株式会社QPS研究所(iQPS)|「小型SAR衛星」を研究

株式会社QPS研究所(iQPS)

QPS研究所「小型SAR衛星」を研究|研究領域=SARは電波で/地表を画像にする/強み=夜や雲があっても/地表を撮影できる/将来性=防衛や防災の/現場へ画像を届ける

企業紹介|株式会社QPS研究所とは?

夜間や曇天でも地表を観測できる技術として、注目を集める「小型SAR衛星」。株式会社QPS研究所は、その「小型SAR衛星」の開発と運用に取り組む、九州大学発のディープテック企業です。小型SAR衛星「QPS-SAR」で撮影した画像を、防衛や防災、インフラ監視の現場へ提供しています。

キーワード「SAR」(合成開口レーダー)

SAR」は、衛星から地上へ電波を照射し、跳ね返ってきた電波から地表の画像を得る観測方式です。特徴は、夜間でも雲に覆われていても、地表の様子を写せる点にあります。災害時の浸水範囲の把握や、港湾に停泊する船舶の確認など、光学衛星では捉えにくい場面で使えます。

市場課題|宇宙から地表を見る難しさ

現状の宇宙からの観測の課題|現状は、夜や雲と機数不足で撮りにくい/夜や雲があると/カメラでは写しにくい/1機では同じ場所を/見る回数が少ない

光学衛星は夜間や曇天に弱い

宇宙から地表を撮影する光学衛星は、太陽の光が届かない夜間や、雲に覆われた日には地表を捉えにくくなります。カメラで可視光(目に見える光)を捉えるため、光の量と雲の有無が観測の可否を左右するからです。天候が崩れやすい地域や夜間の災害では、必要な時に必要な場所の画像が手に入りにくくなります。

1機の衛星では観測間隔が空く

衛星は地球のまわりを回り続けるため、1機だけでは同じ場所の上空を通る機会が限られます。同じ地点を再び観測できるまでには時間が空き、その間に起きた変化は画像として残りません。災害の直後や、刻々と位置を変える船舶を追う場面では、この観測の間隔が課題となります。

観測で得た電波のデータは、画像になるまでに計算処理の時間がかかります。他にも、大型衛星の製造期間、質量に応じて増える打ち上げ費用、大量のデータを地上へ送る通信の制約、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 光学衛星カメラで可視光や赤外線を捉えて地表を撮影する人工衛星。色や形が人の目に近い形で写る一方、夜間や雲の下は写しにくい。
  • 合成開口レーダー衛星が移動しながら電波を送受信し、その記録を合成して大きなアンテナで撮ったのと同等の画像を得る技術。英語の頭文字からSARと呼ぶ。

QPS研究所の強み|小型SAR衛星

QPS研究所が「小型SAR衛星」を開発|今後は、軽い衛星で夜も曇天も観測が可能に/電波は雲を抜け/夜でも撮影できる/収納展開式アンテナで/100kg台に軽量化

電波で夜間も曇天も観測

可視光を写すカメラでは、観測できる時間帯と天候が限られます。

QPS-SAR」は、自ら電波を照射して地表を捉える小型SAR衛星です。電波は雲を抜け、太陽の光も不要なため、昼夜や天候に左右されず観測できます。観測モードは2つで、広い範囲のストリップマップは分解能1.8m、狭い範囲を詳しく見るスポットライトは50cm以下です。スポットライトモードでは、6号機「アマテル-Ⅲ」がアジマス分解能46cm、レンジ分解能39cmの画像取得に成功しています。3号機以降、アンテナの精度とレーダー装置(電波を送受信する装置)の性能を高めたことが、この分解能を支えています。

収納展開式アンテナで軽量化

従来のSAR衛星は、大型のアンテナを積むために質量が大きく、一度に多くの機数を打ち上げにくいものでした。

同社の中核にあるのは、収納時は直径約80cm・高さ15cmほどまで畳め、軌道上(地球を回る宇宙空間)で直径3.6mに広がる収納展開式アンテナです。アンテナの質量は約10kgで、衛星全体でも従来の約20分の1の100kg台に収まります。小型ロケットにも搭載でき、18号機「スサノオ-Ⅱ」は2026年8月20日に米国Rocket Lab社のElectronロケット(小型の打ち上げロケット)で打ち上げられ、翌日にアンテナの展開に成功しました。機数を増やしやすい構成が、観測間隔を縮める土台になります。

FrontJournalの解説
  • 分解能画像でどれだけ細かいものを見分けられるかを示す値。50cmなら、50cm程度の間隔で並ぶ2つの物体を別々のものとして識別できる。
  • ストリップマップ衛星の進行に合わせて帯状に地表を観測するモード。分解能は粗くなるが、一度に広い範囲を記録できる。
  • スポットライトアンテナを一点に向け続けて観測するモード。同じ場所を長く照射するぶん、狭い範囲を高い分解能で撮影できる。
  • アジマス分解能衛星が進む向きに沿った画像の細かさ。SARでは電波を受信し続ける区間の長さが、この値を左右する。
  • レンジ分解能電波が進む向き、つまり衛星から地表へ向かう方向の画像の細かさ。使う電波の帯域幅が広いほど細かくなる。

小型SAR衛星の未来|防災と安全保障への応用

天候に強い小型SAR衛星が変える未来|防衛から防災まで観測の空白を埋める/防衛省の事業で/衛星画像を提供/浸水の範囲や船を/悪天候でも把握/多数の衛星で/同じ場所を10分毎

防衛の画像取得を担う

同社の画像は、すでに国の安全保障の現場で使われています。2025年12月24日には、同社を含む複数の企業が防衛省の「衛星コンステレーションの整備・運営等事業」を落札しました。2026年2月には、同社と株式会社トライサット・コンステレーション、スカパーJSAT株式会社の3社が、画像データ取得業務の委託契約を締結しました。事業期間は2031年3月末までの約5年間で、同社はSAR画像の安定的な提供を担います。

災害や港湾の監視へ広がる

次に広がるのは、災害対応インフラの監視です。SAR画像は、浸水した範囲や地盤の動き、建物の被害を、天候に左右されずに把握できるとされています。港湾や海上では、停泊する船舶の位置や動きも継続して確認が可能です。夜間や悪天候ほど現場の状況は分かりにくくなるため、こうした場面での活用が期待されています。

準リアルタイム観測を目指す

同社が目指すのは、地球上のほぼどこでも、短い間隔で見続けられる観測網です。当初は12の軌道に3機ずつを並べる36機の構想でしたが、高まるデータ需要に応えるため、独自の傾斜軌道を軸としたより大規模な計画へ拡大しました。まず2028年5月までに24機、2030年にはさらに機数を増やした衛星コンステレーションの構築を掲げています。この大規模なコンステレーションが整えば、地球上のほぼどこでも同じ地点を平均10分間隔で観測できるようになるとしています。

FrontJournalの解説
  • 衛星コンステレーション複数の衛星を組み合わせて運用する仕組み。機数と軌道を設計することで、同じ地点を観測できる頻度を高められる。
  • 傾斜軌道赤道面に対して傾いた面を回る軌道。傾きを選ぶことで、観測したい緯度帯を通る回数を増やせる。

会社概要|QPS研究所の事業内容・設立背景

九州大学の衛星開発を継承

株式会社QPS研究所は、2005年6月に福岡市で設立されました。創業したのは、九州大学名誉教授の八坂哲雄桜井晃、そして三菱重工業株式会社でロケット開発に携わった舩越国弘です。1995年から九州大学で続く小型衛星開発の技術を受け継ぎ、九州に宇宙産業を根づかせることを目的としています。代表取締役社長CEOは、九州大学大学院で航空宇宙工学を修めた大西俊輔です。

宇宙戦略基金に採択

量産体制づくりを後押しするのは、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の宇宙戦略基金への採択です。2024年11月に「商業衛星コンステレーション構築加速化」の大型案件として採択され、2025年3月に2027年3月までの当初交付金額8,465百万円(約85億円)の交付が決定しました。技術開発課題の名称は「小型SAR衛星の量産加速化及び競争優位性確立に向けた機能強化」です。

上場と持株会社への移行

同社は2023年12月に東京証券取引所グロース市場(新興企業向けの市場)へ上場しました。2025年11月27日に上場を廃止し、12月1日には単独株式移転(1社だけで持株会社を設立する手続き)により持株会社「株式会社QPSホールディングス」が設立され、同社はその事業子会社となりました。上場の主体は持株会社へ移り、証券コードは5595から464Aに変わっています。

会社情報

会社名株式会社QPS研究所(iQPS, Inc.)
所在地福岡県福岡市中央区長浜1-1-1 KBCビル8F
設立2005年6月
代表代表取締役社長 CEO 大西 俊輔
創業者八坂 哲雄・桜井 晃(ともに九州大学名誉教授)、舩越 国弘(三菱重工業出身)
資本構成株式会社QPSホールディングス(100%)。持株会社は東証グロース市場に上場(証券コード464A)
上場2023年12月6日に東京証券取引所グロース市場へ上場(旧証券コード5595)。2025年11月27日に持株会社体制へ移行するため上場廃止
連携防衛省「衛星コンステレーションの整備・運営等事業」(2025年12月24日落札)。株式会社トライサット・コンステレーション、スカパーJSAT株式会社との3社間で画像データ取得業務の委託契約を締結(2026年2月・2031年3月末まで)
技術領域小型SAR衛星「QPS-SAR」の開発・製造・運用と画像提供。収納展開式アンテナ(収納時は直径約80cm・高さ15cmほど、軌道上で直径3.6m、質量約10kg)。衛星質量は100kg台。分解能はストリップマップ1.8m、スポットライト50cm以下
採択JAXA宇宙戦略基金「商業衛星コンステレーション構築加速化」(2024年11月採択・2025年3月に当初交付金額8,465百万円の交付決定)
URLhttps://i-qps.net/

編集後記|FrontJournal編集部より

宇宙から地表を見る手段は、長く晴れた昼間に限られてきました。電波を使うSARはその制約を外しますが、大きなアンテナが必要です。同社が解いたのは、アンテナを畳むという一点でした。

面白いのは、この工夫が事業の形も変えている点です。軽い衛星は小型ロケットで運べます。単なる高性能な1機ではなく、観測の間隔を縮める仕組みを築いている点に価値があります。

1995年から九州大学で続く衛星開発が、防災と安全保障の現場に届き始めています。

フロントジャーナル編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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