ティムス|東京農工大学発の「脳梗塞治療薬」の候補を開発する創薬系ディープテック企業

株式会社ティムス

ティムス「脳梗塞治療薬」を開発|研究領域=血栓を溶かす新薬の候補/強み=血栓溶解と抗炎症の作用を併せ持つ/将来性=腎臓や脊髄へ開発を広げる

企業紹介|ティムスとは?

発症から時間がたった患者への使用を目指し、承認前の臨床試験が進む「脳梗塞治療薬」。ティムスは、その社会実装を目指す、東京農工大学発のライフサイエンス系ディープテック企業です。クロカビの一種が産生する化合物から見いだした候補物質「TMS-007」を、提携先の製薬企業と国際共同の臨床試験で開発しています。

キーワード「脳梗塞治療薬」

脳梗塞治療薬は、脳の血管に詰まった血栓(血液の塊)を溶かして血流を戻し、脳の障害を抑えるための薬です。発症直後に使う血栓溶解薬の中心は「t-PA」ですが、投与は原則として発症後4.5時間以内に限られます。この時間を過ぎた患者にも使える薬の開発が進められています。

市場課題|脳梗塞の薬は使える時間が短い

現状の脳梗塞治療の課題|現状は、出血の副作用で血栓溶解薬を使える時間が短い/投与時間が短く対象が限られる/出血の副作用で使いにくい

投与時間が短く対象が限られる

脳梗塞で血栓を溶かす治療は、使える時間が短いため、一部の患者にしか行えていません。t-PAは原則として発症後4.5時間以内の投与に限られ、先進国でも患者の5〜10%にしか使われていないといわれています。時間を過ぎて着いた患者は、原則この治療を受けられません。

出血の副作用で使いにくい

既存の血栓溶解薬は、頭蓋内出血(頭の中の出血)を助長する副作用があり、そのリスクを抑えるために使える時間が区切られています。また、血流の再開後に起こる虚血再灌流障害(炎症などで組織が損傷する現象)も課題です。血栓を溶かす作用だけでは、この損傷を抑えにくい恐れがあります。

他にも、介護が必要になる主な原因の一つである脳血管疾患の負担、世界で年間約330万人に上る脳梗塞の死者、血栓除去術(カテーテルで血栓を取り除く治療)も適さない患者の選択肢の少なさ、といった課題があるといわれています。

FrontJournalの解説
  • t-PA組織型プラスミノーゲン活性化因子の略。血液中のプラスミノーゲンを、血栓を溶かす酵素プラスミンに変える薬で、急性期脳梗塞に使われる。出血の副作用があるため、投与は原則発症後4.5時間以内に限られる。

ティムスの強み|「脳梗塞治療薬」を開発

ティムスが「脳梗塞治療薬」を開発|今後は、1剤で血栓溶解と抗炎症が可能に/体の血栓溶解を後押しする/溶かしながら炎症も抑える

体の血栓溶解を後押しする

t-PAは、血液中のプラスミノーゲン(血栓を溶かす酵素のもと)を切断して働かせる薬で、出血の危険があるため、発症から短い時間しか使えません。

同社の「TMS-007」は、クロカビの一種が産生する化合物群「SMTP」(血栓や炎症に働く低分子化合物の一群)の一つです。プラスミノーゲンの立体構造を緩めて血栓の主成分フィブリンに結びつきやすくし、体に備わった血栓溶解を後押しします。90人を対象とした前期第2相試験では、発症後12時間以内の患者で、90日後に明らかな障害が残らない状態まで回復した割合が、プラセボ(有効成分を含まない薬)群を統計的に有意に上回りました。承認に至れば、発症から時間がたった患者にも治療の選択肢が広がる可能性があります。

溶かしながら炎症も抑える

従来の血栓溶解薬は血流を戻す働きが中心で、頭蓋内出血の副作用や、血流の再開に伴う虚血再灌流障害には対処しにくいという弱点があります。

TMS-007は、炎症の制御に関わる酵素「sEH」(可溶性エポキシドヒドロラーゼ)の働きを妨げ、炎症を抑える作用も併せ持ちます。ビタミンEに似た構造を持ち、抗酸化作用も示します。前期第2相試験では、投与後24時間以内に症状の悪化を伴う頭蓋内出血は、プラセボ群の38人中1人に対し、TMS-007群の52人では1人も起きませんでした。承認に至れば、血栓を溶かすと同時に、血流の再開に伴う脳の損傷も抑えられる可能性があります。

FrontJournalの解説
  • SMTPクロカビの一種が産生する低分子化合物の一群で、60種類以上の類似化合物からなる。構造の違いで、血栓溶解を促す作用、炎症を抑える作用、抗酸化作用の組み合わせが変わり、化合物ごとに対象疾患を選んでいる。

未来|脳梗塞から他の病気へ新薬開発が広がる

開発中の脳梗塞治療薬が変える未来|治療薬の少ない病気へ開発を広げる/国際共同の治験が始動/急性腎障害の治験を準備/脊髄損傷の新薬開発を目指す

国際共同の治験が始動

TMS-007は、国際共同の治験「ORION」(承認前の第2/3相試験)に進んでいます。試験はCORXEL(日本以外での開発・販売権を持つ製薬企業)が主導し、発症後4.5〜24時間の患者約740名を対象に、20カ国以上で行う計画です。ティムスは国内の治験依頼者を務め、2026年2月に日本でも患者登録を始めました。効果が確かめられれば、4.5時間を過ぎた患者にも治療の道が開ける可能性があります。

急性腎障害の治験を準備

同じSMTPの「TMS-008」は、急性腎障害(腎機能が急に落ちる病気)の治療薬候補として、次の臨床試験を準備中です。2026年9月には、心臓血管手術後の患者の前期第2相試験に向け、PMDA(医薬品の審査機関)との対面助言を終えました。炎症を抑え、血栓は溶かさない化合物で、健康な成人での第1相試験では良好な安全性・忍容性が示されています。急性腎障害の承認薬は知られておらず、術後の腎臓を守る選択肢になる可能性があります。

脊髄損傷の新薬開発を目指す

同社が目指すのは、大学発の薬の種を導入し、治療薬の少ない病気へ開発を広げることです。2024年に北海道大学から脊髄損傷の治療薬候補「TMS-010」を導入しました。TMS-010は、血液脳脊髄関門(脊髄へ入る物質を選ぶ仕組み)の破綻を防いで損傷の拡大を抑えると期待される化合物で、動物実験で運動機能の改善を示しています。治療の選択肢が限られる脊髄損傷に治療薬が加われば、損傷後の回復を後押しできる可能性があります。

会社概要|株式会社ティムス

東京農工大学の研究から創業

ティムスは、2005年2月に東京農工大学の研究成果をもとに設立された創薬企業です。同大学の発酵学研究室で教授を務めた蓮見惠司氏らが発見した医薬の種を、実用化することが目的でした。SMTPは、スタチン(コレステロール低下薬)を発見した遠藤章博士の流れを汲む同研究室が、微生物由来の物質の探索で見いだした化合物群です。2022年11月には東京証券取引所グロース市場へ上場しました。代表取締役社長は若林拓朗氏、取締役会長は蓮見氏です。

海外製薬への導出を経験

同社はTMS-007を前期第2相試験まで自社で開発し、その先を海外の製薬企業に託しました。2018年6月には、TMS-007を米国のバイオジェンに契約上の総額3億5,700万ドルで導出(開発・販売の権利を他社に渡すこと)するオプション契約を結び、2021年5月にバイオジェンが権利を行使しています。2024年1月、TMS-007の権利はバイオジェンからCORXELへ移りました。ティムスは日本での独占的な開発・販売権を得て、日本以外での開発・販売に応じたマイルストーン一時金とロイヤリティを受け取る権利も持っています。

大学と組み新薬の種を探す

同社は、研究機関と組んで薬の種を探し、早期の臨床試験までを自ら進め、後期からは製薬企業と提携して製品化を目指します。北海道大学からは、2025年に生体物質「レゾルビン」の新しい安定化体も導入しました。2026年3月には、九州大学とTMS-008の共同研究を始めています。初期には、JST(科学技術振興機構)やNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の事業にも採択されました。

会社情報

会社名株式会社ティムス(TMS Co., Ltd.)。東京証券取引所グロース市場上場(証券コード4891)
所在地東京都府中市府中町1丁目9番地 京王府中1丁目ビル11階
設立2005年2月
代表若林 拓朗(代表取締役社長)。取締役会長は蓮見 惠司
資本金11億3,700万円(2025年12月末時点)
事業医薬品の研究開発。急性期脳梗塞の治療薬候補「TMS-007(JX10)」、急性腎障害の治療薬候補「TMS-008」、脊髄損傷の治療薬候補「TMS-010」など。治療抵抗性高血圧の治療薬候補「JX09」の日本での開発権も保有
技術領域クロカビ由来の低分子化合物群「SMTP」(血栓溶解促進・抗炎症・抗酸化)
連携CORXEL(TMS-007の国際共同試験「ORION」を主導)。北海道大学(TMS-010・レゾルビン安定化体の導入元)。九州大学(TMS-008の共同研究)
採択JST「研究成果最適展開支援事業」フィージビリティスタディ(2011年)。NEDO「中堅・中小企業への橋渡し研究開発促進事業」(2015年)
URLhttps://www.tms-japan.co.jp/

編集後記|FrontJournal編集部より

脳梗塞の治療では、発症からの時間が薬を使えるかどうかを分けてきました。ティムスが開発中のTMS-007は、血栓を溶かす作用と炎症を抑える作用を1つの化合物に併せ持つ点で、この時間の壁に別の角度から向き合う候補物質です。その効果は、まだ臨床試験で確かめている段階にあります。

興味深いのは、出発点がカビのつくる物質だったことです。スタチンを生んだ研究室の流れから、脳梗塞や急性腎障害の治療薬候補が育ってきました。血管が詰まる病気に向けた新薬の開発は、網膜の動脈が詰まる病気を対象とする京都創薬研究所でも進んでいます。

国際共同の臨床試験「ORION」で、TMS-007の効果がどこまで確かめられるのか、引き続き注目していきたいと思います。

FrontJournal編集部

出典:経済産業省 大学発ベンチャーデータベース2026

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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