医療研究開発大賞 スタートアップ賞」と「知財功労賞 経済産業大臣表彰」も受けています。

上場と提携で開発を支える

2024年7月、同社は東京証券取引所グロース市場へ上場し、開発の資金を確保しました。2021年6月には、デンマークの製薬企業ノボノルディスクと、世界を対象とする提携・ライセンス契約を結んでいます。この契約は2025年9月に終了し、開胸下で投与する「HS-001」とカテーテルで投与する「HS-005」の権利は、同社へ戻りました。現在は、国内での承認取得と商業化に向けた体制づくりを進めています。

会社情報

会社名Heartseed株式会社(Heartseed Inc.)
所在地東京都港区芝浦1-2-3 シーバンスS館5F
設立2015年11月30日
代表代表取締役社長:福田 惠一(慶應義塾大学名誉教授)
資本金約8億円(2024年7月の上場時点)
上場東京証券取引所グロース市場(証券コード:219A。2024年7月30日上場)
従業員44人(2026年9月時点)
事業iPS細胞を用いた心筋再生医療の研究開発。他家iPS細胞由来心筋球「HS-001」(開胸下で投与)。「HS-005」(カテーテルで投与)
技術領域分化誘導技術、純化精製技術、心筋球の作製、投与針「SEEDPLANTER」、投与カテーテルシステム
連携ニコン・セル・イノベーション(心筋細胞・心筋球の製造受託)。日本ライフライン(投与カテーテルシステムの共同開発)
採択Japan Venture Awards 2021 科学技術政策担当大臣賞。大学発ベンチャー表彰2021 文部科学大臣賞。第7回日本医療研究開発大賞 スタートアップ賞(2025年1月)。知財功労賞 経済産業大臣表彰(2025年4月)。AMED 再生医療・遺伝子治療の産業化に向けた基盤技術開発事業(2018〜2020年度)
URLhttps://heartseed.jp/

編集後記|FrontJournal編集部より

重症心不全の治療は長らく、症状を和らげる薬と機器、そして提供者を待つ心臓移植に限られてきました。Heartseedが挑んでいるのは、失われた心筋の補填という、これまで手つかずだった領域です。iPS細胞から心筋細胞を作製する技術は、株式会社マイオリッジをはじめ国内の複数社が磨いてきました。同社はそこから、細胞の作製から患者の心臓へ届ける投与デバイスまでを一続きで設計しています。

注目したいのは、細胞と投与デバイスを同じ会社が担っている点です。約1,000個を塊にする心筋球という発想も、専用の投与針も、細胞を心臓に生き残らせるという一点から生まれています。細胞の製造にとどまらず、治療の全体を設計する企業である点に、この会社の特徴があります。

慶應義塾大学の研究室で積み重ねられた成果が、国内の医療現場でどこまで患者の日常を変えるのか。今後の展開を注視したいところです。

フロントジャーナル編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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