クリングルファーマ「HGF医薬品」を開発

クリングルファーマ株式会社

クリングルファーマ「HGF医薬品」を開発

企業紹介|クリングルファーマ株式会社とは?

体の中で組織の修復を担うタンパク質を、医薬品として製造して有効成分にする「HGF医薬品」。クリングルファーマ株式会社は、その社会実装を目指す、大阪大学・慶應義塾大学発の創薬系ディープテック企業です。医薬品の品質基準で製造したHGFタンパク質を使い、受傷直後の脊髄損傷(脊髄損傷急性期)や、声帯が硬くなる声帯瘢痕を対象に臨床試験を進めています。

キーワード「HGF医薬品」

「HGF医薬品」は、HGF(肝細胞増殖因子)というタンパク質を有効成分とする医薬品です。HGFは肝臓の再生を担う物質として日本で発見され、その後、神経細胞を守る作用や、組織が硬くなる線維化を抑える作用も明らかになりました。これらの作用を生かし、治療法の乏しい難病の治療薬にする研究が進んでいます。

市場課題|脊髄損傷や声帯瘢痕には、傷んだ組織そのものを治す薬がない

現状の脊髄損傷と声帯瘢痕の課題

脊髄損傷は麻痺が残りやすい

脊髄損傷には、傷ついた脊髄そのものを治す有効な治療法がまだありません。事故や転倒で脊髄に強い力が加わると、神経の働きが失われ、手足に麻痺が出ます。治療は骨折を整える手術やリハビリテーションといった対症療法が中心で、米国では退院時に神経の働きが完全に戻る患者は1%未満と報告されています。

硬くなった声帯は戻りにくい

声帯瘢痕は、線維化して硬くなった声帯の粘膜が元に戻りにくく、声を出しにくい状態が続く病気です。声帯は1秒間に200〜300回振動して声を出すため、粘膜が硬くなるだけで発声に大きく影響します。有効な治療法はまだありません。

他にも、運動神経が失われていくALS(筋萎縮性側索硬化症)の進行を抑える手段の少なさ、急性腎障害の治療薬の乏しさ、患者数が少なく薬の開発が進みにくい事情、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 対症療法病気の原因そのものではなく、表に出ている症状を和らげたり、残った機能を生かしたりする治療である。脊髄損傷では手術やリハビリテーションがこれにあたる。

クリングルファーマの強み|「HGF医薬品」を開発

クリングルファーマが「HGF医薬品」を開発

HGFで脊髄の神経を保護

従来の脊髄損傷の治療は残った機能を生かすもので、傷ついた神経そのものを守る薬はありませんでした。

同社が開発するのは、遺伝子組換え技術で製造したヒトHGFタンパク質「オレメペルミン アルファ」です。脊髄損傷では、最初の損傷に続いて周りの組織へ傷が広がる二次損傷が起こり、受傷直後にこれを抑えることが治療の鍵とされています。HGFには神経細胞を守る作用と、軸索(神経の信号を伝える長い突起)の伸びを促す作用があります。投与は受傷早期に脊髄腔内(脊髄を包む髄液の通り道)へ週1回、計5回。傷の広がりを抑えられれば、受傷後に残る麻痺が軽くなり、患者が自分で動ける範囲が広がると期待されます。

抗線維化作用で声帯修復へ

声帯瘢痕には有効な治療法がまだなく、硬くなった粘膜を柔らかく戻す薬もありませんでした。

HGFには、線維成分がたまって組織が硬くなる線維化を抑える働き(抗線維化作用)があります。同社は、声帯の粘膜内にHGFを週1回、計4回注射し、硬くなった声帯の動きを取り戻す治療を目指しています。声帯に使う量は神経の病気の10分の1以下と少なく、安全性を調べた第I/II相試験(少人数で安全性と効果を探る臨床試験)では、重い副作用は認められていません。現在は第III相試験(承認前の最終段階の臨床試験)を国内で実施中です。効果が確かめられれば、注射で声の出しにくさを改善する選択肢が加わります。

FrontJournalの解説
  • 二次損傷脊髄に外力が加わった最初の損傷に続いて、炎症などにより周りの組織へ傷が広がる現象である。受傷直後の急性期にこれを抑えることが、治療の鍵と考えられている。

HGF医薬品の未来|脊髄損傷の国内承認申請と、米国での開発へ

修復を担うHGF医薬品が変える未来

日米欧で希少疾病用医薬品に指定

脊髄損傷急性期を対象とするHGFタンパク質は、日本・米国・欧州で希少疾病用医薬品に指定されています。希少疾病用医薬品は、患者数が少なく治療法の乏しい病気の薬の開発を国が支援する制度で、指定を受けると開発費の助成や優先審査を受けられます。国内の指定は2019年9月、米国は2025年6月、欧州は2026年4月です。国内の指定では、開発費の助成を受けられるほか、承認申請後の審査も優先されます。

国内承認へ追加試験が始動

2024年に結果が出た第III相試験を受け、PMDA(医薬品医療機器総合機構)との協議で、承認申請の前に追加の試験を行うことが決まりました。第III相追加試験は、完全麻痺の頚髄損傷(首の部分の脊髄の損傷)の患者10人を対象に、2026年から国内3施設で患者の登録を進めています。除外基準を見直して薬の効果を評価しやすい患者に対象を絞った点が、この試験の特徴です。

米国での承認取得を目指す

同社は、米国でも脊髄損傷急性期の治療薬の承認取得を目指します。2026年9月には、米国での第III相試験に向けてFDA(米国食品医薬品局)へ治験開始申請を提出しました。米国の外傷性脊髄損傷の新規患者は、毎年1万8,000人を超えるとされています。承認されれば、米国でも受傷直後の患者がHGFによる治療を受けられるようになります。

会社概要|HGFの研究者が2001年に設立したクリングルファーマ

HGF研究から2001年に設立

クリングルファーマは、松本邦夫氏が2001年12月に起業した会社です。松本氏は、故中村敏一氏(大阪大学名誉教授)とともにHGFの働きを研究してきました。自らを大阪大学・慶應義塾大学発の創薬バイオベンチャーとしています。2005年に中村氏からHGFの開発実施権を得て、2007年には医薬品の品質基準を満たすHGFタンパク質を量産する製造方法を確立しました。ファウンダー兼科学アドバイザーの松本氏は、2007年に金沢大学がん進展制御研究所の教授となり、現在は金沢大学の副学長を務めています。

大学との共同研究と提携

研究の土台は大学との共同研究。慶應義塾大学の岡野栄之教授・中村雅也教授とは、iPS細胞(さまざまな細胞に育つ人工の幹細胞)由来の神経の細胞とHGFを組み合わせる治療法を研究しています。金沢大学では、松本氏とのHGFの次世代製造方法の研究と、呼吸器内科との特発性肺線維症(原因不明のまま肺が硬くなる病気)への応用研究が進行中です。米国のクラリス・バイオセラピューティクスとは、ライセンス・供給契約を結んでいます。クラリス社は、クリングルファーマが供給するHGFを使って神経栄養性角膜炎(角膜の傷が治りにくくなる目の病気)の第I/II相試験を実施し、同試験は2024年6月に完了しています。

上場と主な提携

株式は2020年12月に東証マザーズ市場(現在のグロース市場)へ上場しました。2020年には丸石製薬、東邦ホールディングスとそれぞれ資本業務提携を結びました。2025年11月には米国子会社が設立されています。厚生労働省の「えるぼし」認定(女性活躍を推進する企業の認定・3段階目)を受けています。

会社情報

会社名クリングルファーマ株式会社(Kringle Pharma, Inc.)
所在地大阪府大阪市北区中之島4丁目3番51号(Nakanoshima Qross 未来医療R&Dセンター10階)
設立2001年12月21日
代表代表取締役社長 安達喜一
資本金6,417万6,000円
上場東京証券取引所グロース市場(証券コード 4884)
従業員17名(2025年9月末現在。公式サイト掲載)
事業HGFを医薬品とするための研究開発、製造、販売
技術領域組換えヒトHGFタンパク質「オレメペルミン アルファ」による脊髄損傷急性期・声帯瘢痕・ALS・急性腎障害の治療薬開発
連携慶應義塾大学、金沢大学、京都府立医科大学、東北大学。丸石製薬、東邦ホールディングス、クラリス・バイオセラピューティクス(米国)
採択希少疾病用医薬品指定(脊髄損傷急性期・日本2019年/米国2025年/欧州)。えるぼし認定(3段階目・厚生労働省)
URLhttps://www.kringle-pharma.com/

編集後記|FrontJournal編集部より

体がもともと持つ修復の仕組みを、そのまま薬にする。クリングルファーマのHGF医薬品は、肝臓の再生を担う物質として見つかったタンパク質を、神経や声帯の病気へ広げてきた技術です。複雑な構造を持つ大きなタンパク質を、医薬品として量産できる形にした点に、長い研究の積み重ねを感じました。

脊髄損傷では、これまで手術やリハビリテーションで残った機能を生かす治療が中心でした。HGF医薬品は、傷んだ組織そのものに働きかける薬として、その前提を変えようとしています。脊髄損傷では追加試験と米国での治験が、声帯瘢痕では実施中の第III相試験が、薬という選択肢が加わるかどうかを左右します。

創業者の松本邦夫氏は、金沢大学の副学長を務めながら、同社とHGFの次世代製造方法を研究しています。金沢大学にゆかりのある企業は、金沢大学発・関連スタートアップ8選で紹介しています。

FrontJournal編集部

出典:経済産業省 大学発ベンチャーデータベース2026

出典:「Gビズインフォ」(経済産業省)(2026年9月28日に利用)を加工して作成

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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