DeepTech企業で働くには?|採用事情・年収・転職ルートを解説

DeepTech企業で働くには?|採用事情・年収・転職ルートを解説

「DeepTech企業に転職したいが、自分のバックグラウンドで通用するのかわからない」——そうした声を聞くことがあります。

DeepTech企業は、バイオ、ロボティクス、素材、宇宙などの分野で、独自技術を事業の核心に置く企業群です。市場をゼロから作る必要があるため、SaaSスタートアップとは採用文脈も求められる経験も大きく異なります。

一方で、ビジネス職や事業開発など、技術専門知識を必須としないポジションも多くあります。この記事では、「自分に合うか」も含めた現実を伝えながら、採用事情、年収、転職ルートを解説します。

1. DeepTech企業とは?

DeepTechとは、科学的な研究成果、独自の技術、特許を事業の中核に置く企業の総称です。AI・機械学習、バイオテクノロジー、ロボティクス、量子コンピューティング、先端素材、宇宙技術、クリーンエネルギーなどが代表的な領域です。

一般的なスタートアップとの最大の違いは、「技術そのものが競争優位の源泉」であることです。既存の技術を組み合わせてサービスを作るのではなく、世界でまだ実現されていない技術の開発と社会実装が事業の出発点になります。

技術の実用化には、数年から十年以上の時間軸が必要になることもあります。そのため、研究フェーズと事業フェーズが分離しにくい点も特徴です。

なお、既存のAI技術を組み合わせて作るSaaSは、DeepTechとは区別されることが一般的です。自社で研究開発を行い、独自のモデルや技術を持つAI企業がDeepTechに含まれます。

世界的に研究開発投資やスタートアップへの投資は拡大しており、AI、宇宙、創薬、ロボティクスなどの領域では大型資金調達が続いています。日本でも、政府・大学・VCによる支援が強化されています。NEDOやJSTによるスタートアップ支援プログラム、「スタートアップ育成5か年計画」などの中でも、DeepTechは重要領域として位置づけられています。

代表的な日本のDeepTech企業

DeepTech企業と聞いても、具体的にどんな会社なのかイメージしにくい方も多いと思います。まずは領域別に代表例を押さえておくと、求人を見るときの解像度が上がります。

  • AI・機械学習Preferred Networksは、ディープラーニング技術の研究開発から、製造業、創薬、材料探索などへの社会実装を進める東京大学発スタートアップです。Sakana AIは、自然界の集合的知性から着想を得た独自の生成AI技術を研究開発しており、金融・公共領域への展開も進めています。
  • ロボティクスMujinは、産業用ロボットの知能化を担う統合型オートメーションプラットフォームを提供しています。Telexistenceは、遠隔操作と自律制御を組み合わせたロボットシステムを開発し、コンビニエンスストアなどへの導入実績を持ちます。
  • 宇宙ispaceは、月面資源開発・輸送サービスを手掛ける民間月探査企業です。Synspectiveは、小型SAR(合成開口レーダー)衛星による地球観測データを、企業・政府向けに提供しています。
  • バイオ・素材Spiberは、タンパク質素材「Brewed Protein」の開発・量産化を進めるバイオ素材企業で、アパレル分野との協業実績を持ちます。PeptiDreamは、特殊ペプチドを用いた創薬プラットフォームを展開する東京大学発の創薬企業です。現在は東証プライム上場企業であり、DeepTech企業の出口の一例としても参考になります。

これらの企業に共通しているのは、技術それ自体が事業の核であり、研究開発に数年から十年単位のタイムラインを持っている点です。SaaSやECのスタートアップとは、事業の時間感覚が根本的に異なります。

一般的なスタートアップ・大企業との主な違い

DeepTechスタートアップ
(SaaS等)
技術独自技術・特許が核心既存技術・UXで差別化
市場ゼロから作る既存市場でシェア獲得
事業化期間3〜10年以上1〜3年でPMF
創業者研究者・博士号取得者が多いエンジニア・ビジネス出身が多い
資金調達大型調達が必要になりやすい段階的な調達
採用基準技術・ミッション理解と実行力実績・スキルのフィット
DeepTech企業と一般スタートアップの違い

2. 採用事情|どんな人材が求められているか

DeepTech企業の採用は、企業のフェーズや領域によって、求められる人材の種類が大きく変わります。シード、シリーズA、シリーズB以降では、採用される職種も期待される役割も異なります。

初期フェーズでは、代表やCTOが採用に深く関与するケースが多い傾向があります。一方、50〜200名規模以降では、HRや人事責任者が採用を担う体制へ移行している企業も一般的です。

いずれのフェーズでも、一般企業とは評価の軸が異なる点は共通しています。単に経験年数や実績を見るだけでなく、技術やミッションへの理解、不確実な状況で動けるかが見られます。

lightbulb採用担当者の視点

DeepTech企業の採用では、特に初期フェーズにおいて「この人はうちの技術の価値を理解しているか」「まだ存在しない市場でゼロから一緒に動けるか」という視点が重視される傾向があります。実績の数字より、課題設定力、仮説検証の姿勢、技術やミッションへの共感が伝わるかどうかが評価の分岐点になりやすいです。

DeepTech企業で採用担当が見る観点

フェーズ別に求められる人材

  • シード〜シリーズA(10〜50名規模)多くの企業では、技術の実証と最初の顧客獲得が最優先のフェーズです。自分で考えてゼロから動けるプレイヤーが求められる傾向があります。技術職の採用が中心になりやすく、ビジネス職は1〜3名程度の初期メンバーとして採用されることが多いです。役割の境界線が曖昧で、1人が複数の機能を担うことが前提になります。
  • シリーズA〜B(50〜200名規模)一般的には、事業化、量産化、市場開拓の段階に入ります。セールス、マーケティング、事業開発、経営企画、法務、財務など、ビジネス機能の採用が本格化する傾向があります。DeepTech領域の顧客は、製造業、医療、研究機関など技術リテラシーの高い組織であることが多いです。そのため、営業力だけでなく、技術を理解しながら顧客課題を整理できる人材が求められます。また、資金調達やIR対応ができるファイナンス人材、規制対応や知財管理ができる専門人材の需要も高まります。ただし、領域によってはシリーズB以降でも研究者・エンジニア中心の組織体制を維持している企業もあります。
  • シリーズB以降(200名〜)シリーズB以降では、組織の構造化、グローバル展開、上場準備のフェーズに入ることが多くなります。各機能のマネージャー、CFO候補、海外展開担当など、より専門性の高いポジションが増えます。年収水準も上がりやすいフェーズです。

ポジション別の採用傾向

  • 研究職・エンジニア(技術系)DeepTech企業の採用の中心です。博士号取得者、ポスドク、専門研究機関出身者を採用するケースが多く、特定領域の深い専門性が求められます。大学との共同研究や産学連携の経験も評価されます。
  • 事業開発・セールス(ビジネス系)技術の価値を顧客に届ける役割です。顧客が製造業、医療、研究機関など技術リテラシーの高い組織であるため、顧客課題と技術の橋渡しができるビジネス人材が求められます。技術チームと日常的に議論できる最低限の技術理解も必要です。SaaS営業、コンサル、金融、研究開発出身者が転職先として選ぶケースが増えています。
  • 経営企画・財務資金調達、投資家対応、事業計画の構造化が中心です。シリーズA以降で需要が高まりやすい職種です。DeepTechのバリュエーションは、技術リスクと市場リスクが複合します。そのため、財務モデリングの経験者はDeepTech文脈で希少な人材として扱われます。
  • 知財・法務・規制対応DeepTech企業では、特許戦略や規制対応がビジネスの根幹に関わります。医療機器、食品、化学物質など、規制産業では特に重要です。知財専門家、薬事担当、法務人材の採用は、成長フェーズで増えやすくなります。

3. 年収・待遇の実態

DeepTech企業の年収は、企業のフェーズ、領域、職種、経験年数によって幅が大きく、一概に「平均年収」を示すことが難しい領域です。以下は転職市場のデータや求人情報をもとにした目安で、有力企業やレイターステージでは、より高い水準になるケースもあります。

ポジション年収レンジの目安
若手メンバー(経験3〜5年)500万〜800万円
シニアクラス(経験5〜10年)700万〜1,200万円
マネージャークラス900万〜1,500万円
部門責任者・CxO候補1,200万〜2,500万円以上

現金報酬に加えて、ストックオプション(SO)が付与されることもあります。上場やM&Aによるイグジット時に大きなリターンが生じる可能性がありますが、SOの価値は不確実です。イグジットまでには、数年から十年以上かかることもあります。固定給だけでなく、SO、企業フェーズ、資金調達状況を含めて判断することが重要です。

warningシード〜シリーズA期の年収について

初期フェーズの企業では、前職より現金年収が下がるケースがあります。赤字が続く状態で前職と同水準の給与を維持することが、キャッシュフロー上難しい場合があるためです。年収水準を重視する方は、シリーズB以降や上場準備段階の企業を優先的に検討することが現実的です。

4. DeepTech企業で働くメリット・注意点

メリット

  • 社会的インパクトの大きい仕事に当事者として関われる気候変動、医療、食料、エネルギーなど、既存の技術では解決できない社会課題に、技術の当事者として向き合える環境です。「支援する」側ではなく「解決する」側として動ける点は、大企業やコンサルにはない経験です。
  • 技術系創業者・研究者と近い距離で働ける特に初期フェーズでは、経営陣と議論しながら仕事を進める機会が多くあります。意思決定のスピードと距離感は、大企業とは根本的に異なります。
  • 希少な経験が積めるまだ存在しない市場への参入、技術の実証、大学や研究機関との共同研究推進など、他の環境では積みにくい経験が得られます。不確実性の高い環境で事業を前に進めた経験は、その後のキャリアでも評価されやすい経験になります。

注意点

  • 成果が見えるまでに時間がかかるDeepTechのプロダクトは、研究から量産化まで3年、5年、10年以上かかることが珍しくありません。SaaSや消費財のように「四半期で成果が見える」環境ではないため、短期の成果にやりがいを感じる方には合わない場合があります。
  • 役割が曖昧で業務範囲が広い特にシード〜シリーズAでは、ジョブディスクリプションが明確でないことが多く、「とりあえず何でもやる」が求められます。役割や評価基準の明確さを重視する方には、ストレスになりやすい環境です。
  • 現金年収が前職より下がる可能性がある前述の通り、初期フェーズでは特に注意が必要です。年収を重視する場合は、固定給、SO、資金調達状況、次回調達の見通しを含めて判断しましょう。
  • 会社側の事業リスクが存在する個人の努力ではコントロールできないリスクもあります。技術開発が長引く間に資金が続かなくなる、技術の実用化が想定より困難で事業撤退やピボットになる、競合が先に実用化・量産化してしまう、といったケースです。規制、薬事、特許の問題で事業が止まるケースもあります。転職先を選ぶ際には、資金調達の状況、技術の成熟度、市場環境をある程度確認しておくことが現実的なリスク管理になります。

5. どうやって入るか|転職・就職のルート

DeepTech企業に入るルート

ルート①:転職エージェント・求人媒体経由

DeepTech企業の求人は、一般的な転職媒体にも掲載されています。ただし、ビジネス職や経営幹部クラスは、エージェント経由が多い傾向があります。DeepTech・スタートアップ特化のエージェントを活用することで、公開されていない求人にアクセスできるケースがあります。

ルート②:リファラル(知人・OBからの紹介)

DeepTech企業では、信頼できる人材からのリファラル採用を重視するケースがあります。対象企業のイベント、学会、産学連携のコミュニティに参加し、研究者・エンジニアとの接点を作ることが、採用につながるルートになることがあります。

ルート③:企業への直接応募・採用ブログからの応募

DeepTech企業の多くが、採用ブログ、Wantedly、自社採用ページで求人を公開しています。応募先の技術やミッションを深く読み込んだうえで、自分の言葉で「なぜこの会社か」を書いた職務経歴書で直接応募する方法もあります。特に初期フェーズで経営陣が採用に関与している企業には響きやすいアプローチです。

ルート④:大学・研究機関のネットワーク経由

大学発スタートアップの場合、出身大学の産学連携窓口、起業家支援プログラム、OB/OGネットワーク経由での採用事例があります。学術的なバックグラウンドを持つ方は、このルートが自然なアプローチになる場合があります。

新卒・第二新卒の場合

新卒・第二新卒でDeepTech企業に直接入社するルートは限られています。国内では、Preferred Networksのように継続的に新卒採用を実施している企業もありますが、対象は技術職が中心です。ビジネス職の新卒採用を行っているDeepTech企業は多くありません。現実的なルートとしては、SaaS企業、コンサル、金融、大企業の研究開発部門で2〜5年の実務経験を積んでからDeepTechに転職する経路が考えられます。事業開発やマーケティングのインターンとして関わり、そのまま入社につなげるケースもあります。

6. 求められるスキル・経験

技術職

必須

  • 対象領域の深い専門知識(博士号・研究実績・論文・特許等)
  • 仮説を立てて実験・検証を繰り返せるサイクルの経験

あると強い

  • 大学・研究機関との共同研究の経験
  • 製品化・量産化・実証実験への関与経験
  • 英語での論文読解・学会発表・海外研究機関との連携経験

ビジネス職

必須

  • 製造業・医療・研究機関など技術リテラシーの高い顧客への提案・折衝経験
  • 課題の構造化・仮説検証のアプローチができること
  • 「なぜこの技術が社会を変えうるのか」を自分の言葉で説明できる理解
  • 技術チームと日常的に議論できる最低限の技術理解(専門家レベルは不要)

あると強い

  • PoC・実証実験の設計・推進経験
  • 特定業界(製造業・医療・金融・公共等)の顧客ネットワーク
  • スタートアップ・成長企業での勤務経験(前職問わず)
  • 英語での商談・交渉・資料作成の経験(海外展開フェーズ以降)
lightbulb「技術の専門知識がないと入れない」への回答

DeepTech企業のビジネス職は、技術の専門家である必要はありません。ただし、「この技術が解決しようとしている社会課題の構造を自分の言葉で理解している」ことは求められます。また、技術チームと最低限の共通言語で議論できることも重要です。応募前に企業のウェブサイト、代表インタビュー、技術ブログ、論文の要旨を読み込み、「なぜこの技術が既存のアプローチより優れているのか」を説明できる状態にしてから職務経歴書を書きましょう。

よくある質問

Q. DeepTech企業の求人はどこで探せばよいですか?

Wantedly、Greenなどスタートアップ向け媒体に加え、各社の自社採用ページ、J-Startup等のリストが有用です。ビジネス職・幹部クラスは、エージェント経由での採用も多くあります。

Q. 理系出身でないとDeepTech企業への転職は難しいですか?

ビジネス職、事業開発、財務、法務のポジションは、理系出身でなくても応募できるケースが多いです。ただし、対象企業の技術やミッションを自分の言葉で理解している姿勢は必要です。

Q. 転職前に技術を学んでおく必要がありますか?

深い技術知識の習得は必須ではありませんが、「技術が解決しようとしている課題の構造」は理解しておくべきです。論文の概要、技術ブログ、代表インタビューを応募前に読み込む時間は必ず確保してください。

Q. DeepTech企業への転職でよく失敗するパターンはありますか?

「個人の適性ミスマッチ」と「会社側の事業リスク」の2つに分けて考えておく必要があります。適性ミスマッチで多いのは、成果が出るまでの時間感覚のズレです。一方で、キャッシュアウト、事業撤退、競合の先行、規制問題など、個人の努力ではコントロールできない事業リスクも実際に起こります。資金調達状況、技術の成熟度、市場環境をある程度確認しておくことが、現実的なリスク管理になります。

Q. DeepTech企業はどのくらいの規模の会社が多いですか?

社員数10〜100名規模が多数派です。シリーズA以降でビジネス職の採用が活発化しており、Preferred Networks、Mujin、Spiberなど、100名を超える企業も増えています。

まとめ

  • DeepTechは科学・研究成果を核心に置く企業群で、技術・ミッションへの理解と不確実性への耐性が採用の評価軸になる
  • ビジネス職も存在するが、技術チームと議論できる最低限の理解は求められる
  • 年収はフェーズ・職種によって幅が大きく、シード〜シリーズA期は前職より現金年収が下がるケースがある
  • 個人の適性ミスマッチに加えて、資金・技術・競合・規制といった会社側の事業リスクも転職前に確認しておくことが重要

DeepTech企業は「技術に詳しい人だけが入れる世界」ではありません。ただし、成果が出るまでの時間軸の長さ、役割の曖昧さ、会社側の事業リスクを含めて、自分に合う環境かどうかを事前に判断してから動くことが重要です。

この記事の作者

ショクレキ代行

ショクレキでは、ヒアリングをもとに職務経歴書を一緒に作成するサービスを提供しています。「DeepTech企業への転職を考えているが書類をどう書けばいいかわからない」「書類選考が通らない」という方は、ぜひ一度ご相談ください。

他のコラム記事