株式会社RTi-castはスパコンで津波被害をリアルタイム推定する東北大学発スタートアップ

株式会社RTi-cast(アールティアイキャスト)

RTi-cast|研究領域=津波の浸水と被害を自動で予測する技術/強み=地震後20〜30分で予測を配信できる/将来性=自治体に加えて物流など産業へ

企業紹介|株式会社RTi-castとは?

地震発生から20〜30分を目安に、津波の浸水範囲と被害を推定するシステム「TsunamiCast」。その「TsunamiCast」の社会実装を担うのが、東北大学発の防災テックスタートアップ、株式会社RTi-castです。2024年には、気象庁から民間で初めて津波の予報を発表する許可を得ました。

キーワード「TsunamiCast」

TsunamiCast」は、スーパーコンピュータで津波の伝播・浸水・被害を自動計算し、地図化して配信するシステムです。地震情報を受け取ってから最大浸水深などを算出するまでの工程は自動化され、システムは24時間365日稼働しています。計算基盤は、東北大学のスーパーコンピュータ「AOBA」です。

市場課題|津波情報の空白時間

現状の津波被害推定の課題|発災直後は地域ごとの浸水範囲が空白/一般の計算機では結果に数日かかる

発災直後は浸水範囲が不明

大地震の直後、住民や自治体には自分たちの地域にどこまで水が来るのかが分かりません。気象庁の津波警報は数分で発表されますが、地域ごとの浸水範囲や建物被害までは示しません。この空白が続くと、避難の判断や救助の優先順位づけが遅れ、被害が拡大するおそれがあります。

従来計算は数日で初動に遅れ

従来の津波浸水予測は、一般的な計算機では結果が出るまでに数日かかり、発災直後の初動には間に合いませんでした。地形を細かく区切って波の動きを追う計算に、膨大な処理量が必要なためです。行政の防災計画は、事前に作成した想定シナリオに頼らざるを得ない状態が続いてきました。

他にも、避難行動の判断遅れ、想定を超える津波規模、被災地の通信インフラ途絶、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • 津波警報気象庁が地震発生後に数分で発表する、津波の到達を知らせる警報。到達予測時刻と高さの目安を示すが、地域ごとの詳細な浸水域までは示さない。

RTi-castの強み|即時被害推定システム

RTi-castが「TsunamiCast」を開発|陸を10m格子に区切り浸水を計算/災害時に計算資源を占有して高速化

10mメッシュで浸水を計算

津波の到達を早く知らせるだけの計算では、どの建物が浸水するかまでは分かりません。

「TsunamiCast」は陸地を10m四方の格子(メッシュ)に区切り、1マスごとに浸水の深さを計算します。第1段階は震源断層のすべり分布(地下の断層が動いた量と範囲)の推定で、「RAPiD」(リアルタイム断層モデル推定法)などで求め、海面の初期の盛り上がりを決めます。第2段階は波の追跡で、非線形長波理論(水深に対して波長が長い津波の動きを解く方程式)にもとづく数値モデルにより、沖から陸へ駆け上がる動きを再現。最後に浸水の深さから建物の被害を推定し、地図に重ねて配信します。

災害時に計算資源を占有

大規模なシミュレーションは、順番待ちの列に並ぶ方式では、結果が出るころに初動の時間が過ぎてしまいます。

同社が使うのは、東北大学のスーパーコンピュータ「AOBA」の「ディザスターモード」(地震が起きた瞬間に必要な計算資源を割り当てる運用)です。ベクトル型と呼ばれる、大量の数値を一度にまとめて処理する方式のため、格子を細かく切っても計算が滞りません。この体制により、1県分を10m解像度・6時間先まで20分以内に計算します。開発の目標は「トリプル10」=10分で断層を推定し、10分で浸水被害を10mメッシュで予測することでした。

FrontJournalの解説
  • 非線形長波理論水深に対して波長が非常に長い波の運動を記述する方程式。津波は波長が数十キロメートルに達するため、この理論で沖から陸への伝播と遡上を計算する。

津波予報の先へ|広がる防災の応用

即時の津波予測が変える未来|仮想空間の再現で被害予測が細かく/全国の沿岸自治体へ予報の提供が広がる/支援物資の輸送計画にも予測を活用

仮想空間で被害予測を精緻化

RTi-castは2023年9月から、「津波災害デジタルツイン」の開発に参画しています。内閣府が進める大型研究プログラム「SIP」(戦略的イノベーション創造プログラム)の枠組みで、東北大学、北海道大学、NEC、LocationMindなどと共同で開発を進めています。現実の地形や社会のデータを仮想空間に再現し、津波の被害をより細かく予測する仕組みです。将来的には、避難計画づくりや復旧対応の判断支援にも活用が広がるとされています。

全国の沿岸自治体へ拡大

同社は、他の沿岸自治体への展開を目指しています。予報業務許可にもとづく提供先は、現在のところ高知県と沿岸の19市町です。地震・津波の発生頻度が高い日本では、地域ごとに詳しい予報を得られる仕組みへの需要が高いといわれています。技術が広がれば、避難のタイミングをより的確に判断できる自治体が増えると考えられます。

産業活用を目指す

リアルタイムに被害を推定する技術は、防災分野にとどまらず、保険や物流など幅広い産業への応用が見込まれています。想定される活用先は、損害保険の査定や、支援物資の輸送計画です。同社は東北大学との共同研究を続けており、地震以外の自然災害への展開も視野に入れています。産業を横断して技術を広げ、災害による被害をより小さくすることを目指しています。

会社概要|株式会社RTi-castの事業内容

産学連携からの誕生

株式会社RTi-castは、2018年3月に仙台市で設立されました。設立時の出資者は、東北大学、国際航業、エイツー、日本電気(NEC)です。産学連携研究の成果を事業化する目的で発足し、代表取締役には、防災コンサルティングに携わってきた村嶋陽一氏が就任しました。技術面では、東北大学災害科学国際研究所の越村俊一教授が最高技術責任者を務めています。母体となった研究は、2004年のインド洋大津波と2011年の東日本大震災を教訓に積み重ねられてきました。

公的事業での採択

その研究は、2014年12月の総務省「G空間シティ構築事業」(位置情報を活用した都市整備の実証事業)で実証されました。その成果を引き継ぐ形で、内閣府の総合防災情報システムに2017年4月に採用され、同年11月から運用されています。2023年9月からは内閣府「SIP」に参画し、津波災害デジタルツインの開発を進めています。

2024年3月には、気象庁から民間で初めて津波予報業務の許可(自らの名前で津波の予報を発表できる資格)を取得しました。同年4月からは高知県および高知県沿岸の19市町へ、独自の予報を提供しています。2024年8月8日の日向灘の地震では、地震発生から24分後に高知県沿岸の津波被害の予測を配信しました。

資金調達の経緯

2018年7月には、東北大学ベンチャーパートナーズが運用する「THVP-1号ファンド」から出資を受け、資本金を増資しました。東北大学ベンチャーパートナーズは、東北大学発ベンチャーの育成を目的とした認定ベンチャーキャピタルです。資本金は4,800万円で、同額の資本準備金を積んでいます。

会社情報

会社名株式会社RTi-cast(RTi-cast Inc.)
所在地宮城県仙台市青葉区中央2-2-10 仙都会館5階
設立2018年3月
代表代表取締役:村嶋 陽一
最高技術責任者(CTO):越村 俊一(東北大学災害科学国際研究所 教授)
資本金4,800万円(資本準備金 4,800万円)
調達2018年7月 東北大学ベンチャーパートナーズ「THVP-1号ファンド」から出資(資本金増資)
技術領域リアルタイム津波浸水・被害推定、津波予報業務、防災デジタルツイン
連携株主(現在):国際航業株式会社/株式会社エイツー/日本電気株式会社(NEC)/ESRIジャパン株式会社
設立時の出資者:東北大学/国際航業株式会社/株式会社エイツー/日本電気株式会社(NEC)
SIP共同開発:東北大学/北海道大学/NEC/LocationMind株式会社
採択総務省G空間シティ構築事業(2014年12月 実証)/内閣府 総合防災情報システム(2017年4月 採用)/内閣府SIP「スマート防災ネットワークの構築」(2023年9月〜)
URLhttps://www.rti-cast.co.jp/

編集後記|FrontJournal編集部より

津波の被害推定は、これまで発災後の限られた時間のなかで、事前に作成した想定シナリオに頼らざるを得ない場面が少なくありませんでした。RTi-castが提供する「TsunamiCast」は、その空白を計算とデータで埋める試みです。2024年に気象庁から得た民間初の津波予報業務許可は、行政の情報だけに頼ってきた防災のあり方に、新しい選択肢を加えるものといえます。

高知県での運用実績が、他の沿岸自治体にどこまで広がるかが今後の焦点になりそうです。東日本大震災を経験した東北大学発の技術が、日本各地の防災力を底上げする基盤になり得るか。RTi-castの取り組みは、その可能性を静かに広げています。

フロントジャーナル編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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