KINP「スズメバチ忌避剤」を開発|スプレー缶から霧を吹かれて飛び去るスズメバチと、歩いて離れる作業者のイラスト

株式会社KINP(キンプ)

KINP「スズメバチ忌避剤」を開発|研究領域=ハチを殺さず・攻撃性を失わせる/強み=食品添加物の・香り成分を使う/将来性=養蜂や世界へ・用途を広げる

企業紹介|株式会社KINPとは?

ハチに刺される被害を、スズメバチを殺さずに防ぐ技術「スズメバチ忌避剤」。株式会社KINPは、その社会実装を目指す、高知大学発のバイオ・化学系ディープテック企業です。花の香りの成分を使う忌避剤「スズメバチサラバ」を開発・販売し、ミツバチ向けの水煙剤(霧状に吹きかける薬剤)「ビーサイレント」も展開しています。

キーワード「スズメバチ忌避剤」

「スズメバチ忌避剤」は、スズメバチが嫌う香りの成分で、ハチを寄せ付けず、攻撃性を失わせる薬剤です。殺虫剤のようにハチを殺さないため、農林業の害虫を食べる益虫としての働きを損ないません。KINPは、クヌギの樹液に含まれる成分の近縁で、食品の香料にも使われる成分を使っています。

市場課題|ハチ刺されの被害が続き、殺虫剤だけでは対応が難しい

現状のスズメバチ対策の課題|現状は、殺虫剤が大型種に効きにくく被害が続く|ハチ刺されで・毎年死者が出る/殺虫剤は大型の・ハチに効きにくい

ハチ刺されで毎年死者が出る

ハチ類に刺されて亡くなる人は、国内で年間約15人に上ります(厚生労働省人口動態調査・2014〜2019年)。ハチ類は生活圏にも生息し、個体数も多いため、人と遭遇する機会が多いとされています。餌場や巣に知らずに近づいて襲われる場合が多く、被害は毎年続いています。

殺虫剤は大型種に効きにくい

スズメバチ対策には殺虫成分を含む薬剤が使われてきましたが、体の大きなオオスズメバチには効果が出るまでに時間がかかります。効果が出る前に人を刺す場合もあり、被害は完全には予防できません。さらに、益虫のスズメバチを殺し続ければ、生態系のバランスを崩しかねません。

他にも、防護服ではハチの接近を防ぎきれない点、ハチ毒の吸引器や緊急用の自己注射薬が刺された後の対策にとどまる点、誘引トラップでも防ぎきれない点、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • オオスズメバチスズメバチ科で世界最大の種を指す。体長は40mm前後で、木の根元や土の中、樹洞に巣を作るため、巣の位置が分かりにくい。

KINPの強み|「スズメバチ忌避剤」を開発

KINPが「スズメバチ忌避剤」を開発|現在は、香り成分でハチ刺されの予防を提供|攻撃本能を奪い・被害を予防する/殺さず退けて・生態系を保つ

攻撃性を奪い被害を予防

防護服やトラップなど従来の対策は、ハチが近づくこと自体を防ぎにくく、刺された後の処置は被害の後追いになります。

同社は、スズメバチが嫌う花の香りの成分で攻撃性を一時的に失わせる忌避剤「スズメバチサラバ」を開発しました。出発点は、オオスズメバチが透明なクヌギの樹液を嫌う行動です。その樹液から2-フェニルエタノール(バラの香りにも含まれる成分)を見つけ、近縁のフェニルメタノールにも同じ働きがあることを確かめました。かけられたハチは、嫌がって攻撃せず、逃げるか地面に落ちます。有効距離は最大4mあり、周囲に吹けば隠れているハチが飛び出すため、ハチの有無を事前に確かめて、刺される前に避難できます。

殺さず退けて生態系を保つ

殺虫成分で駆除する方法は、スズメバチを減らすため、害虫を食べる益虫としての働きまで失われます。

忌避剤は殺虫剤ではなく、スズメバチを殺さずに遠ざけます。主成分のフェニルメタノールは、杏仁豆腐の香りづけなどに使う食品添加物の香料です。同社は、人体や環境への有害性はないとしています。オオスズメバチを含むスズメバチ類とアシナガバチ類のどちらにも効果があるのも特長です。農林業の害虫を食べるスズメバチを残せるため、害虫の大量発生や農薬の使用量を抑えられるとされ、人への被害の予防と生態系の保全を両立しやすくなります。

FrontJournalの解説
  • フェニルメタノールベンジルアルコールとも呼ばれ、花の香気成分として知られる有機化合物を指す。食品の香料や添加物に使われ、杏仁豆腐の香りづけにも用いられる。

スズメバチ忌避剤の未来|巣箱点検の支援から世界展開へ

スズメバチ忌避剤が変える未来|巣箱の点検から世界展開へ広がる|巣箱の点検を・安全に行う/据え置き型で・被害を軽減/世界展開と・用途拡大へ

ミツバチの巣箱点検を支援

同社は、スズメバチサラバの技術を応用し、ミツバチの巣箱を点検するための水煙剤「ビーサイレント」を開発しました。触角に成分が付着すると、強い嫌悪感が生じ、数分間は攻撃行動すら取れなくなると考えられています。ミツバチの活動を約3〜5分間抑えられ、巣箱の点検を安全に進められる点が特長です。燻煙器(煙でミツバチを落ち着かせる道具)では効き目が足りない場合や、火の煙が使えない都市型養蜂でも使え、作業時間の短縮につながります。

据え置き型で被害を軽減

「スズメバチサラバ据え置きタイプ」は、設置するだけで約3か月間、オオスズメバチを殺さずに被害を軽減できるとする製品で、2023年11月に試験発売が始まりました。従来のスプレータイプは、羽音や姿に気づいたときなどに使う製品で、効果は一時的です。据え置きタイプは、その使い方に、設置して長く効かせる選択肢を加えます。スズメバチ対策を場面で使い分けられるようになります。

世界展開と用途拡大を目指す

同社が掲げるのは、スズメバチ被害の予防を国内にとどめず、世界へ広げる姿です。金哲史教授は、世界中でも同様の被害が起きているのではないかと考え、より多くの命を守るために世界展開を目標としています。農林業や養蜂での活用と、営巣防止剤(ハチの巣づくりを防ぐ薬剤)の研究開発も計画の一部です。

会社概要|高知大学の研究から2016年に設立された忌避剤の開発企業

高知大学の研究を事業化

株式会社KINPは、高知大学の金哲史教授が2016年9月に設立しました。金教授は2001年に高知大学農学部の教授に就任し、昆虫の行動を制御する物質を研究する化学生態学が専門です。開発のきっかけは、共同研究する香川大学の市川俊英名誉教授が、クヌギの樹液をめぐるオオスズメバチの奇妙な行動に気づき、成分分析を金教授に依頼したことでした。忌避剤の完成までには6年を要したと、農林水産省の広報誌が紹介しています。

受賞と電力会社の採用

同社の活動は、「第33回高知県地場産業大賞 奨励賞」「2019四国産業技術大賞 優秀技術革新賞」の受賞につながりました。2017年には、高知大学、高知県立紙産業技術センターと三者で、ミツバチ保護剤の開発に向けた取り組みを始めています。2023年10月からは、中部電力グループが、電気設備の保守点検でのスズメバチによる刺傷事故を減らす目的で、スズメバチサラバを使っています。

オンラインと代理店で販売

製品は、公式オンラインショップと代理店で販売しています。採用実績は公式サイトに掲載され、電力会社・自治体・大学・消防・養蜂場・ホームセンター・通販カタログなどが並びます。主な製品は、スズメバチ用の「スズメバチサラバ」、ミツバチ用の「ビーサイレント」、設置して使う据え置きタイプです。

会社情報

会社名株式会社KINP(Kuroshio Institute of Natural Product chemistry)
設立2016年9月
代表代表取締役 金哲史。取締役 市川俊英、中島修平
資本金400万円
事業スズメバチ科ハチ類に対する忌避・攻撃本能消失剤の研究・販売。ミツバチ保護剤の開発
技術領域天然成分を活用した生物行動制御
連携高知大学、高知県立紙産業技術センター(ミツバチ保護剤の開発。2017年に開始)
採択第33回高知県地場産業大賞 奨励賞。2019四国産業技術大賞 優秀技術革新賞
URLhttp://kinp-chem.co.jp/

編集後記|FrontJournal編集部より

スズメバチは危険な一方で、農林業の害虫を食べる益虫でもあります。KINPの方法は、殺さずに攻撃行動だけを抑えることです。人とハチが共存する道を探る姿勢が、製品の根にあります。

屋外の生き物による被害の対策では、長崎大学発の株式会社フィールドワーカーズが、マダニの種類を見分けるAIを研究しています。KINPは薬剤、フィールドワーカーズはAIと、手段は異なります。ともに大学の知見から、屋外の安全を支える企業です。

山や畑、鉄塔の上で、ハチを恐れずに作業できる日。殺さずに退けるという考え方が、現場の安全と生態系の保全を両立させる未来です。その広がりを、楽しみに待ちたいと思います。

FrontJournal編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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