FrontJournalの解説
この研究分野について
この研究は「有機EL(OLED)の発光材料」の分野です。有機ELとは、電気を流すと自ら光る炭素系の材料(有機材料)を使った表示技術で、スマートフォンの画面、高級テレビ、車のメーターパネルなどに広く使われています。画面の1点1点が「材料そのものの光」で発色するため、発光材料の性能がそのまま画質を決めます。
この分野の研究者が目指しているのは、「より純粋な色を、より効率よく光らせる材料」を作ることです。今回の京都大学の成果は、その「色の純粋さ」で世界最高水準を更新したという発表です。
①OLED材料は年18%成長の巨大市場
京都大学の研究グループが、「多重共鳴」と呼ばれる分子設計を発展させ、半値幅(はんねはば:発光スペクトルのピークの半分の高さでの幅。小さいほど色が純粋)5.5nm という極めて狭帯域な発光を示す有機材料の開発に成功しました。一般的な有機材料の半値幅が40nmを超えることを考えると、従来の約7分の1という数値です。
OLED(有機EL)材料の世界市場は2025年に約353億ドル(約5兆円)に達し、2026年から2034年にかけて年平均成長率18%で拡大すると予測されています。スマートフォン・テレビ・車載ディスプレーへの採用が広がり、発光材料はその中核部材です。
ディスプレーの進化を測る重要な指標が「色域(しきいき:表現できる色の範囲)」です。次世代規格 BT.2020(4K/8K放送向けの国際色域規格)への対応では、発光の半値幅がそのまま色純度を決めます。現在この領域をリードするのは量子ドット(QD:半導体のナノ粒子で、半値幅20〜30nmの狭帯域発光を持つ)で、Samsung の QD-OLED は BT.2020 カバー率90%を達成しています。
②量子ドットを超えうる「分子」の登場
今回の5.5nmという半値幅は、量子ドットの20〜30nmをも大幅に下回る水準です。有機分子は量子ドットと比べて、カドミウムなどの重金属を含まず、溶液プロセス(印刷のように塗って作る製造法)との相性が良いという利点があります。色純度で量子ドットを超える有機分子が登場したことは、次世代ディスプレー材料の勢力図に影響しうる成果です。
多重共鳴型の材料設計(MR-TADF:ホウ素や窒素の配置により発光を狭帯域化する分子設計の潮流)は世界の有機EL材料研究の最前線であり、日本の研究グループはこの分野で先行してきました。今回の成果は、多重共鳴の基本単位を複数連結して励起子(れいきし:光を放つ前のエネルギー状態)を分子全体に広げるという新しい設計指針を示した点に意義があります。OLED素子としての実証も完了しており、産業応用への距離は比較的近いと考えられます。
編集部からひとこと
有機EL材料は日本の研究機関・素材メーカーが世界で存在感を保ってきた領域です。年18%成長が見込まれる市場で、色純度のベンチマークを塗り替える分子が京都大学から生まれたことは、国内材料産業の競争力という観点でも注目に値します。ライセンス供与や企業との共同研究など、社会実装に向けた続報を編集部として追っていきます。詳細な実験データ・論文情報はJST公式ページをご参照ください。