株式会社ケイファーマは疾患特異的iPS細胞で創薬と再生医療に挑む慶應義塾大学医学部発の企業

株式会社ケイファーマ

ケイファーマ「疾患特異的iPS細胞」を研究|研究領域=患者の細胞から病気を再現する/強み=既存薬から治療候補を選ぶ/将来性=神経難病の選択肢を増やす

企業紹介|株式会社ケイファーマとは?

患者一人ひとりの細胞から病気の仕組みを調べられる技術として、注目を集める「疾患特異的iPS細胞」。株式会社ケイファーマは、その社会実装を目指す、慶應義塾大学発のバイオ系ディープテック企業です。ALSの治療薬候補「KP2011」や、脊髄損傷に対する再生医療「KP8011」等の開発を、製薬企業や医療機関とともに進めています。

キーワード「疾患特異的iPS細胞」

疾患特異的iPS細胞は、患者の血液や皮膚の細胞から作り、その人の遺伝的な背景を保ったまま増やせるiPS細胞です。特徴は、体から取り出しにくい神経細胞を試験管の中で作り、病気が進む過程を観察できる点にあります。創薬の現場では、患者ごとの反応を薬の候補選びに生かせます。

市場課題|神経難病に届く薬が乏しい

現状の神経難病の創薬の課題|現状は、動物で効いた薬がヒトで効きにくい|治療の選択肢が乏しい/動物実験はヒトと異なる

神経難病は治療の選択肢が乏しい

神経の細胞が失われていく病気には、進行を止める薬がほとんどありません。ALS(筋萎縮性側索硬化症)は、体を動かす指令を筋肉へ伝える運動ニューロンが失われ、手足の力や呼吸の働きが低下していく病気です。使える薬が限られるため、患者は生活設計の見直しを続ける必要があります。

動物実験はヒトの病態と異なる

薬の候補を探す段階では、ヒトの神経で何が起きているかを直接確かめにくい状態が続いてきました。候補の絞り込みには動物モデルやがん由来の細胞株が使われますが、ヒトの神経細胞とは性質が異なります。動物では効いた化合物がヒトでは働かない例が重なり、神経難病の薬は開発の途中で中止となる割合が高いといわれています。

他にも、患者数が限られる希少疾患での治験の組みにくさ、人によって速さが違う進行の測りにくさ、発症前の変化を捉える目印の乏しさ、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • ALS筋萎縮性側索硬化症の略称。体を動かす指令を筋肉へ伝える運動ニューロンが失われていく神経難病を指す。手足の筋力や呼吸の働きが低下し、進行を止める治療法は確立の途上にある。

iPS創薬の強み|患者の細胞で薬を選ぶ

ケイファーマが「疾患特異的iPS細胞」を開発|今後は、患者の細胞で薬選びが可能に|既存薬から治療候補を選ぶ/患者の神経細胞で薬を試す

既存薬から治療候補を選ぶ

新しい薬を一から合成する開発では、安全性の確認を最初からやり直すため、長い期間と多額の費用が必要になります。

同社が採るのは、承認済みの薬から別の病気に効く候補を探す「ドラッグリポジショニング」です。ALS患者の血液から作った疾患特異的iPS細胞を、脊髄運動ニューロン(指令を筋肉へ伝える神経細胞)へ分化させます。そこへ、米国で薬として使われている1,232種類の化合物を加え、病態が改善するものを絞り、パーキンソン病薬のロピニロール塩酸塩を選びました。医師主導治験(医師が主体の臨床試験)では、病状の進行までの期間の中央値がプラセボ群(有効成分の入らない薬の群)より27.9週長くなる可能性が示されました。

患者の神経細胞で薬を試す

動物モデルやがん由来の細胞株では、患者ごとに異なる神経の変化までは再現しにくく、候補の絞り込みが難しくなります。

疾患特異的iPS細胞を使うと、患者本人の神経細胞を試験管の中で作り、病気が進む過程を観察できます。血液細胞に少数の因子を導入して初期化(さまざまな細胞へ育つ前の状態に戻すこと)し、そこから分化誘導(目的の細胞へ育てる)によって脊髄運動ニューロンへ導く手順です。同社はこの手順を、前頭側頭型認知症を対象とする「KP2021」や、ハンチントン病を対象とする「KP2032」にも広げています。患者由来の細胞で効き方を先に確かめるため、ヒトの神経細胞での反応を治験の前に確認できます。

FrontJournalの解説
  • ドラッグリポジショニングすでに承認された薬から、別の病気に対する効果を見つけて開発する手法を指す。安全性を調べたデータが既にあるため、新たに合成した化合物より短い期間で治験へ進める点が利点である。

再生医療の未来|神経の再生と実用化

ケイファーマのiPS細胞技術が変える未来|脊髄損傷から神経難病全体へ広がる|脊髄損傷の臨床研究で運動機能が改善/ALS治療薬の開発が進む/神経難病全体へ適用を広げる

脊髄損傷で改善例を確認

脊髄損傷に対する再生医療「KP8011」の移植は、すでに臨床研究として実施されています。慶應義塾大学病院を中心とする研究で、受傷後14〜28日の亜急性期(受傷の直後を過ぎた時期)にあり完全麻痺と診断された患者4例へ、京都大学iPS細胞研究所の再生医療用iPS細胞ストックから作った神経前駆細胞(神経の細胞へ育つ前の細胞)を移植しました。移植から1年の経過観察で、再生医療と因果関係のある重い有害事象は認められていません。4例のうち2例で麻痺の重症度が改善し、受傷後52週の時点では手足の筋力を100点満点で採点するISNCSCI運動スコアが4例の中央値で13点改善しました。

ALS治療薬は製薬企業が開発

ALSの治療薬候補「KP2011」は、導出先の製薬企業が開発を進めています。国内の開発権と製造販売権は、2023年3月にアルフレッサ ファーマへ許諾済みです。同社は2025年8月、新しい製剤の安全性を確かめる試験を開始しました。承認されれば、いまある薬に加わる選択肢になるとされています。

神経難病全体への適用を目指す

同社は、iPS細胞を使う手法を神経難病の全体へ広げることを目指します。iPS創薬では、前頭側頭型認知症の「KP2021」とハンチントン病の「KP2032」が、フェーズ1/2(人で行う初期の試験)に向けた準備段階です。再生医療では、慢性期の脳梗塞向けの「KP8031」の事業化を進めています。いずれも打つ手の少ない領域であり、患者へ届く道筋づくりが目標です。

会社概要|ケイファーマの設立背景と体制

慶應の研究成果を事業化

株式会社ケイファーマは、2016年11月に東京で設立されました。創業の中心となったのは、慶應義塾大学医学部の岡野栄之教授と、整形外科学教室の中村雅也教授です。長年続けてきたiPS細胞の基礎研究の成果を、患者のもとへ届けることを目的としています。代表取締役社長には福島弘明氏が就任し、岡野氏がCSO(最高科学責任者)、中村氏がCTO(最高技術責任者)を務めています。慶應義塾大学発の企業をまとめた記事が、慶應発スタートアップ10選です。

公的機関の支援で臨床研究

同社の技術は、大学と公的機関の支援を受けながら育ってきました。脊髄損傷の臨床研究は、AMED(日本医療研究開発機構)の再生医療実現拠点ネットワークプログラム等の支援を受けて実施されています。移植に用いる細胞は、国立病院機構大阪医療センターで分化させたものです。国立病院機構村山医療センターも、協力医療機関として加わりました。

上場と資金調達

同社は2023年10月、東京証券取引所グロース市場へ上場しました。上場前の第三者割当増資(特定の相手に新株を割り当てて行う資金調達)では、慶應イノベーション・イニシアティブや伊藤忠テクノロジーベンチャーズ等が引受先に名を連ねています。調達した資金は、再生医療の実用化と企業治験(企業が主体となって行う治験)の推進、新規パイプラインの開発に充てる予定とされています。

会社情報

会社名株式会社ケイファーマ(K Pharma, Inc.)
所在地東京都港区六本木7-7-7 Tri-Seven Roppongi 6F
設立2016年11月1日
代表福島 弘明(代表取締役社長)。岡野 栄之(取締役CSO・慶應義塾大学教授)。中村 雅也(取締役CTO・慶應義塾大学教授)
資本金1,000万円(2025年12月31日現在)
上場東京証券取引所グロース市場(証券コード4896・2023年10月上場)
従業員20名(2025年12月31日現在)
調達第三者割当増資 総額15.5億円(2022年5月)
事業iPS創薬事業=ALS「KP2011」、前頭側頭型認知症「KP2021」、ハンチントン病「KP2032」。再生医療事業=亜急性期脊髄損傷「KP8011」、慢性期脳梗塞「KP8031」
技術領域疾患特異的iPS細胞。ドラッグリポジショニング。iPS細胞由来神経前駆細胞の分化誘導
連携アルフレッサ ファーマ(2023年3月にKP2011の国内開発権・製造販売権を許諾)。京都大学iPS細胞研究所(再生医療用iPS細胞ストック)。国立病院機構大阪医療センター。国立病院機構村山医療センター
採択AMED 再生医療実現拠点ネットワークプログラム等
URLhttps://www.kpharma.co.jp/

編集後記|FrontJournal編集部より

iPS細胞という言葉は広く知られていますが、その使い道が移植だけではないことは、意外と語られてきませんでした。患者の細胞で病気を再現し薬の効き方を先に確かめる。ケイファーマの取り組みは、この表に出にくい工程にこそ価値があると教えてくれます。

公開資料から読み取れるのは、単なる細胞の技術ではなく、治療が届かない領域を選び抜く姿勢だという点です。ALSも脊髄損傷も、患者数が限られる領域です。それでも、いま選択肢の乏しい人から順に手を伸ばす判断は、大学発の企業だからこそ取れるものだと感じます。

大学の研究室で長年かけて積み上げた知見が、病室へ届く日を待ちたいところです。

フロントジャーナル編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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