京都創薬研究所|「眼難治疾患の治療薬」を研究

株式会社京都創薬研究所(KDDD)

京都創薬研究所「眼難治疾患の治療薬」を研究|網膜の細胞死を抑える薬を開発/小規模な治験で視力改善を報告/対象の病気と投与法を広げる

企業紹介|株式会社京都創薬研究所とは?

失明につながる病気の進行を抑える手段として、注目を集める「眼難治疾患の治療薬」。株式会社京都創薬研究所は、その「眼難治疾患の治療薬」の社会実装を目指す、京都大学発のライフサイエンス系ディープテック企業です。低分子化合物「KUS121」を、標準治療の定まらない網膜中心動脈閉塞症の医療現場へ届けるべく開発しています。

キーワード「眼難治疾患の治療薬」

ここでいう「眼難治疾患の治療薬」は、視力の低下が進む眼の病気に対して、網膜の神経細胞そのものを保護する薬です。特徴は、原因の異なる複数の病気に共通する細胞死の仕組みへ働きかけられる点にあります。眼科の診療現場では、経過を見守ることの多かった患者に新たな選択肢を示せると期待されています。

市場課題|視力を守る治療の限界

現状の眼難治疾患の課題|現状は、眼圧下降だけでは細胞死が続く/網膜の細胞死が視力低下を招く/眼圧下降以外の治療が限られる

網膜の細胞死が視力低下を招く

眼の難治疾患では、網膜の神経細胞が失われて視力が低下します。その代表が緑内障網膜色素変性症で、新たに視覚障害の認定を受けた人を対象とする2019年度の調査では、原因の40.7%が緑内障でした。別の地域住民調査では、40歳以上の緑内障の有病率は5.0%で、うち約9割が未診断と報告されています。

眼圧下降以外の治療が限られる

網膜の神経細胞を守る治療は、選択肢が限られています。緑内障の診療ガイドラインは、科学的根拠のある治療を眼圧下降(眼球内の圧力を下げる治療)に絞り、神経保護(神経細胞そのものを守る考え方)を狙う薬剤はエビデンスが乏しいとしています。網膜中心動脈閉塞症(網膜の血管が詰まる病気)でも、標準治療は定まっていません。

他にも、希少疾患での被験者の確保、視野の評価に要する長い期間、臨床試験で再現しにくい神経保護の効果、といった課題があるといわれています。

京都創薬研究所の強み|KUS121

京都創薬研究所が「眼難治疾患の治療薬」を開発|今後は、ATPの維持で網膜の保護が可能に/ATPの枯渇を抑え細胞死を防ぐ/治験で視力の改善を報告

ATPの枯渇を抑え細胞死を防ぐ

従来の眼科の薬は、眼圧や血流といった細胞のまわりの条件を整えるものが中心で、細胞そのものには手を加えていません。

網膜の神経細胞は、血流が途絶えるとATP(細胞が活動するためのエネルギー源)を使い果たし、細胞死に至ります。「KUS121」は、この消費そのものを細胞の内側から抑える低分子化合物です。細胞にはVCP(ATPを分解して多くの働きを担うタンパク質)が多量にあり、その働きは細胞に欠かせません。「KUS121」は他の働きを残したまま、ATPを分解する活性だけを弱めます。創製したのは京都大学の垣塚彰名誉教授らで、「KUS剤」と呼ぶ化合物群のうち最も開発が進んだのが「KUS121」です。

治験で視力の改善を報告

神経保護を狙う薬剤は、動物実験の結果が臨床試験で再現しにくく、実用化した例は限られるといわれています。

「KUS121」は、網膜の血管が詰まった直後に投与し、細胞が失われる前に働かせる設計です。京都大学医学部附属病院の池田華子特定准教授らの医師主導治験(医師が計画して実施する治験)では、発症から4〜48時間の患者9例へ、3日間続けて硝子体内投与(眼球内へ注射で薬を届ける方法)を行いました。重篤な副作用は認められず、WHOが失明と定義する視力0.05未満を脱した症例は9例中7例です。結果は2020年に「PLOS ONE」で報告されましたが、対照群を置かない小規模な試験です。

FrontJournalの解説
  • KUS121京都大学で創製された低分子化合物。ATPを分解して得たエネルギーで多くの働きを担うタンパク質VCPのうち、ATPを分解する活性だけを選んで抑え、細胞のエネルギーが枯渇するのを防ぐ。原因の異なる複数の眼の病気に共通する細胞死の過程へ働きかけるため、網膜中心動脈閉塞症のほか緑内障や網膜色素変性症への応用も見込まれている。

KUS121の未来|眼科医療への応用

新しい仕組みの治療薬が変える未来|日米で試験を進め、対象の病気を広げる/米国で第2相試験を完了/日本で第3相試験を準備/点眼と適応拡大を目指す

米国で第2相試験を完了

「KUS121」の開発は、米国での第2相試験(効果と適切な用量を調べる段階)まで進みました。「GION試験」は、発症3〜48時間の患者を対象に2024年4月に始まりました。参加者と医師、評価者に投与内容を伏せる設計で、登録は米国11施設の17例です。評価したのは、12週の時点で投与前より視力検査表の文字を15文字ぶん多く読めた患者の割合で、試験は2025年11月に完了しました。

日本で第3相試験を準備

同社は、日本での第3相試験を準備しています。2025年11月には、厚生労働省から網膜中心動脈閉塞症を対象とする希少疾病用医薬品の指定を受けました。この指定制度の対象は、国内の患者が5万人未満で医療上の必要性が高い医薬品です。米国でも2022年5月に希少疾病用医薬品、2025年5月にファストトラック(開発と審査を早める指定)の指定を取得しています。

点眼と適応拡大を目指す

同社が目指すのは、網膜中心動脈閉塞症以外の眼の難治疾患へ「KUS121」を広げることです。網膜色素変性症や緑内障のモデル動物では進行を遅らせる効果が確認されており、加齢黄斑変性を含めて今後の対象に挙げられています。慢性に進む病気では注射を繰り返しにくいため、京都大学の研究グループと点眼薬を検討しています。ハーバード大学医学部附属のマサチューセッツ眼科耳鼻咽喉科病院とは、外部対照データ(過去の診療記録から比較対象を用意する手法)を構築する共同研究契約を2025年9月に結びました。

会社概要|京都創薬研究所の事業内容

京都大学の研究から事業化

株式会社京都創薬研究所は、京都大学で創製された「KUS剤」を治療薬にするために、2015年5月に設立されました。化合物を創製したのは、大学院生命科学研究科の垣塚彰名誉教授らの研究グループです。代表取締役CEOを務めるのは、眼科医の武蔵 国弘です。同社は2016年7月に本社を京都大学内へ移し、2017年8月には学内にラボを新設しました。現在は大阪市中央区に本社を置いています。

公的支援を受けて開発を加速

開発を支えているのは、公的機関の支援です。2023年4月にはAMED(日本医療研究開発機構)の「創薬支援推進事業-希少疾病用医薬品指定前実用化支援事業-」に採択され、その資金を米国の第2相試験に充てました。医師主導治験も、厚生労働省の科学研究費とAMEDの橋渡し研究戦略的推進プログラムの助成を受けました。

子会社を通じ日米で事業展開

同社は、日本と米国のそれぞれに子会社を置いて事業を進めています。2016年3月には、京都大学と特許実施権許諾契約を結び、化合物の権利関係を整えました。米国での開発は米国法人の「KDDD Inc.」が担い、2025年6月には、研究用試薬を扱う子会社「株式会社Kyoto Cell Pro」を設立しています。

会社情報

会社名株式会社京都創薬研究所(Kyoto Drug Discovery and Development Co., Ltd.)
所在地大阪市中央区淡路町1-6-9 プライムスクエア北浜8階(本社)。大阪府茨木市彩都あさぎ7-7-18(ラボ・彩都バイオヒルズセンター)
設立2015年5月15日
代表代表取締役CEO 武蔵 国弘。取締役CTO 岡本 征己。取締役 宮脇 宣明
資本金6,960万円(2022年4月30日時点の公表値)
事業医薬品、診断薬、再生医療等製品、医療機器、試薬等の研究開発。米国法人「KDDD Inc.」(ペンシルベニア州フィラデルフィア)と、研究用試薬を扱う「株式会社Kyoto Cell Pro」(2025年6月設立)を持つ
技術領域VCPのATPase活性を抑える「KUS剤」による神経保護。網膜中心動脈閉塞症や緑内障などの医薬品の研究開発等
連携京都大学(2016年3月に特許実施権許諾契約)。京都大学医学部附属病院(医師主導治験)。マサチューセッツ眼科耳鼻咽喉科病院(2025年9月・外部対照データの共同研究契約)
採択AMED「創薬支援推進事業-希少疾病用医薬品指定前実用化支援事業-」(2023年4月)。米FDA 希少疾病用医薬品(2022年5月)・ファストトラック(2025年5月)。厚生労働省 希少疾病用医薬品(2025年11月)
URLhttps://www.kyoto-drug.com/

編集後記|FrontJournal編集部より

京都大学の基礎研究から生まれた化合物が、10年で米国の第2相試験に届きました。網膜の神経細胞を守る発想は、細胞を内側から支えるという、従来とは別の道筋です。日本では、これから第3相試験が始まる段階です。

注目したいのは、最初の対象に急性の病気を選んだ点です。進行の遅い緑内障では、効果の判定に年月がかかります。短期間で作用を確かめられる病気を入口に置く設計です。

実用化に向けた次の結果を待ちます。

フロントジャーナル編集部

本記事は、FrontJournalが公開情報をもとに独自に分析した第三者コンテンツであり、対象企業・研究機関の公式見解ではありません。

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